
(トリポリ市内 銃の路上販売 “flickr”より By © Sam.Seyffert http://www.flickr.com/photos/84269782@N00/8687739808/)
【政府と民兵組織との間で緊張が高まる】
カダフィ政権を打倒して新たな国づくりを行っているリビアですが、最近あまり情報を目にする機会がありません。
今日の下記記事を見ると、相当に困難な状況にあることがうかがえます。
****武装集団がリビア司法省を包囲、内務省と外務省に次いで****
リビアの首都トリポリで4月30日、武装集団が司法省を包囲し、2011年に崩壊したムアマル・カダフィ前政権から残っている政府高官らの辞職を求めた。
同省の報道官は「対空砲を搭載した車両で包囲された。大臣と職員らを司法省から退去させ、省を閉鎖しろと要求している」と、AFPに語った。現場にいるAFPのカメラマンによれば、マシンガンや対空砲、ロケットランチャーを積んだピックアップトラック20台以上が司法省への道を封鎖しているという。武装集団は、政府の要職からカダフィ時代の残党を排除する法律の制定を要求している。外務省も28日以降、同様の要求をする武装集団に包囲され、業務ができない状態が続いている。29日には内務省も襲撃された。リビアではカダフィ政権と戦った武装勢力がまだ国内のかなり広い範囲を支配下に置いており、政府はその影響力が国全体に及ぶよう努力を続けている。【5月1日 AFP】
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カダフィ政権の残党による“クーデター計画”もネット情報では報じられているようです。
ただ、これについては、“クーデター”という表現が妥当なものかどうかは不明です。
****カッダーフィ残党のクーデター計画?*****
13付のal arabiya net はカッダーフィ残党がクーデターを企てたと報じています。
リビアでは革命後1・5年を経過するも治安も回復せず、首都でさえ武装勢力が跋扈しているようですが、カッダーフィ残党のクーデター計画と言うのは初めて報じられることで、このネット以外では今のところ取り上げられていないので、どれだけ本当のクーデター計画であったのかは不明です(現地の南部シルト地域はカッダーフィの本拠地であったと記憶します)が、とらえず記事の要点のみ
・シブハの軍事評議会議長はAFPに対して、11日カッダーフィの残党がクーデターを企てたが、武装勢力のうち17名を逮捕したと語った。彼らは11日シブハの警察オペレーション本部を襲ったが、逮捕者から彼らはカッダーフィの情報機関に属していて、特にその息子のkhamis の第32旅団に属していたが判ったが、彼らはよく訓練されていて、その目的はクーデターであった由。
・さらに12日には、リビア参謀総長が、同じくシルトで、10日車に分乗した武装勢力が警察車両を攻撃し、これを捕獲しようとしたことを軍と警察が防戦し、1名殺害、20名を逮捕したが、彼らもクーデターを企画していたと語った由。それ以上の詳細は目下捜査中なので公開できない由。
(上記2の事件の関連・・・もしかしたら同一事件である可能性も含めて・・・は不明です)
【4月14日 中東の窓 http://blog.livedoor.jp/abu_mustafa/archives/cat_73705.html】
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また、外国大使館を標的にしたテロも報じられています。
****リビアのフランス大使館前で爆発、警備要員2人と少女が負傷****
トリポリ(CNN) リビアの首都トリポリのフランス大使館前で23日早朝、自動車爆弾が爆発し、当局者らによるとフランス人警備担当者2人と近くの家にいた少女(13)が負傷した。
現場周辺は高級住宅街。強力な爆発で大使館正面の壁が吹き飛ばされ、近隣の建物の窓ガラスが割れた。
リビアのバラアシ副首相は、負傷した少女が治療のため、隣国チュニジアへ運ばれると述べた。同副首相によると、仏大使は今後もトリポリにとどまる意向を示している。
仏外務省は犯行を「凶悪な行為」と非難し、リビア当局と仏政府が協力して犯人特定に全力を挙げるとする声明を出した。
同国では昨年9月、ベンガジの米領事館が襲撃を受け、当時の駐リビア大使ら米国人4人が死亡した。【4月23日 CNN】
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昨年9月に起きたベンガジの米領事館襲撃事件は、いわゆるムハンマド冒涜映画への抗議運動として起きたものではありますが、過激派組織「アンサール・シャリア」などアルカイダ勢力の関与も報じられています。
こうした、カダフィ政権残党や過激派組織などの問題もありますが、リビアの治安にとって一番の問題は、冒頭記事にもあるように、“革命”の実行部隊となった民兵組織が残存して力を誇示しており、暫定政府が国土を掌握しきっていないことでしょう。
地縁、血縁、利害関係などが絡んだ民兵組織・武装組織は“革命”遂行の原動力ではありましたが、新しい国づくりにおいては“厄介な存在”ともなっています。
****武装集団がリビア首相側近を誘拐、内閣筋が明かす****
リビアの首都トリポリ近郊で31日夜、アリ・ゼイダン首相の側近が警備員を装った武装集団に誘拐されていたことが分かった。内閣関係者が1日、AFPに語った。
誘拐の数時間前には、政府高官が殺害の脅迫を受けている事実がゼイダン首相から公表されたばかりだった。
匿名を条件に取材に応じた同関係者によると、首相の顧問で首相府トップのMohammed Ali al-Gattus氏は、同国第3の都市ミスラタからトリポリに車で向かっている途中に誘拐された。ゼイダン首相はこの誘拐事件発生のわずか数時間前、自身が率いる内閣が「非常に困難な状況」の下で運営されており、政府高官が殺害の脅迫を受けていることを明らかにしていた。
国内情勢が不安定さを増す中、リビアの新政権は、同国を長期独裁したムアマル・カダフィ(Moamer Kadhafi)大佐を2011年10月に失脚させた反体制勢力の残党である民兵組織に対し、厳しい態度で対応すると公言している。
トリポリ市内では現在、500を超える公有・私有の建物が民兵らに占拠されている。同市では民兵組織の追放作戦が開始されて以降、ここ数週間にわたり政府と民兵組織との間で緊張が高まっている。【4月2日 AFP】
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【新生リビアの基本的な体制が確立されるのは、今からさらに1年ほど先】
現在は国民議会・暫定政府ですが、立法議会・新政府樹立に至る今後の政治スケジュールは以下のようになっています。
****新生リビアへの工程表****
リビアの民主化の大きな一歩となった国民議会の選挙は、2012年7月7日に大きな混乱も無く実施されました。国民議会は2012年10月14日にザイダーン氏を新首相に選任し、11月14日に現在の暫定内閣が成立しました。
新生リビアの統治体制を確立するためには、憲法を新たに制定する必要があります。カダフィ政権時代のリビアには憲法は存在せず、カダフィの唱える「第3世界理論」の実践方法を説明した「緑の書」が国家運営の唯一の拠りどころでした。
そのため、今後の作業としては、憲法起草委員会を設置して憲法草案を策定し、国民投票を経て憲法が制定され、その憲法に基づいた手続きにより立法議会が選ばれ、恒久的な行政組織として内閣制度が確立されることになります。
憲法宣言によれば、憲法起草委員会が選任されれば、最初の会合から60日以内に憲法草案を策定し、国民議会承認後30日以内に国民投票に付すこととなっています。
投票者数の3分の2以上の賛成により、国民会議の認証を得て憲法が成立します。憲法成立後30日以内に、国民議会が総選挙法を公布して180日以内に総選挙が行われ、選挙結果の認証後30日以内に立法議会が招集される予定です。立法議会は国民議会を引き継いで国権の最高機関として、憲法の定める手続きによって恒久的な内閣を選出することになっています。
上記のとおりだとすると、憲法起草委員会が選任されてから憲法が成立するまでに少なくとも90日、更に、立法議会が召集されるまでに少なくとも240日を要すると想定されます。従って、全ての作業が順調に運んだとしても、新生リビアの基本的な体制が確立されるのは、今からさらに1年ほど先になるものと思われます。【4月16日 朝日・中東マガジン「新生リビア見聞記」 塩尻 宏氏(前駐リビア特命全権大使)】
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憲法起草委員会が今後のスケジュールのスタートとなりますが、
“憲法宣言の工程表によれば、国民議会開会後30日以内に同議会が憲法起草委員会を選任することとなっていましたが、国民議会選挙の直前(2012.7.5)に選挙により選出するとの方針に変更されたと伝えられました。最高権力者による独裁体制でなくなった現在では、全てのグループの異なる意見や主張を穏便な形で集約するために思いのほか時間と労力が必要となっています。当初の工程表では国民議会が選任することとなっていた憲法起草委員会を国民選挙で選ぶとなれば、憲法制定作業が当初の予定より大幅に遅れる可能性が出てきています。”【同上】
とのことで、相当に時間を要しそうです。
【バランス感覚が要求される“旧政権関係者”の線引き】
更に、今後問題となるのは、カダフィ旧政権関係者の処遇というか、排除の線引きをどうするかという問題です。
あまり厳格に行うと、実際に政権担当の力のある人的資源の多くが排除されることになります。
しかし、不十分とみなされると、冒頭記事にあるような騒動も惹起されます。
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解放宣言から3カ月ほど経った2012年1月にNTC(国民暫定評議会)は、カダフィ政権時代に要職にあった者や同政権の支持者及び協力者等が新生リビアの役職に就くことを排除する方針を決議し、「潔白・国民性審査最高委員会(Supreme Commission of Integrity and Nationality)」(以下、「潔白審査委員会」)の委員13名を選任しました。
同年4月には「潔白審査委員会」の組織及び権能に関する法律が定められ、新生リビアの役職に就く者は全てこの委員会の審査を受けることになっています。この「潔白審査委員会」の権限は強大で、2012年7月の国民議会選挙では立候補者のみならず当選した議員の一部も失格と裁定され、立候補資格や議員資格を取り消されました。
また、国民議会が同意した暫定内閣の閣僚についても審査対象となって失格と判断された閣僚のポストは、「潔白審査委員会」の審査に合格した後任者が見つかるまで空席のままとなっています。【同上】
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先の国民議会選挙で最大政党となったリベラル派の国民勢力連合(NAF)のジブリール総裁(前暫定政権首相)も、内戦が始まる直前までカダフィ大佐の次男セイフルイスラム(現在拘留中)が主宰していた国家経済開発局の責任者でした。
国民議会で新たに政治的隔離法案(Political Isolation Law)が議論されており、“政治的隔離法案の内容によっては、ジブリール氏を含む現在の政治指導者の多くが公的な活動から排除されることになるとして注目されています。”【同上】とのことです。
「潔白審査委員会」にしても、政治的隔離法案にしても、現実的なバランス感覚が求められています。
終戦直後の日本の政治状況(公職追放)にも似たようなものがあったのかも。