孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

バングラデシュ  ビル崩壊事故が改めて明らかにする制度改善の必要性と消費国大企業・消費者の責任

2013-05-15 23:31:14 | 南アジア(インド)

(事故に巻き込まれた家族の写真を掲げる人々 “flickr”より By theglobalmovement http://www.flickr.com/photos/89734618@N02/8704115620/)

世界最悪の産業事故の一つ
バングラデシュ・ダッカで4月24日に起きた8階建てビル崩壊事故は、10日には事故発生から16日ぶりに女性の生存者が救出されるという現場を明るくする話題もありましたが、結局1127人にのぼる死者を確認して、14日で遺体捜索活動が打ち切られました。

****ビル崩壊事故、遺体捜索を打ち切りへ バングラデシュ軍*****
バングラデシュ軍は13日、首都ダッカ(Dhaka)近郊で先月起きたビル崩壊事故現場での遺体の捜索活動を14日で打ち切ることを発表した。

「軍による回収任務はほぼ完了した。現在、地元当局者への現場の引き渡し作業を行っているところで、あすの午後2時(日本時間14日午後5時)には野営施設から撤収する」と、シディクル・アラム(Siddiqul Alam)准将はAFPの取材に語った。

「がれきに遺体は残っていないと考えている。現在は地下から自動車を撤去しているところだ」と、アラム准将は述べ、ビル崩壊事故による死者数は1127人に達したと付け加えた。【5月13日 AFP】
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崩壊したラナプラザビルには、欧米アパレルブランドのマンゴやベネトン、プリマークなどの衣料品を製造する5つの縫製工場が入っており、事故当時は女性を中心に3000人以上が働いていました。

事故原因については、ビル内に違法に設置された4基の発電機による振動が考えられていますが、建物自体も安全基準を満たしていないことが指摘されています。

*****ビル崩壊の原因は「工場の発電機」、バングラデシュ当局****
バングラデシュの首都ダッカ(Dhaka)近郊で起きたビル崩壊事故を調査している同国内務省の主任調査官は3日、事故の原因はビル内に違法に設置された4基の発電機による振動だったとの初期調査結果を明らかにした。
軍関係者によると、事故の死者は525人に上り(5月4日当時の数字)、さらに数十人が依然として行方不明になっている。

主任調査官がAFPに語ったところによると、崩壊した8階建てビルの中の、縫製工場が位置していた上層部には、各階ごとに4基の大型発電機が違法に設置されていた。「停電後に始動したこれら発電機の振動が、数千台ものミシンの振動と一緒になって、崩壊を誘発した」。各階は「トランプのカードの束のように」重なり落ち、ビルは5分以内に崩壊したという。最終調査結果は崩壊現場での作業完了後に提出される予定だ。

主任調査官によると、崩壊したビル「ラナ・プラザ」は工場ではなく商業施設のために建てられたものであり、ビル所有者が建築材料に必要な基準を満たしていない鉄筋やれんがなどを使っていたために、振動に耐えられなかったとみられる。【5月4日 AFP】
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【「奴隷労働」】
今回の事故は、成長するバングラデシュ経済を牽引する縫製業労働者の置かれている劣悪な労働条件・環境を改めてクローズアップさせるところとなっています。

バングラデシュ国内では、事故を契機にして労働者の抗議行動が強まり、政府・産業界も対応を迫られています。

****崩壊事故のダッカ、数百工場が無期限閉鎖 労働者抗議で****
4月にバングラデシュ・ダッカ近郊で縫製工場などが入るビルが崩落し、1100人以上が死亡した事故を受け、同国の衣料品産業を支える同市アシュリア(Ashulia)地区で縫製工場労働者らが抗議行動を起こしており、数百工場が無期限に閉鎖される見通しだ。

崩壊事故現場での遺体の捜索活動が打ち切られる中、同国繊維業界の主要団体、バングラデシュ衣料品製造業・輸出業協会は13日、現場に近いダッカ郊外の工業地帯、アシュリア地区の全工場の操業を、追って通知があるまで停止すると発表した。

同協会のシャヒドラ・アジム氏は、この決定について「われわれの工場の安全を確保するためだ。アシュリア工業団地の全工場は、労働者による抗議行動のため、14日から無期限閉鎖される」とAFPに語った。地元警察署長によると、工場全体の80%の作業員がストライキを起こし、賃上げと、倒壊したサバール地区の複合施設ラナプラザの所有者の処分を要求している。

アシュリアにはバングラデシュの大手縫製工場が集中しているが、アジム氏によると、4月24日のビル崩壊事故以降「事実上、稼働していない」状態だという。アシュリアには、ウォルマートやH&M、テスコ、インディテックス、カルフールなどの欧米大手メーカー向けの衣料品を製造する約500工場が集まっている。【5月14日 AFP】
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バングラデシュの劣悪な労働条件・環境について、ローマ法王は「奴隷労働」、「神に反する」利益追求という言葉で厳しく糾弾しています。

****バングラデシュのビル崩壊、ローマ法王が「奴隷労働」と非難****
ローマ・カトリック教会のフランシスコ法王は1日、バングラデシュの首都ダッカ近郊で8階建ての建物が崩落した事故について、犠牲者の勤労状況は「奴隷労働」だとし、不公正な給与や飽くなき利益追求が「神に反する」と非難した。

バチカンラジオによると、法王はメーデーとなる同日に行われた非公開ミサで事故に触れ、「月38ユーロ(約4900円)での生活。それが亡くなった人たちの給料だった。これは奴隷労働と呼ばれる」と指摘。また「公正な賃金を払わず、仕事を与えず、ただ収益と会社の予算を見て、利益だけを求める。それは神に反する」と断じた。

法王はその後、サンピエトロ広場での一般謁見でも、数万人を前に「仕事は人間の尊厳にとっての基本だ」とし、身勝手な利潤追求により、多くの人が失業に陥っていると批判した。【5月1日 ロイター】
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政府・欧米大企業にも改善に向けた動き
バングラデシュの「奴隷労働」によって生産された商品で利益を得ている欧米諸国の大企業・消費者もその責任が問われています。
また、バングラデシュ政府も最低賃金制度改善や労働者の権利強化などの対応を迫られています。

****バングラの工場安全協定-ウォルマートなどの署名は不透明****
少なくとも1127人の衣料品工場労働者が死亡したバングラデシュのビル倒壊事故を受けて、一部の西側の小売業者は13日、安全基準を満たしていない工場の利用を避けることを約束した。

一方、同国政府は労働組合の設立を容易にすると発表した。問題は企業と政府が衣料品輸出が急増しているバングラでの基準改善にリップサービス以上のものを支払うかどうかだ。
一部の主要アパレル企業は同日、バングラの工場の安全基準に関する期間5年の画期的な協定に参加した。この協定に参加した業者にはヘネス・アンド・マウリッツ(H&M)、インディテックス、ZARA、テスコ、C&A、カルバンクラインの親会社PVH、独小売会社チボ、アソシエーテッド・ブリティッシュ・フーズ傘下のプリマークなどだ。

協定は小売業者が安全基準を満たしていない工場での製造を禁じるとともに、必要な修繕と改修への支払いをさせることになっている。関係筋によると、倒壊したラナ・プラザ工場のがれきの中から注文書が見つかった伊ベネトン・グループも同協定への署名を真剣に検討している。同工場で同じように生産していたマンゴMNGホールディングはまだ署名していない。同社のコメントは得られていない。

今回協定に署名した企業は、倒壊事故を受けて2週間前にドイツで開かれた会議に労働者の権利擁護団体や労組、NGO、それに国際労働機関(ILO)とともに参加して協定草案作りをした約20の企業のうちの一部。この会議で協定署名の期限が14日とされていた。会議参加のさまざまな組織によると、残りの企業も今週中に参加を表明する可能性がある。
H&Mは「影響力を持ち、それを維持するためには、ブランドの広範な連携が必要だ」と指摘した。

一方、米ウォルマート・ストアーズやシアーズ・ホールディングス、ギャップ、JCペニーなど米国の世界的な小売業者は、まだ協定に署名していない。労働団体は、少なくとも10年にわたってバングラで製品を調達し、同国にとって最大の顧客の一つであるウォルマートは以前から法的な拘束力のある同協定に抵抗していると指摘する。

同社は独自の安全計画を実施しており、最近では、米国のあるNGOに160万ドルを寄付して、環境・健康・安全のための学校をバングラにつくることになったという。ウォルマートの広報担当者は、今のところ同協定について発表することはないと述べた。

協定は、バングラにある5000の衣料品工場を査察する安全責任者を指名するとともに、労働者向けの火災安全訓練をすることをうたっている。各社は5年間に最大250万ドル(2億5500万円)を支払う。各社の支払額はバングラでの生産量に基づいて算出される。
これとは別に、活動家らは事故の犠牲者への補償基金に7000万ドル以上を拠出するよう西側の小売業者に求めている。

一方でバングラ政府は、衣料品製造労働者は工場所有者の許可を得ることなく労組を作ることが認められると発表した。人権擁護団体はこれが厳密に施行されれば、生命を守ることのできる変化だと歓迎した。

4月24日の8階建てラナ・プラザの倒壊事故は世界最悪の産業事故の一つとなり、バングラのハシナ政権は同国の労働条件をめぐる懸念への対処を迫られた。同国の衣料品産業は低賃金を背景に急速に成長している。

同政権は12日、同業界の最低賃金をすぐに今の月38ドルから引き上げる計画だと明らかにした。38ドルは中国の4分の1の水準。政府は先週、安全面で問題があるとして18の衣料品工場を閉鎖した。このうち3つは同国最大の製造業者の工場。政府は全工場の検査を進めている。(後略)【5月15日 The Wall Street Journal】
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労働条件・環境の問題はバングラデシュに限らず、他の途上国も似たりよったりでしょう。
そこでの低賃金労働、あるいは「奴隷労働」が、それらの国の成長を牽引しているのも事実であり、話は単純ではありませんが、現実とのバランスは配慮しながらもなんらかの改善が必要とされています。

これまでも欧米大企業は発展途上国における労働条件・環境については見て見ぬふりをしてきたとも言われており、今回の事故でそのあたりがどの程度改善され、実効ある変化に結びつくのか・・・不透明ではありますが、今回の悲劇的事故が変化・改善のきっかけとなることを期待します。

100円ショップなどに代表される驚くほど安価な商品、性能向上に反比例して価格が低下するPCやスマホなどの商品・・・そうした商品を享受する先進国消費者の生活も、バングラデシュなどの「奴隷労働」に支えられているという現実を改めて明らかにした事故でもありました。
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