
(MQ-1 プレデターよりも機体が大型化され、性能が大幅に向上しているMQ-9 リーパー 写真は29日の攻撃とは直接の関係はありません。 “flickr”より DTN News http://www.flickr.com/photos/dtnnews/6686934855/)
【「無人機の使用は厳しく制限される」】
アメリカ、特にオバマ政権以降のアメリカは、自軍兵士の犠牲を出すことなく効率的に相手を抹殺できる手法として、無人機による攻撃をパキスタンにおける対イスラム過激派との戦闘などに多用しています。
無人機攻撃の抱える問題については、これまでも何回か取り上げてきました。
“テロ容疑者の暗殺”が法律的に許されるのか?
特に、相手がアメリカ国籍を有する場合、アメリカ市民の暗殺が許されるのか?
なぜ軍でなく、CIAが中心的に運用しているのか?
無人機操縦に民間人が参加していることに問題はないのか?
民間人の巻き添えが多発していることをどのように考えるのか?
現場の危険を回避し、血を見ることもないことから、“ゲーム感覚”的にもなりがちな懸念は?
オバマ大統領は、こうした疑念・批判にも一定に配慮する形で、無人機攻撃の厳格化を明確にしています。
****オバマ米大統領:テロ容疑者暗殺、無人攻撃機使用を厳格化****
オバマ米大統領は23日、ワシントン市内の国防大学で政権2期目の対テロ戦略について演説し、テロ容疑者を暗殺するための無人攻撃機の運用規定を厳格化することを明らかにした。
無人機による攻撃を「米国民に対する差し迫った脅威」が存在する場合などに限定し、テロ容疑者の暗殺という手法から、身柄拘束や聴取といった刑事手続きを重視する方針に転換する。
オバマ大統領は演説で「無人機の使用は厳しく制限される」と言明。「テロリストを拘束できる時には無人機で攻撃しない。米国は拘束、聴取、起訴の手続きを志向する」と述べた。
また、大統領は「民間人を死傷させないことに関する確信に近い最高水準の基準が必要とされる」とも述べ、一般市民を巻き添えにしないことが確実な場合に限り、無人機による暗殺を実行する考えも表明した。
ホワイトハウスによると、無人機はこれまで中央情報局(CIA)が運用してきたが、今後は米軍に所管を移す。暗殺作戦を承認する特別裁判所や独立監視委員会を設置するなどして監督体制も強化するという。
米シンクタンク・新アメリカ財団によると、ブッシュ前政権下の2004〜08年の5年間に計47件だったパキスタンでの米無人機の攻撃は、オバマ政権下の09年から現在までの約4年で計308件に急増し、巻き添えの民間人死者は推定で最大307人に及ぶ。国連が今年1月から実態調査を開始するなど国際的な批判が高まっており、オバマ政権は対応を迫られていた。
一方、オバマ大統領は「アフガニスタンとパキスタンのアルカイダの中枢は敗北しつつある」として、米本土を標的にした大規模テロの可能性が低くなったと指摘した。
その一方で、大統領は、中東や北アフリカのアルカイダ系組織や、先月15日に米国のボストン・マラソンを狙った爆弾テロのような「ホームグロウン・テロ(国産型テロ)」が今後の脅威になるとの認識を強調。11年6月策定の「対テロ国家戦略」に盛り込んだ「標的を絞り込んだテロ対策」を加速する考えを表明した。【5月24日 毎日】
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このオバマ大統領の演説に先立つ22日には、ホルダー米司法長官が、国際テロ組織アルカイダや関連組織の幹部を狙った無人攻撃機による暗殺作戦の結果、2009年以降、国外でアメリカ国民4人を殺害したと議会に通知しています。
“米政府が無人機を使った作戦で、自国民を殺害した事実を公式に認めたのは初めて。米国内では、自国民を標的にした暗殺の合法性をめぐり議論が再燃しており、オバマ大統領は23日に行うテロ対策をテーマにした演説で無人機の運用について説明し、国民に理解を求める方針だ。”【5月23日 時事】という流れを受けてのオバマ大統領の演説でした。
【「罪のない人々の命を犠牲にし、主権を侵害している」】
無人機攻撃の舞台となっているパキスタンでは、表立ったアメリカへの抗議にもかかわらず「密約」でアメリカの無人機攻撃を認めているとも言われていますが、民間人犠牲も増大しています。
“米国はタリバンなど武装勢力掃討のため、パキスタンやアフガニスタン、イエメンなどで無人機攻撃を行ってきた。英国の非営利団体「調査報道局」によると、米中央情報局(CIA)による無人機攻撃で、パキスタン国内では2004年以降に最大約3500人が死亡。うち884人は民間人とみられるという。”【5月24日 時事】
こうした状況に、国民世論には強いアメリカ批判があります。
先の総選挙でも、アメリカの無人機攻撃を事実上許している政権与党への強い批判が、与党「パキスタン人民党」敗北の一因ともなっています。
この選挙では、野党「正義のための運動」のカーン氏など野党勢力は、アメリカの無人機を撃墜せよという主張も行っていました。
選挙に勝利した「パキスタン・イスラム教徒連盟シャリフ派」(PML―N)のシャリフ元首相もアメリカ批判を行っていますが、さすがに政権獲得後のことも考慮してか、“撃墜”云々といった過激な主張は行っていません。
現在はまだ新政権は発足しておらず、従来の人民党政権ですが、そのパキスタン政府は23日のオバマ演説について、無人機攻撃反対の姿勢を変えていません。
****パキスタン:米の無人機空爆を批判 運用厳格化方針にも*****
パキスタン外務省は24日、テロ組織メンバーの暗殺に使用している無人攻撃機の運用規定を厳格化する方針をオバマ米大統領が示したことについて、「無人機空爆は逆効果だというのがパキスタン政府の一貫した立場だ。罪のない人々の命を犠牲にし、主権を侵害している」と批判する声明を出した。
パキスタンでは、無人機空爆で多数の民間人が犠牲になったことから強い反米感情を巻き起こしている。外務省声明は、こうした国民感情を考慮した反応とみられる。国内の軍事専門家の間では「無人機はテロ対策で効果的」との観測が強い。
パキスタンでの米無人機空爆は2004年に始まったが、当時のムシャラフ大統領が米側の圧力を受けて承諾したといわれ、後任のザルダリ大統領も事実上黙認していた。11日の下院選で勝利し、次期首相就任が確実視されるナワズ・シャリフ元首相は選挙期間中、「無人機は不要」との立場を示した。だが、就任後は米国との摩擦を避けるため、「即時使用禁止」などの要求は掲げないとみられている。
パキスタンの治安問題アナリスト、ラヒムラー・ユスフザイ氏は「米国の無人機空爆で国際テロ組織アルカイダなどの活動は確実に低下している。運用を全くやめるのは危険だ」と指摘している。
米シンクタンク・新アメリカ財団の推定では、パキスタンでの無人機攻撃は04年以降、355件あり、テロ容疑者や民間人を合わせて最大3336人が殺害された。【5月24日 毎日】
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【TTPナンバー2のラフマン副司令殺害か?】
このようにアメリカ・パキスタン両国が無人機攻撃の是非を注視しているなかで、29日、イスラム武装勢力「パキスタン・タリバン運動」(TTP)幹部を標的にした無人機攻撃が再度行われました。
*****米無人機の攻撃で7人死亡…パキスタン北西部*****
ロイター通信によると、パキスタン北西部の部族地域北ワジリスタン地区で29日、武装勢力を標的にした米国の無人機によるミサイル攻撃があり、7人が死亡した。
同通信は、パキスタン治安当局筋の話として、死者にイスラム武装勢力「パキスタン・タリバン運動」(TTP)ナンバー2のワリ・ウル・ラフマン副司令官が含まれると報じた。一方、地元テレビ「ジオ」によると、TTP側は同副司令官の死亡を否定した。
副司令官は、現指導者のハキムラ・メスード司令官の後継者と目されている。
11日の総選挙で最大野党を率いて勝利し、次期首相就任が確実視されるナワズ・シャリフ元首相は、現政権が行ってきたTTP掃討作戦に反対し、和平交渉を進める考えを示している。
オバマ米大統領は23日、対テロ作戦で無人機の使用を縮小する方針を表明し、パキスタン外務省は歓迎する声明を出したばかり。シャリフ政権発足を控えたこの時期に米国が無人機攻撃に踏み切ったことで、今後の両国関係に影響が及ぶ可能性もある。【5月29日 読売】
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【シャリフ新政権の対応は?】
無人機攻撃の厳格化を大統領自身がアピールしたばかりで、また、パキスタンでは従来政権よりアメリカ批判が強いシャリフ元首相の組閣直前という、オバマ政権にとっては具合の悪い時期ではありますが、TTPナンバー2の殺害チャンスを逃す訳にはいかない・・・というところでしょう。
もっとも、新政権発足直後よりは、発足前の現在の方が、パキスタンとの関係を考えるとまだベターと見ることもできます。
無人機攻撃は、“ラフマンはTTPの指導者ハキムラ・メフスードに次ぐ地位。死亡が確認されれば、その死はイスラム法施行をめぐり軍人・民間人に何千ものの死者を出してきた内乱に大きな打撃を与えることになる。”【5月30日 Newsweek】という絶大な効果をもたらします。なかなか止められないでしょう。
ラフマンにはかねてからアメリカ政府が500万ドル(約5億円)の懸賞金を懸けていました。
しかし、“水曜日の無人機攻撃では他にも3人の子供も負傷したと報じられている”【同上】とも。
ただし、治安当局筋によると、他の死亡者は地方指揮官2人を含むTTP 幹部で、民間人が犠牲になったとの報告はないとのことです。【5月30日 AFP】
撃墜せよとは言っていませんが、“6月から政権を担うシャリフは無人機攻撃をパキスタンの主権への「挑戦」と呼んでいる”【同上】なかで、シャリフ新政権が無人機攻撃やイスラム過激派掃討作戦にどのような対応をとるのかが注目されます。