孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

マレーシア  与党連合が過半数維持  総得票数では野党を下回り、改革の必要性も

2013-05-10 22:01:08 | 東南アジア

(5月8日 喪服の黒シャツで支持者集会に臨み、選挙は与党側に不当に盗まれたと非難する野党指導者のアンワル元副首相 与党側が過半数を維持できたのは与党有利の選挙制度によるところが大きく、彼の言い分ももっともです。ただ、反政権という一点で集結したような野党連合に国民融和が可能なのか不安も感じます。
“flickr”より By firdaus latif@daus http://www.flickr.com/photos/firdausjongket/8722797258/)

【「華人の津波」】
5日に行われたマレーシアの下院選挙は政権交代の可能性もあると注目されていましたが、ナジブ・ラザク首相が率いる与党連合「国民戦線」が08年の前回選挙の獲得議席数(140)から議席をさらに減らしたものの、定数222議席の過半数112議席を上回る133議席を獲得して政権を維持、アンワル元副首相をリーダーとする野党連合「人民連盟」は議席を14増やし89議席を獲得しましたが、政権交代にはいたりませんでした。

しかし、与党側は政権は維持したものの総得票数では野党を下回り、マレー系優遇策“ブミプトラ”を根幹とするこれまでの施策への強い批判があることも明らかになり、今後の政権運営は厳しいものがあります。

*****マレーシア:ナジブ政権厳しい船出 選挙で民族対立に火種*****
5日投票のマレーシア連邦下院(定数222)の総選挙は与党連合・国民戦線の勝利に終わったが、総得票数では野党連合・人民連盟が上回った。与党に有利な選挙制度によって政権が延命された格好だ。

政権交代を望む声はマレー系優遇策に反発する中国系住民に顕著で、選挙は与党が支持母体とするマレー系との民族対立に火種を残した。ナジブ首相の2期目は厳しい船出を迎えた。

AP通信によると、全体の得票数は野党連合が約562万票で、与党連合は524万票。与党連合が地盤とする農村部に多く議席が配分されるため、議席数では与党連合(133議席)が野党連合(89議席)に差を付けた。しかし、実際には国民の過半数が政権交代を求めていた。

こうした厳しい状況をナジブ首相は会見で「華人の津波」に襲われたと表現。人口の2割強を占める中国系住民の多くが政権批判に回ったことで、民族による国の「分断」を懸念した。

政府はこれまで、経済的に豊かな中国系と多数派のマレー系との対立を解消するため、マレー系優遇策を採用してきた。しかし中国系、インド系の反発は強まり、マレー系からも「汚職の温床になっている」と批判が上がるようになった。

マレー系優遇策を推進したマハティール元首相は毎日新聞のインタビューに「見直しは必要だが、完全に撤回することはできない」と述べ、国家統合の手段として優遇策がなお必要だと主張した。

しかし、インターネットメディアの発達を背景に民主的な国家運営を求める声が高まり、かつてのような強権的な手法で多様な意見を一つにまとめ上げるのは難しくなっている。ナジブ首相は「国民和解に取り組む」と語ったが、選挙で完全な信任を得たとは言えず、難しいかじ取りを迫られそうだ。【5月7日 毎日】
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【「野党側に政権が渡れば安定は失われる」】
与党側が過半数を維持できた背景としては、“ナジブ首相は、選挙区割りなど与党連合に有利な選挙制度と、人口の約7割を占め基盤であるマレー系の票に支えられつつ、経済発展・改革の実績が一定の評価を受けた。有権者の一部には、政権運営の経験がない野党連合に、政権を委ねることへの不安心理も働いたものとみられる。”【5月8日 産経】と指摘さています。

今回の総選挙で、与党連合は「野党側に政権が渡れば安定は失われる」というキャンペーンを展開、その「安定」カードが一定に奏功したとも言えますが、その限界も見えてきたとも言えます。

****アジアで次々と「強権政治」が終焉****
・・・・・もともとマレーシアは英国の植民地だった。
第2次世界大戦で日本の占領を経て、再び英国の統治下に入ったが、1957年に多民族の共存を掲げて独立を果たす。そして1969年5月13日、選挙をきっかけにマレー人と華人が殺し合うという民族暴動が起き、多民族国家マレーシアは一時崩壊の危機に瀕した。

それ以来、マレーシア政治では「安定」と「発展」をキーワードに、与党連合の圧倒的多数による強権政治が必要だという現実を国民は受け入れてきた。

今回、政権を維持した与党連合「国民戦線」の中核にあるのが、マレー人の政党・統一マレー国民組織(UMNO)だ。UMNOの中興の祖は、ルックイースト政策で有名なマハティール元首相である。

マハティール氏の特徴はその強いリーダーシップにあった。日本ではまず親日家でルックイースト政策が思い浮かぶが、国内の対立勢力や批判的なメディアには容赦なく攻撃を加えるストロングマン型政治家でもあった。与党連合の圧倒的多数という体制を完成させ、効率的かつ独創的な経済政策でマレーシアの順調な経済発展を実現すると同時に、強権型の政治体制も作り上げたのである。

アジアの開発独裁モデルは雁行型と呼ばれ、日本を先頭に、その後にNICSと呼ばれた韓国、台湾、香港、シンガポールが続き、さらに次に東南アジアの中でも経済的に優等生といえるタイ、マレーシア、フィリピン、インドネシアが続いた。まるで雁が隊列を組んで飛んでいるようなので雁行型と呼ばれた。

どの国も基本的には長期政権が国家経済をコントロールし、重点分野に国家の予算や補助金を配分し、研究開発をサポートし、貿易依存型の経済で成長を成し遂げた。政治的には特定の利益集団を生むことになるが、そのロスよりも効率的な政治運営のメリットのほうが大きいことが半ば公認されていたので、どの国も自然とその道を選んできたのだ。

しかし、日本も高度成長が終わってバブルが崩壊するのとほぼ同時期に、自民党の一党支配が崩壊した。韓国の民主化や台湾の民主化も、あるいは、タイの民主化デモも、インドネシアの民主化も、時期はそれぞれ多少、外れてはいても、経済発展の社会の成熟に伴って、国民の意識が強権政治による権力の独占を認められなくなり、時には平和的に、時には武力を伴って、強権政治の終焉が次々と告げられてきたのである。

マレーシアの場合、国民の1人当たりの国内総生産(GDP)が1万ドルを超え、東南アジアではシンガポールに次いで豊かな国となっている。日本よりやや小さい面積の国で人口が2800万人と決して多くない。国土からは石油やガスも産出され、国民の教育水準も高い。中進国から先進国へ近づこうとしている状態であり、国民にとって強権政治のメリットはしだいに薄れてきている。

それでも、マレーシア国民を圧倒的に与党連合支持に縛り付けてきたのは、二度と民族暴動のような事態を起こして多民族国家のもろいバランスを崩してはいけない、このマレーシアという国家の枠組みを維持しなくては、すべてが台なしになってしまいかねないという「安定」への渇望だったと言える。

今回の総選挙でも、与党連合は「野党側に政権が渡れば安定は失われる」というキャンペーンを展開した。与党への反発を強めている華人でも、新聞記者の知人は「安定が大事だから今回は与党に票を入れるよ」と語っていたことは印象に残った。

選挙結果をみれば、野党があと一歩追いつけなかったのは、この「安定」カードがかろうじて功を奏した、ということだろう。しかし、そのカードはおそらくは今回が最後になり、次は使うことができないはずだ。(後略)【5月10日 東洋経済オンライン】
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イスラムの扱いで、野党連合に不安も
政治の流れは、マレー系優遇策“ブミプトラ”政策、強権的政治に修正を迫る方向にありますが、野党側に対する不安もあります。

4月10日ブログ「マレーシア 政権交代をかけた総選挙 「中所得国のわな」を回避する改革は可能か?」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20130410)でも触れたように、野党連合はアンワル元副首相率いる中道リベラルの人民正義党を架け橋に、それまで対立しがちだった中華系中道左派の民主行動党(DAP)とマレー系イスラム主義右派の全マレーシア・イスラーム党(PAS)が共闘した形です。

詳しいところは知りませんが、かなり無理がある組み合わせのようにも見えます。
実際、PASが実権を有している州では問題も起きています。

****教義を取るか世俗化するか イスラムに揺れるマレーシア社会****
国民の約60%をイスラム教徒が占めるマレーシアで、教義を巡るさますまな軋轢が起きている。

イスラム教義では「犬」は不浄の動物とされてきた。たとえば、空港のセキュリティーチェックに使う場合はイスラム教徒への配慮が求められる動物だ。しかし、マレーシアでは最近、視覚・聴覚障碍者のための犬を認めようという動きがある。宗教指導者を中心に、モスクにも同行できるようにする協議が進んでおり、
世俗化への試みといえそうだ。

しかし一方で、ケダ州では、州内での公の場では成人女性が歌舞音曲を演じることを禁止しようとする動きが出ている。これは教義にある成人女性の芸能活動禁止が目的。
同州でイスラム原理主義政党「汎マレーシアーイスラム党」が政権を握っていることがこうした姿勢の背景にある。

これに対してマレーシア華人協会や民主行動党など野党勢力が一斉に反対運動を展開、宗教論争に発展している。【5月号 選択】
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いろいろ問題は抱えつつも、マレーシアはマレー系、中華系、インド系の他民族が共存する複合民族国家を維持してきました。
PASのようなイスラム原理主義的政党が政権に参加する形で国民融和が実現できるのか、非常に疑問に感じます。
国民がとりあえず「安定」を選択したのも賢明だったかもしれません。


コメント
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