(泥炭地の火災で、地面に放水して消火する警察官ら=インドネシア・カリマンタン島南部パランカラヤ郊外で2015年10月上旬、平野光芳撮影 【10月31日 毎日】)
【呼吸器異常で死者19人 患者は50万人 「人道に対する罪」】
インドネシアのカリマンタン島、スマトラ島の数千か所で起きている広範な森林火災による煙害は、呼吸器系の異常などによる死者19人を出しながらも、今も終息の目途はたっていません。
****インドネシアの煙霧被害、死者19人に増加****
広範囲にわたる山火事により、深刻な煙霧被害に見舞われているインドネシアで、煙による死者が19人に達したことが明らかになった。同国のコフィファ・インダル・パラワンサ社会相が28日、発表した。
また政府は、大規模な避難に備え、カリマンタン島(ボルネオ島、Borneo)に軍用艦を派遣した。
同国ではここ2か月近くの間、焼き畑によって引き起こされた山火事が、カリマンタン島やスマトラ島など数千か所で発生し、東南アジアの広い範囲が煙霧に覆われる事態となった。また、学校では休校措置が取られた他、航空便が欠航し、複数の国際イベントが中止となるなどの影響が出ている。
19人の犠牲者は全員、スマトラ島とカリマンタン島の住民だった。今年7月に一連の山火事が発生して以来、同国では推定50万人が呼吸器系の異常を起こしたとみられる。
一連の山火事は、素早く安価に土地を開墾しようとした農民が故意に火をつけたことが原因とされている。【10月28日 AFP】
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通常の森林火災は木々が燃え尽きれば収まりますが、インドネシアの場合、森林火災が起きている地域は泥炭地で、この泥炭に火がつく形でいつまでもくすぶり続けますので、消火も手の施しようがないのが実態です。
その被害はインドネシアだけでなく、隣国マレーシアやシンガポールにも及び、外交問題ともなります。
****マレーシア、インドネシアからの煙霧で休校****
マレーシア当局は15日、隣国インドネシアの山火事と焼き畑に起因する煙霧で首都クアラルンプールが覆われたことから、同市と近接する州の学校の休校を命じた。【9月15日 AFP】
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【原因は農園拡大のための「野焼き」】
この広範な森林火災は、パーム油増産のための「野焼き」によって引き起こされているとされ、今年に限った話ではなく、近年は「恒例」ともなっています。
“2013年10月21日ブログ「インドネシアの森林火災で、シンガポールでは健康被害 森林火災の背景にある泥炭地開発」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20130621)”
****インドネシアの煙害は「人道に対する罪」レベル****
インドネシアで野焼きによる森林火災が「人道に対する罪」に相当する被害をもたらしている。英ガーディアン紙によれば、呼吸器疾患等による死者は10人、患者は50万人に達した。
森林火災は、パーム油増産のための「野焼き」によって引き起こされたもの。場所はスマトラ島南部、カリマンタン島中南部、パプア(ニューギニア島の西半分)に集中しており、火災により引き起こされた「煙害(ヘイズ)」はに4300万人に達していると、インドネシア気象・気候・地球物理庁のヌグロホ報道官は先週末に語った。
「凄まじい規模の人道に対する罪だ」と、ヌグロホ報道官は言う。「しかし今は、犯人探しをしている場合ではなく、一刻も早い問題解決に集中しなければならない」
東南アジアでは例年、乾季になるとある程度のスモッグ(煙霧)は発生していた。農園などで、手っ取り早くパーム油や紙・パルプ生産のための耕作地を増やすべく焼畑農法を行うためだ。
グローバルな需要が引き金
火災は通常、農園などに範囲を限定されているのだが、そこから燃え広がっているのが現状だ。今年9月以降、煙害は周辺国にも拡大し、隣国のシンガポールでもマレーシアでも大気汚染指数が悪化。学校が休校になり、航空便がキャンセルになるなどの被害が広がっている。
シンガポールのストレーツ・タイムズ紙は、スマトラ島で起こる火災の半数以上はパルプ生産に起因すると報じている。残る半数が、パーム油生産に関連する火災だとみられる。
世界自然保護基金(WWF)によると、パーム油は国際的に取り引きされる植物油の65%を占める。
パーム油は、マーガリン、パン、朝食シリアル、カップラーメンといった食品、シャンプー、リップスティック、ろうそく、洗剤といった日用品、さらには一部の薬にも使われている。
被害を被っているのは人間だけではない。熱帯雨林に生息するオランウータンが危機に瀕しており、インディペンデント紙によると、世界のオランウータンの3分の1が生存を危ぶまれている。
アメリカの世界資源研究所は今年9月以降、インドネシアの火災による1日あたりの汚染物質排出量は、同国の20倍の経済規模を持つアメリカの1日あたり排出量を上回ると推測している。
インドネシアのジョコ・ウィドド大統領は9月、森林火災の責任を負うべき企業には断固とした処置を取ると言明。今週は初訪米を途中で切り上げて煙害対策のために帰国することを決めている。報道によれば、緊急事態宣言が発令される可能性もある。
12月にパリで開催される国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)を目前に、インドネシアの煙害対策には国際的な圧力がかかっている。東南アジアが青空を取り戻すのは、果たしていつになるか。【10月28日 Newsweek】
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2013年の煙害では、シンガポールの環境・水資源相がインドネシア政府に「緊急かつ決定的な対応」を要求したのに対し、インドネシアのアグン・ラクソノ調整相(公共福祉担当)は「シンガポールの振る舞いは子供じみている。がたがた大騒ぎすべきではない」と苦言を呈し、山火事による煙害は「インドネシアが意図したものではなく、自然がもたらしたものだ」と弁解した【2013年6月20日 AFP】とのことで、それに比べれば、今回はジョコ・ウィドド大統領が初訪米を切り上げて帰国したというのは、インドネシア側の認識も少しは改まったのかも。
ただ、ジョコ大統領が帰国しても、先述のように泥炭地の火災の消火は困難です。
【日本の年間排出量を超えるCO2放出】
気候変動・温暖化との関連で言えば、このインドネシア恒例の森林火災は、膨大な二酸化炭素を大気中に放出することにもなっており、地球規模の問題を惹起していると言えます。今年は例年にも増して厳しい状況にあるようです。
****<インドネシア>森林火災猛威、二酸化炭素16億トン放出****
インドネシア・カリマンタン島などで近年にない大規模な森林火災が起き、四国を上回る面積が燃えている。
各地の火災による温室効果ガスを米航空宇宙局(NASA)の人工衛星画像などから推計する「全球火災排出データベース」(GFED)によると、今年は10月30日までに日本の年間排出量を超える約16億3600万トン(二酸化炭素=CO2=換算)が放出された。
乱開発で大地が乾燥したうえ、今年は干ばつで燃えやすい。長年、二酸化炭素を吸収・蓄積してきた森林という「天然の貯蔵庫」が、地球温暖化を加速させる「火薬庫」と化している。
◇日本の年間排出量超す
インドネシア政府は7月以降、約2万平方キロが焼けたと発表。GFEDによると延べ12万カ所で火災が起きた。落ち葉や倒木が分解されずに地下十数メートルまで堆積(たいせき)してできた泥炭質の土が主に燃えている。
基本的に10月末に始まった雨期の降水による鎮火を待つしかない。火勢は衰えつつあるが、南米ペルー沖の海面水温が高くなる「エルニーニョ現象」の影響とみられる干ばつがひどく、例年通り消えるかは不明だ。
政府は現場に軍や警察などから2万人以上を投入。しかし、カリマンタン島南部パランカラヤの災害対策本部幹部は「水が不足しているうえ、ポンプで送水できる距離も300メートルが限界だ。煙がひどく奥地は被害確認すらできていない」。大地から湧き上がる煙とCO2を前に、人々はなすすべを失っている。【10月31日 毎日】
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森林火災を起こさくとも、泥炭地の開発は泥炭地を乾燥させ、地中の二酸化炭素を放出させます。
更に、森林火災によって・・・。
インドネシア政府も全く対応してこなかった訳ではなく、前回2013年10月21日ブログでも取り上げたように、泥炭地回復には乗り出しています。
しかし一方で、“世界の健康志向を背景としたパームオイルへの世界的需要拡大とバイオ燃料ブームによる利益のため、パームオイルプランテーションの大規模拡張計画も打ち出している。開発最優先の姿勢は変わらず、安上がりな拡張のために起きるであろう火入れを取り締まる有効な手立てを一向に打ち出す気配はない。”【2007年2月 FoE Japan】とのことです。
温暖化対策で各国が対応に苦慮しているなかにあって、この森林火災のためインドネシアは二酸化炭素の一大供給国となっています。
ジョコ大統領の断固たる姿勢が求められています。