(求婚断り火付けられたパキスタンのビビさん その後亡くなったそうです。【11月3日 AFP】)
【あとを絶たない暴力 情報入手で事態改善の希望も】
女性を取り巻く環境は改善してきているとは言え、世界の各地で未だ厳しい状況が続いているのも実態です。
これまでもしばしば取り上げてきたように、一部の地域では、男女交際で世間体を失ったと感じた親が娘や交際相手を殺しすことが社会的に一定に認知されている「名誉殺人」、男性の一方的求婚を断るなどで男性のメンツを潰した女性の顔に酸を浴びせるなどの暴力的報復・・・そうした行為が頻発しています。
2013年12月28日ブログ「“変わるインド” “変わらぬインド”」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20131228
2015年7月13日ブログ「アフガニスタン 親政府民兵組織による人権侵害 対ISでタリバン・アメリカの利害は一致?」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150713
パキスタンもそうした事件が多い地域のひとつです。
****「求婚断り火付けられた」女性が死亡、パキスタン****
パキスタン中部パンジャブ州で先月、求婚を断った相手の男にガソリンをかけられ、火をつけられて重いやけどを負った女性が3日、入院先の病院で死亡した。
死亡した女性、ソニア・ビビさん(20)の容体について、同州ムルタン地区の村の病院関係者は当初、回復が見込めると話していた。しかし、AFPが取材した医師によれば、ビビさんは感染症にかかり亡くなったという。
入院した当時、ビビさんは警察に対し、元交際相手のラティフ・アフメド容疑者(24)に、求婚を断ったところガソリンをかけられ、火をつけられたと話していた。
ビビさんは体表の約45~50%をやけどする重傷を負った。アフメド容疑者はすでに逮捕されている。【11月3日 AFP】
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隣国アフガニスタンもそうした国のひとつですが、女性蔑視の社会的風潮にタリバンに代表されるイスラム原理主義が加わると、痛ましい事態ともなります。
***駆け落ちで女性のみ投石受け死亡、動画で物議 アフガニスタン****
望まない結婚を強要されたアフガニスタンの女性が、他の男性と駆け落ちしようとしていたところを見とがめられ、イスラム原理主義者たちから繰り返し投石を受けて死亡した。地元当局者が2日、AFPに対し明らかにした。
女性が無残に投石を受ける様子は動画に収められていた。19~21歳とみられるこの女性の名はロクサーナさんと伝えられている。地面に掘った穴の中に入れられたロクサーナさんに対し、複数の男たちが無造作に石を投げつけるたび、石はおぞましい鈍い音を立ててロクサーナさんを直撃した。
地元メディアが放映した約30秒の動画の中で、イスラム教のシャハーダ(信仰告白)を繰り返し唱えるロクサーナさんの声は、かん高さを増していく。地元当局は、この動画が捏造(ねつぞう)されたものでないことを確認した。
事件は1週間ほど前、同国中部ゴール州で発生。同州知事がAFPに語ったところによると、ロクサーナさんは「(同国の旧支配勢力)タリバンや地元の宗教指導者ら、またその場に居合わせた軍閥などによる投石を受けて死亡した」という。
同知事は、アフガニスタンに2人しかいない女性知事の一人。当局の情報として、ロクサーナさんは家族に「自分の意思に反する結婚を強制され、同年齢の男性と駆け落ちしようとしていた」と語った。知事の話では、相手の男性に対しては投石はなかったという。
また同州警察署長はAFPの取材に対し、事件が起こったのはタリバンの支配地域で、このような事件が発生したのは「今年に入ってからは」初めてだと述べた。【11月3日 AFP】
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女性の3分の1以上が暴力の被害を受けたことがあるという国連の報告書も出ています。
****世界中で女性の3分の1以上が暴力被害、国連報告書****
世界中の女性たちは、過去20年で平均寿命が延び、教育レベルも上がっているが、3分の1以上が暴力の被害を受けたことがあるという国連(UN)の報告書が20日、発表された。
5年間に及ぶ調査の報告書「世界の女性」は、成人女性や少女たちの人生に関わる重大な問題の推移について世界の最新データをまとめている。
国連統計局の研究員、フランチェスカ・グラム氏によれば、今回で6回目となる国連の同様の調査の報告書には、20年前には監視さえされていなかった女性の無償労働や、女性への暴力に関する新たなデータも含まれている。
過去最多の調査対象102か国で、女性の3分の1以上がそれまでの人生のうちのどこかで肉体的、または性的な暴力の被害を受けたことがあるという実態が明らかになった。
また世界的に見て、家族に関連した殺人事件の被害者の3分の2は女性だった。
さらに、自身の過酷な体験について誰にも打ち明けようとしない被害者は多く、暴力の発生率の高さは、泣き寝入りをする女性たちの多さとも比例した。
国連の調査チームは、70か国の指標に注目。その結果、自身の体験について誰かに打ち明けようとする被害女性の割合は40%未満で、その場合に想定している相手は、警察やソーシャルサービスの職員ではなく、友人や家族であることが明らかになった。警察に届け出る割合は10%未満だった。
一方で、女性に対する暴力の問題に関する情報が入手できるほぼ全ての国々では、暴力に対する女性たちの態度が変わり始めていることを示す明るいデータもある。【10月21日 AFP】
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パキスタン・アフガニスタン・インドにしろ、中東イスラム諸国にしろ、一昔前とは違い、情報が伝わりやすくなっているのは間違いないところで、今後、女性に対する暴力も減少していく・・・・ことを期待します。
当然ながら、政府・指導者の改革へ向けた真摯な取り組みが重要であることは言うまでもないことですが。
【「サイン、コサイン、タンジェントを女の子に教えて何になる?」】
女性の地位が比較的改善していると思われる先進国における女性問題に関する話題をいくつか。
男女差別を禁じる法的環境の整ったアメリカにあっても、男女の賃金格差は実態として存在していますが、カリフォルニア州ではこの男女の賃金格差を厳しく禁じる法律が成立したとか。
****「男女同一賃金」目指す新法成立、米カリフォルニア州****
米カリフォルニア州議会は6日、男女の賃金格差の解消を目指す法案を可決した。同法案は、全米で最も強硬な措置とされ、ハリウッドの映画人からも称賛の声が上がった。
ジェリー・ブラウンカリフォルニア州知事は同法案に署名して法律として成立させた後に声明を発表。「カリフォルニア同一賃金法(California Equal Pay Act)が成立してから66年、いまだに多くの女性は男性と同じ仕事や同等の仕事をしながら、男性より少ない賃金しか得ていない」と述べた。「今回の法律は、根強く残る男女間の賃金格差に終止符を打つための新たな一歩だ」
今回成立した「カリフォルニア公正賃金法(California Fair Pay Act)」は、女性の賃金は男性の約84%でしかないという調査結果を受けてカリフォルニア州議会のハンナ・ベス・ジャクソン上院議員が法案を提出したもので、同一の労働とはいえなくとも同等の仕事に従事している場合に賃金面で不平等を生むことを雇用者に禁じる現行法を基に作られている。
アカデミー賞の受賞スピーチで、男女の賃金の平等を訴えた女優のパトリシア・アークエット(Patricia Arquette)さんは、「この法案が超党派の支持を得たのは、家族を養い、この国の経済を動かしているのは女性だから」とコメントし、同法の成立はカリフォルニアの女性が男性と対等に扱われるようになる上で重要な一歩だと述べた。【10月7日 AFP】
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以前オバマ米大統領が公式の席でカリフォルニア州のカマラ・ハリス司法長官の容姿を「わが国ではずば抜けて美人の司法長官(by far the best-looking attorney general in the country)」とほめたことが物議を醸したように、女性に対する性差別は男性の側からすると「そんなつもりはなかったのに・・・」というようなわかりにくさ(多分に自覚のなさの問題なのでしょうが)もありますが、フランス国営テレビのCMは女性活用をアピールしたつもりが、逆に性差別を批判される結果になったようです。
****女性活用アピールがかえって女性差別に、仏国営テレビCM放映中止****
フランスの国営テレビ局フランス3が放映した自社の女性活用をアピールするテレビCMが、むしろ性差別的な内容だとして批判と嘲笑を浴び、放映中止に追い込まれた。
40秒のテレビCMは、フランス3の女性採用率の高さに注目を集めようと作成されたもの。最後に「フランス3のニュースキャスターは、ほとんどが女性です」との文章が映し出される。
ところが、このCMでは女性の有能さを強調するのに、家事の担い手が不在となり荒れ放題に荒れた家の中を見せるという手法を取ってしまったため、盛大な自殺点を献上する羽目となった。
CMは、料理が入ったまま煙を吐くオーブン、散らかった子ども部屋、アイロンがけの途中で放置されたシャツから炎が噴き出す様子などを次々と映す。そこへ、1970年代にヒットしたフランスのポップソング「Ou sont les femmes(女性たちはどこだ?)」が流れ、女性の役割が放棄された恥ずべき状況に対する視聴者への答えとして、「彼女たちはフランス3にいるのです」とのテロップが表示される。
このCMにはパスカル・ボワタール女性権利相も、マイクロブログのツイッター上で「男女平等を推進する上で最善の方法とは思えない」とコメントしている。【10月8日 AFP】
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「母親・女性は家庭に」という(伝統的・保守的な)意識と、女性の自立を重視する立場は、しばしばバッティングします。
日本でも同様の議論はありますが、以下はドイツの事例です。
****<ドイツ>在宅育児、国を二分…手当支給に違憲判決****
自宅で子供を育てる保護者への支援策とされた「在宅育児手当」について、ドイツの憲法裁判所が先月、違憲判決を出した。
独国内は手当の必要性を訴える保守層と女性の自立を重視する地域との対立が浮き彫りになった。国を二分する議論の末に導入された在宅手当の廃止は、理想の家庭像や女性の社会進出のあり方が、ドイツでも大きく異なることを浮き彫りにした。
在宅手当は保育所などに生後15カ月〜3歳の子供を預けず、自宅で面倒を見た場合に月額150ユーロ(約2万円)が支給される制度。
キリスト教カトリックの影響で母親は家庭にという保守思想が強い南部バイエルン州を基盤とする与党キリスト教社会同盟(CSU)が提唱し、メルケル首相率いる姉妹政党キリスト教民主同盟(CDU)などの協力で法制化。13年から支給が開始された。
ドイツでは15年現在でも約8万5000人分の保育所が不足しているとされ、長年幼児を預けられず在宅で面倒を見る親への支援が問題になっていた。
一方で、法案審議段階から、現在CDU・CSUと連立政権を組む社会民主党を中心に「母親を家庭に縛りつけようとする政策で古臭い家庭観を押しつける」との反発が広がっていた。
憲法裁は7月21日、「在宅手当を行う権限は政府にはない」として違憲と判断した。国と地方の権限が明確に分かれるドイツでは、子育て政策の権限は各自治体にあり、国による一律の手当を違法と判断したのだ。手当の新規受け付けは即座に中止された。
今回憲法裁に提訴していたのは、北部の主要都市ハンブルクだ。社民党率いる同市は女性の社会進出や移民政策にも熱心で、移民同化の一環としても幼児への早期ドイツ語教育は不可欠で、保育所拡充の方が市にとっては重要と訴えていた。
◇独自支給継続も
違憲判決により法律は無効になり、現受給者への経過措置を経て手当はなくなる。だが、バイエルン州は判決に強く反発し、今後も州の政策として手当を継続する方針を表明しており、保守的な家庭像を持つ州と多様な価値観を求める地域との対立が鮮明になっている。【8月3日 毎日】
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私の住む鹿児島では伊藤知事が、8月27日に開かれた県の総合教育会議で、女性の高校教育のあり方について、「高校でサイン、コサイン、タンジェントを教えて何になるのか」「それよりもう少し社会の事象とか植物の花や草の名前を教えた方がいいのかなあ」と述べたということで問題となり、その後発言を撤回する騒ぎがありました。
随分と“わかりやすい”差別発言でした。
****大学進学率の男女差が物語る日本の「ジェンダー意識」****
この夏、鹿児島県知事が「サイン、コサイン、タンジェントを女の子に教えて何になる?」と発言して猛反発を食らった(知事はその後、発言を撤回)。明治維新では薩摩藩が日本の近代化をリードしたが、残念ながら現在の鹿児島では、「女子に高等教育は必要ない」という封建的な考え方が色濃く残っているようだ。
このような「性差(ジェンダー)」の意識は、大学進学率の男女差からうかがえる。
2015年春の全国の4年制大学進学率(浪人込み)は51.5%だが、性別にみると男子が55.4%、女子が47.4%と、8ポイントの開きがある(進学該当年齢の18歳人口を分母とした進学率)。これは能力差とは考えられないので、「女子に大学教育なんて......」というジェンダー意識の表れだ。(中略)
大学進学率は地域格差が大きく、最高の東京(72.8%)と最低の鹿児島(35.1%)では倍以上開いている。進学率は都市部で高く地方で低い傾向にあるが、これは住民の所得水準や大学の立地状況の違いが影響している。
大学進学率が最も低いのは鹿児島で、その原因は女子の進学率が低いことだ。鹿児島の女子の大学進学率は29.2%で、全国で唯一3割に達していない。
それだけ男女差が大きく、男子の進学率は女子の約1.4倍にもなっている。北海道(ここも男女差は1.4倍)と並んで、大学進学率の性差が最も大きい地域だ。前述の知事の発言がただの「失言」ではないことがわかる。
男女の大学進学率に1.4倍もの差が出るのは、「女子に高等教育は不要」、「女子よりも男子優先」というジェンダー意識が根強いためだろう。
大都市の東京は比較的それが弱いようで、進学率の性差はほとんどない。地方でも徳島のように、男子より女子の進学率の方が高い県もある。このことから見れば、ジェンダー意識は克服できるはずなのだ。
これは国際比較をするとよく分かる。<表2>(省略)は、社会的価値観に関する国際的な調査から「大学教育は、女子よりも男子にとって重要だ」という項目の肯定率を国別に抽出して、高い順に並べたランキング表だ(英仏は調査に回答せず)。
その肯定率が最も高いのは、カースト社会のインドだ。20歳以上の国民の6割が「大学教育は、女子よりも男子にとって重要だ」と考えている。バーレーンやパキスタンなど、イスラム社会の肯定率は総じて高い。女性はあまり外に出るべきでない、という宗教的戒律があるためだろう。
日本の肯定率は22.6%で真ん中より少し下だが、欧米諸国と比べると格段に高い。ドイツは13.6%、アメリカは6.6%、スウェーデンにいたってはわずか2.5%だ。こうしたジェンダー意識の低い国々では大学生の男女比は半々だが、日本では男女比が「6対4」とまだまだ偏っている。東京大学の女子学生比率は18.6%しかない(2015年5月時点)。
「人材」しか資源のない日本にとって、このような事態は見過ごせない。男女を問わず能力を開花させ、社会・経済を活性化させるための意識改革、制度づくりは急務の課題だ。【10月6日 舞田敏彦氏 Newsweek】
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このあたりの意識になると、伝統的・保守的立場に限らず、本音レベルではだいぶ異論もあるのかも。
「女子力」といった言葉が普通に使われる社会にあって、女性の間においてもいろいろな本音があるのでは。
「一億総活躍」社会で求められる女性の活躍とは?