孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

パリ同時テロで更に遅滞する難民受け入れ 勢いを増す反移民勢力

2015-11-18 22:48:37 | 難民・移民

(2015年に海を渡ってイタリア・ギリシャに到着した難民・移民は75万人超、EUがイタリア・ギリシャからの移転を約束したのが16万人、受け入れ可能場所は1418人分、11月4日時点で実際に移転が完了したのは116人で目標の1000分の1未満 【11月6日 CNN】)

移民・難民政策への批判を強める欧州各地の極右政党
欧州各国の難民受け入れは進んでいません。

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EUは、押し寄せる人々のうち、今後2年間に難民申請をする計16万人を、各国で分担することを決めたが、これまで受け入れられたのは130人にとどまっている。

受け入れが進まない理由の一つはまさに、イスラム過激派の思想に感化された若者によるテロの脅威だ。今年1月に17人が死亡したパリの連続テロ事件以降、欧州では移民系の若者によるテロが相次ぎ、中東欧を中心に「イスラム教徒の難民にテロリストが紛れ込み、テロを起こす」との警戒感が強い。【11月15日 朝日】
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押し寄せる難民・移民に対する反感・警戒感が高まる欧州にあって、パリ同時テロはイスラム教徒への警戒感を強めることで難民受け入れを一層難しくするであろうことは事件直後から予想されていましたが、テロ実行犯の一人がシリア難民ではないかと指摘されたことで、難民受け入れを拒否する動きが更に強まっています。

事件の起きたフランスでは、さっそく極右、国民戦線(FN)のマリーヌ・ルペン党首が受け入れ中止を要求していますが、他の国々でも同様の動きが見られます。

****パリ同時多発テロ】仏極右政党「移民受け入れを即刻やめろ」 反移民勢力、支持拡大に動く****
パリ同時多発テロを受け、欧州各地の極右政党などポピュリスト(大衆迎合主義者)勢力が欧州の移民・難民政策への批判を強めている。実行犯の一人がシリア旅券を所持し、難民にまぎれて欧州連合(EU)域内に入り込んでいた可能性があるからだ。「反移民」の支持拡大に利用しようとの思惑がうかがえる。

フランスの極右、国民戦線(FN)は16日、声明で「ジハーディスト(聖戦主義者)が移民にまぎれてわが国に入っている」とし、「移民の受け入れを即刻やめるべきだ」と主張した。

FNのルペン氏は世論調査で3割前後の支持率を維持。最大野党の保守系、共和党のサルコジ党首、オランド大統領を引き離している。2017年の次期大統領選の前哨戦として12月に行われる地域圏選挙でも躍進するとみられ、テロが追い風となる可能性がある。

オランダ極右政党、自由党のウィルダース党首もテロ後、「オランダの国境をいますぐ閉じろ。国民を守れ」とルッテ首相に対して要求した。欧州の移民・難民流入問題の深刻化を受け、自由党の支持率も急伸しており、強気の姿勢だ。

英国独立党のファラージュ党首も16日、「大量の移民や文化間の亀裂を抱える英仏や欧州諸国は過ちを認めるときだ」と述べた。

一方、EUの難民申請者の受け入れ分担策に反対したハンガリーのオルバン首相は16日、「(移民らの)全員がテロリストだとは思わないが、どれほどのテロリストが入ったかは誰も確答できない」と懸念した。

ポーランドでは反移民などを掲げて10月の総選挙で勝利した保守系「法と正義」の新政権が16日に発足。難民受け入れ分担策への合意撤回について、シドゥウォ首相は「合意は尊重するが、市民の安全が優先だ」と含みを残した。【11月17日 産経】
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こうした動きに国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は「難民をスケープゴートにするべきではない」と訴えています。

****UNHCR「難民をスケープゴートにするな」 テロ受け****
パリ同時多発テロを受けて、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は17日、「難民をスケープゴートにするべきではない」などと訴える見解を出した。

テロの実行犯が欧州に殺到する難民らに紛れ込んでいたとの疑惑が浮上したことから、一部の国々が難民流入を阻止する動きを強めていることに懸念を表明。「欧州に来つつある難民の圧倒的多数は、紛争による生命の危険などから逃れるために避難している」と主張した上で、「難民を、最悪の悲劇の第二の被害者にしてはならない」と求めた。【11月18日 朝日
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これまで難民受け入れを牽引してきたドイツにあっては、事件後もメルケル首相などは難民政策の見直しなどには触れていません。
触れてはいませんが、強いメッセージも今のところ聞こえてこないような気もします。

オバマ大統領「責任を果たさなければならない」 共和党との政治抗争にも
そうした難民受け入れ反対の声が強まるなかで、受け入れ継続をアピールしたのがアメリカ・オバマ大統領です。
ただ、反対の声も共和党サイドを中心に高まっています。

****難民受け入れ、反対論強まる=米大統領「責任果たす****
パリ同時テロの実行犯とされる1人が難民に紛れて欧州に入域した疑いが浮上したことを受け、移民国家の米国でもシリア難民受け入れに反対する声が強まってきた。

オバマ大統領は「責任を果たさなければならない」として、2016会計年度(15年10月〜16年9月)に1万人を受け入れる方針を変えていないが、今後の展開次第では見直しを迫られる可能性も出てきた。

反対論を最初に声高に唱えたのは、保守層の世論に敏感な大統領選の共和党候補だ。マルコ・ルビオ上院議員は15日のテレビ番組で「難民はこれ以上受け入れられない」と主張。「問題は身元確認ができないことだ。シリアには(調査のため)電話する相手がいない」と説明した。

共和党指名レースで首位争いを繰り広げる元神経外科医ベン・カーソン氏も「米国に連れてくるのは思考停止。とてつもない間違いだ」と大統領の方針に反対。不動産王ドナルド・トランプ氏は「私が(大統領選に)勝てば、シリアから来た人々を(本国に)送り返す」とさらに強硬だ。

一方、テッド・クルーズ上院議員は「キリスト教徒なら、テロを起こすリスクはない」と、キリスト教徒に限って難民と認定すべきだと主張。ジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事も「キリスト教徒に努力を集中させるべきだ」と同調している。【11月17日 時事】 
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また、共和党知事の多くの州も受け入れ反対を表明しています。

****31州の知事が反対=米のシリア難民受け入れ****
パリ同時テロの実行犯とされる1人が難民に紛れて欧州に入った疑いが出ていることを受け、米国でシリア難民の受け入れに反対を表明した州知事は17日までに、全体の半数を超える31人に達した。CNNテレビが報じた。賛成派の知事は7人にとどまっている。

こうした情勢を受け、マクドノー大統領首席補佐官らオバマ政権高官は17日、州知事34人と電話会議を開催。「大統領は米国民の安全が最優先だ。最も厳格な身元調査を受けた難民以外は入国させない」と語り、1年間でシリア難民1万人を受け入れる政権の方針に理解を求めた。【11月18日 時事】 
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広がる難民受け入れ反対論に、オバマ大統領は「ヒステリー」との批判も。

****米政府、34州に難民受け入れ要請 オバマ氏「ヒステリー」と批判****
・・・・・一方、バラク・オバマ米大統領も、シリア難民がもたらす安全保障上の危険性についての「ヒステリー」が米国内で広がっていると批判。

「(反対派は)夫を亡くした女性や孤児が米国に入ってくることを恐れているようだ」と述べた。【11月18日 AFP】
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ただ、次期大統領選挙も絡んで、オバマ大統領対共和党の政治抗争ともなっています。

****シリア難民受け入れ停止求める 米下院議長、法案提出へ****
米下院のライアン議長(共和党)は17日、パリ同時多発テロを受け、オバマ政権の年間1万人のシリア難民を受け入れる計画について「テロリストに我々の思いやりを利用させるわけにいかない」と述べ、停止を求める考えを示した。

ライアン氏は記者会見で「気の毒に思うことより、いまは安全を優先すべき時だ」と強調。「テロリストが難民に紛れて侵入できないよう確認するため、難民(受け入れ)計画を停止するのが、賢明で責任ある行動だ」と述べ、下院に計画停止を求める法案の提出を検討していることを明らかにした。

ライアン氏はまた、オバマ大統領が過激派組織「イスラム国」(IS)を「封じ込める」と発言していることを念頭に、「単に封じ込めるだけでは不十分で、打倒しなければならない。だが、現在はその包括的な戦略がない」と現政権の戦略を批判した。【11月18日 朝日】
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社会の偏見こそがテロの温床
確かに受入難民の中にテロリストが紛れ込み、国内で事件を起こすことは十分あり得ます。その点を心配するのはわかります。

しかし、だからといって難民を締め出すとか、キリスト教徒だけ受け入れるといった、イスラム教徒全体を敵視して「危険な連中」と見なすような考えこそが、難民・イスラム教徒を社会から疎外し、彼らを過激なテロへと走らせる最大の要因であり、将来のテロの温床をつくりだすものだと言えます。

テロを生まない社会は、一部狂信的な者による不幸な事件がその過程においてあったとしても寛容の精神をゆるぎなく維持することで可能となると思われます。

テロを恐れて難民を締め出したとしても、締め出された人々の怒り・不信感は、やがてより深刻なテロとなってその国の偽善と欺瞞に襲い掛かることでしょう。

****移民への偏見、過激行動の一因****
ダニエラ・クリムケ独ハンブルク大学教授(国際テロ・犯罪学)

パリの同時多発テロは1月の仏週刊新聞社襲撃に比べて脅威の拡散という点でも桁違いだった。欧州の難民政策も大きな影響を受けるだろう。すでにポーランドが欧州連合(EU)の難民受け入れ分担に反対するなど波紋が広がっている。

シリアなどから流入する難民の中に、過激派組織「イスラム国」(IS)の息のかかった者が紛れ込んでいないか、警戒する必要はある。しかし、問題の本質は欧州諸国が長い間、移民らの社会統合に力を注いでこなかったことにある。

フランスはドイツと並ぶ移民大国だが、社会統合策が成功しているとはいえない。むしろ社会の偏見は強まっている。移民らの大半は経済社会の中心にはなれず、常に不満を抱えている。これが彼らの孤立化を助長し、過激な行動に走らせる一因ともなっている。

移民の側も西洋社会がイスラム社会を敵視していると主張する代わりに、溶け込めない理由を受け入れ先の人々に根気強く訴えていかなければならない。

イスラム過激派とイスラム教は、区別して考えなくてはならない。だが、テロの脅威にあおられて感情論に傾けば、その重要な区別は容易にできなくなってしまうかもしれない。二つを結びつけて外国人排斥を訴えてきた右翼勢力などにとって、今回のテロは願ってもない機会になってしまう。【11月18日 朝日】
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これまで欧米社会は人道主義や寛容の精神を価値あるものとしてきました。

今回事件によって欧州・アメリカにおいてイスラム教徒社会に対する偏見が強まり、難民受け入れが困難となるのであれば、事件を起こしたテロリストたちは実に効果的に欧米社会の欺瞞を暴き、その根底を揺さぶる一撃を与えた、彼らのテロは大成功だったと言えるでしょう。
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