
(バタクラン劇場そばの路上で抱き合う人たち=パリで2015年11月14日未明、ロイター【11月14日 毎日】)
【支配地域を縮小させたIS 「どこであろうと、武器を手に取れ」】
フランス・パリで起きた同時多発テロについて、オランド大統領は「イスラム国(IS)」による犯行としています。
死亡者数は下記記事では127人とされていますが、AFP通信によると、けが人は250人以上で、うち99人が深刻な状態とも報じられており、今後数字は更に増加することが予想されます。
****仏大統領、「イスラム国」の犯行=同時テロ、127人死亡―空爆への報復か****
フランスのオランド大統領は14日、パリ中心部の劇場などで13日に起きた同時テロについて、過激派組織「イスラム国」の犯行だと言明した。
「イスラム国」も14日、犯行を主張する声明を出した。同組織はこれに先立つビデオ声明で「フランスは(同組織への)空爆を続ける限り平和ではいられない」と表明した。
オランド大統領は「国内の共犯者の支援を得て、国外から準備・組織・計画された」と指摘。一連のテロで、127人が死亡したと述べた。AFP通信によると、約180人が負傷し、うち約80人が重傷。これまでに日本人の被害は確認されていない。事件では犯人とみられる8人が死亡した。
事件の目撃者によれば、犯人はアラビア語で「アラー・アクバル(神は偉大なり)」と叫んで銃を乱射。フランスによるシリア軍事介入を非難していたとされる。(後略)【11月4日 時事】
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フランスは9月からシリアでのIS空爆も開始しており、今後更に空爆を強化する方針が報じられていました。
****仏、ペルシャ湾に原子力空母派遣へ・・・空爆を強化****
フランスのオランド大統領は5日、イスラム過激派組織「イスラム国」を攻撃するため、原子力空母「シャルル・ドゴール」を近くペルシャ湾に派遣する方針を明らかにした。
仏軍は9月、「イスラム国」が拠点を置くシリアで空爆を開始しており、戦闘機ラファールを搭載する同空母を投入することで、シリアやイラクで「イスラム国」への空爆を強化する方針とみられる。
シャルル・ドゴールは仏軍が保有する唯一の空母で、今年2〜4月、ペルシャ湾に派遣され、イラク空爆作戦を実施した。現在は、南仏の軍港トゥーロンに停泊している。【11月6日 読売】
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ISの活動本拠地であるシリア・イラクにおいては、クルド人勢力を中心に、ISに対する反攻が進みつつあるように見え、イラクにおけるISの拠点であるモスルへの圧力を強めています。
****<イラク>要衝をISから奪還 クルド治安部隊****
ラクのクルド自治政府の治安部隊ペシュメルガは13日、シリア国境に近い町シンジャルを過激派組織「イスラム国」(IS)から奪還した。シンジャルはISが実効支配するイラク北部モスルとシリア側をつなぐ幹線道路上にある要衝で、自治政府はモスルを孤立化させ、攻略に弾みをつけたい考えだ。
自治政府によると、ペシュメルガは11日夜、約7500人規模の攻撃部隊を投入し、米軍主導の有志国連合による空爆の援護を受けながら、シンジャルの奪還作戦を開始。13日に中心街を制圧した。ISの戦闘員100人以上を「殺害した」としている。自治政府トップのバルザニ議長は戦果を誇るとともに、米軍に謝意を示した。
現地からの報道によると、ISは11日までに主力がモスルなどへ撤収し、ほとんど抵抗はなかったという。戦略的要衝を放棄した理由は不明だが、中東の衛星テレビ局アルジャジーラはIS関係者の話として「戦術的な判断だ」と報じた。
ISは昨年8月にシンジャルに侵攻した。同地に多い宗教的少数派のヤジディー教徒を多数虐殺。奴隷化されたヤジディー教徒も多いとされ、米軍が対IS空爆に踏み切る一因となった。
シンジャルはシリア国境からモスルにつながる高速道路(47号線)上にある。ISはイラクの本拠地であるモスルに戦闘員や武器、車両、生活物資などを移送する主要経路を断たれ、打撃を受けたとみられる。
また国境のシリア側でも13日、米軍と連携するクルド人主体の「シリア民主軍」が北東部ハウルを奪還。米軍とクルド人の連携による対IS作戦が一定の成果を上げた。
ただISは、シリアからイラクへ流れるユーフラテス川沿いの主要道路を押さえているほか、砂漠も往来しているとみられ、モスルへの補給路を完全に断つのは困難だ。
イラク軍は今春以降、ユーフラテス川沿いの要衝ラマディの奪還作戦を続けているが、ISの抵抗に手を焼いている。13日には首都バグダッドで、ISと戦うイスラム教シーア派民兵の葬儀中に爆発があり、少なくとも18人が死亡。ISが犯行への関与を主張する声明を出した。【11月14日 毎日】
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ISにとっては、こうしたシリア・イラク情勢に加え、トルコが国境管理を強化したことでトルコ経由での戦闘員確保が難しくなっていること、また、原油価格低迷で資金的にも難しくなっていることなどもあって、現状を維持することが次第に困難になりつつあるように見えます。
今回テロを受けて、欧米・ロシアなどのIS攻撃は更に強まるものと思われます。
そのことは、今回のパリ同時多発テロのようなテロ行為にISを向かわせる要因ともなります。
****国際テロに軸足か=シリア、イラク劣勢で―イスラム過激派****
13日にパリで起きた同時テロは、欧州では最大規模であることから、イスラム過激派が周到な準備を行ってきたことがうかがえる。過激派組織「イスラム国」がシリアやイラクで劣勢に立たされる中、過激派は2001年の米同時テロに代表される国際テロに軸足を置く動きを強めている。
14年に急速に勢力を拡大した同組織はこれまで、その名が示すように、国家権力が弱体化したシリアやイラクの権力空白地帯での「建国」を重視してきた。
しかし、シリアでは米軍主導の有志連合に加え、9月末にはロシアもイスラム過激派を標的とする空爆作戦を開始。イラクでも有志連合の支援を受けたクルド人部隊などが攻勢を強め、同組織は支配地域を縮小させた。
「イスラム国」を支えてきたのは、世界中から集結した数万人規模のイスラム過激派だ。しかし、シリアの同組織支配地域に隣接するトルコが国境警備を強化したことで、越境は困難になった。
「イスラム国」指導者のバグダディ容疑者は今年5月、音声メッセージを通じ、世界各地のイスラム教徒に「イスラム国」への移住を求める一方、移住できない人々には「どこであろうと、武器を手に取れ」と訴えた。移住が困難になった過激派が域外での国際テロに転換するのは、指導者の意向に沿う形でもある。
同組織は最近、10月31日にエジプト東部シナイ半島で起きたロシア旅客機墜落(乗客乗員224人死亡)で犯行声明を出した。墜落は爆破テロであった可能性が濃厚との見方が強く、事実ならこれも国際テロ傾斜を強めている兆候と言える。【11月14日 時事】
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【ロシアにもテロ予告 シリア問題・IS対策で協調した対応が求められる関係国】
ISによるテロ行為には、シリア空爆を強化し、エジプトでは旅客機が爆破されたロシアも警戒を強めています。
すでに、ISはロシアに対するテロ予告ととれる声明を出しています。
****プーチン政権に衝撃=テロ予告、シリア空爆に影響も―ロシア****
パリで起きた大規模なテロに、ロシアのプーチン政権は衝撃を受けている。フランスのシリア空爆が凶行の動機になったという見方がある中、ロシアも過激派組織「イスラム国」を空爆しているためだ。既に同組織のものとみられる「テロ予告」がロシアにも向けられている。
ロシアは中東・北アフリカからの移民はわずかだが、旧ソ連圏から数千人が「イスラム国」の戦闘員として参加。帰還してロシアを含む母国でテロを起こす恐れが指摘されている。テロの拡散防止はシリア空爆の「大義名分」の一つだが、報復テロを招けば、空爆への国民の支持が揺らぎかねない。
10月31日にエジプト東部シナイ半島で乗客乗員224人が死亡したロシア旅客機墜落は「爆破テロ」という見方が日に日に高まっている。プーチン政権はシリア空爆や世論への影響も考慮して「テロ」との断定を避けているが、全てのエジプト便の運航停止に踏み切るなど、対応を余儀なくされた。
「間もなく海のように血があふれかえる。ロシアの町は、『アラー(神)は偉大なり』と叫ぶ声に驚かされるだろう」。今月12日に「イスラム国」がテロを示唆する声明を出した。ペスコフ大統領報道官は「治安機関が対応することになるだろう」と述べ、テロの未然防止に全力を尽くす考えを示した。【11月14日 時事】
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国内世論の動向を懸念するロシア・プーチン政権ですが、こうしたテロですぐにシリアへの介入から手をひくことはないでしょう。
ただ、シリア・イラク情勢、対IS対策について、欧米とも協調して出口を見出す方向での動きにこれまで以上の誘因が働くことも考えられます。
****シリア情勢巡り関係国の外相会合始まる****
内戦が続くシリア情勢を巡って欧米や中東など関係国の外相らが一堂に会する会合が14日、オーストリアで始まり、アサド政権やそれぞれの反政府勢力が内戦の終結に向けてどう関わっていくべきかが議論の焦点になります。
4年以上にわたって内戦が続くシリアでは、アサド政権や反政府勢力、それに過激派組織IS=イスラミックステートなどが入り交じって各地で戦闘が続き、欧米や中東諸国、ロシアなどが軍事作戦を展開するなど情勢が複雑化しています。
14日、オーストリアのウィーンで始まった会合には、欧米や中東諸国など関係国の外相らが出席し議論を交わしています。
2週間前に開かれた会合では、アサド政権を支援するロシアやイランと、反政府勢力を支援するアメリカや中東諸国などとの間でアサド政権の存続を認めるかどうかで立場の隔たりが埋まりませんでした。
今回の会合では、内戦の終結を目指すにあたって反政府勢力の中からどのグループを交渉に参加させるかについても、ロシアが作成したリストなどをもとに議論が交わされる見通しで、アサド政権やそれぞれの反政府勢力がどう関わっていくべきかが焦点になります。
フランスのパリで日本時間の14日朝早く起きた同時テロ事件で合わせて127人が犠牲になったことを受けて、会場に向かう外相らが報道陣の前で追悼の意を表し、会合では、テロ対策についても意見を交わすものとみられます。【11月14日 NHK】
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オバマ米大統領やプーチン大統領なども出席して15〜16日の日程でトルコで開催される20カ国・地域(G20)首脳会議においても、IS対策を含めたシリア問題に関する協議が行われる予定です。
ロシアだけでなくすべての関係国は、今まで以上に協調して具体策を講じることを必要とされています。
【欧州各国で流入する難民・移民への警戒感が更に強まることも】
一方、今回テロ事件は、フランスや欧州各国の難民・移民対策にも影響することが考えられます。
すでにフランスは事件に関連して、第二次世界大戦以来初めての非常事態を宣言し、出入国管理を復活させています。
****【パリ同時多発テロ】仏大統領「国境を閉鎖」言明 テロリスト入国防ぐ狙い****
ロイター通信などによると、オランド大統領は13日のテレビ声明で、今回のテロ事件の容疑者逃亡やテロリストの入国を防ぐために「国境を閉鎖する」と言明。欧州諸国間の自由移動を認めたシェンゲン協定に基づき、廃止していた出入国管理を復活させた。
またフランスと国境を接するベルギーも、フランスからの空港便や国境をまたぐ道路や鉄道に関して出入国管理を再開した。
一方で、仏外務省は「国内の空港は閉鎖せず、航空機や鉄道のサービスは継続される」との声明を発表。米国の航空会社によると、パリ行きの航空便は一部遅れが出ているものの、継続して運航するという。
ドーバー海峡の下の英仏トンネルでロンドンとパリを結ぶ「ユーロスター」は14日も列車を運行しているが、チケットの変更などに応じているという。【11月14日 産経】
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今回の事件がフランスで起きた背景として、フランスが多くの移民を抱え、かつ、そうした移民に関する歴然たる社会的格差が存在することが指摘されています。
****<パリ同時多発テロ>多民族国家、脆弱さも内包****
フランス史上最悪規模の同時多発テロは、仏社会を恐怖の闇に包みこんだ。1789年の革命を経て「自由、平等、友愛」を国是に掲げるフランス。崇高な理念の裏で、多くの移民を抱える多民族国家は、脆弱(ぜいじゃく)さも内包している。
フランスの移民政策は、世界でも厳格な同化主義が基本だ。フランス語を話すなどフランス社会に溶け込もうとする者は受け入れ「平等な市民」として社会に組み込もうとする。こうした同化政策は、人口が激減した第一次世界大戦後の1920年代や第二次世界大戦後の経済成長期に機能した。
だが今は様相が異なる。フランス国立統計経済研究所(INSEE)によると、仏国内には530万人の外国生まれの移民と、650万人の移民2世が居住し、人口の19%を占める(2008年)と推定される。このうち約500万人がアフリカ出身とみられる。
今やアフリカ系移民と人口の大半を占めるキリスト教徒との社会的格差は歴然としている。
今年1月に起きた週刊紙シャルリーエブドの襲撃事件では、パリ出身のアルジェリア系の兄弟を含む3容疑者が、イスラム教の予言者ムハンマドの風刺画を掲載した同紙を標的とした。
仏国内育ちの容疑者による「ホームグロウンテロ」は、欧州各国で急増する移民の問題をクローズアップさせる契機となった。再び起きた凶行は、移民政策に影響を与える可能性がある。
一方、今回のテロを受け、オランド大統領はアルジェリア戦争(1954〜62年)以来の国家非常事態を宣言した。フランスは、アルジェリアとの関係では苦い過去がある。
仏からの独立を勝ち取ったアルジェリアでは90年の統一地方選でイスラム主義政党「イスラム救国戦線」(FIS)が圧勝した。しかし、急激なイスラム化を恐れた軍部が92年にクーデターで政権を握り、フランスも黙認。反発したFISの武装集団が、アルジェリアやフランスでテロを繰り返した。
フランスは今年9月、過激派組織「イスラム国」(IS)に対する空爆に参加した。今回のテロは、これに反発した可能性がある。【11月14日 毎日】
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国際移住機関(IOM)によれば、中東や北アフリカなどから地中海を渡って欧州入りを目指す難民や移民の総数が今年に入ってから計80万人を超えたとのことで、押し寄せる難民・移民への対応に苦慮する欧州各国は次第に国境管理や難民と認められなかった移民の送還業務を強化し、難民の流入を抑制する方向に向かっています。
***貧困対策・送還へ協力=難民問題で行動計画―欧州・アフリカ首脳****
マルタの首都バレッタで開かれていた難民問題を協議する欧州とアフリカ諸国の首脳会合は12日、貧困など根本的な原因への対応や、難民と認められなかった移民の送還業務での協力強化など5分野から成る行動計画を採択して閉幕した。(後略)【11月12日 時事】
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****<スロベニア>国境に越境防止柵の設置を始める****
中東などから欧州に難民が大量に押し寄せている問題で、スロベニアは11日、国境に越境防止柵の設置を始めた。難民の流れは止めないとしているが、1日7000人を超える流入を抑制する狙いがある。
また、ドイツ内務省は10日、欧州連合(EU)入りしても難民申請しないままドイツに入国したシリア難民を最初に到着した国に送り返す「原則」の適用を再開すると発表した。ギリシャなどでの登録を促し、難民を他の国に送り込む狙いがある。
スロベニアはギリシャからドイツに至る通称「バルカンルート」の途中にある。クロアチアとの国境検問所は管理が厳しいため難民は森や川などの国境を越えている。越境防止柵はこれを防ぎ、難民を正規ルートに戻し抑制する狙いがある。
一方、EUでは最初に入った国で難民申請する大原則があるが、ドイツは今年8月、人道的見地からシリア難民への適用を除外した。独内務省は今回、この例外適用をやめるとしている。ただ、実際にはギリシャにシリア難民を送り返すことは困難で、難民に欧州入りを断念させる「情報戦」の一環とみられる。
メルケル独首相の報道官も9日、難民が家族を呼び寄せることは「当面あり得ない」と述べた。多くの難民は定住した上で家族を呼び寄せる目的で来独しており、これも難民に厳しいメッセージを送ろうとの試みだ。【11月11日 毎日】
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****オーストリアも柵設置へ=欧州へ難民80万人超に****
オーストリア政府は13日、中東などから押し寄せる難民らの管理を強化するため、流入ルートに当たる対スロベニア国境の一部にフェンスを設置すると明らかにした。(中略)
DPA通信によると、オーストリア高官は「整然と入国させるのが狙いであり、封鎖しようというものではない」と強調した。【11月13日 時事】
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今回テロ事件を受けて、欧州各国の難民・移民対策は、今まで以上に抑制的・消極的なものになることも想像されます。