【11月9日 AFP】
【野党の独自集計では単独過半数確保の情勢】
注目されていた8日に行われたミャンマーの総選挙。
2010年に行われた前回総選挙では、アウン・サン・スー・チー氏はまだ自宅軟禁下にあり、最大野党「国民民主連盟(NLD)」は選挙戦をボイコットしましたので、軍系の与党「連邦団結発展党(USDP)」が大勝しました。
今回がスー・チー氏率いるNLDが参加する民政移管後の初の総選挙となります。
“ミャンマーでは半世紀以上にわたって軍の影響力が強い政権が続き、4年前に民政移管したあとに成立した現政権も大統領や閣僚の多くが軍の出身者で占められています。
現地のメディアなどによりますと「変化」をスローガンに掲げる野党NLDが、長年続いた軍事政権に対する国民の反発を背景に、優位に選挙戦を進めてきたとみられ、野党が政権交代に必要な過半数の議席を獲得するかが焦点です。”【11月8日 NHK】
選挙管理委員会の開票結果発表は遅れており(あるいは、故意に遅らせているのか・・・)、すべての議席が確定するには、2週間から3週間かかるとしています。
現時点では、野党NLDの独自集計などをもとに推測しかありませんが、スー・チー氏の人気はやはり圧倒的なものがあったようです。
「“強い”とは言われてたけど・・・やっぱ、さすがやね・・・・」といったところでしょうか。
選挙戦終盤では、スー・チー氏が反イスラムを明らかにしないことに対して、仏教ナショナリズム的な僧侶などが反スー・チーの動きを見せてもいましたが、大勢に影響はなかったようです。
選挙前からNLDが勝利するのはほぼ確実と見られており、焦点は軍人に割り当てられた4分の1の議席を含めて、単独過半数に達する選挙議席の3分の2を確保できるか・・・という点でしたが、NLD集計によれば、都市部では9割ほど、少数民族政党と競合する地域でも7~8割を得て、「3分の2」ラインを越える「圧勝」の情勢にあるようです。
ただ、この点は正式な選挙管理委員会の最終発表を待つ必要があり、選挙の延期を画策するなど現政権寄りと見られている選挙管理委員会のことですから、何が起こるか・・・・未だ不透明です。
****<ミャンマー総選挙>野党「議席3分の2」・・・政権交代濃厚****
ミャンマー総選挙で、アウンサンスーチー氏(70)率いる最大野党「国民民主連盟(NLD)」は10日、独自集計の結果、NLDが政権交代に必要な議席を超えて「圧勝」していると公表した。
スーチー氏らNLD幹部はこの日、政権構想に向けた会合を早くも開いた。だが、連邦選挙管理委員会の最終発表までは時間がかかるとみられ、公式結果の行方を注視している。
◇選管発表遅れる
NLDが今回、国会(上下両院)の改選498議席のうち3分の2超(333議席以上)を獲得し、その後政局が順調に動けば、来年2〜3月の国会で予定される大統領選で独自候補が当選するのは確実となる。
NLD開票集計責任者のテインウー氏は毎日新聞に対し、10日午後2時(日本時間同4時半)現在で、NLDは上下両院で406議席を獲得、政権奪取に必要な333議席を大きく超えたと公表した。
選管の中間集計では、NLDの確定議席は下院88議席中、78議席。テインセイン大統領(71)率いる与党「連邦団結発展党(USDP)」は5議席にとどまり、現職閣僚の落選の報が相次ぐなど惨敗の様相だ。
選管は当初、最終結果の公表を今月15日までと予定していたが、その後「2週間以内」と修正した。
NLDは10日、最大都市ヤンゴンのスーチー氏の自宅で中央執行委員会の会合を開いた。ニャンウィン報道官によると、会合では「圧勝」を踏まえ、スムーズな政権移行、新政権の陣容などを議論したという。
来年の国会で実施される大統領選では、上下両院の軍人議員が1人、両院の民選議員が各1人ずつ計3人の副大統領を選出。この中から全議員の投票で大統領を決める。NLDの集計では、NLDが上下両院とも副大統領を選出できるだけの議席を獲得している。
ミャンマーは半世紀に及んだ軍支配、さらに2011年の民政移管に伴う移行政権を経て、本格的な「民主政権」の時代を迎える可能性が出ている。
スーチー氏は英国籍の息子がいるため憲法上、大統領資格がない。今月5日に「大統領の上に立つ」と宣言して波紋を広げたが、10日、英BBCの取材に「バラはどんな名前で呼んでも香りはよい」というシェークスピアの「ロミオとジュリエット」の中の有名なセリフを引き合いに「大統領」の肩書には関係なく、自分が国家を率いるのだと改めて決意を示した。
NLDの会合後、別の報道官ウィンティン氏は、記者団に「選管は(開票結果の公表を)意図的に遅らせている。細工か何かしたいのかもしれない」と語り、選管の作為の可能性に警戒感を示した。
テインセイン大統領もミンアウンフライン国軍最高司令官も「選挙結果を受け入れる」と表明しているが、選管がどんな最終結果を発表するか国民は固唾(かたず)をのんで注視している。【11月10日 毎日】
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与党側は大物候補落選が続いています。
****閣僚や政商 相次ぎ敗れる****
今回のミャンマーの総選挙では与党USDPのテイ・ウー党首代行やシュエ・マン下院議長が敗れたほか、少なくとも7人の現職の閣僚と、3人の州知事が敗れ、その数はさらに増える可能性があります。
閣僚のなかには軍とのつながりを生かしてビジネスを拡大してきた政商も2人含まれています。
このうちミャンマー南部のエーヤワディ地方から立候補していたスポーツ大臣のティン・サン氏は、ミャンマーの議会などを建設した大手建設会社のオーナーでしたが、NLDから立候補した31歳の医師の新人候補に敗れ、NLDの独自集計によると1万票以上の差がついているということです。
このほか、USDPの下院議員でありながら、スー・チー氏への投票を呼びかける発言で波紋を呼んだミャンマーの不動産王とも言われるキン・シュエ氏も敗れましたが、キン・シュエ氏は10日、NHKの取材に対して、「スー・チー氏の政府になれば、外国からの投資がもっと増えるだろう。今後はビジネスに専念したい」と述べ、政治とはしばらく距離を置く考えを示しました。【11月10日 NHK】
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“与党関係者も朝日新聞に「大敗だ。ここまで負けるのは予想外だった」と話した”【11月9日 朝日】とのことですが、公正な選挙をやればNLDが大勝、与党が惨敗するというのは大方の見方であり、“予想外”とする時点で、軍政及びそれに連なる現政権に対する国民の強い不満を認識できていない、敗れるのも仕方ないとも思われます。
【政権・軍部は結果受け入れを表明しているものの・・・・】
こうした状況で選挙管理委員会による確定にどうして2週間も要するのか・・・「細工か何かしたいのかもしれない」と勘ぐりたくもなりますが、ここまで国際的に注目されていますので、そうそう無茶なこともできないでしょう。
1990年の軍政下で行われた総選挙では、NLDが圧勝しましたが、軍が結果を無視して政権に居座り続けたということもありますが、あの当時とはミャンマーも随分変わりました。
自宅軟禁を余儀なくされたスー・チー氏も政治の表舞台に復帰し、新聞などでの自由な報道も一定に認められるようになっています。(もちろん、完全に制約がなくなった訳でもありませんが)
こうした変化は、現政権を牽引してきたテイン・セイン大統領の大きな成果といえます。
そうした“昔とは違う”ミャンマーにあって、政権・軍部も選挙結果を受け入れることを表明しています。
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テインセイン氏は8日、首都ネピドーで記者団に「(与党が敗北すれば)私は有権者の意思を受け入れる。誰がこの国を率いようと、最も重要なのは国家を安定させ、発展させることだ」と述べた。
ミャンマーは62年の軍事クーデター以降、事実上の軍政が半世紀に及んだ。今も国軍の政治的影響力は極めて大きい。
だが国軍のミンアウンフライン最高司令官は8日、記者団に「NLDの勝利が国民の意思なら、私はそれを受け入れる」と語り、大統領と同様、NLD政権を容認する姿勢を改めて示した。【11月8日 毎日】
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アウンフライン最高司令官は「どの政党が勝っても、私はその結果を受け入れる」と繰り返しており、軍事クーデターの可能性についても、英BBCに「個人的にクーデターは嫌いだ。(NLD政権に移行するとしても)そのつもりはない」と明言しています。【11月7日 毎日より】
選挙戦についても、有権者リストに名前の記載漏れが大量に見つかるなど、選挙管理委員会の中立性や事務能力にも疑義が向けられることもありましたが、投票事自体については懸念された「大きな混乱」はなかったようです。
与党USDPのテイ・ウー党首代行も選挙結果について、「われわれは敗れた。最終結果はまだはっきりとはわからないが、選挙結果は受け入れる」と述べて、与党がNLDに敗北したことを認めています。
****ミャンマー総選挙、与党党首代行が事実上の敗北宣言****
8日総選挙が行われたミャンマーで、政権与党、連邦団結発展党(USDP)のテイ・ウー党首代行は9日午後、首都ネピドーで記者団に対して、「我々は敗北を受け止めなければならない」と述べた。アウン・サン・スー・チー党首率いる国民民主連盟(NLD)が勝利を収め、政権参画する可能性が高まった。
総選挙は2011年春の民政移管後初の総選挙。国会の全664議席の内、軍人議員の議席などを除く491議席を争う。投票日に全国で実施された出口調査でも、NLDは8~9割の支持を集め、NLDの独自集計でも改選議席の8割程度を押さえている。
テイ・ウー氏は記者団に「敗北した選挙区が、勝利した選挙区より多い」との独自集計の結果を明かした。そのうえで「選挙結果は国民の決断であり、受け止めなければならない。勝敗にかかわらずミャンマーに貢献したい」とも語り、NLDとの連携にも前向きな姿勢を示した。【11月9日 日経】
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こうした状況にありますので、あからさまな選挙結果の無視とか、クーデターといった事態はおそらくないと思われます。
ただ、「3分の2」が微妙な情勢となれば、野党候補が選挙違反で狙い撃ちにされるということもあり得ます。
スー・チー氏、NLD側も、恣意的に選挙違反に問われることを警戒し、6日まで認められていた選挙運動を5日で終了し、6日には立て看板などの撤去まで行っています。
選挙後初めて支持者を前に演説したスー・チー氏は、「選挙結果は正式に確認されていないが、結果はみんな分かっていると思う」と述べ、勝利に自信を示しつつも、あからさまな勝利宣言などは行っていません。
また、勝利パレードなど敗者を刺激するような行動もとらないように抑制しています。
【「変革」を求めた国民 半世紀に及んだ国軍支配に対する抜きがたい嫌悪感】
いずれにしても、まだ結果が判明していませんので、選挙の総括や今後の課題等に触れるのは早すぎる段階ではあります。
その点は承知のうえで、民主化を進めてきた政権・与党の敗北に関する簡単な総括と今後の話について。
****<ミャンマー総選挙>変革求めた国民・・・・野党「勝利」****
ミャンマーで8日行われた総選挙は、アウンサンスーチー氏(70)率いる最大野党「国民民主連盟(NLD)」の勝利が確実視される。2011年に軍政から民政に移管して約4年半。
国民の心を捉えたのは、与党「連邦団結発展党(USDP)」を率いるテインセイン大統領(71)が訴えた「着実な民主化改革の継続」ではなく、スーチー氏が掲げた「チェンジ(変革)」だった。
今の焦点は、NLDが政権を奪取できる議席を獲得するかに集約される。
◇根強い国軍への嫌悪感
「正直、国民はNLD候補者の大半が嫌いです。NLDという組織も魅力的だとは思っていない。にもかかわらずNLDに投票したのは、変革を求めたから。その一点です」。地元紙ミャンマー・タイムズの政治部キャップ、イイトールイン記者(33)は、NLD躍進の背景をこう分析した。
スーチー氏は選挙遊説で「候補者個人ではなく、党の名前(NLDかどうか)で投票してほしい」と繰り返した。候補者について「玉石混交。当然教育する」との本音を吐露したことがある。
候補者に対して「メディアの個別取材に応じてはならない」とかん口令も出した。全体の15%と女性が比較的多くを占める候補者は、いわば「駒」だ。あえて有能な人材を登用しなかった面もあり、有権者には不評だった。
ある選挙区から下院選に出馬した女性(27)は法律を学ぶ現役の学生で、政治囚として2年間服役した経験がある。公募で選ばれた彼女はかん口令について「余計なことを話して問題になる可能性があり、微妙な時期なので仕方がない」と漏らした。
これに対し、テインセイン氏が率いる与党USDPの候補者は、軍出身者だけでなく、法律家、ビジネスマンなど年齢層も高く、NLDに比べ地元の「名士」と呼ばれる人物が多いのが特徴だ。
だが、国民の多くは「変革」を求めてNLDに投票した。その背景には、半世紀に及んだ国軍支配に対する国民の抜きがたい嫌悪感があるからだ。
将軍出身のテインセイン氏は、3日の国民向け演説で「旧軍政の統治は非民主的だった」と認めた。その上で「(民主化改革を進めた)1期(5年)だけで(軍政期の負の遺産を解消する)挑戦的な仕事を全うするのは困難だ」と発言。引き続きUSDPへの支持を求めたが、国民の胸には十分に響かなかった。
ミャンマーを30年間取材してきたスウェーデン人ジャーナリスト、バーティル・リントナー氏(62)は「(いまだに)国民の誰も政府を信じていない。たとえ政府が正しいことをしても、背後にたくらみがあると疑心暗鬼に陥る」と指摘。この国が軍政という長く重い病の後遺症を引きずる中で、スーチー氏待望論は必然だとの見方を示した。
◇過半数割れなら連立模索
ミャンマー総選挙は、最大野党NLDの勝利が確実となったが、NLDが単独で政権交代を実現できる議席に達するか不透明だ。
連邦選挙管理委員会の最終発表はまだ先とみられ、集計のごまかしなど依然として不測の事態を懸念する声もある。国民の多くは「この先何が起きるか分からない」と、政権や国軍に対し不信感を隠さない。過半数に達しなかった場合は、少数民族政党などとの連立を模索することになる。
テインセイン大統領の任期は来年3月末に切れる。新大統領は来年招集される国会で選出されるが、2〜3月の予定で、NLDが過半数を得られなければ、多数派工作が繰り広げられる可能性がある。
連邦選管のティンエー委員長は9日午後の記者会見で「全国4万の投票所のうち、48カ所で不正行為があった」と述べ、懸念された「大きな混乱」はなかったと発表した。
「自由で公正な選挙が行われるなら、NLDが勝つ」。最大都市ヤンゴンに駐在する各国外交官や内外メディアはそう事前予測しており、今のところ選挙結果は想定の範囲内のようだ。
過半数を得られなかった場合、「国会議員の6割は自分を支持している」というUSDPのシュエマン国会議長(68)と手を組むこともあり得た。
シュエマン氏はスーチー氏との関係が深く、今年8月にテインセイン大統領派による「党内クーデター」で党指導部から排除されたのもそれが要因の一つだった。
選挙戦でもシュエマン氏は「NLDが過半数に達しなかったら、スーチー氏が政権を握るのを手助けする」と明言していた。
だが、下院選に出馬したシュエマン氏は9日、NLDの対立候補に祝意を送り、「敗北」を宣言。スーチー氏にとって格好の連携相手は、早々と姿を消してしまった。
◇与党は予想範囲内…中西嘉宏・京都大東南アジア研究所准教授(ミャンマー政治)の話
与党USDPはこの結果をある程度予想していただろう。2012年の補選でNLDが大勝したことを考えると、今回の選挙結果は不思議ではないからだ。
国軍の影響力は08年制定の憲法で保障されているが、与党が勝ち続ける仕組みを制度の中に埋め込めなかった。シンガポールやマレーシアのように与党が勝ち続けるには、たとえ非民主的だと批判されても勝てる仕組みが欠かせないが(前回選挙からの)5年では作れなかった。今回の選挙で与党の弱さがはっきりした。
一方、国軍と与党は一体と見られがちだが、退役将校中心の与党と現役軍人では利益も世代も違う。与党が負けてもすぐに国軍が選挙結果を否定するような動きをするとは考えにくい。
今後、憲法改正の圧力が議会内で強まるだろうが、与党の盾がなくなり、国軍はNLDと正面から民主化の方向性について話し合わなければならなくなるだろう。
今後のポイントは、NLDの獲得議席とともに少数民族政党がどこまで票を伸ばすかだ。NLDが過半数を取れるかどうかによって連立の組み方に影響し、新政権の構成や議会の運営が大きく変わってくる。【11月10日 毎日】
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スー・チー氏についても批判的な指摘も多々あります。
自分の存在を脅かすような人材を登用しない、唯我独尊で他人の意見を受け入れない、経済政策に疎い・・・・等々。
それでなくとも、軍部が強い力を持つ中で、どのように現実政策を遂行できるのか?
何より、国民の“過大”で“性急”な期待にどのように応えるのか?
そうした話は、もう少し結果が明らかになった時点であらためて。