孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ナイジェリア「ボコ・ハラム」 支配地域は縮小したものの、テロは周辺国にも拡散

2015-11-19 22:40:57 | アフリカ

(「ボコ・ハラム」が活動するチャド湖周辺の風景 沼地を行くラクダというのも、日本ではイメージできない光景です。 “flickr”より By Maris Davis Joseph https://www.flickr.com/photos/marisdavis/22782039351/in/photolist-zcdf4F-A7iKKs-BeyAE1-BdGFvx-AHaUzV-AMkESw-AqRMj8-AdsZ3f-A1y9yd-AqREXF-B8MLWY-zWJCb3)

同じ発想による「日系人の強制収容」と「難民受け入れ拒否」】
最初に、昨日のブログで取り上げた難民に関する記事をひとつだけ。

****<米国>日系収容例えに難民支援を中断 ロアノーク市長****
米南部バージニア州ロアノーク市のデビッド・バワーズ市長は18日、パリ同時多発テロなどを受け、シリア難民の受け入れ支援を中断するとの声明を発表した。

市長は、第二次世界大戦中に米政府が安全保障上の脅威を理由に日系人を強制収容したことを引き合いに出し、中断の必要性を説明した。しかし、米政府は戦後、日系人の強制収容を謝罪しており、声明は批判を浴びそうだ。

声明は、パリ同時多発テロや首都ワシントンを攻撃するとの脅迫などを挙げ、シリア難民の受け入れ支援は「これらの戦争行為や残虐行為が終わるまで」中断すると表明した。

そのうえで「ルーズベルト大統領が真珠湾攻撃の後、日本国籍の外国人たちを隔離せずにいられなかったことを思い出す」と指摘。過激派組織「イスラム国」(IS)による脅威は当時と同様に深刻だとの認識を示した。

米政府は第二次大戦中、日系人約12万人を「敵性外国人」として強制収容所に送った。うち3分の2は米国生まれで市民権を持つ2世だった。

しかし、米議会の調査委員会が1983年に強制収容は人種差別、戦時ヒステリーだったとする報告書を発表した。88年にはレーガン大統領が基本的人権の侵害だったと認め謝罪する日系アメリカ人補償法に署名するなど、米政府として謝罪している。

一方、西部ワシントン州のインズリー知事は18日、米公共ラジオのインタビューで、日系米国人の強制収容について、不適当な判断であり、米国の基本姿勢と合致しないものだったと指摘。「そのようなことを今すべきではない」と語り、米国はシリア難民の受け入れを続けるべきだとの姿勢を示した。【11月19日 毎日】
*******************

日系人の強制収の例えは、日本人にとっては非常にわかりやすいものがあります。
「何かしでかすかもしれない敵性外国人」として日系人を強制収容した措置に対し、これを不当と考えるのであれば、「イスラム教徒はテロを行うかも・・・」という考えでイスラム教徒全体を敵視・排斥するような動きに対してもやはり不当と批判すべきでしょう。

パリ同時テロ犠牲者は世界各地のテロ犠牲者のほんの一部
ところで、パリ同時テロ以来、すべてのメディアはこの事件一色の感もあり、国家レベルでも、フランス・ロシアなど関係国で動きが見られます。

もちろんパリ同時テロが重大事件であることはいうまでもありませんが、ちょっと違和感もなくはありません。「あまのじゃく」かもしれませんが・・・。

****なぜパリばかり注目」=アラブ世界に違和感―仏同時テロ****
13日に起きたパリ同時テロをめぐるニュースが連日、世界で大々的に報じられている。

一方、アラブ世界では、今回のテロをはるかに上回る犠牲者がシリア内戦などで毎日出ているが、パリほど注目されない。人々の間では「なぜフランスの事件ばかり関心が集まるのか」と違和感が広がっているようだ。

アラブ世界のイスラム教徒の間でも、129人が犠牲になったパリ同時テロへの関心は高い。市民からは、犯行声明を出した過激派組織「イスラム国」を非難し、突然の凶行で命を落とした人々やその遺族らへの同情の声が聞かれる。

ただ、その1日前の12日にレバノンの首都ベイルートで起き、40人以上が死亡した連続自爆テロは、あまり各国メディアで報じられていない。クウェート紙アルライは「レバノンの人々は、世界にとってレバノンの犠牲者はパリと同等でなく、忘れ去られたと感じている」と伝えた。

エジプト紙アルワタンも「アラブ諸国では毎日人々が死傷しているのに、なぜフランスばかりなのか」といったフェイスブック投稿者の違和感を伝えるコメントを掲載。

町の喫茶店では「世界は二重基準だ」と不満の声が聞かれたことにも触れ、「強い国は注目され、弱い国は(強い国より)悲惨な事件が起きても目を向けられないものだ」と語る大学教授の見解を紹介した。

フェイスブックでは、プロフィル写真上にフランス国旗を映し出す機能が搭載され、世界中で多くの人がこれを利用している。こうした中、エジプトの著名俳優アデル・イマム氏は「フランスよりレバノンの方が(エジプトに)近い。だから私は連帯を表明する」と述べ、自らの写真にレバノン旗を重ねた。【11月18日 時事】 
*****************

テロはパリやベイルートだけでなく、世界各地で連日起きています。
2014年の1年間にテロの犠牲となった者は世界で3万人を超えます。欧米で起きているテロは、そのなかのごく一部に過ぎません。

****世界のテロ犠牲者3万人超、過去最悪に 14年報告書****
17日に発表された世界のテロ動向報告書によると、2014年のテロによる犠牲者は前年より80%増えて3万2658人に達し、過去最悪となった。同報告書は、フランスのパリやレバノンのベイルートで起きたようなテロが世界に拡大する現状を浮き彫りにしている。

報告書は米メリーランド大学の集計をもとに、シンクタンクの経済平和研究所がまとめた。それによると、14年に発生したテロの78%はパキスタン、ナイジェリア、アフガニスタン、シリア、イラクの5カ国に集中。しかしテロが世界に拡大する中で、発生国の数も犠牲者数も過去最多を記録した。

テロは過去15年で激増し、14年の犠牲者数は2000年の9倍に上る。犯行声明が出されたテロでは、イスラム過激派「ボコ・ハラム」と過激派組織「イラク・シリア・イスラム国(ISIS)」による犯行が51%を占めた。

イラクのテロによる同年の死者は9929人に達し、1国の犠牲者としては過去最悪。増加数が最も高かったナイジェリアの死者は7512人となり、前年の4倍を超えた。

500人を超す死者が出た国の数は、5カ国から11カ国に増えた。この中には、289人を乗せたマレーシア航空機がミサイルで撃墜されて墜落したウクライナも含まれる。

一方、欧米では2001年の米同時多発テロを除けば、2000年以降のテロによる年間の死者は、世界全体の0.5%にとどまっている。

欧米で起きているのは主に過激派や国粋主義者、白人至上主義者などが単独で引き起こす「一匹オオカミ」型のテロで、2006年以来の死者の70%がそうした犯行による犠牲者だった。

世界の経済損失は過去最高の529億ドル(6兆5300億円)となり、13年比で61%増、2000年に比べると10倍を超す。

テロは難民や避難民を発生させる重大な要因にもなっていると報告書は解説。「テロの影響が大きい11カ国のうち10カ国では、難民や国内避難民の比率も高い。これは現在の難民危機と、テロ、紛争との間に強い相関関係があることを物語っている」と指摘する。

テロを引き起こす2大要因としては、政治的暴力と衝突を挙げた。1989~2014年のテロの92%は、国家の関与する政治的暴力が横行する国で起きていた。

ISISの台頭も著しい。イラクとシリアへは2011年以来、推定100カ国から2万5000~3万人の外国人戦闘員が流入した。この流れが衰える兆しはなく、2015年1~6月だけで7000人以上が流入したと推定している。【11月18日 CNN】
*********************

ナイジェリアで支配地域を減らした「ボコ・ハラム」 周辺国に活動拠点を移し延命
ISと並んでテロの最多要因となっているのがナイジェリアの「ボコ・ハラム」。
その支配地域は縮小しているものの、最近でもテロ活動は頻発しており、その地域もナイジェリアに隣接する国々に及んでいます。

****周辺国に飛び火したボコ・ハラムの野望****
ナイジェリアを拠点とするイスラム武装組織ボコ・ハラムの掃討を最優先課題に掲げたブハリ政権の発足から半年。掃討作戦は大きな成果を挙げ、国内でのボコ・ハラムの支配地域は劇的に縮小した。

ただし彼らの息の根を止められたわけではない。ボコ・ハラムはナイジェリアに隣接する国々に活動拠点を移し、延命を図っている。

標的とされるのは、今年3月にナイジェリアと共同でボコ・ハラム掃討作戦を行ったカメルーンやチャド、ニジェ
ール、ペナンといった周辺国だ。

チャドでは先週、3件の自爆テロが相次ぎ、40人以上が死亡。チャド政府はカメルーンやナイジェリアなどとの国境に近いチャド湖周辺に非常事態宣言を出した。
アメリカが先月、300人の派兵を発表したカメルーンでも先週、自爆テロが発生した。

周辺国への攻撃は、テロ組織ISIS(自称イスラム国、別名ISIL)に忠誠を誓い、西アフリカでのカリフ制国家樹立を目指すボコ・ハラムの方針とも一致している。ブハリが勝利宣言できる日はまだ遠そうだ。【11月24日号 Newsweek日本版】
*****************

歓迎すべきニュースもなくはありません。
ボコ・ハラムの支配地域が縮小したことで、このところ、ボコ・ハラムにかつて拉致されていた人々の解放も実現しています。

****子どもや女性338人救出、ボコ・ハラム拠点から ナイジェリア****
ナイジェリア軍は28日、イスラム教過激派組織「ボコ・ハラム」の拠点、北東部ボルノ州のサンビサ森林地帯近くに拘束されていた338人を解放したと発表した。 

同軍は27日、サンビサ森林地帯周縁の2つの村にあるボコ・ハラムの拠点とされる複数の宿営地を襲撃、作戦を実行した。ボコ・ハラム戦闘員みられる30人を殺害し、武器・弾薬を押収した。

解放された人質338人の192人が子どもで、138人が女性だった。サンビサ森林地帯には、昨年北東部のチボクで拉致された女学生約200人が拘束されていると考えられているが、今回救出された人質の中に、この女性らが含まれているのかは不明だ。

ナイジェリア軍が公開した写真には、赤ちゃんを抱いた女性の数人の姿もあった。【10月29日 AFP】
*****************

そもそも、何百人もの女性・子供を人質にしている部隊が、なぜ容易に発見されないのか・・・という疑問は感じますが、なにぶん通信・交通手段も極めて限られた地域のようですから・・・・。

一方、テロの方は17、18日にも連続して起きていますが、ボコ・ハラムは拉致した少女を使った自爆テロを繰り返している点でも卑劣極まりないものがあります。

****ナイジェリア 爆発物着けた少女の自爆テロ****
西アフリカのナイジェリアで、少女が身に着けた爆発物を爆発させる自爆テロなどが相次いで、40人以上が死亡し、イスラム過激派組織ボコ・ハラムによる犯行とみられています。

ナイジェリア北部の都市カノの市場で、18日、若い女2人が身に着けた爆発物を相次いで爆発させ、近くにいた人少なくとも12人が死亡、およそ60人がけがをしました。

警察によりますと、2人はいずれも頭や体の線を隠すベールを着ていて、1人は10代前半の少女だったということです。

ナイジェリアでは、過激派組織IS=イスラミックステートに忠誠を誓うイスラム過激派組織ボコ・ハラムが、警戒されにくい女性や子どもに爆発物を身に着けさせ、人混みで爆発させるテロを繰り返していて、今回も同様の手口とみられています。

ナイジェリアでは前日の17日にも北東部の都市ヨラの市場で爆発があり、子どもを含む32人が死亡、80人がけがをしたばかりです。

ボコ・ハラムは、過激派組織の壊滅を掲げるブハリ大統領がことし5月に就任してからも、市民を狙ったテロを激化させ、この半年の犠牲者はおよそ1000人に上るほか、隣国のチャドやカメルーンにも勢力を拡大していて、壊滅の見通しは立っていません。【11月19日 NHK】
******************

過激思想の温床となる社会の改革が求められるブハリ大統領
ボコ・ハラムのような勢力が台頭したのは、ナイジェリア北部イスラム教徒が開発の恩恵に浴することなく貧困の中に置き去りにされてきたという、腐敗と汚職にまみれたナイジェリアの政治に根幹があります。

ブハリ大統領には、単に軍事的にボコ・ハラムを討伐するだけでなく、国民が平等に豊かになれる社会の実現、腐敗・不正の一掃が期待されています。

ブハリ大統領は1980年代に軍事クーデターで実権を握ったことがありますが、そのときは「綱紀粛正」を掲げたものの、強権的支配に陥り、また、無理な緊縮政策で経済混乱を招いて失脚しています。

今回は、経済面の実務家を閣僚に起用するなど、前回の失敗から学んだところもあるようです。
ただ、就任から半年でようやく組閣というのは・・・いろいろと内部事情もあるようです。

****就任半年、ようやく組閣=実務家重用―ナイジェリア大統領****
ナイジェリアのブハリ大統領は11日、5月末に就任してから約半年かけてようやく組閣にこぎ着けた。

内閣不在の間、長引く原油価格安などで経済は一段と減速した。重要閣僚には投資銀行出身者など実務家がずらり並んでおり、今後は速やかな改革実行が問われそうだ。

ブハリ大統領は要の財務相に地元投資銀行幹部などを歴任した女性のアデオシュン・オグン州財務長官を抜てき。米石油大手エクソンモービル出身のカチク国営石油会社(NNPC)社長に、石油担当相を兼務させた。

インフラ整備を一手に担うファショラ電力・公共事業・住宅相は、前ラゴス州知事として最大都市ラゴスを西アフリカの一大ビジネス拠点に発展させた実績を買われた。

実務家を要所に配した布陣を、前ナイジェリア中銀副総裁のモガル米タフツ大教授は「有能な人物による堅実内閣」と評価した。

だが、ここに来て経済を取り巻く状況は厳しさを増している。原油安による通貨安圧力を抑え、外貨準備の減少を防ぐために中央銀行は外為市場規制を導入。国内は著しい外貨不足に見舞われている。

日本貿易振興機構(ジェトロ)ラゴス事務所の宮崎拓所長は「決済の遅延など、日系企業も含めて事業に影響が出ている」と懸念を示した。

組閣に時間がかかった背景には、閣僚候補の不祥事などに関する「身体検査」のほか、宗教の違いや多くの部族を抱える大国特有の地域バランスへの配慮、与党・全進歩会議(APC)内の調整などに手間取ったためとされる。 【11月14日 時事】
*********************
コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする