(こういうマッチョな雰囲気をことさらにアピールするスタイルは・・・正直なところ生理的に受け付けません。写真は【11月7日 MAG2NEWS】)
これまでも再三言ってきたことですが、フィリピン・ドゥテルテ大統領が南シナ海問題を棚上げにして中国と仲良くしようが、オバマ大統領をぼろくそにけなそうが、トランプ次期大統領とハグしようが、それはドゥテルテ大統領の政策・志向の問題です。
しかし、麻薬犯罪容疑者が大量に警察および“謎の処刑団”によって殺害されている現状、それを煽っている彼の言動については容認できません。
外交問題の影に隠れて、あるいはフィリピンの麻薬問題の現状を考えると、こうした荒療治もやむを得ない・・・という形で、更には、国民の高い支持を得ているからといって、この「殺人」があまり問題視されないことは間違っていると考えます。
(10月21日ブログ“フィリピン・ドゥテルテ大統領 外交問題の陰に隠れた感もある「犯罪行為」”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20161021)
トランプ次期大統領はドゥテルテ大統領の麻薬対策を非常に高く評価しているそうです。
****トランプ氏支持で比大統領「聖人になったよう」****
フィリピンのドゥテルテ大統領は7日、マニラで講演し米国のドナルド・トランプ次期大統領から2日の電話会談で、麻薬対策を支持されたと明らかにした。
トランプ氏はドゥテルテ氏に「(麻薬対策を)よくやっている。今後も進めるべきだ」と述べたという。ドゥテルテ氏は「聖人になった気持ちだ」と喜びを表した。
オバマ米大統領はドゥテルテ氏の麻薬対策を「強権的」などと批判した。これに反発したドゥテルテ氏がオバマ氏をののしるような発言をしたため、米比関係が悪化し首脳会談も中止された。
電話会談でトランプ氏は「関係を修復しよう」とドゥテルテ氏に提案。「ワシントンかニューヨークに来たら一緒にコーヒーを飲もう」と呼びかけたという。【12月8日 読売】
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しかし、麻薬対策と言いながら、実際は多くの無関係な殺人・処刑が横行していることがフィリピン国家警察長官によって明らかにされています。
****フィリピンの麻薬戦争「無関係の便乗殺人が2千件」*****
フィリピン国家警察のデラローサ長官は8日、麻薬犯罪が絡む殺人とみられ、背景を「捜査中」としていた3千件以上の事件について、その約3分の2は麻薬とは無関係の殺人事件だったとの調査結果を明らかにした。現地放送局GMAネットワークが報じた。
麻薬捜査に力を入れるドゥテルテ政権発足後の7月1日から11月30日に報告された3524件(3841人が死亡)を国家警察の監視委員会が調べた結果、麻薬密売人や使用者らが関わる事件は1081件だけだったという。
デラローサ長官は「2千件以上は個人的な理由による殺人。麻薬戦争に便乗したもので、プロを雇った殺害もありうる」と話した。
フィリピンでは遺体のそばに「密売人」などと書いた紙が置かれた殺害事件が相次いでいるが、麻薬関係者に見せかけた殺害が頻発している可能性がある。
一方、議会上院は7日、麻薬戦争における法手続きを踏まない殺人について調べた結果、「麻薬犯罪撲滅を目的に国が殺害を指示した事実は証明できない」とする報告書を公表した。ドゥテルテ氏が長く市長を務めた南部ダバオ市で、犯罪者を殺害しているとささやかれる「暗殺団」の存在も認められないとした。
ただ、報告書はドゥテルテ氏について「大統領の言葉や行いは人々の模範でなければならない」と記し、殺害を促していると受け止められないよう注意を求めた。ドゥテルテ氏は「犯罪者は殺してもいい」などと公言してきた。【12月8日 朝日】
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麻薬犯罪容疑者であったとしても、司法判断なしに勝手に“処刑”していいことにはなりませんが、全く関係ない殺人が麻薬問題を隠れ蓑にして横行している現状、そうした状況を招いたことにドゥテルテ大統領は重大な責任があります。
これまでさんざん大量殺人行為を煽っていながら「殺害を指示してはいない」云々は、きわめて卑劣で無責任な対応と言わざるをえません。
“暗殺団”“処刑団”も今に始まった話ではなく、ダバオ市長時代から言われていた問題であり、ドゥテルテ氏自身も処刑を行ってきたと見られています。
警察が刑務所の中の無防備の町長を殺害するという無法状態も明らかにされています。
****フィリピン当局「警察が無防備の町長を殺害」*****
フィリピンの捜査当局は6日、先月、ロドリゴ・ドゥテルテ大統領から違法薬物の取引に関与していると名指しされていた町長が刑務所の中で射殺された問題で、当時市長は監房内で無防備な状態だったとする調査結果を発表した。銃撃戦の中で射殺されたとする警察当局やドゥテルテ大統領の主張とは矛盾する状況になっている。
米連邦捜査局に相当するフィリピン国家捜査局(NBI)によると、地元警察は先月、監房内にいた無防備な状態の、中部レイテ島アルブエラのローランド・エスピノサ町長および同じ監房内にいたラウール・ヤップ容疑者を射殺したと述べた。
NBIは声明で、徹底的な調査を行った結果、複数の目撃者の証言は、警察と町長らの間で銃撃戦があったとする主張に反するもで、実際は、2人は射殺されたと述べている。
NBIのフェルディナンド・ラビン氏は、町長らを射殺しその後、うその証言をしたとして警官24人を殺人と偽証の罪で告発するよう求めた。
NBIが発表した今回の調査結果で、ドゥテルテ大統領が掲げる「麻薬撲滅戦争」の一環として警察官が超法規的な処刑を行っているとの懸念が一層深まっている。【12月7日 AFP】
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当該町長が麻薬に関与していようがいまいが、警察が拘留中の容疑者を射殺し、“銃撃戦の中で死亡した”と隠蔽するような行為は許されるものではありません。
警察の麻薬犯罪捜査の過程で銃撃戦となり、結果容疑者が死亡したという案件が山ほどありますので、それらを詳細に確認すれば、どういう理由で、どいいう状況で殺害されたのか・・・・いろんなものが出てくると思われます。
それにしても、警察が“処刑”の先頭に立っている状況で、上記のような国家警察長官の発言や、国家捜査局(NBI)の調査結果発表があるというのは、どういう事情でしょうか?
単に、“正義に基づいて”という話ではなく、大統領に批判的な政治勢力の存在など、政治的な背景が絡んでいるようにも思えますが・・・・。
政局的な話題としては、“ロブレド副大統領(52)は5日、兼任する住宅都市開発調整委員会委員長(閣僚級)職について辞表をドゥテルテ大統領(71)に提出した。麻薬対策などでドゥテルテ氏との深い隔たりがあったためで、「全閣議にもう参加するな」と言われて決意したという。
ロブレド氏は、ドゥテルテ氏が進める麻薬対策で「超法規的殺人」が行われていると指摘。故マルコス元大統領の英雄墓地埋葬をめぐっても、ドゥテルテ氏との間で深い隔たりがあったとした。副大統領にはとどまる。”【12月5日 産経ニュース】とも。
これも再三言っていることですが、麻薬犯罪者に向けられた超法規的処刑は、麻薬問題に限られる保障はまったくありません。
こうした手法をとる権力者は、自分にとって都合が悪い状況が生まれれば、権力への批判者に対し同様の暴力的行為を行うであろうと考える方が自然でしょう。
フィリピンに限らず、「トランプ現象」とも言われるような、現状への不満から国民が“型破りな、強い指導者”を求める現象が広がっています。
いまどき流行らない言い様ですが、それは“独裁者願望”でもあり、民主主義にとって重大な危機であると思われます。