孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インド  絶対的貧困が残るなかでモディ首相が進めるヒンズー英雄の巨像建設 日本の東京五輪は?

2016-12-25 22:38:22 | 南アジア(インド)

(17世紀のヒンズーの英雄「チャトラパティ・シバジ」の像 ムンバイにも像はありますが、これはプネー(ムンバイの南東約200km)のものではないでしょうか。写真は【Wikiwand】“ヒンドゥー・ナショナリズム”より
「チャトラパティ・シバジ」はヒンドゥー・ナショナリズムとって、極めて重要な位置を占める人物のようです)

インドに残る絶対的貧困
中国と並んで、これからの世界経済を担うことが期待もされているインドですが、現在も貧困や社会的差別による悲惨な出来事については枚挙にいとまがありません。

そうした中で、最近目にした記事をひとつだけ。

****インド当局、人身売買被害者70人を保護 うち33人は子ども****
インド中部チャッティスガル州バスタル県で21日、人身売買の被害者70人が警察によって保護された。うち33人は子どもだったという。当局者が22日、明らかにした。
 
工場やれんがの窯場などに売り飛ばされていた被害者らは、人身売買問題に取り組む活動家らの情報を受けて出動した警察によって、バスで移送されているところを保護された。また警察は、人身売買容疑でギャング5人を逮捕した。
 
バスタル県の児童保護当局者はAFPに対し、「少年20人と少女13人を救出した。残る人々は成年で、強制労働の従事者として売られていた」と明かした。

被害者らは、同国南部のアンドラプラデシュ州とテランガナ州の工場主に対し、数千ルピー(数千円)単位で売られていたという。
 
子どもたちは保護施設に一時的に収容され、後日自宅へ送り帰されることになっている。
 
被害者は全員、バスタル県とその周辺地域に暮らす少数民族の人々だった。この地域は、貧しい少数民族のために土地や雇用、その他の権利を訴える武装組織「インド共産党毛沢東主義派」が10年にわたって展開する反政府活動の中心地となっている。
 
人身売買業者らは、地方部の無防備な子どもたちに対し、職があるとだまして勧誘しては、工場や売春組織に売り飛ばしたり、強制労働や物乞いに従事させたりしているという。【12月22日 AFP】
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物乞いに従事させる場合には、同情を誘いやすいように、人為的に身体に障害をつくる・・・というのは、インドだけの話ではありません。

武装組織「インド共産党毛沢東主義派」が、場所によっては当局が関与できないほどに、未だに強い勢力を維持している根底には、上記のような悲惨な出来事を生む絶対的貧困があります。
“歴代政権が貧困やカースト制度の問題を放置した不満から、貧しい農村地帯では支持が厚い”【ウィキペディア】とのことです。

巨費を投じてモディ首相が進めるヒンズー英雄の巨像建設
上記事件のチャッティスガル州(州とは言っても、人口は約2千万人です)というの地図で確認すると、インド中央部のやや東よりの内陸州のようです。

チャッティスガル州の西に隣接するのがマハラシュトラ州で、インド中央部から西海岸の州都ムンバイまでを占める大きな州(面積では日本の約8割、人口は約1億人)です。

経済手腕が期待される一方で、ヒンズー至上主義と評される一面も持つモディ首相が、ムンバイ沖アラビア海の島にヒンズーの英雄「チャトラパティ・シバジ」の巨大な像の建設を進めているそうです。

「チャトラパティ・シバジ」とは何者か?
私も知りませんので確認すると、17世紀、イスラムのムガール帝国に抗して、デカン高原にヒンズー王朝「マラーター王国」を建国した人物のようです。(日本の高校・世界史教育は、その網羅する範囲・詳細さにおいて世界有数のレベルにあるのでは・・・と独断していますが、さすがに「チャトラパティ・シバジ」は出てこなかったような・・・・)

****インドで世界一高い像を建立、予算の浪費との批判も****
インドのナレンドラ・モディ首相は24日、西部ムンバイ沖の島に建立されるチャトラパティ・シバジの像の礎石を置いた。完成すれば世界一の高さの像になるという。

シバジは17世紀にイスラム国家ムガール帝国と戦い、マラーター王国を建国した人物。

シバジ像の高さは192メートルとなる予定で、米ニューヨークの自由の女神像の2倍、ブラジル・リオデジャネイロのキリスト像の5倍を超える。
 
現時点で世界一高いとされる高さ128メートルの中国・河南省の魯山大仏を上回り、世界で最も高い像となる。
 
シバジ像建立はヒンズー至上主義者のモディ首相が長年温めてきたプロジェクトで、ムンバイ沖のアラビア海に浮かぶ島に建てられる。
 
ムンバイを州都とするマハラシュトラ州政府はシバジ像の建立費用を約360億ルピー(約620億円)と見込んでおり、2019年までの完成を目指している。
 
しかし、政府は予算を像などではなくインフラ、教育、開発などに充てるべきだとしてこのプロジェクトを批判する人も多い。署名サイト「change.org」に立ち上げられたシバジ像建立計画の中止を求める請願には24日夜までに2万7000人が署名した。
 
請願は「この像は資金の浪費というだけでなく、環境、ムンバイ南部の交通状況に悪影響を与えるもので、治安上の悪夢だ」としている。
 
インドではグジャラート州でも、インド独立後、初代内相に就任したサルダル・パテルの像を建立するモディ首相肝煎りの計画が進められている。2014年に建設が始まったパテル像は完成すれば高さ182メートルとなり、建立費用は250億ルピー(約430億円)と見込まれている。【12月25日 AFP】
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デリーを中心とした北インドを旅行すると、観光スポットとして残る大きな歴史的建造物の多くがムガール冷帝国時代のイスラム建築であることがわかります。

赤い砦「ラール・キラー」はムガール時代の城塞ですし、「ジャマー・マスジット」はイスラムモスクです。
世界遺産でもある「クトゥブ・ミナール」に至っては、インド最初のイスラム王朝がヒンズー教徒に勝利したことを記念して建てられたもので、ヒンズー寺院・ジャイナ教寺院を壊して得られた石材が使用されています。

昨年、デリー観光の際のヒンズー教徒ガイドは、余った時間でどこへ行こうか・・・という話になったとき、私の「クトゥブ・ミナール」の提案を「面白くないところです」と却下して、真新しい大きなヒンズー寺院に案内しました。ひょっとして、「クトゥブ・ミナール」の上記のような経緯が、ヒンズーの彼には“面白くない”ことに思われたのかも。

ましてやヒンズー至上主義者にとっては、多くの観光スポット・有名施設がイスラムのもであるというのは、あまり面白くないことなのでしょう。
そこで、ヒンズーの英雄の巨像を・・・・という話にもなるのでしょう。

“高さは192メートル”というと、先月行ったミャンマー・ウィンセントーヤの巨大寝仏が約180mでしたので、あの仏様を立たせたものより高いということになります。

なお、ムンバイでは駅や博物館の名称がイギリス植民地時代のものから、「チャトラパティ・シバジ」を冠した名前に変更されているようです。

“おカネが余っているなら、何を立てようが勝手でしょう”・・・という話でもありません。
インドにあっては、ヒンズーとイスラムの対立は、社会の根幹をなす大問題です。
そういうなかにあって、首相が主導してヒンズーの英雄の像を建てることの意味はやはり問われます。

ましてや、冒頭記事のような絶対的貧困が残る現状(ムンバイのスラム街は想像絶するものがあります)にあって、約620億円かけての巨像建設に“インフラ、教育、開発などに充てるべき”との批判が出るのは当然でしょうし、個人的にもそうした批判を支持します。

ひるがえって、日本の東京五輪を考えると・・・
もっとも、2020年東京五輪に要する費用は1兆8000億円とか。まあ、それに比べれば620億円なんて・・・という話にもなります。

貧乏人根性のせいか、1兆8000億円あればいろんな方面で使えるのに、助かる人も多いのに・・・と考えてしまいます。日本はそんなにカネが余っているのでしょうか。

もちろん、多くの外国人に日本に来てもらい、実際の日本を見てもらうことは意義深いことです。
五輪に伴う経済効果もあるでしょう。
国民が一致・協力して進める目標を設定することの意義もあります。普通の生活でも、イベント・祭りは重要なことです。

ただ、1兆8000億円となると話は違ってきます。

日本選手の活躍には感動もしますが、別に日本でカネかけてやる必要もないのでは。北京か上海にでもやらせてあげれば。
少なくとも、東京の青空にゴールドメダリストの日の丸を掲げることよりは、現在困っている社会的弱者への配慮が少しでも改善する方が、日本人として世界に胸を張れる誇らしいことに思えます。

コメント
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