孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ブラジル  五輪開催後の混乱が表面化するリオ 連邦政府の財政再建も先行き不透明

2016-12-24 22:17:08 | ラテンアメリカ

(募る怒り 公務員の給与削減などの州政府案に抗議するリオデジャネイロのデモ【12月27日号 Newsweek日本版】)

リオ五輪開催後の混乱
2020年東京オリンピックの大会費用は、当初案の2倍を超える最大1兆8000億円ほどと見積もられており、これをどのように負担するのか・・・という現実的問題が表面化しています。

****東京五輪、公費投入1兆円超=開催費総額1.6兆~1.8兆円―分担協議難航も*****
2020年東京五輪・パラリンピックの開催費削減などを協議する国際オリンピック委員会(IOC)、東京都、大会組織委員会、政府の4者による第2回トップ級会合が21日、東京都内で開かれ、組織委は大会経費の総額が1兆6000億円から1兆8000億円になるとの予算を示した。

組織委が5000億円、都や政府、他の自治体が残りの1兆1000億~1兆3000億円を負担する枠組みとした。

大会招致時は警備、輸送などを除いた経費総額を約8000億円としていたが、経費の全体像が招致決定後に示されたのは初めて。

開催費のうち、会場整備費は6800億円、運営費は8200億円を計上し、暑さ対策などを想定した予備費を1000億~3000億円とした。運営費の内訳は、警備費1600億円、輸送費1400億円、テクノロジー費1000億円など。

今後は費用分担をめぐる組織委、都、政府の協議に焦点が集まるが、難航も予想される。(後略)【12月21日 時事】
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ただ、こういう数字は増えることはあっても(それも“大幅に”)減ることはないのが通常で、本当に1兆8000億でおさまるのか・・・個人的には疑問にも感じています。

一方、今年8月にオリンピックを開催したブラジル・リオデジャネイロは、開催前からすでに厳しい財政難状態で、“(7月)4日には警察官らが給料未払いに対する抗議デモをした。AFP通信によると、警察官と消防士の計100人以上が参加。同市の国際空港で「地獄へようこそ。給料が支払われていないので、リオに来る人は安全ではない」などと書いた横断幕を掲げた。”【7月6日 朝日】といった混乱も報じられていました。

大会は国(国家財政も危機的状態にありますが)の支援などでなんとか乗り切ったものの、当然のごとく大会後には、そのツケが回ってきます。

****ポスト五輪のリオにやつぱり訪れた大混乱****
公務員の給与は払われず公共機関は機能不全 五輪開催の「経済効果」はほぼゼロたった

先月、リオデジャネイロ市立劇場の前でバレエ団が舞い、オペラ歌手たちが合唱した。といっても公演ではなく、アーティストの抗議活動。州の公務員である彼らは、長いこと給料を受け取っていない。
 
同じ日、州立病院の前には診察を待つ長い列ができていた。医師は「中は大混乱なので」と肩をすくめた。
 
ブラジル最大規模のファベーラ(スラム街)であるロシーニャでは、財政悪化で地元の図書館が閉鎖されるという噂が流れている。10歳の少女は「大事な図書館を閉める奴は殺してやる」と怒りをあらわにした。
 
世界の注目を集めた五輪が終わって間もないというのに、リオの街は大混乱に陥り、リオデジャネイロ州は破産状態にある。

ただし、州財政の危機は大会前から始まっていた。観光客が押し寄せる五輪期間中に警官を配置し、病院を開けられたのは、国の緊急支援があったからだ。
 
五輪後に財源はいよいよ枯渇し、公務員に給料を払えない状況に。州政府は公務員の給与と年金を3割削減する緊縮政策を提示して猛烈な批判を浴び、デモ隊が議会に押し寄せた。

財務省によると、リオデジャネイロ州は連邦政府などに300億ドル以上の負債がある。

一方で州内の犯罪は激増し、今年I~10月の殺人件数は前年比で18%増、路上強盗は48%増えた。
 
州はブラジル経済の危機と、大きな財源だった石油産業の原油安による不振に打撃を受けた。
リオに拠点を置く国営石油会社ペトロブラスをめぐる汚職事件で大量解雇が行われたことも、追い打ちをかけた。先月には14年のサッカー・ワールドカップ(W杯)ブラジル大会絡みの建設プロジェクトで収賄に関与したとして、セルジオ・カブラル前州知事が逮捕された。

スポンサー減税が裏目
「五輪は帝国が開いた最後の舞踏会みたいなもの」と、市立劇場前の抗議行動に参加したオペラ歌手のシーロ・ダラウジョは言う。「舞踏会が終わればこうなると、みんな知っていた」
 
五輪はリオの経済を活気付けると期待された。それが今では五輪絡みの法人減税が、逆に経済を悪化させたのではないかとみられている。
 
地元に拠点を置く企業を優遇する州の慣習も、危機を招いた大きな要因の1つだ。州監査官の調査によれば08~13年に、リオは大幅減税により約400億ドルの法人税を徴収し損ねた。この数字は、州の年間予算の2倍近くに当たる。
 
法人を優遇するのは誘致で雇用を創出し、税収を拡大するため。州政府は10年、五輪スポンサー企業への減税措置を決議したが、条件が曖昧だった。
 
州監査官はこの施策が市民にどれだけ負担を強いたのか、決議を乱用した企業がなかったかを調査している。
州財務長官は本誌の取材に応じなかったが、監査官の広報担当はメールで回答を寄せた。決議を利用して税金逃れをした企業を特定し、州が被った損失額を割り出そうとしているという。
 
リオデジャネイロ州立大学の政治学教授であるマウリシオ・サントロは、州は市民の期待を裏切ったと指摘する。「州の判断ミスだ。法人減税はリオに雇用も経済成長ももたらさなかった」と、彼は言う。「それどころか、リオは破綻した。失策のせいで多くの人が給料や年金を減らされ、苦しむことになる」
 
五輪の「経済効果」などとは無縁のまま、リオは坂道を転げ落ちている。【12月27日号 Newsweek日本版】
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現地日本語新聞によれば、“取りあえずは”州が連邦政府に対する負債を最大36カ月猶予するという形で、明確な財政破綻を回避するようですが、これも一時しのぎに過ぎません。

**** 財政危機の州はひと息?=政府への債務支払いが3年間猶予に****
連邦政府は14日、国内各州が連邦政府に対する負債を最大36カ月猶予することを認める財政回復計画を発表したと、15日付現地紙が報じた。同計画は、財政非常事態宣言を出したリオ、リオ・グランデ・ド・スール、ミナス3州の救済が目的だ。
 
負債再交渉計画では、各州の負債の支払いは12月末まで猶予されるが、来年1月からは支払いが再開する。ただし、非常事態を宣言し、破産状態の州に関しては、負債返済開始にさらに4カ月の猶予が与えられる。連邦政府はこの間に各州の財政状態を再評価し、36カ月の負債猶予を与えるかを検討する。
 
負債返済の猶予を与えられた州は、民営化用の資産を担保として政府に提出するなどの措置をとらねばならない。
連邦政府が各州から差し出された資産を民営化した場合、企業から受け取った金は各州からの負債の代わりに国庫に入金される。
 
エンリケ・メイレレス財相は、「リオ州はこの負債再交渉計画に積極的な意志を示している」と語った。リオ・グランデ・ド・スール州やミナス州も同様の意志を示しているが、今のところ、どの州も担保の資産を提出していない。
 
リオ州のルイス・フェルナンド・ペザン知事とリオ・グランデ・ド・スール州のイヴォ・サルトーリ知事は、14日の上院での採決を直接見守った。
 
サルトーリ知事は「この計画によって負債返済への必要な時間が得られる。各州知事とも連係をとり、解決していく事を希望する」と語った。【12月16日 ニッケイ新聞】
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財政再建を目指すテメル政権 国民不満と不正・汚職問題で先行き不透明
一方、連邦政府の国家財政もやはり逼迫しています。

ルセフ前大統領は、再選を目指していた2014年の選挙期間中に、景気後退の影響を隠すために財政赤字を隠し、貧困層への生活保護費や失業保険などを満額給付するため不足分を国営銀行に違法に肩代わりさせ、政府会計を粉飾したとして、職務停止、更には弾劾罷免に追い込まれました。

ルセフ前大統領を追い落としたテメル大統領は、昨年12月、深刻な財政赤字のため投資適格級格付けを失ったブラジル経済・財政再建を目指して、公的歳出の抑制を図るべく憲法改正を主導しましたが、失業率が上昇している時期の歳出抑制や増税には国民の強い反発が予想され、テメル氏自信を含めたブラジル政界に蔓延する不正・汚職問題と併せてテメル政権を脅かすことになることが予想されます。

****ブラジル財政再建に一歩 歳出抑制の憲法改正案可決 ****
ブラジルが財政再建に向けて一歩を踏み出した。同国議会は13日に連邦政府の今後20年間の歳出を抑制する憲法改正案を可決した。テメル大統領は投資家の信認回復につなげたい考えだが、「健康や教育の予算が抑制される」として国民の支持は得られていない。大統領自身を含む政権幹部には汚職疑惑も浮上しており、政権基盤はなお揺らいでいる。
 
「景気後退から国を救うのに必要な施策だ」。テメル氏は13日に成立した法案の意義をこう強調して、国民に理解を求めた。「経済成長を取り戻し、失業と戦わなければならない」とも述べた。
 
中道左派の労働党に所属したルセフ前政権下では、低所得者層向けの社会保障支出の拡大になびいたこともあり、2008~15年の歳出は平均でインフレ率を6%超上回る増加率だった。一方、今回の改正案では17年から20年間、政府支出の伸び率を前年の消費者物価上昇率を下回る水準に抑制する。
 
資源価格の低迷でブラジルの財政は急速に悪化した。06年に政府総債務は国内総生産(GDP)比で55%超だったが、今年10月時点では70%を突破。基礎的財政収支が14年以降、赤字に転落しており、今年も赤字の見通し。S&Pグローバルなど格付け会社大手3社は今年2月までにブラジルの長期債務を投機的等級に引き下げている。
 
国家会計の不正操作で罷免されたルセフ氏の後を8月に引き継いだテメル氏は、財政再建を重視する政策を掲げてきた。

元ブラジル中央銀行総裁で、国際金融界で名が知られたメイレレス氏を財務相に起用し、まず成立させたのが今回の歳出抑制策だった。金融市場の期待は高く、法案成立の可能性が高まった先週、レアルは対ドルで大幅に上昇した。
 
もっとも歳出抑制はマイナス成長が続く足元の景気には重荷となる。国民が期待する教育や健康の分野への支出も抑えられるため、国民の不満は大きく、調査会社ダタフォリャが今週まとめた世論調査では6割が法案に反対だった。
 
国営石油会社ペトロブラスを舞台とした汚職疑惑でテメル氏自身の関与がくすぶっていることも、テメル政権に対する不安要因だ。世論調査でのテメル政権の支持率は10%と、暫定政権だった7月時点の14%から一段と低下、今後の改革の実効性が懸念されている。【12月15日 日経】
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歳出抑制策には、受給開始年齢の引き上げなどの年金改革法案も含まれています。
議会では与党の数の力で乗り切って法案を成立させることも可能ですが、不正・汚職問題と併せて国民の“痛み”に対する不満が噴出せば、政権の存続も危ぶまれる状況にもなりかねません。

****ブラジル全土で汚職反対デモ、汚職捜査権限の縮小撤回など要求*****
ブラジルで4日、汚職撲滅と汚職捜査権限の縮小撤回を求める大規模なデモが行われた。先週下院で可決した汚職防止法の修正案では、汚職捜査に関わる検察官や判事を職権乱用で処罰することを認めていた。

サンパウロでは、警察発表で1万5000人が「汚職議会」と記したプラカードを掲げてビジネス街を行進。知事経験者2人が最近汚職の罪で収監されたリオデジャネイロでは、国営石油会社絡みの汚職捜査に携わっている判事の名前を引用し「われわれは全員、セルジオ・モロ(判事)だ」とのプラカードを掲げてデモを行った。ブラジリアでの参加者は5000人(警察発表)だった。

ブラジルでは、汚職に対する処罰が行われない長年の文化に国民の不満が高まっている。今年に入り、ルセフ前大統領が弾劾裁判にかけられ、罷免された。後を引き継いだテメル大統領に対しても、変革をもたらしていないとして不満が強まっている。【12月5日 ロイター】
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シリア内戦犠牲者を上回る殺人犠牲者 “警察の暴力”も
政治家が腐敗・汚職に浸かっていれば、当然のごとく腐敗・汚職は社会全体にも蔓延し、犯罪組織が横行する土壌ともなります。財政難による警察の弱体化と併せて、結果的に、治安の悪化という形で表面化します。

****ブラジル過去4年間の殺人犠牲者、シリア内戦を上回る****
ブラジルで過去4年間に殺害された犠牲者数は、シリア内戦の犠牲者数を上回るとする調査結果が28日、発表された。
 
ブラジルは近年、暴力犯罪の増加に悩まされているが、景気の低迷と警察関連予算削減のために状況はさらに悪化している。
「ブラジル治安フォーラム(FBSP)」の発表によると、2011~15年の4年間にブラジルでは28万人近くが殺害された。
 
一方、在英のNGO「シリア人権監視団」によれば、同期間にシリア内戦で殺害された人々の数は25万6124人だった。
 
ブラジルではまた、昨年1年間で5万8000人が殺害されており、10万人に28.6人が犠牲となった計算になる。特に殺人発生率が高いのは、ブラジル北東部の貧困州、セルジペ州、アラゴアス)州、リオグランデドノルテ州だった。中でもセルジペ州は10万人あたり57人が殺害されたという高い割合だった。
 
ただし、ブラジル全体の殺人発生率は、2014年からは下がっている。
 
同フォーラムの報告はさらに、警察による残虐な暴力が横行していることを指摘し、1日平均9人が警察によって殺害されていると述べた。昨年1年間で警察に殺害された人数は3345人となっている。一方、昨年、殺害された警察官は393人で、うち3分の1が職務中に命を落としている。【10月29日 AFP】
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悲惨さで世界が注目するシリア内戦を上回る殺人犠牲者というのも、凄い話です。
また、最後に触れられている“警察の暴力”もすさまじいものがあります。

****ブラジル警察、1日平均9人「殺害」 NGOが警鐘****
ブラジルでは2015年、1日平均9人が警察によって「殺害」された――。同国の警察活動をめぐり、地元のNGOがそんな調査結果を明らかにした。

同国では警察と犯罪組織の銃撃戦が珍しくなく、容疑者が射殺されたり市民が巻き込まれたりするケースも多い。調査によると、警察によって死亡した人の数が増加傾向にあるとして、「早急に見直しが必要だ」と警鐘を鳴らしている。
 
NGO「ブラジル治安フォーラム」によると、昨年1年間に警察による発砲などで死亡した人数は3345人。14年の3146人よりも6・3%増加した。09〜13年は2千人台で推移しており、増加傾向が目立っている。
 
首都ブラジリアがある連邦区と26州のうち、最も多かったのは最大都市サンパウロがあるサンパウロ州で848人。今年の五輪開催を控えていたリオデジャネイロは645人で2番目に多かった。
 
同NGOは昨年発生した全ての殺人事件についても調査。同国では銃を使った殺人や強盗が後を絶たず、犠牲者は5万8383人。

9分に1人のペースで、1日に平均160人が犠牲になった計算だが、14年に比べると1・2%減少した。
警察による死亡者数が最多だったサンパウロでは、殺人事件の犠牲者が最も少なかった。【11月1日 朝日】
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日本的常識ではついていけないところがあります。

移民国家ブラジルの“人情味”も
ネガティブな話ばかり並べ、国土全体が戦場と化してしるのでは・・・といった一面的な印象を与えかねませんので、最後にブラジルからのホッとする話題も。

****クリスマスの食卓に難民を」呼びかけに反響 ブラジル****
クリスマスの夜の食卓に難民の家族を招きませんか――。ブラジルのNGOが呼びかけたキャンペーンに、同国全土から約2千世帯が受け入れに手を挙げた。

予想以上の多さに対応が追いつかず、今回招かれるのは難民の15家族に限られたが、夕食への招待はクリスマス以降も月1度のペースで続ける予定という。
 
企画したのはNGO「ミグラフリックス」。世界で難民受け入れを巡る対応や差別が問題になるなか、クリスマスをきっかけに異文化間の理解を少しでも深めたいと考え、今月上旬に呼びかけを始めた。
 
今回、選ばれた15家族は、シリアやパレスチナなどの出身で、クリスマスイブとクリスマスの夜のどちらかに、ブラジルの家庭の夕食に招かれる。難民側は郷土料理を1品つくり、受け入れ側の家族は、七面鳥やポテトサラダなどブラジル風のクリスマス料理でもてなす。
 
ブラジルは多民族が集まってつくられた移民国家で、欧州だけでなくアラブ系の人も多い。現在は8千人以上の難民が暮らす。
 
NGOの幹部の一人でアルゼンチン人のジョナサン・ベレゾブスキさん(29)は「差別や拒絶は、相手を知らないことから始まる。クリスマスの夕食を通して互いを知り、難民との距離が少しでも縮まればいい」と話している。【12月24日 朝日】
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