孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

シリア全土での停戦についてロシア・トルコが合意? 現時点では“不透明”

2016-12-29 21:38:08 | 中東情勢

(アレッポから、「なぜ殺されるの?」「平和がほしい」と、激しい空爆などの様子をツイッターで発信してきたシリア人の7歳の少女、バナ・アベドさん(右)と母親のファティマ・シハンさん=26日、アンカラ、メスット・クチュクアルスラン撮影 【12月28日 朝日】)

未だ正式発表なく、情勢は不透明なまま
アレッポに続いて、シリア全土を対象とした停戦合意が、アサド政権の後ろ盾となっているロシアと、反体制派を支援するトルコの間で合意された・・・との情報が報じられています。

****トルコとロシア、シリア停戦案を策定=トルコ外相****
トルコのチャヴシュオール外相は28日、トルコとロシアがシリア停戦案を策定したことを明らかにした。前週、ロシア、イラン、トルコがモスクワで協議を行い、シリア内戦の解決に向けた共同声明を発表し、シリア和平合意へ仲介する姿勢を示していた。

チャヴシュオール外相はアンカラで記者団に対し「シリア向けに2種類の文書がある。ひとつは政治的解決に関する文書で、もうひとつはは停戦に関する文書だ。これらは、いつでも実施可能だ」と述べた。また、シリアの反体制派がアサド大統領を支持することは絶対ない、との認識を示した。

複数の関係筋がロイターに明らかにしたところによると、ロシア、イラン、トルコの3カ国の合意案では、シリアを、少なくとも数年間はアサド大統領が統治し続ける地域と地方勢力が影響力を行使する地域(インフォ−マル・ゾーン)に分けることも想定している。

ロシアは、次回の3カ国会合をカザフスタンのアスタナで開催するとしている。

トルコ政府高官は28日、今後の協議について「われわれは、移行政権樹立に重点を置いている」とし「アサド大統領が、その政権に参加するかどうかが話し合われるだろう」と述べた。また、アサド大統領はアスタナ会合に出席しない見通しも示した。【12月29日 ロイター】
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本当であれば(と言うか、合意がアサド政権・反体制派に受け入られるものであれば)、シリア内戦にひとつの区切りをつけるビッグニュースですが、現時点では、正式発表も停戦合意が受け入れられたとの報道もまだないようです。ロシア大統領補佐官も「十分な情報を得ていないためコメントできない」といった状況です。

****ロシア・トルコのシリア停戦合意、正式発表なく情勢不透明****
トルコ半国営アナトリア通信が伝えたシリア全土を対象としたトルコとロシアの停戦案合意は、29日になっても両国のいずれからも発表がなく、情勢は不透明なままとなっている。

アナトリア通信は28日夜、トルコとロシアがシリア全土での停戦案に合意し、29日午前0時の停戦発効を目指していると報道。この停戦が実現すれば、両国の監視のもと、シリア政府と反体制派がカザフスタンの首都アスタナで政治交渉に入る計画だと伝えた。
 
しかし、この報道後にトルコの首都アンカラで演説を行ったレジェプ・タイップ・エルドアン大統領は、停戦案について全く言及しなかった。また、ロシアのドミトリー・ペスコフ大統領報道官も、十分な情報を得ていないためコメントできないと述べた。
 
トルコ政府はここ数週間、ロシアとシリア反体制派の非公開協議を何度も仲介してきた。カタールを本拠地とする中東の衛星テレビ局アルジャジーラは、シリア反体制派とトルコ、ロシアの3者による新たな協議が29日にアンカラで予定されていると伝えている。
 
AFPの取材に応じた反体制派の幹部は、停戦をめぐって協議が行われていることは認めたものの、いずれの停戦条件についても障害が残っていると語っている。【12月29日 AFP】
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ロシア・トルコ主導の停戦合意に向けた動きはあるようですが、まだ実現するかどうかは定かではない段階のように見えます。

それぞれの後ろ盾・支援国のロシアとトルコが停戦を保証?アメリカ抜きで進む合意
前出【ロイター】記事では、“ロシア、イラン、トルコの3カ国の合意案では、シリアを、少なくとも数年間はアサド大統領が統治し続ける地域と地方勢力が影響力を行使する地域(インフォ−マル・ゾーン)に分けることも想定している”とのことで、要は、しばらくの間は“棲み分け”よう・・・といったとこでしょうか。

もう少し詳しい内容については、al arabiya netが入手した合意内容を公表していることが、【中東の窓】で紹介されています。

その内容は、以下のように紹介されています。

****al arabiya netが公表した合意内容*****
ロシアとトルコの合意文書
・IS支配下の軍事地域を除くすべての地域での停戦
・トルコが反政府軍の停戦順守を保障し、ロシアが政府軍とその同盟者の停戦順守を保障する
・トルコとロシアが、紛争当事者が新たな領域を占拠しないことを保障する
・国連の基準による新たな停戦監視機構の設立
・停戦が実施された月の中で政治的解決のための交渉の開始
・すべての地域への人道援助物資の供給とそのトルコとロシアによる保障
【12月29日 野口雅昭氏 「中東の窓」http://blog.livedoor.jp/abu_mustafa/archives/5155364.htmlより】
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アルカイダメンバーも関与しているといわれる「アハラール・アル・シャーム」や、イスラム原理主義的な「イスラム戦線」など、“穏健派”とは言い難い組織が停戦合意に含まれるのか、あるいは、“テロ組織”として今後も戦闘対象となるのか?

トルコがIS以上に敵視・警戒しているクルド人勢力の扱いがどうなるのか?

わからない部分は多々ありますし、アサド政権側、反体制派ともに、細部においてはいろいろな要求があると思われますので、すんなり関係勢力に受入られるのかは“不透明”としか言いようがないところです。

ひとつ言えるのは、上記【中東の窓】でも指摘しているように、アメリカの存在感の薄さです。
 
ロシア・トルコもアメリカの政権交代期という政治空白を狙って、次期政権がスタートする前に自分たちに都合のいい既成事実をつくってしまおう・・・というところでしょうか。

たとえそうであるにしても、錯綜したシリア情勢にあって、なんらかの既成事実がつくれるなら、それはそれでやはりその影響力の強さを認めざるを得ません。

連邦自治地域を目指すクルド人勢力 予想されるトルコの反発 トランプ次期政権は?】
一方、上記【中東の窓】では、クルド人勢力の動きも紹介されています。

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クルド勢力によると、シリアのクルド勢力の間で、北部シリアにクルドの連邦自治地域を作る合意が進んでいる由。
この合意は社会協約(いわば憲法にあたる由)と呼ばれ、詳細なもので、クルド勢力の代表が北部シリアのramilan で数日以内に会合し、署名することになっている由【同上】
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これにはトルコが反発するでしょう。
北部シリアのクルド人勢力YPG(政治勢力としてはクルド民主統一党)はトルコ国内でテロ活動を行うクルド人反政府勢力PKKの分派であり、国境沿いでのクルド連邦自治地域の形成はPKKの活動拠点形成を意味します。

クルド人勢力はアメリカの“地上部隊”的な存在として、対IS戦略の中心にありますが、クルド人勢力がそこまでアメリカに協力するのは将来的な連邦自治地域形成という目標があってのことでしょう。

アメリカ・オバマ政権は、対IS戦略の重要パートナーでクルド人勢力と、地域大国トルコの対立において、どちらを支持するのか・・・板挟みでしたが、トランプ次期大統領はどうでしょうか?

トランプ氏はIS以外のシリア情勢にはあまり興味もなく、深入りする考えもないとも言われています。
プーチン大統領を評価するトランプ氏ですから、同じようなタイプのトルコ・エルドアン大統領とは馬が合いそうです。

また、新たな地位を求める現地勢力に肩入れするよりは、ロシア・トルコといった既存の大国間でビジネスライクに利害を調整する方に関心がありそうです。
ということは、対IS戦略の重要パートナーであったクルド人勢力は切り捨てられる・・・ということになるかも。

まあ、想像の上に想像を重ねてものを言っても仕方ありませんので、これくらいに。
明日になれば(あるいは今夜にも)、停戦合意の話などはもう少しはっきりするでしょう。

追記
実際に動き出したようです。

****プーチン大統領、シリア政府軍と反体制派が停戦合意と発表****
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は29日、シリア政府と反体制派が停戦合意に署名し、和平協議を開始することで一致したと発表した。
 
プーチン大統領はテレビ放映されたコメントの中で、シリア政府と「反体制派の主要組織」が停戦を宣言する文書に加え、和平協議を開始する用意があるとの宣言にも署名したと明かした。
 
大統領はこれを受けて、シリアで展開している自国軍の軍備を「縮小」していく意向も示した。プーチン氏は「国防省からシリアにおける軍備縮小の提案を受け、同意した」とした上で、シリアのバッシャール・アサド大統領に対する支持は継続すると強調した。
 
一方、シリア軍も同日、午前0時からすべての軍事作戦を停止すると発表。声明で「軍総司令官は、12月30日の午前0時からシリア領土内での全ての戦闘行為を中止する」と述べた。ただ、イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」および、かつて「アルヌスラ戦線(Al-Nusra Front)」として知られていた国際テロ組織アルカイダ系の武装組織は停戦の対象外とすると付け加えた。
 
さらに、シリアの主要反体制派組織「シリア国民連合」も同日、停戦を支持すると表明。同組織の報道官はAFPの取材に対し、「シリア国民連合は、合意への支持を表明するとともに、すべての当事者が合意を順守するよう要求する」と述べた。【12月29日 21:39 AFP】
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