(【5月23日 WSJ】 あくまでも「予想」です。)
【これまでになく注目される欧州議会選挙 躍進が予想されるEU懐疑派は内からの改革を目指す】
周知のように欧州では23日~26日に欧州議会選挙が加盟各国ごとに行われています。
従来は親EU的な中道右派と中道左派のグループで過半数を占めていたため、欧州理事会の決定の追認機関として、その存在はあまり注目されることはありませんでしたが、今回の選挙では(親EU勢力全体では多数を維持するものの)中道両グループだけでは過半数を割り、EUに懐疑的な極右やポピュリズム勢力が3分の1程度の議席を獲得するのでは・・・との予測から、例年になくその行方が注目されています。
****【欧州議会選】Q&A 民意反映へ権限拡大 欧州議会、影響力増す****
(中略)
Q 欧州議会とは?
A EU機関の一つで、EUの立法を担う独自の議会だ。定数は751(英国離脱後は705)で、任期は5年。加盟国の有権者は、各国内の議会とは別に、欧州議会議員を直接選挙で選出する。本会議は原則年12回、フランス・ストラスブールで開かれる。
Q 役割は?
A EUでは加盟国首脳が集う「欧州理事会」(通称・EU首脳会議)が政治レベルの最高機関で、各国担当閣僚の「閣僚理事会」が実際の政策を決定する。そのための予算、法律、政策の立案・執行を担うのが「欧州委員会」。欧州議会は予算案や法案を閣僚理事会と共同で承認する。
Q どれほど重要か
A 欧州議会はかつて欧州委の政策を事実上追認するだけだったが、1979年に直接選挙を導入。EUの運営に民意を反映させるため権限が拡大され、今ではほとんどの政策分野の法案に欧州議会の承認が必要だ。法案提出権はないが、修正要求など大きな影響力がある。欧州委の人事にも関与し、制度上は総辞職させることも可能だ。(後略)【5月21日 産経】
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EU懐疑派は、イギリスのEU離脱の混迷を目の当たりにして、従来のようなEU離脱ではなく、(リスクが少なく、EU不満層に受け入れられやすい)EU内にとどまってEUを内側から(EU統合を弱め、各国主権を強める方向で)改革するとの戦略に転じています。
それだけに、EU懐疑派の勢力が拡大することで、今後のEU運営は大きく影響される可能性がでてきています。
****EU懐疑派が台頭へ、欧州議会選が映す内憂 ブレグジットより深刻か*****
域内にとどまりながらEUに抵抗する路線
英国が欧州連合(EU)離脱に向けた対応でつまずく中、EUにとってより深刻な混乱をもたらしかねない状況が生まれつつある。他のEU懐疑派が域内にとどまりながらEUと戦う構えを見せているのだ。
EUの諸機関内でのこうした政党の台頭は今週の欧州議会選挙で確認されるだろう。議会選の結果は、欧州政治の既成勢力が反乱勢力との共存の道を探らざるを得ない時代の幕開けを告げることになりそうだ。
「過激主義者とは、ブリュッセルで欧州を20年間支配してきた人々のことだ」。イタリアの極右政党「同盟」のマッテオ・サルビーニ党首は18日、ミラノ中心部のドゥオモ広場で大勢の聴衆を前にこう述べた。「われわれは過去しか見ていない官僚抜きで未来をつくりたい」と語り、EUの変革を約束した。
サルビーニ氏は最近、イタリアの内相として、地中海で難民の救助に当たるEU艦船の行動を骨抜きにすることで、自らの移民排斥の姿勢を強く打ち出した。EUの当局者らは、この出来事が共通政策を損なう前例となることを恐れている。
内部から抵抗するというEU懐疑派の戦略には、ブレグジット方式の実験はしないことを示すことで、リスクを避けがちな欧州の有権者を安心させると同時に、EUの方向性に不満を持つ人々にアピールする狙いがある。
EUにとっては、統合の深化に向けたいかなる動きも、EU機関内およびローマ・ブダペスト・ワルシャワなどにある加盟国政府から強硬な抵抗に遭うことを意味する。共通の政策で合意したり一部の既存規則を維持したりすることが一層困難になりかねない。
こうした衝突は欧州大陸における政治的な分裂現象の一部であり、急速に変化する米中主導の世界で欧州が適切な対応を取るのを妨げる恐れがある。
アムステルダム自由大学の政治学者キャサリン・デフリース氏は「EUは今後かなりの間、行き詰まり状態になるだろう。EU予算やユーロ圏の改革、気候変動について大きく前進することは難しくなる」と述べる。
欧州の統合は、かつては何十年にもわたりエリートによる政治プロジェクトであり続け、党派を超えた幅広い同意を得ていたため、選挙の争点になるほど有権者の関心を高めることはまれだった。
だが欧州が経済や難民を巡るさまざまな危機に直面した10年間で状況が変わった。EUを有益とみなすか、少なくともEUがない欧州よりは好ましいと考える有権者と、EUが各国の問題の原因になっていると批判する有権者とに二分されてきたのだ。
とはいえ今週の欧州議会選では、英国以外の約4億5000万人のEU市民の中でブレグジットへの追随を望む人はほとんどいないことが示されるだろう。これは膠着(こうちゃく)状態のブレグジットの主要な「遺産」といえる。
このため既成政治に反対する政党は、新たな形でのEU懐疑主義を生み出さざるを得なくなった。EU加盟国としてとどまりながら、EUを支配するエリートやその主要政策の一部を攻撃するという路線である。
仏極右政党「国民連合」のマリーヌ・ルペン党首は23~26日に行われる欧州議会選前の遊説で、「われわれは今、欧州を内部から徹底的に変革する機会を手にしている」と述べた。
親EU派の既成政党は、定員751議席の欧州議会で明らかな過半数を維持しつつも議席数を減らすと予想されている。
かつてEU加盟諸国において優勢を占め、欧州規模の「欧州人民党(EPP)」などを形成していた中道右派と中道左派の各党は勢いを失い、親EU派のリベラル政党や新興のグリーン政党のほか、右派や左派の反既成政党グループに票を奪われつつある。
世論調査会社のカンターの予測によれば、選挙後の欧州議会ではEU懐疑派の政党が最大3分の1の議席を占める可能性がある。
この結果、中道派グループは3党か4党で連合を形成することを余儀なくされ、EUの複雑な意思決定過程がさらに混乱する恐れがある。【5月23日 WSJ】
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【EU懐疑派躍進には未だ流動的要素も オランダでは親EU勝利 オーストリア極右政党のロシア疑惑は影響するのか?】
もっとも、選挙はふたを開けてみないとわからないものでもあり、「欧州の有権者の殆どは現状に不満なのであり、それがすべてポピュリズムに向かうとは限らない、リベラル派の支持に行く場合もあり、まだ有権者の7割は態度を決めていないので、事態は極めて流動的である」(在ウィーン人間科学研究所のイヴァン・クラステフ氏)といった見方もあります。
実際、すでに選挙が行われたオランダでは予想を覆す結果も出ています。
****欧州議会選、オランダは親EU政党が予想外の勝利へ=出口調査****
欧州議会選の投票が23日にオランダで実施された。出口調査によると、欧州委員会のティメルマンス第1副委員長の労働党が欧州連合(EU)懐疑派を下し、予想外の勝利を収める見通しだ。
出口調査によると、親EUの労働党は得票率18%で首位。世論調査でルッテ首相率いる中道右派と首位を争っていた極右の新興政党「民主主義フォーラム」は投票率11%で3位となる見通しだ。
世論調査では、労働党は善戦しても3位に終わるとみられていた。
次期欧州委員長のポストを巡り欧州議会の中道左派系の有力候補でもあるティメルマンス氏は出口調査の結果について、「欧州の他の中道左派に追い風となることを望む」と述べた。(後略)【5月24日 ロイター】
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ポーランドでは、「親EU」の中道右派「欧州人民党」(EPP)に所属しながらも、極右・ポピュリズム勢力と並んで「反EU」のもうひとつの核ともなっている与党「法と正義」が教会スキャンダルで急速に支持率を落としているとか。
****聖職者の子供虐待で、ポーランド右派の支持率急落****
23〜26日に投開票される欧州連合(EU)の欧州議会選挙で、反EUを主張するポーランドの右派与党「法と正義」(PiS)の支持率が急落している。
カトリック司祭による子供への性的虐待を追ったドキュメンタリーが話題となり、同国カトリック界と密接な関係にあるPiSのイメージダウンにつながったためとみられる。
このドキュメンタリーは今月11日に動画サイト「YouTube」に投稿された無料動画で、タイトルは「誰にも言うな」。1週間余りで再生回数が2000万回を超えた。複数の被害者が登場し、8歳の時に被害にあった女性(39)が当時の司祭に会って事実関係を問いただす場面などが映されている。
ドキュメンタリーの公開後、PiSの支持率は急激にダウン。4月23〜26日の調査では約40%だったが、今月14〜16日の調査で約33%にまで下落。親EUの野党連合(約44%)に大きく差をつけられている。
ポーランドは国民の9割がカトリックだが、司祭の多くは右派のPiSを支持する。そのためドキュメンタリーによる「告発」は、PiSへの反感につながったようだ。
PiSは今月16日、子供に対する性的虐待を厳罰化する法案を下院で可決させるなど支持回復に躍起だが、欧州議会選への影響は避けられないとみられる。欧州議会選は、ポーランドでは26日に投開票される。
聖職者による子供への性的虐待は世界各国で発覚。ポーランドのカトリック教会は今年3月、1990〜2018年の間に625人の子供から被害報告があったと発表した。【5月24日 毎日】
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また、オーストリアで発覚した極右政党とロシアのつながり(上記のポーランド「法と正義」が西欧的民主主義とは相いれない反EU的立場ながら、それでも極右勢力と一線を画しているのは、ロシアに強硬姿勢をとるポーランドと、ロシアの影がちらつく極右政党の違いを反映したものです)は、欧州議会選挙での極右勢力全体へ影響する可能性もあります。
****欧州を震撼させた極右の汚職スキャンダルとその「黒幕」*****
オーストリアの極右政党、自由党を巻き込むスキャンダルが発覚しヨーロッパを震撼させている。
オーストリアでは、スキャンダルの張本人ハインツ=クリスティアン・シュトラーヒエ副首相兼自由党党首が辞任、与党を組んでいた自由党と国民党の連立が崩壊した。
衝撃はヨーロッパ中に広がり、ポピュリスト政党とロシアの不透明な関係が改めて指摘され、23日から始まった欧州議会選挙への影響が懸念されている。
更に、そもそも誰が、何の目的でビデオを隠し撮りしたのか、事実は依然闇の中だ。
ロシアが持ちかけた「黒い取引」
シュピーゲル誌と南ドイツ新聞が5月18日明らかにしたビデオ録画は、2017年7月24日夕刻に撮影された。地中海の保養地イビサにある別荘で、シュトラーヒエ氏(当時、野党自由党党首)、ヨハン・グデヌス氏(現、自由党議員団長)が、プーチン大統領に近いとされるロシア新興財閥イゴール・マカロワ氏の「姪」アレーナ・マカロワ氏と6時間にわたり密談した様子を隠し撮りしたものだ。
ビデオの中で、新興財閥の「姪」は、出所を明らかにできない資金約2億ユーロをオーストリアに投資する予定である旨、同国の有力紙クローネン・ツァイトゥング紙の株式50%を取得する意向であり、そこで自由党に有利なキャンペーンを展開すれば同党が3週間後の総選挙で有利になる旨を述べつつ、その見返りを期待したいとした。
これに対しシュトラーヒエ氏は、「姪」がクローネン・ツァイトゥング紙を買収し、「選挙で自由党を一位にしようとでもいうのなら話に応じたい」としつつ、公益法人を設立しそれを通し資金提供を行えば所管官庁への申告はいらない旨、現在シュトラバークという建設会社が受注している公共事業は、自由党が政権に参加すれば、それ以上の受注が認められることはなく、その分を「姪」に廻すことが可能である旨を伝えた。
但し、会談では何らかの具体的な約束を交わすまでには至らなかった。
欧州全土に広がった「疑惑」の眼
ビデオの公表を受け、シュトラーヒエ副首相は18日、直ちに副首相及び自由党党首を辞任した。セバスティアン・クルツ首相は翌19日、ファン・デア・ベレン大統領と善後策を協議、大統領は今秋にも総選挙を行うべきであると主張した。
続いて20日、クルツ首相は捜査及び情報機関を管轄するヘルベルト・キックル内相を更迭したが、自由党はこれに反発、同日、同党の全閣僚引上げで対抗し、ここに、国民党と自由党による連立が、発足以来1年半足らずで崩壊することとなった。
衝撃は直ちにヨーロッパ中に走った。ポピュリスト政党とロシアの不透明な関係はかねてから噂されていたが、ここに、資金供与と公共事業の見返りという生々しい形で明らかになったのだ。更に、衝撃的だったのは、ロシアが欧州の報道機関に手を回そうとしていたことだ。
早速、欧州議会のCDU/CSUグループ代表ダニエル・カスパリー氏は、同様の事例は「ドイツのための選択肢(AfD)」にもある、AfDは出所不明な選挙資金を受け取っている、と糾弾した。これに対しAfDの共同代表ジェルク・モイテン氏は、今回の事件は自由党が犯した大きな間違いであり、自由党の個別の問題だ、と反論した。
危険を嗅ぎ取っていた欧米諸国
シュトラーヒエ氏とロシアとの関係は、古く同氏が自由党党首に就任した2005年頃まで遡る。その後、同氏はロシアとの緊密な関係を維持してきたが、2016年、自由党とプーチン大統領の党である「唯一のロシア」との間に友党関係を締結するに至った。党運営、立法の仕方等に関し情報交換することが謳われた。
2018年、カリン・クナイスル外相の結婚式にわざわざプーチン大統領が出席、花嫁(クナイスル外相)とダンスを踊った写真が公開されたことは記憶に新しい。
クルツ首相は、自由党とロシアのそういう緊密な関係を承知で、同党に内相や国防相といった国の安全にかかわるポストを提供した。秘密情報機関も当然、自由党が握った。当時、クルツ首相のこういう対応に批判が集中したが、同首相は自由党との関係を優先し押し切った。
しかし、2018年2月、内務省が憲法擁護テロ対策庁の捜索を強行したことを受け、欧米の情報機関はオーストリアとの情報共有見直しに踏み切った。当時、同庁は、ロシアによるオーストリア内政への関与を調査していた。欧米諸国は自由党とロシアのただならぬ関係を嗅ぎ取ったのだ。
「欧州議会選挙」への影響は?
欧州議会選挙の直前にビデオが公表されたことは、選挙に何らかの影響が出ること必至である。欧州議会選挙は通常あまり関心をひかないが、今回に限っては欧州全域に猛威を振るうポピュリスト政党がどこまで票を伸ばすか、全世界がかたずをのんで見つめている。(後略)【5月24日 WEDGE】
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この「極右・ロシアコネクション」がどの程度選挙に影響するかについては意見が分かれるところのようです。
なお、一体誰が、どういう思惑でこの時期にビデオを暴露したのか、自由党シュトラーヒエ副首相は罠にはめられたのか・・・は、今のところ謎です。
【各国国内政治に影響する選挙結果 イタリア・フランス・ドイツ・イギリスの場合】
今回選挙は、各国政治事情と連動して、各国の国内政治にもいろいろな影響をあたえそうです。
詳しく取り上げてきるとキリがないので、注目点のみいくつか。
イタリアでは、第2与党の右派「同盟」(党首は各国極右勢力統合の中心的存在となっているサルビーニ副首相)が、第1与党の左派「五つ星運動」に対し支持率で大きくリードしており、与党両党の確執が深まっています。
サルビーニ副首相は否定していますが、選挙後の連立崩壊、右派政権を目指して解散・総選挙に向かう可能性も取り沙汰されています。
フランスでは、欧州統合を主導するマクロン大統領の与党「共和国前進」と、反EU極右勢力のルペン氏の「国民連合」の激しい接戦となっています。
マクロン大統領は勝てば、各地でEUに懐疑的な勢力の躍進が見込まれる中、「防波堤」として存在感を発揮し、今後のEU統合を主導する形にもなります。
負ければ、国内的だけでなく、EU内においても権威を失墜することにもなります。
これまで歴代大統領は欧州議会選挙には関与してこなかったとのことですが、マクロン大統領は全面的なテコ入れに動いています。一方、ルペン氏側にはアメリカでトランプ政権を誕生させたバノン氏が応援に駆け付けています。
ドイツでは、EU懐疑派で国内最大野党「ドイツのための選択肢」(AfD)躍進が予測されるなか、メルケル与党が惨敗すれば、このところ求心力を失ってきたメルケル首相の処遇に発展する可能性があります。(ドイツ首相を辞して、EU大統領に・・・という話も出ていますが、本人は否定)
また、社民党の負けっぷり如何では、連立離脱・大連立瓦解の可能性も。
イギリスでは、メイ首相は辞任に追い込まれたようですが、EU離脱運動を主導したファラージ氏率いるブレグジット党が勝利することが予想されています。そうなると、ブレグジットをめぐって(これまでももたつくイギリスに批判的だった)フランスの対応が「さっさと出ていけ!」と更に硬化する可能性も。
いずれにしても、今回欧州議会選挙は、EUおよび欧州各国の情勢に大きな影響を与える注目すべき選挙となっています。