(イエメンの反政府武装勢力「フーシ派」の支持者【5月6日 WSJ】 いかにもゲリラ組織という感じですが、実際はミサイルも飛ばせば、ドローン攻撃も行う武装組織です)
【コレラ死者数3000人超 変わらぬ三重苦】
中東最貧国イエメンでは、サウジアラビア・UAEなどの支援を受ける暫定政府とイランの支援を受けているとされる反政府勢力フーシ派の戦闘が続いていますが、国際的にもあまり関心が高くない地域ということで、状況を報じるニュースはあまり多くありません。
以前からイエメンでは紛争と同時に、飢餓とコレラという危機が同時進行していると言われてきました。
そのコレラについては、戦闘状況以上に情報を目にする機会が少なく、最近では忘れかけていましたが、終息した訳ではなく危機的状況が今も続いているようです。
****イエメンでコレラ大流行再来の恐れ、国際NGOが警告****
国際NGO「オックスファム(Oxfam)」は18日、内戦下のイエメンで、今年に入ってからコレラによるものとみられる発症が約19万5000件に上り、「コレラ大流行が再来」する危険性があると警鐘を鳴らした。
オックスファムは、「世界最悪のコレラ発生が、再び大規模に流行するのではないかとの懸念が増している」と訴えている。
イランが後ろ盾となっている反政府武装組織と、サウジアラビアが主導する政権派の有志連合軍の間で続くイエメン内戦では、2015年から約1万人が死亡し、数百万人以上が飢餓寸前の状態にある。しかし援助団体は、実際の死者数は報告されている数の5倍に上る恐れがあるとみている。
内戦によって、イエメンの国民は清潔な水を得ることも、治療を受けることもできず、同国は水を媒介した細菌感染症であるコレラの流行に最適な環境となっている。
オックスファムによると、同国のコレラの死者数は、2016年に流行が始まって以来、3000人を上回っている。【4月20日 AFP】
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内戦の紛争、飢餓、コレラの三重苦は変わっていないようです。
【ドローン攻撃を多用するフーシ派】
飢餓に対する食糧支援やコレラ対策の医薬品を届けようにも、搬入の基点となる重要港湾ホデイダをめぐって戦闘が行われており、支援もままならない状況が伝えられていましたが、そのホデイダの戦闘がどうなったのか、停戦が機能しているのかどうか・・・よくわかりません。
よくわかりませんが、戦闘の方も相変わらずの状況であることは間違いないようです。
****イエメン首都で爆発、子ども14人死亡 連合軍は空爆否定****
イエメンの反政府勢力が掌握する首都サヌアで7日、学校2校の近くで起きた爆発により子ども14人が死亡、16人が重傷を負った。国連が9日、明らかにした。爆発の原因は不明。
国連児童基金(ユニセフ)と国連のイエメン担当特使の発表によると、死傷した子どもの大半は9歳未満の女児だった。
サヌアを実効支配するイスラム教シーア派系の反政府武装組織フーシ派は、サウジアラビア主導の連合軍が空爆を実施したと非難。一方の連合軍は、7日にサヌアで空爆は実施していないと主張している。【4月10日 AFP】
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そのイエメンの戦闘において、フーシ派が使用するドローンが注目されているということは、2月27日ブログ“イエメン 停戦合意にも関わらず進まない国際支援物資搬送 フーシ派のニッチな兵器”でも取り上げました。
ひところフーシ派は、軍事介入して空爆の主力となっているサウジアラビアに対してミサイル攻撃を行っていましたが、今やミサイルよりドローンが主力となりつつあるようです。
****「ドローン戦争」本格化、中東の武装勢力が能力拡大****
容易に入手できるテクノロジーにより、米国とペルシャ湾岸地域の同盟国は新たな危機に直面している。イエメンの反政府武装勢力「フーシ派」が攻撃に使用している軍用ドローンは、米国や同盟国が公式に認めているよりはるかに精度が高く、到達範囲が広いことが関係者の話で分かった。
昨年7月、サウジアラビアの首都リヤド郊外にある国営石油会社サウジアラムコの石油精製所がフーシ派のドローンによる攻撃を受けた。同社幹部と湾岸国の政府関係者が明らかにした。
また関係者によると、同じ月にフーシ派のドローンがアラブ首長国連邦(UAE)の防衛システムをかいくぐり、アブダビの国際空港で爆発した。
複数の元米政府関係者によると、空港への攻撃では被害はトラック一台の破損と一部のフライトの遅れにとどまったが、ドローンの到達範囲の広さと大胆不敵さにUAE政府は動揺したという。
ただ同国政府は攻撃があったことを認めておらず、米国政府も同国の主張を支持している。サウジアラムコへの攻撃でも被害は限定的で、サウジアラビアの指導部は攻撃を公式に否定した。
サウジ政府の推計では、サウジが撃退したフーシ派のドローン攻撃はこれまでに140回を超える。フーシ派は当初はプロペラ駆動式の偵察用小型ドローンを飛ばしていたが、すぐにより大型の飛行機型ドローンを使うようになった(国連調査団はこの大型モデルにUAV-Xという呼称をつけた)。
国連によると、大型ドローンは時速150マイル(約241キロ)で900マイル以上の飛行が可能だ。サウジとUAEの首都を含む湾岸地域のほとんどが到達範囲に入る。
フーシ派のドローンが急速に進歩したことについて、サウジ政府関係者とトランプ政権はイランの関与を主張している。ただ一部の米政府関係者は直接的な支援については疑問を呈している。イランはこれらの疑惑を否定している。
今年1月にはフーシ派がイエメン政府の軍事パレードをドローンで攻撃、軍高官一人を含む6人が死亡した。この攻撃については関係各方面が認めている。専門家によると、武装勢力が政府関係者の暗殺に無人航空機(UAV)を使った初めてのケースだという。
政府関係者やアナリストによると、簡単に武器に転用できる市販のドローンテクノロジーは対策が難しく、世界各地の紛争を一変させる可能性を秘めている潜在力があることをこれらのドローン攻撃が示しているという。
フーシ派のドローン攻撃を受けて、ワシントンではイランによるフーシ派支援をめぐる議論に拍車がかかった。
米国防総省関係者は「イランの軍事支援によってフーシ派のシステムの致死性と到達範囲が引き上げられ、サウジやUEAの軍隊への脅威が高まった」と話した。
別の政府関係者によると、米国の情報機関はフーシ派のドローン計画はほぼ固有のもので、外部の支援はほとんど必要としていないと結論づけた。
米国、サウジ、UEAの政府関係者はこの脅威を消そうとしている。サウジ主導の連合軍によると、今年1月に協調軍事作戦を開始、ドローンを格納しているとみられるイエメンの洞穴やドローンの組み立て場所を爆撃した。
フーシ派はドローン攻撃を拡大して対抗。サウジ政府関係者によると、ここ数週間でサウジの防衛システムが同国内またはイエメンで撃墜したフーシ派のドローンは少なくとも17機に上る。フーシ派指導部は自分たちのドローン空軍にはサウジとUAEの首都を攻撃する能力があると繰り返し主張している。
ある米政府関係者によると、サウジとUAEはドローンに対抗するテクノロジーの開発に多額の資金を投じている。ただドローンは市販の部品を使って簡単に作ることができるため、脅威の封じ込めは容易ではない。
国連関係者と米政府関係者はドローンは大半がイエメンで作られているとみる。兵器の専門家によると、密輸する必要があるのは主に高度な誘導システムと強力な小型モーターだ。
サウジと米国の政府関係者は、イランがフーシ派にドローン製造のための訓練や設計図を提供したと主張している。
国連の調査官によると、フーシ派のドローンの内部には米国や中国、ドイツ、日本で製造されたモーターが発見されている。
米政府関係者はフーシ派のドローンについて、中東の海域を航行する民間輸送船や米軍艦船の脅威になるのではないかとの懸念を強めている。
ある米政権高官は「中東の同盟国はイランを後ろ盾に持つフーシ派がイエメンと周辺国に与えている暴力的な不安定化効果を理解しているが、問題について認識が甘い国は多い」と指摘する。
ドローン攻撃が増加する一方で、フーシ派による弾道ミサイル攻撃が成功する回数は減りつつある。
サウジ政府関係者によると、2015年の内戦開始以降、フーシ派はこれまでに225発を超えるミサイルを発射。そのうち数発はリヤドに着弾した。
ただ入手可能なデータによると、フーシ派のミサイル攻撃が最後に成功したのは昨年末だったようだ。サウジ政府関係者によると、最近ではミサイルよりドローンを撃墜することが多いという。
米国はサウジやUAE、オマーンと緊密に連携して弾道ミサイル密輸ルートの封鎖に動いており、比較的安価で市販の部品で作れるドローンはフーシ派にとってミサイルに代わる兵器となっている。
フーシ派はアブダビの空港だけでなく、ドバイの空港も2回、攻撃したと主張した。米国とUAEの政府関係者はその真偽にはコメントしなかった。
国連調査団は昨年、フーシ派のミサイルやドローンのテクノロジーの出所がイランであることを示す「強力な兆候」があると述べた。しかしイランとフーシ派の直接の関係を立証するに至らず、イランがミサイルやドローンの売却や移転を防ぐ「必要な措置を取らなかった」との結論にとどまった。
イラン政府関係者は国連の指摘を一蹴し、フーシ派にドローンやミサイルを提供したり、イエメンに軍隊を派遣したりしたことはないと主張している。【5月6日 WSJ】
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中東最貧国の反政府勢力と聞くと、ゲリラ戦術とか自爆攻撃がイメージされますが、実際はミサイルは飛ばすは、ドローン攻撃は行うは・・・ということで、テクノロジーの進歩に十分に対応しているようです。
【イエメン、中東の紛争に武器輸出する大国】
このドローンがどこから来るのか、自前のものか、イランからの支援によるものなのかは、上記記事によればよくわからないようです。
仮にイランの支援があるとすれば、ミサイル支援さえ阻止できなかった訳ですから、ドローン支援を阻止するのはもっと無理でしょう。
いずれにしても、テクノロジーの進歩で社会の在り様は激変していますが、戦争・紛争の方も、かつての常識は通用しない時代になっているようです。
なお、イエメンの紛争に武器輸出という形で油を注いでいるのはイランだけではありません。
****イエメン紛争で「仏製武器使用」軍機密情報で判明 調査報道****
フランス製の武器が、アラブ首長国連邦およびサウジアラビアによってイエメンで使用されていることが、15日に公表された軍の機密情報で明らかになった。フランス政府のこれまでの説明と矛盾する格好となっている。
調査報道機関ディスクローズが公表したフランス軍情報機関の文書は、UAEとサウジアラビアが、イスラム教シーア派系の反政府武装組織フーシ派との戦闘に際し、火砲類から船舶までフランス製の武器を使用していると結論付けている。
この文書によるとネクスター製の「カエサル」と呼ばれる自走砲48両がサウジアラビアとイエメンの国境沿いで使用されたという。
また1990年代にUAEに販売されたルクレール製の戦車や、ミラージュ2000-9型の戦闘機も使用されたとされる。ディスクローズによれば、政府は昨年10月にこの情報の提出を受けたという。
武器販売をめぐり、人権団体から長年圧力を受けてきたフランス政府は、仏製兵器はフーシ派による攻撃を阻止するため、自衛を要する状況でのみ使用されるとの主張を繰り返している。
世界第3位の武器輸出国であるフランスは、サウジアラビアおよびUAEを中東における主要顧客と位置付け、武器輸出停止に踏み切ったドイツと異なり、武器取引中止の求めに抵抗している。 【4月16日 AFP】AFPBB News
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“自衛を要する状況でのみ使用”云々は、武器輸出国の“言い訳”に過ぎず、いったん輸出された武器は侵略にも、場合によっては国民弾圧にも使用されます。
そもそも、最大の武器輸出国はイランでもフランスでもなく、アメリカです。また、イエメンに軍事介入しているサウジアラビアは世界最大の武器輸入国です。
****米国の武器輸出、世界の36%=ロシア減少、中国は5位―国際平和研****
スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)は11日、2014〜18年における世界の武器取引に関する報告書を発表し、世界最大の武器輸出国の米国による輸出量の世界シェアが、09〜13年から6ポイント増の36%へと増えた。
米国の輸出量は29%増で、SIPRIの担当責任者は「世界最大の武器輸出国としての地位を一層固めた」と説明した。
米国に続く武器輸出国はロシア、フランス、ドイツ、中国で、これら5カ国による武器輸出量の世界全体に占める割合は75%だった。一方、ロシアの武器輸出量は17%減少し、5位の中国は2.7%の伸びだった。
主要な武器輸出先である中東諸国向けは87%増で、世界全体の武器輸入に占める割合は35%。世界最大の武器輸入国はサウジアラビアだった。
SIPRIの研究員は「紛争や緊張が広がる湾岸地域において、米英仏の武器に対する需要は高い」と指摘した。【3月11日 時事】
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アメリカにとってサウジアラビアは最大の“顧客”であり、米議会がイエメン内戦でのサウジアラビアの軍事行動に対する米軍の支援の停止を求める決議を行いましたが、トランプ大統領が拒否権を発動して阻止したことは周知のところです。
また、リビアでは統一政府軍攻撃のためにUAEがドローンを使用していると言われていますが、そのドローンは中国製とか。【5月3日 「中東の窓」より】
世界の有力国がこぞって中東に武器を投入している訳ですから、紛争がおさまるはずもありません。
【世界の紛争抑止のためのATTより国内選挙事情を優先するトランプ大統領】
せめて、武器の非合法市場への流出や虐殺や人道に対する罪での使用を阻止することぐらいは・・・ということでやっと成立した国際ルールがATTです。
****武器貿易条約(ATT)****
銃や装甲車両、戦闘機、ミサイルなどの通常兵器の国際取引で初めて、世界共通の法的拘束力を持つ規制を導入した条約。
非合法市場への流出を防ぐ措置を義務づけ、虐殺や人道に対する罪の実行に「使用されるであろうことを知っている」場合は移転の許可を禁じる。2013年の国連総会で採択され、成立。約100カ国が批准。日本は14年5月に批准した。【4月28日 朝日】
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しかし、そのATTから最大武器輸出国アメリカが離脱するというのですから・・・・
****米、武器貿易条約の署名撤回 トランプ氏、ライフル協会に配慮 条約の実効性、弱まる****
トランプ米大統領は(4月)26日、通常兵器の国際取引を包括的に規制する武器貿易条約(ATT)の署名撤回を宣言した。
高い集票力を持つ銃規制反対の圧力団体、全米ライフル協会(NRA)がATT締結に猛反対しており、来年の大統領選に向けて支持固めを図った。
今回の宣言で、武器輸出世界1位(シェア4割弱)の米国のATT不参加は決定的になり、条約の実効性が弱まるのは必至だ。
「私の政権下では、米国の主権は誰にも屈しない。外国の官僚が(銃所持の権利を認めた)合衆国憲法修正第2条を踏みにじることを、我々は絶対に許さない!」。26日、米中西部インディアナポリスで開かれたNRAの集会。トランプ氏がATTの署名撤回を宣言して気勢を上げると、会場に大歓声が響いた。
米政府高官はトランプ氏の署名撤回宣言について、「米国と同じ武器輸出大国のロシアと中国が署名していない」と説明する。
だが最大の理由は、来年の大統領選での再選をめざし、前回強力に支えてもらったNRAに「銃規制反対」をアピールするためだ。トランプ氏はNRAの集会で「我々は選挙を始める準備ができている」と繰り返した。(中略)
ATTは米国の同盟国である英国や日本が主導して2006年から国連で交渉が始まり、13年4月に成立。条約案の策定協議に携わった米シンクタンク、スティムソン・センターのレイチェル・ストール氏(安全保障担当)は「ATTは通常兵器による人的被害を減らし、国家間の信頼醸成につなげる目的がある」と語る。
その上で、トランプ氏の署名撤回宣言は「多国間外交に背を向け、国際規範や同盟・友好国との協働による利益を無視するものだ」と批判した。
トランプ氏は大統領就任以来、地球温暖化対策の国際枠組みの「パリ協定」▽イランが核開発を大幅に制限する見返りに米欧が経済制裁を緩和するイラン核合意▽中距離核戦力(INF)全廃条約など、国際的な合意から次々に離脱。国際協調より国内事情を優先する姿勢を鮮明にしている。【同上】
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世界各地で紛争が絶えない最大理由のひとつが、こうした武器輸出大国の身勝手さでしょう。