(フランス・ランスの病院でベッドに横たわるバンサン・ランベールさん。家族提供(2015年6月3日撮影【5月21日 AFP】)
延命治療をいつまで続けるのかということは、表立っては軽々に口にし難い問題ですが、その一方で、実際の現場では多くの患者・家族・医療関係者が直面し対応を迫られる問題でもあります。
通常は、家族の意向を担当医が尊重して・・・というところですが、判断が分かれる場合も。
そうしたなかでも、担当医が延命打ち切りを決断し、家族の一部がこれに反対して裁判沙汰に・・・というのは、あまり多くはないと思いますが、フランスでそうした案件が問題になっています。
****植物状態の息子、延命続けさせて 両親ら大統領に公開書簡 フランス****
10年間植物状態となっているフランス人男性の延命医療を打ち切ると担当医が決断したことについて、この男性の両親らが18日、エマニュエル・マクロン大統領に延命医療の継続を求めた。担当医は20日に延命医療を打ち切るとしている。
バンサン・ランベールさんは2008年に自動車事故に遭い、脳に重度の損傷を負って四肢まひとなった。ランベールさんの延命医療は、家族を引き裂く法廷闘争に発展している。
フランス当局の公式な立場は、患者は「治癒が極めて困難」な状況による苦しみを受けない権利があるというもの。ランベールさんの担当医は今月10日、あらゆる延命医療を20日に打ち切る方針を家族に伝えた。
担当医らは2014年、フランスの消極的安楽死法に基づき、ランベールさんの妻ラシェルさんときょうだいのうち5人、おいのフランソワさん同意を得て栄養・水分の補給を中止すると決定した。
しかし、敬虔(けいけん)なカトリック教徒の両親と片親違いのきょうだいらは、より良い治療を受ければ病状が改善する可能性があると主張。延命治療の中止を差し止める裁判所命令を得た。
両親らの弁護団は18日、大統領に宛てた公開書簡を発表した。公開書簡には、「大統領閣下、あなたが何もしなければ、バンサン・ランベールは5月20日の週に水分不足で死去するでしょう。あなたは介入することができる最後で唯一の人なのです」と書かれていた。
さらに、ランベールさんがこのまま亡くなった場合、後世の人々はこの出来事を「国家犯罪」とみなすでしょうとも記されていた。
国連の「障害者の権利委員会」は今月、フランス政府に対し、ランベールさんの延命に関して、その法的問題を調査している間はいかなる決定も行わないよう要請。18日にも改めて同じ要請をした。両親はこの要請に従うようマクロン大統領に求めている。 【5月19日 AFP】
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判断のポイントは、“「治癒が極めて困難」な状況による苦しみを受けない権利”です。
上記ケースでは、妻・兄弟と両親の判断が分かれていること、宗教的な背景もあることから、問題が複雑化しています。
上記のような状態で、担当医は延命措置打ち切りを実施しました。
****植物状態の仏男性、医師らが生命維持装置を停止****
フランスのランスの病院で、10年間植物状態となっている男性について、担当医らが20日、延命治療の中止に踏み切った。男性の両親の弁護士が明らかにした。この問題は同国内で大きな議論を巻き起こし、賛否をめぐって意見が二分している。
自動車事故で四肢まひとなったバンサン・ランベールさんの両親は、治療中止に断固反対している。両親の弁護士はAFPに対し、医師らが生命維持装置の停止を始めたと明かし、「恥ずべきことであり、(両親は)息子を抱き締めさせてももらえなかった」と語った。
他の親族も、装置の電源が落とされていることを認めている。 【5月20日 AFP】
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これが正しい措置だったかどうかは別にして、一応このケースについての「結論」は出た・・・とも思ったのですが、事態は意外な展開に。
****植物状態の仏男性、延命治療再開 裁判所命令受け****
フランスのランスの病院で10年間植物状態となっているバンサン・ランベールさんに対し、担当医らは21日、裁判所命令に従って延命治療を再開した。弁護士らが明らかにした。
担当医らは前日20日午前、ランベールさんの妻や他の親族らの意向を踏まえて、水分補給や栄養の静脈投与を停止することを決定。生命維持装置の停止に踏み切っていた。
しかし首都パリの控訴院が同日、関係諸機関に対し、国連の「障害者の権利委員会」による判断を待つ間、ランベールさんの生命を維持するため「あらゆる措置を取る」よう命じていた。 【5月21日 AFP】
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国連の「障害者の権利委員会」による判断が出るまで、延命措置が続けられるようです。
冒頭にも書いたように、非常に判断に悩む問題ですが、少なくとも自分自身がもしそういう状態になったら・・・ということを考えると、私自身は無理な延命は希望していません。
もちろん、それは自分自身に関しての判断であり、家族等のケーズに一般化できる話でもありません。
また、自分自身に関しても、今は上記のように思っていますが、実際にそういう状態になったとき、どのように考えるのかというは、なかなか確信がもてない話でもあります。
フランスのケースに話を戻すと、植物状態とはいいながらも、両親の主張によれば、相当な反応が可能な状況にあるとも。そうなると、更に判断は難しくなります。
このケースに関する国家レベル、国際機関レベルの判断も絡んだ争いは、今に始まったことではなく、以前から続いてきた問題のようです。
****仏で大論争、延命治療の是非****
「今、私の息子を殺そうとしているわ!モンスター!」
5月20日の朝、フランスのラジオ「フランスインフォ」から悲痛の声が流れていた。10年間植物状態となっている元看護師バンサン・ランベール(42)さんの延命医療を打ち切ることを担当医が決断し、その処置が始まり、息子が回復する可能性を信じ支えてきた母親の嘆き悲しみの叫びが流れていたのだ。
同じニュースでは、延命医療を打ち切りを決めた病院の担当医師が、今までこういった事例の経験はないが、セオリー通りに行けば3日〜7日後にランベールさんは永遠の眠りにつくだろうとも伝えていた。
ランベールさんは、2008年に自動車事故にあった結果、脳に重度の損傷を負い四肢が麻痺しており、水分と栄養素の補給受ける延命治療にて生命を維持した、植物状態であると言われている。
実は、最初に延命医療停止の話が出たのは2013年末のことだ。それからランベールさんに対する延命医療の継続について、医師及び家族内で対立が続いてきたのだ。
フランスには、一連の終末期医療関連法による枠組みが存在しており、2005年発布のレオネッティ法では「常軌を逸する執拗な延命治療は、意思表示不可能な患者に対しても禁じる。薬剤などで命を短縮させる措置は患者と近親者に予告すべし」と示されている。
このため2012年末に主治医は、回復の見込みがないランベールさんについて、延命治療の停止を、ランベールさんと同じく看護師でもある妻のラシェルさんに相談し承諾を得たため、2014年の4月に実地する予定とした。
しかし、その判断にランベールさんの両親はまったく納得せず、行政裁判所に訴え出たのだ。その結果、延命治療を続ける旨の判決が下された。
家族内の意見は真っ向から対立している。ランベールさんの両親と妹・義弟は、息がある限りランベールさんに生きていて欲しいと言う一方、妻と弟、妹、3人の義弟、甥(おい)は、ランベールさんが言っていた「誰かに依存する生活はいやだ」と言う言葉と、脳幹が損傷し回復の見込みがないことを理由に、この植物状態と言う苦痛から解放し、安らかな眠りについて欲しいと願っている。
その後、2回にわたる家族と医師団・治療関係者の協議後、主治医は再び延命治療を停止した。ところがまた裁判所は「人工的水分、栄養補給は執拗(しつよう)な延命治療ではない」とし協議結果を無効にしたのだ。
そこで、妻と甥が提訴した国務院は新たな治療証明書を要求し、医師会、倫理委員会、医学アカデミーに意見を尋ね、コンセイユ・デタ(国務院)の判決を求めた。
結果6月24日、国務院は患者の人工的水分・栄養補給の停止を最終的に認めた。だが、その直前に両親が欧州人権裁判所に提訴しており、判定が下るまで「延命治療を続けるべし」と発表されたのである。
両親は、病院の近くにアパートを借り、長年ランベールさんの看病を行ってきた。そして付き添っている間に、植物状態だと言われながらも、なんらかの反応をする姿を何度も見てきているのだ。
昏睡状態であると思われているが、食事ができたり、発声したり、どちらかと言えば重度の障害者である。そういった様子を、次々と動画で流してアピールし続けた。
しかし、そのかいもむなしく、2015年6月5日、欧州人権裁判所も、植物状態にあるランベールさんの生命維持中止を認めたフランス裁判所の判決を支持する判断が下された。今後の欧州における指針となりうる判決でもあった。
その後、2016年に、レオネッティ法をさらに厳格化した、クレス・レオネッティ法が制定された。当時の大統領フランソワ・オランド氏の政権公約は「終末期患者の耐え難い苦痛を和らげる手段が無くなった場合に、明確で厳格な条件の下で、尊厳を保って命を終えるための医療手段を要求できるようにすることを提案する」としておりその公約を実現した形だ。
レオネッティ法では、延命医療を打ち切りには、医者の決定に重みがあったところを、クレス・レオネッティ法では、本人の意思が考慮されることとなり、事前指示書で延命医療を拒否することができるようになったのだ。
また事前指示書がなく、本人が意思を伝えられない場合は、家族からの証言を聞くなどの方法がとられ参考にされることになった。
そうした場合、ランベールさんの妻の本人が言ったと言う「誰かに依存する生活はいやだ」と言う証言は、判断する上で以前よりさらに考慮されるようになるだろう。
そして、ついに2019年1月、担当医はランベールさんの脳の損傷に回復の見込みはないとして生命維持装置を外すことを決めた。その後、フランスの裁判所がこの決定を認め、最高行政裁判所である国務院も、先月この決定を支持する判断を下したのだ。
両親は、延命治療を続けさせて欲しいと、エマニュエル・マクロン大統領に公開書簡を送ったが、「延命治療中止の決定は、法の下に医師らとランベールさんの法定代理人である妻の間で続けられてきた話し合いによって下されたものだ」と言う主旨を、Facebook上で述べ、介入を拒否する姿勢を示した。
延命治療を停止する前日には、両親が語り掛けると、ランベールさんが瞬きをし泣いているようにも見えるビデオが流された。瞬きをするなどの反応していることに多くの人たちが驚き、広く拡散されていった。
また、国連(UN)の「障害者の権利委員会」は今月、フランス政府に対し、法的問題を調査している間はいかなる決定も行わないよう求めていたが、その要求もむなしく、20日、延命治療を停止が決行されることになったのだ。
当日は、母親が涙ながらにインタビューに答え、一日中、ニュースが流れ続け、ものものしい雰囲気に包まれた。パリでは支援者によって、延命医療継続を訴え、マクロン大統領に介入を求めるデモも行われた。
しかし、その夜、驚きのニュースが入り一変に状況が変わった。なんと、最終的にフランス・パリの控訴院が、延命医療再開を決定したのだ。国連の「障害者の権利委員会」が法的問題を調査している間はいかなる決定も行わないよう求めていたことを尊重した形である。
支援者は喜びに沸いた。一方、ランベールさんの妻のラシェルさん、「あの状態でおくことはサディズム行為である」とし、「夫が逝くのを見届けることは、夫が自由の身になるのを見ることでもある。人にはそれぞれ異なった意見や信念を持つことができる。しかし何よりも、私たちをそっとしておいてほしい」と述べた。
そして涙を流したとされるビデオを公表したことを訴えると決めた。甥もまたインタビューに答え、「あの状態を見ているのは辛い。早く楽にしてあげてほしい」と語り続けた。
そして、最大の支援者である両親は、ほっと胸をなでおろし安堵し、今後も息子のために戦い続けること再度決意した。
今後は、ランベールさんをランス大学病院からストラスブール近くの病院に移し、身体障害者のための専門の病棟に移ることを望んでいる。
そこで、食事も口から食べるように切り替えていき、ランベールさんが生きることを後押し、適切なケアを受けてもらいたいと願っていると言う。
国連の判断は、最低6か月かかる。数年かかる可能性もある。それは、法、医学、倫理、哲学、宗教、愛情などが複雑に絡み合い、全ての人が納得する解答を見つけるには非常に困難な状況の中、最終ともいえる判断が下されると言えるかもしれない。
ここで出される結論は今後の議論にも大きな影響を与えることになるだろう。しかしながら、その結果が本当にランベールさん本人が望んでいることであったかどうかは、知る由はない。【5月23日 Japan In-depth】
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何回も言うように、何とも言い難い問題なので、単に経過の紹介だけ。
人間の生死の話は難しすぎるので、最後にペットの話を。
亡くなった飼い主の遺言で、元気なペットが安楽死させられたという話題
****「愛犬と一緒に埋葬を」 元気だった犬、遺言に従って安楽死 米****
米バージニア州で、自分が死んだら愛犬を一緒に埋葬してほしいという故人の遺言に従って、元気だった飼い犬が安楽死させられた。
シーズーのミックス犬「エマ」は、飼い主の女性が死去したことを受けて3月8日に同州チェスターフィールドの保護施設に預けられた。
同施設はそれから2週間の間、遺言執行者と交渉を続け、エマを譲り受けて里親を探したいと申し出ていた。この犬であれば里親は簡単に見つかると判断していたという。
しかしチェスターフィールド警察によると、遺言執行者が3月22日にエマを引き取るため同施設を訪れた。施設側は、エマを譲渡してほしいと再度持ちかけたが、遺言執行者は応じなかった。
エマは地元の動物病院へ連れて行かれて安楽死させる処置が行われ、バージニア州の施設で火葬された。骨壺(こつつぼ)に収められた遺灰は遺産管理人に返還された。
飼い主とペットを一緒に埋葬することが認められるかどうかは、州によって異なる。バージニア州では2014年に合法化され、人とペットの合同埋葬区画を設けることが可能になった。
ただし、合同埋葬区画は明示が義務付けられ、同じ空間に人とペットを埋葬することは認められていない。
州によっては、飼い主の遺骨をペットの墓に埋葬することや、ペットを飼い主と一緒に家族の墓に埋葬することを認めている。
米獣医師協会によれば、バージニア州の法律では、資格を持った獣医師などが動物を安楽死させることを認めている。ただし、健康に問題のないペットの安楽死に応じる獣医を見つけることは難しいかもしれない。【5月23日 CNN】
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遺言執行者としては、法的に遺言をそのまま実行しなければならない・・・ということなのでしょう。
しかしながら、そもそも、元気なペットの安楽死・合葬を求める遺言自体に非常な違和感を感じます。
将来、ペットが死んだら・・・というのは、極めてノーマルな話ですが。
通常の契約であれば、公序良俗に反して無効とも判断されるような、そんな違和感です。