(11日、香港立法会でつかみ合う民主派議員と親中派議員【5月11日 共同】)
【形骸化が進行する「一国二制度」】
香港の「一国二制度」が形骸化し、中国本土に取り込まれつつあることは今更の話です。
2014年の雨傘運動のような香港側の反対運動がときに盛り上がりますが、社会・政治の基盤となる経済面において、外堀を埋めるかのように本土経済との一体化が進展しています。
****中国「大湾区」構想が注目 広東、香港、マカオ一体化 1国2制度形骸化も****
北京で開会中の全国人民代表大会(全人代=国会)で、習近平指導部が広東省と「1国2制度」下にある香港、マカオを一体化させて大経済圏を築く「ビッグベイエリア(大湾区)構想」が注目されている。
香港の分科会では構想を支持する声が相次いだ一方で、香港の民主派からは高度な自治を保障する「1国2制度」の形骸化を懸念する声もある。
構想は2月に本格始動。中国の先端都市である広東省深センや広州などの9都市に加え、国際金融都市の香港、カジノで知られるマカオを中心に経済交流を活性化させ、2035年までにハイテクや新産業の重要な発信地にする内容。
中国メディアによると、18年の域内総生産(GDP)は約1兆6500億ドル(約185兆円)で、米ニューヨーク周辺一帯25郡の規模に並ぶ。現代版シルクロード構想「一帯一路」とも連動し、往来やビジネス、物流、教育分野などの交流を盛んにする。
これに先立ち中国政府は大湾区構想の中核となるインフラ整備を進め、昨年9月に広東省と香港を結ぶ高速鉄道が開業。同10月には広東省と香港、マカオを結ぶ世界最長(約55キロ)の「港珠澳大橋」が開通した。
ただ、中国との一体化が進むことに、香港の民主派からは「大湾区構想によって中国と香港の融合がさらに進めば、香港の『1国2制度』は消滅してしまう」(毛孟静立法会議員)といった見方も出ている。
7日に開かれた分科会中、香港代表団の馬逢国団長は毎日新聞に、民主派側の懸念について「『1国2制度』を脅かすことはあり得ない。それぞれの地域の特徴を十分に生かすものだ」と語った。【3月9日 毎日】
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政治的にも、「一国二制度」・高度な自治を形骸化する“中国寄り”の姿勢が加速しています。
****香港、「雨傘運動」デモ発起人2人に禁錮16月の実刑判決****
香港の選挙制度の民主化を求めた2014年の大規模デモ「雨傘運動」をめぐる裁判で、香港の裁判所は24日、デモの発起人であるとして有罪判決を受けていた大学教授2人に禁錮16月の実刑判決を言い渡した。
禁錮16月の実刑判決を受けたのは香港大学の社会学教授、陳健民氏と同法学准教授の戴耀廷(ベニー・タイ)氏で、2人は公的不法妨害などの罪に問われ有罪判決を受けていた。 【4月24日 AFP】AFPBB News
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今回量刑が言い渡された二名を含め、「雨傘運動」を主導したとされる活動家リーダーら9人は4月8日に有罪判決が言い渡されていました。
“9人はまれにしか使われない英植民地時代の法律に基づき公的不法妨害などの罪に問われ、全員少なくとも1つの罪状で有罪となった。”【4月9日 AFP】
また、、元学生リーダーで民主活動家の黄之鋒氏も。
****香港「雨傘運動」主導の民主活動家、二審も実刑判決****
香港の若者らが民主的な行政長官選挙の実現を求めて中心部を占拠した2014年のデモ「雨傘運動」で、裁判所の命令に反して当局によるデモ隊の排除を妨害したとして法廷侮辱罪に問われた、元学生リーダーで民主活動家の黄之鋒氏(22)に対し、香港の裁判所は16日、禁錮2カ月の実刑判決を言い渡した。黄氏は判決後、収監された。
黄氏は昨年1月の一審で禁錮3カ月の実刑判決を受け、上訴していた。二審となる今回の判決は、黄氏が犯行当時、未成年だったことを考慮して、1カ月短い禁錮2カ月とした。
雨傘運動をめぐっては、民主的な行政長官選挙の実現に後ろ向きな中国政府に圧力をかけるため、道路など公共の場所の占拠を提唱した香港大の副教授らに対し、香港の別の裁判所が4月、禁錮1年4カ月の実刑判決を言い渡し、副教授らは収監された。【5月16日 朝日】
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今後再び「雨傘運動」ような“不祥事”が起きないように、中国本土政府の意を受けて、香港当局は徹底した責任追及を行う構えのようです。
【「高度な自治」を捨て去る自殺行為ともなりかねない「逃亡犯条例」改正案】
その香港で、「一国二制度」・高度な自治を形骸化をめぐりホットな論争となっているのが、香港から中国本土への犯罪容疑者の引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」の改正案審議です。
****香港で「13万人」がデモ 犯罪人移送の条例改正反対****
香港民主派は28日、中国本土への容疑者引き渡しが可能になる条例改正に反対するデモを行った。
主催者発表で約13万人(警察発表は2万2800人)が参加。大規模デモは3月末に続き2回目で、前回の1万2千人(同5200人)より大幅に増加、市民の反発が強まっている。
香港立法会(議会)では、香港当局が拘束した容疑者の中国本土への引き渡しが可能となる「逃亡犯条例」改正案を審議中で、政府は7月の休会前に可決させたい考え。デモ参加者らは条例改正方針の撤回を求め、立法会まで行進した。【4月28日 共同】
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****香港議会で衝突、議員ら負傷 犯罪人移送条例巡り対立****
香港立法会(議会)で11日、中国本土への容疑者引き渡しが可能になる「逃亡犯条例」改正案の審議を巡り、民主派と親中派の議員がもみ合いとなり、議員ら数人が床に倒れるなどして負傷した。
民主派は、条例が改正されれば、中国共産党に批判的な活動家らが本土に引き渡される恐れがあるとして猛反発しており、混乱が深まっている。
11日は法案委員会が開催される予定だったが、中止となった。香港メディアによると、民主派と親中派は法案委員長選出などを巡り対立。前日から議場に泊まり込んでいた民主派議員らと、親中派議員らが複数回、激しくもみ合った。【5月11日 共同】
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いわゆる「民主派」だけでなく、「親中派」の議員・経済界にも異論があるようです。
****「中国へ容疑者移送」香港紛糾 条例審議入れず、親中派からも異論****
中国本土から逃げてきた刑事事件の容疑者を中国側に引き渡せるようにする香港の「逃亡犯条例」改正案に反対する動きが、勢いを増している。
市民の自由の制約につながるとして、中国に批判的な民主派に加え、親中派や外国からも異論が噴出。中国政府は譲歩を認めない方針とされ、板挟みの中で立案した香港政府の基盤が大きく揺らぐ事態となった。
14日早朝、香港立法会(議会)。逃亡犯条例改正案を審議する委員会の会議室には、普段はスーツを着ている民主派議員がTシャツ姿などのラフな格好で集合した。親中派議員が入室すると「違法開催だ」と叫び、激しいもみ合いに。委員会はわずか10分ほどで中止された。
香港政府の改正案提出から約40日が経つが、民主派の反対で委員長さえ選べず実質審議に入れていない。
親中派が多数を占める立法会で民主派が勢いづく背景には、「中国当局が事件をでっちあげ、香港の民主活動家が中国本土に引き渡される」との主張が市民の間に浸透しつつあるからだ。
4月末のデモ行進には主催者発表で約13万人(警察発表は約2万3千人)が参加し、2014年の民主化デモ「雨傘運動」以降、最大級のデモとなった。
親中派も一枚岩ではない。「中国とのビジネス上のトラブルが刑事事件として立件される」と警戒する経済界を支持基盤とする一部政党は、審議の先送りを公然と主張している。
14日に発表された香港大の世論調査によると、林鄭月娥行政長官の支持率は44・3%に急落。17年7月の就任後、最低の水準で、政権運営は試練を迎えている。
米国議会が今月、「香港にいる米国人のリスクが高まる」とする報告書を発表するなど、国際的な懸念も高まっている。
香港政府が掲げてきた条例改正の必要性にも、疑義が向けられた。昨年、台湾で起きた殺人事件で容疑者の香港人が香港に戻り、台湾当局の訴追を免れたことが改正の理由だが、台湾当局は今月9日、「香港から台湾人が中国本土に引き渡される」として、改正案に反対の立場を表明した。
■成立へ中国政府圧力
各方面から「集中砲火」を浴びる香港政府だが、今年7月までの成立をめざす方針を変えていない。中国と香港の関係に詳しい香港の外交筋によると、中国政府から民主派に譲歩しないよう圧力を受けているという。政府の方針が民意に振り回される事態が本土に飛び火することを警戒しているためとみられる。
実際、香港では03年、国家の分裂や政権転覆につながる動きを禁じた「国家安全条例」の立法に反対する大規模なデモが発生し、撤回に追い込まれた。
香港で最も市民の対立が大きい政治テーマになり、香港政府は中国政府から繰り返し立法化を要求されても慎重な対応を続けてきた。
民主派の活動家の一人は漏らす。「国家安全条例で摘発されても香港の刑務所に収監されるだけだが、逃亡犯条例改正案が成立すれば身柄が中国に引き渡されることもある。逃亡犯条例の方がはるかに脅威だ」
中国本土と香港の司法制度の違いは大きい。中国では司法機関が共産党の指導下にあり、最高裁長官にあたる最高人民法院の院長は17年、「司法の独立など西側の誤った思想は断固拒否する」と発言した。中国は死刑の執行数が世界で最も多いとされるが、香港は93年に死刑制度を廃止している。【5月15日 朝日】
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香港政府は条例が改正されても、中国からの「政治犯」移送の要請は拒否するとしているようですが、香港政府の意向など中国本土政府の前では何の意味もなさないでしょう。
****逃亡犯条例 香港の自由守りぬけ****
香港立法会(議会)が、犯罪人の中国本土への引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」改正審議で紛糾している。改正されれば、香港で中国批判の言論は影を潜め、政治的自由は形骸化しかねない。
(中略)香港政府は条例が改正されても、中国からの「政治犯」移送の要請は拒否するとしている。だが、中国本土では多くの民主、人権活動家が政治犯罪とは別件で勾留・逮捕されており、香港政府の説明は説得力を欠く。
さらに、外国人の香港への旅行者やビジネスマンらも中国本土への引き渡し対象となり、ことは中国と香港だけの問題にはとどまらない。
米国政府は五月、条例改正について「米国と国際企業にとって、安全なビジネス環境としての香港の優位性が失われる」とする報告書を発表した。中国に批判的な外国人にとっても、香港は安全な場所とはいえなくなる。
国際社会が、香港に対する中国の政治的干渉に疑心暗鬼になるのは、香港返還の際に国際公約したはずの「一国二制度」を骨抜きにする振る舞いをだんだんと露骨にしているからである。
二〇一七年の共産党大会の演説では、中国の習近平国家主席は「香港の全面的な管轄権を握り締める」とまで言い切った。
香港住民の動きに目を移せば、挫折はしたものの、香港住民は一四年、行政長官選挙の民主化を求める七十九日間の「雨傘運動」を闘い抜いた。
抗議デモに続き、立法会占拠の動きもある。暴力は避けねばならぬが、香港の民主的な自由を守ろうとする住民の気持ちが失われていないのは心強い。
条例改正は、香港自身が「高度な自治」を捨て去る自殺行為に近いように映る。立法会には丁寧で真剣な議論を望みたい。【5月18日 東京】
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【朝日】にある改正案に反対する親中派というのがどの程度の数なのか知りませんが、全体的には立法会は親中派が多数を占めていますので、数の力で押し切る可能性が大きいようにも思えます。
ここまで問題が大きくなった以上、習近平指導部も今更後には引けないでしょう。
そうなると、いよいよ香港の政治的独自性は・・・ということです。
現状でも香港当局は中国本土の意向で動いており、「高度な自治」は形骸化しています。
****天安門事件30年、陰る香港 国際会議断念、会場を台湾に変更 民主派団体、入境拒否を懸念****
1989年6月に起きた中国の天安門事件から30年を迎えるのを前に、中国の民主化の現状などを話し合う国際フォーラムが18日、台北で始まった。
主催者側は香港での開催を希望していたが、中国に批判的な人物に対する香港当局の入境拒否が近年相次いでいることを考慮し、断念した。
主催は香港の民主派団体「香港市民支援愛国民主運動連合会」など。この日は、当時の学生リーダーで、事件後に出国した王丹氏らが登壇し、明らかになっていない事件の死傷者数などについて議論した。同会によると、登壇者で現在も中国に住む人はいないという。
香港は高度な自治が保障される「一国二制度」が適用されている。しかし、中国の習近平(シーチンピン)政権は香港と台湾が独立運動で連携するのを警戒し、香港当局への圧力を強化。近年は、政治的な理由とみられる入境の拒否が相次いでいる。
王氏も過去に香港当局から入境を拒まれた経験がある。このため、主催者側は、フォーラムの他の出席者も香港入りできないことを危惧し、香港での開催をあきらめたという。台湾側の共催団体「華人民主書院」の曽建元・主席は取材に、「中華圏において民主化を果たした台湾は、中国の将来や変革を議論するのに適した場所だ」とアピールした。
香港政治に詳しい立教大の倉田徹教授はフォーラムが台湾で開催された経緯について、「欧米の人権団体が拠点を置き、中国の人権や民主化の情報を国際社会に英語で発信できる香港で、言論や研究活動が不自由になることは非常に問題だ」と懸念を示した。【5月19日 朝日】
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「逃亡犯条例」改正案が成立すれば、中国に批判的な人物は入境拒否ではなく、拘束され「中国当局が事件をでっちあげ、中国本土に引き渡される」危険性も。