孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

米軍特殊作戦部隊「英雄」の犯罪 米軍による拘束者虐待 認めることが難しい戦争の実態・自国の非

2019-05-09 22:27:37 | アメリカ

(「ブルーストーン42」はアフガニスタンでの英軍爆発物処理班を舞台に、戦争の日常を笑い飛ばすコメディで楽しめましたが、現実には笑えない話が多々・・・)

 

【戦場の「狂気」】

「殺すか、殺されるか」という極限状態に置かれた戦場に「狂気」はつきものです。
下記は2010921日ブログからの再録です。

****狂気に蝕まれる精神 ソンミ、ハディサ・・・・*****
極限状態に置かれる戦争においては、しばしば常軌を逸した民間人殺害が起こります。
ベトナム戦争での「ソンミ村虐殺事件」は、米軍が国際的批判にさらされ支持を失い、国内的にも反戦運動のシンボルにもなりました。


“1968
316日に、南ベトナムに展開するアメリカ陸軍のうち第23歩兵師団第11軽歩兵旅団・バーカー機動部隊隷下、第20歩兵連隊第1大隊C中隊の、ウィリアム・カリー中尉率いる第1小隊が、南ベトナム・クアンガイ省ソン・ティン県ソンミ村のミライ集落(省都クアンガイの北東13km 人口507)を襲撃し、無抵抗の村民504人(男149人、妊婦を含む女183人、乳幼児を含む子ども173人)を機関銃の無差別乱射で虐殺。集落は壊滅状態となった【ウィキペディア】

イラク戦争では「ハディサ事件」が起きています。


“2005
1119日、バグダッドから西に260キロにある「スンニ派三角地帯」の町ハディサで起きた。同地をパトロール中の米海兵隊員が、同僚1人が道路脇の爆弾で死亡したのをきっかけに、子どもを含む民間人の男女24人を殺害した。07531 AFP
両事件ともに、当初軍内部報告では隠ぺい工作が行われています。
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アフガニスタンでも。

 

****米兵が市民に銃乱射、15人死亡 アフガン南部*****
アフガニスタン南部カンダハル州で11日、駐留米兵が、基地から外出して民間人に向かって銃を乱射した。アフガン国防省によると、子どもを含むアフガン人の15人が死亡、9人が負傷した。米兵は、同州パンジュワイ地区の米軍基地付近の民家3軒を襲撃したという。

アフガンに展開する米軍主体の国際治安支援部隊(ISAF)は、この米兵を拘束したと発表した。「非常に残念な事件」との声明を出したが、動機など詳細は調査中として明らかにしていない。(後略)【2012311日 朝日】
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【「英雄」の犯罪 保守層は反発、トランプ大統領は・・・・】

イラクでの対IS作戦における米特殊部隊の「英雄」の行動も、そうした「狂気」の“氷山の一角”でしょうか。

 

****米特殊部隊の「英雄」 対IS戦での戦争犯罪で軍法会議に トランプ氏に介入要請も****

10代の捕虜を刺し殺し、民間人の少女や老人を狙撃し、住宅街に向けて重機関銃を乱射──2017年にイラク北部でイスラム過激派組織「イスラム国」掃討作戦を展開していた米海軍特殊部隊「シールズ」のエリート隊長が、これらの戦争犯罪に手を染めたとして今月、軍法会議にかけられる。

 

共和党議員の中には、ドナルド・トランプ大統領の介入を求める動きもある。

 

シールズの特殊作戦部隊を率いてイラクやアフガニスタンで数々の戦闘任務をこなし、勲章を授与されたエドワード・ギャラガー隊長は、軍法会議への出廷が命じられた今も多くの米国人にとっては英雄だ。保守系のFOXニュースの扱いも英雄で、その存在は来年の米大統領選で争点となる可能性すらある。

 

米共和党の議員約40人は公開書簡で、今月28日の軍法会議開廷までギャラガー被告を保釈せよと要求。議員の1人は公訴棄却を求め、トランプ大統領に介入するよう要請している。

 

トランプ大統領もツイッターへの投稿で、銀星章の叙勲候補者にもなったギャラガー被告の「これまでの国家への奉仕に敬意を表し」、軍法会議開廷までの拘束状況が「ただちに」緩和されるよう介入したことを明らかにした。

 

シールズ・チーム7の小隊長だったギャラガー被告は昨年9月に逮捕され、米サンディエゴ海軍基地で拘束されている。罪状は計画殺人、殺人未遂、司法妨害などで、有罪と認定されれば終身刑を言い渡される可能性がある。被告は全ての罪状を否認している。

 

専門紙ネービー・タイムズと米紙ニューヨーク・タイムズは、ギャラガー被告の素行に震え上がった小隊の複数の隊員が上官に訴え出たが、隊長を告発すれば自分たちのキャリアに傷がつくぞと警告されていたと報じた。

 

■隊長に大迷惑、ISと戦うどころでなかった隊員たち

訴状によれば、隊員たちは戦争犯罪の疑いがあると上官に何度も報告したが、聞き届けられなかったという。うち7人の隊員は、問題を公にすれば報復を受けるだろうと言われた後、どうにか軍上層部に懸念を伝えることに成功したと証言している。

 

ギャラガー被告が戦争犯罪を犯したとされるのは2017年、イラク北部の要衝モスルをISから奪還する作戦で米特殊部隊がイラク軍と共闘していたときだ。

 

昨年11月の査問会では、被告が率いていたアルファ小隊の隊員らが、被告の振る舞いに非常に迷惑するあまり、被告の狙撃銃に細工して照準が定まらないようにしたり、被告が民間人を銃撃する前に警告発砲して人々を逃がしたりしていたと証言した。

 

「隊員たちは、ISISISの別称)と戦うよりも、民間人の保護により多くの時間を費やしていたと証言した」と、米海軍犯罪捜査局の特別捜査官は査問会で述べている。

 

ニューヨーク・タイムズによれば、ギャラガー被告は殺害した人数を自慢し、犠牲者の中には女性も複数含まれていたという。

 

また、20175月にイラク軍が負傷したISの少年兵を拘束した際には、15歳前後と思われるこの少年兵を衛星兵が手当てしているところへギャラガー被告が無言で割って入り、首と脇腹をナイフで何度も刺したと隊員2人が証言している。

 

その後、被告は片手で少年兵の頭をわしづかみ、もう一方の手にナイフを握って記念撮影をした。さらに、少年兵の遺体をまたいで立ち、部下の一人に米国旗を持たせて再入隊式の宣誓のまね事をしてみせたという。 【59日 AFP】

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被告は全ての罪状を否認しているとのことですから、現段階での拙速な判断はできません。

ただ、冒頭にあげたような事例を見れば、戦場にあって問題とされているような行為があったとしても不思議ではありません。

 

今回のケースで微妙なのは、被告が勲章を授与された「英雄」である点です。

 

大統領選挙再選という点からすべてが判断されるような現在のトランプ政権にあって、保守層の「英雄」擁護の意向をトランプ大統領が無視するとは思えませんので、今後、何らかの形で介入・関与して保守層へのアピールにつなげるのではないでしょうか。

 

【米軍の犯罪の起訴を検討したICCを力でねじ伏せたアメリカ】

戦争における「犯罪行為」を問われているのはギャラガー被告だけではありません。

 

しかし、その告発が国際的な他者から行われた場合に反発・激怒するのは、イスラム系少数民族ロヒンギャを虐殺したとして国際的批判を浴びるミャンマー国軍も、世界の民主主義をリードする(“してきた”と過去形にすべきか)アメリカも、かわりないようです。

 

昨年、米軍関係者がアフガニスタンで拘束者を虐待した疑いについて、国際刑事裁判所(ICC)起訴を検討していることが報じられましたが、トランプ政権はこれに激怒しました。

 

****トランプ米政権、国際刑事裁判所に制裁も アフガンでの戦争犯罪疑惑めぐり****

トランプ米政権は10日、国際刑事裁判所(ICC)が米国民への起訴を実施するならば、米政府はICCに制裁を科す方針を明らかにした。ジョン・ボルトン米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)がワシントンで発言した。

 

ICCは現在、米軍関係者がアフガニスタンで拘束者を虐待した疑いについて、起訴を検討している。

これについてボルトン補佐官はICCを「正規の裁判所ではない」と反発し、米国は「自国民を守る」ために何でもする用意があると述べた。

 

ICC2002年に発足した国際犯罪を裁く法廷で、123カ国が加盟しているが、米国は含まれていない。

 

ボルトン補佐官はなぜ怒っている

ボルトン氏は以前からICCを公然と非難してきたが、10日の演説では特に2つの分野について激しい批判を展開した。

 

ICCのファトゥ・ベンソーダ検察官が昨年、アフガニスタンでの戦争犯罪について全面捜査を申請したことが、論点の1ついだった。これが認められれば、米軍や米情報当局の関係者による戦争犯罪も捜査対象になる。

 

この件についてボルトン氏は、ICCの設置法「ローマ規定」の締約国はアフガニスタンを含めて、そのような捜査を求めていないと主張した。

 

ボルトン氏が問題視する2つ目の点は、パレスチナ自治政府がガザ地区やヨルダン川西岸地区における人権侵害疑惑でイスラエルをICCで訴えようとしている件。イスラエルはこれについて、パレスチナ側による政治的な動きだと批判している。

 

ボルトン氏は、トランプ政権がワシントンのパレスチナ代表部を閉鎖を決定したのは、パレスチナ側のこうした動きが原因の一部だと話した。

 

ボルトン補佐官はほかにもICC批判を展開した。その主な内容は次の通り――

ICCは「米国の主権と国家安全保障」を脅かしている

ICCでは抑制と均衡が機能せず、「定義があいまいで異論のある犯罪に対して司法権を主張し」、「残虐な犯罪の抑止や制裁」ができずにいる

米政権は「合衆国憲法を超越した権威を認めない」ため、ICCは「不必要」

 

補佐官はその上で、「我々はICCに協力しない。ICCを支援しない。ICCに加盟しない。勝手に滅びればいい。我々にとって事実上、ICCはすでに死んでいるも同然だ」と述べた。

 

サラ・ハッカビー・サンダース大統領報道官もボルトン氏を支持し、ドナルド・トランプ米大統領は「あらゆる手段を使って米国民や同盟国の市民をICCの不当な起訴から守るだろう」と話した。(中略)

 

国際刑事裁判所とは?

ICCは、集団虐殺(ジェノサイド)や人道に対する罪、戦争犯罪などに関わった人物を裁く国際組織で、該当の国家当局が捜査できない、あるいはしない場合に介入する。

 

2002年にローマ規程に調印する形で発足したが、米国は当時のジョージ・W・ブッシュ大統領が反対していたため、上院が批准せず、加盟しなかった。ボルトン補佐官はブッシュ政権の国務省次官で、2005年から1年余り、国連大使を務めた。

 

ローマ規程は現在、英国を含む123カ国が批准しており、非締約国は70カ国以上。バラク・オバマ前米大統領はICCとの協力関係を模索していた。

 

ICCをめぐっては、アフリカ人の扱いが不公平だとして、複数のアフリカ諸国が脱退を呼びかけている。【20180911日 BBC】

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米政権は「合衆国憲法を超越した権威を認めない」・・・・だから国連もEUも嫌いだし、温暖化やイラン核合意などの国際合意からも勝手に離脱するということですが、世界最大の影響力を有する国にそう言われると、国際社会にとっては不幸なことです。

 

その後も

“米兵など捜査ならICC判事らの逮捕・訴追も、ボルトン米大統領補佐官”【2018911日 AFP】

“米、アフガン駐留米軍など調べる国際刑事裁職員へのビザ発給制限へ”【316日 AFP】

といったアメリカ側の強い対応にICCも怯んだのか、下記のような結果になったのは周知のところです。

 

****アフガンでの米兵の戦争犯罪、正式捜査認めず ICC****

国際刑事裁判所(ICC、オランダ・ハーグ)は12日、アフガニスタン戦争中に駐留米軍兵士らが関わった疑いがもたれている戦争犯罪に関する事件について、正式捜査を認めないことを決めた。

 

「犯罪があったと考える合理的な根拠はある」としながら、予備捜査が始まった2006年から時間が経ち、「捜査、訴追が成功する見込みは極めて限定的だ」と説明した。

 

ICCで犯罪捜査を担当する検察官は17年、米兵や情報機関員がアフガン戦争中に拷問などの戦争犯罪に関与した疑いがあるとして、正式捜査を申請した。これに、ICCに未加盟の米政府は強く反発。今年3月、ICCの捜査関係者の査証(ビザ)を制限する対抗措置を取った。

 

トランプ米大統領は「愛国者(米兵)だけでなく、法の支配にとって大きな国際的な勝利だ。決定を歓迎する」との声明を発表。「米国やイスラエル同盟国の国民を標的に訴追するなら、即座に強硬な措置をとる」とした。

 

国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは声明で「ICCは米国の脅しに屈した。犠牲者を見捨てる衝撃的な決定で、ICCに対する信頼をさらに低下させるだろう」とICCの決定を非難した。

 

ICCは、国際法に基づき、非人道的な行為をした個人を裁く国際機関で、日本も加盟。ロシアや中国も自国の軍事行動が制限されることを嫌って加盟していない。【413日 朝日】

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【自らの非を認めることの難しさ】

何事につけ、自分の非を他者から指摘・批判されるのは不愉快なことではありますが、力でねじ伏せてしまうのも見苦しいというか、大人げない感が。

 

自分・自国の行為については、どうしても評価が甘くなるのは当然のことでしょう。

 

****シリア:米有志連合の攻撃でラッカ市民1600人が犠牲に****

米国主導の有志連合は、シリア・ラッカでの作戦で多数の民間人死傷者を出した。

 

アムネスティとエアウォーズは、多角的、徹底的な調査で、紛争に巻き込まれた民間人の死傷者状況を、2年がかりで追跡し、双方向型ウェブサイト上で、その調査結果を公開した。米、英、仏各軍は、全死者数の1割についてその責任を認めたが、9割を否定している。

 

有志連合は住宅街を含むラッカの町を破壊し尽くした。20176月から10月までの5カ月間で数千回の空爆、米軍は数万回の砲撃を行い、合わせて民間人1,600人以上の命を奪った。

 

3カ国は、1,600人超の民間人犠牲者を出した事実を認め、なぜこれほど多数の市民を巻き込んでしまったのか、その要因を徹底的に調査し、今後の教訓にすべきである。(後略)【426日 アムネスティ国際事務局】

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それだけに、自国愛の感情に流されることなく、他者の批判には耳を傾ける必要があります。

 

日本も、「人の振り見て我が振り直せ」といったところでしょうか。しかし今では、そうした考えは「自虐」として嘲りの対象にしかならない風潮があり、大きく道を誤る原因にもなりかねません。

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