孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インド  「世界史上最大の規模」の総選挙で与党「圧勝」 残された課題も

2019-05-23 22:45:17 | 南アジア(インド)

(インド・ベンガルール(バンガロール)で23日、モディ首相のマスクをかぶり、総選挙での与党インド人民党の勝利を喜ぶ支持者ら【523日 朝日】)

 

【予想以上の与党「圧勝」】

「世界最大の民主主義国」インドの「世界史上最大の規模」の総選挙は、4月11日から約6週間かけて地域ごとに7回に分けて行われました、日本の約9倍の国土に投票所が約100万カ所設置されたとか。

 

候補者は8000人、有権者は9億人。選挙に要する総費用は70億ドル(7700億円)とも。

正規の選挙運営費用以外に以下のようなものも。

 

もちろん違法ですが、多くの候補者は票獲得のため現金や景品を配布するとか。景品の中にはニワトリも。

押収された現金・景品は540億円相当。

 

そのほか、対立政党の有力候補を妨害するために同じ名前の候補者を擁立するのに要する費用、防弾仕様の特注車、対立政党の選挙活動を妨害するためにチャーター機やヘリを早い段階で事前に押さえてしまうための費用・・・・。【522日 BBCより】

 

とにもかくにも選挙が終了し、その開票が23日に全国一斉に行われましたが、こちらは電子式のため即日で結果がでます。

 

そしてその結果は、報じられているようにモディ首相率いる与党・インド人民党(BJP)が予想以上の「圧勝」を果たしたようです。

 

****与党圧勝、モディ首相続投へ=「共に繁栄を」と宣言―インド総選挙****

5年の任期満了に伴うインド下院(定数545)選は23日、開票され、地元メディアによると、与党・インド人民党(BJP)が単独で過半数議席を確保し、圧勝した。総選挙での勝利で、ナレンドラ・モディ首相(68)の続投が確実となった。

 

モディ氏はツイッターに「われわれは共に成長し、繁栄し、強いインドを築く。インドは再び勝利する」と投稿し、勝利を宣言した。

 

BJPは、2014年の前回総選挙で、西部グジャラート州を州首相として経済発展させたモディ氏の人気を背景に単独過半数の282議席を獲得し大勝した。

 

BJPは当初、今回は議席を減らすものの与党連合として過半数を確保すると報じられていたが、インドメディアによれば、単独でも前回を上回る議席を獲得する見通しとなった。

 

インドはモディ氏の就任以降、毎年約7%の経済成長を遂げてきた。モディ氏は16年、汚職や不正蓄財撲滅を目指し、高額紙幣の廃止を発表。17年には、物流の円滑化を目指し、州ごとに異なっていた間接税を統一するなど都市部の商工業者を中心に支持を集めた。

 

経済成長から取り残された地方部などで一時、支持を減らしたが、今年2月に48年ぶりに隣国の宿敵パキスタンを空爆し、強い指導者像を見せることで巻き返した。

 

与党連合優勢の報道を受け、23日の主要株価指数SENSEXは過去最高値を更新。出口調査結果が報道される前の今月17日の終値と比べ、約6%上昇した。

 

最大野党・国民会議派は、3人の首相を輩出した名門出身のラフル・ガンジー総裁(48)を中心に、農産物価格の低迷に悩まされている地方部で支持固めを図った。

 

ただ、国政レベルでの選挙準備が遅れ、「早い時期から信頼できる政策目標を掲げ、分かりやすく説明すべきだった」(政治評論家)と指摘された。ラフル氏がモディ氏に代わる首相候補として存在感を示すこともできなかった。【523日 時事】 

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【昨年来の退潮傾向を「ヒンズー至上主義」全開で立て直し】

20181214日ブログ“インド  総選挙前哨戦の州議会選挙で与党敗北 宗教を前面に押し出して態勢立て直し

2019210日ブログ“インド  国内外に批判も、モディ首相の北東部訪問  ばらまき予算に統計不正、露骨な総選挙対策

でも取り上げたように、「毎年約7%の経済成長」とはいいつつも、日用品価格の上昇する一方で農産物価格は下落し、農民の生活が困窮するなど、必ずしも順調ではなく、前哨戦の州選挙では5州で全敗、退潮が明らかになっていました。

 

失業者数も高いレベルにあります。

 

****インド、201618年に500万人以上が失業=調査****

インドのベンガルールにある私立アジム・プレムジ大学が16日発表したリポートで、2016─18年に職を失ったインド人は少なくとも500万人に達し、都市部に住む若い男性が最も打撃を受けていることが分かった。

インドでは、5月19日に総選挙が終了する予定で、モディ政権は雇用を含む経済業績の擁護に躍起となっている。

リポート「2019年、インドにおける労働の現状」の筆頭執筆者は「2016年以降、高等教育を受けた人の失業が増加しているが、それに加えて、相対的に教育水準が低く(非正規の可能性が高い)人の失業も増加し就業機会が狭まっている」と述べた。

ただリポートは、この期間に創出された雇用は明らかにしていない。

2016年11月にモディ首相が脱税抑制と電子取引促進のため高額紙幣を突然廃止したことで中小企業が打撃を受け、レイオフの波が発生した。さらに、17年に「物品サービス税(GST)」が導入されると、一部企業にとって困難が増幅する結果となった。

リポートによると、失業者の大半は高等教育を受けた20─24歳の若年層。リポートは「たとえば都市部の男性の場合、この年齢層は労働年齢人口の13.5%だが、失業者全体に占める比率は60%に上る」としている。

公式統計で過去5年間の経済成長率が7%前後となっているにもかかわらず、モディ首相は数百万人の若年失業者の雇用に十分な措置を講じていないと批判されている。

ビジネス・スタンダード紙は2月、政府が公表を拒んだ公式調査として、2017/18年度の失業率は少なくとも過去45年間で最高水準に達したと伝えた。

シンクタンクのインド経済モニタリングセンター(CMIE)がまとめたデータによると、今年2月の失業率は7.2%と、2016年9月以来最高に上昇。前年同月の5.9%からも上昇した。【418日 ロイター】

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そのため、モディ首相・与党は総選挙に向けた態勢立て直しに躍起となり、そこで用いられた手法が、それまでも顕著だった「ヒンズー至上主義」を更に加速させることで多数派ヒンズー教徒有権者にアピールする手法でした。

 

****インド与党の「ヒンズー至上主義」拡大 「差別」「暗殺」不寛容な社会に****

4月11日に投票が始まったインド総選挙(下院議席545)は今月23日の一斉開票まで続く。インドは人口13億人を超える「世界最大の民主国家」。

 

だが、2014年の前回総選挙で誕生したヒンズー至上主義のモディ政権下では、多様な価値観への不寛容さが広がった側面も大きく、社会の分断が深まっている。

 

17年9月5日午後8時過ぎ。インド南部の大都市ベンガルールの閑静な住宅街に4発の銃声が響いた。自宅ドア前で銃弾に倒れたのは、著名なジャーナリストでヒンズー至上主義やモディ政権を批判してきたガウリ・ランケシュさん(当時55歳)。

 

事件では至上主義者16人が逮捕され、容疑者の関係先からはガウリさんを含め至上主義に批判的な計34人の著名な俳優らが掲載された複数の「暗殺リスト」も見つかった。この一件は至上主義者の活発化を象徴する出来事の一つとされている。

 

「ヒンズー至上主義者はいつの時代も活動してきたが、決して社会の『主流』ではなかった。だが今は大手を振って活動している」。ガウリさんの妹で映画監督のカビタさん(54)はモディ政権発足以降の社会の風潮をこう説明する。

 

ガウリさんは殺害前からインターネットなどで「非愛国者」だとして中傷されてきた。カビタさんは言う。「宗教、言語、文化といった多様性や寛容さがインドの本質だが、異なる意見を許さない風潮が広がっている。姉は不寛容さが進む社会に殺された」

 

17年には南部ケララ州で中央政府が、ヒンズー至上主義に批判的な映画の上映を中止させる事態も起きた。ある大手紙記者は「政府やヒンズー至上主義の批判はもちろんできる。だがどこで襲われるか分からない怖さがあり、自主規制する傾向にある」と話す。

 

モディ氏のインド人民党が支配する一部の州では歴史教科書の書き換えも進む。世俗主義を重視した初代首相ネールの記述が削除され、ヒンズー至上主義者の記述が加わるなどした。また一部の大学では教員が政府からの圧力や嫌がらせを懸念し、自由に研究テーマを選べない状況も出ている。

 

モディ政権は経済成長を進めるための改革路線と同時に、イスラム教徒以外の移民にだけ国籍を付与する法案の成立を目指すなど「差別的」な政策も進める。

 

ガウリさんの友人のコラムニスト、シバ・スンダル氏は「モディ政権は改革が難航すると、ヒンズー教徒の宗教感情に訴えて求心力の維持を図ってきた」と指摘。「政府が差別的な政策を進めれば、至上主義者が勢いづくのは当然だ」と批判した。

 

 ◇政権支える実働部隊「民族奉仕団」

与党インド人民党(BJP)の支持基盤を広げる実動部隊となっているのがヒンズー至上主義団体・民族奉仕団(RSS)だ。RSSがBJPを生み、政権を握ったBJPがRSSの勢力拡大を支える関係にある。

 

「母なるインドに勝利を!」。3月下旬の日曜朝7時。中間層が多く住むニューデリー郊外の公園に男性たちの大きな声が響き渡った。5歳〜60歳代の約30人が、ヨガやカバディ(インド伝統スポーツ)に取り組む。これは「シャーカー(支部の意味)」と呼ばれ、RSSが毎日2回行う訓練だ。

 

肉体訓練の後は神話や歴史についての講話や、政治や社会問題を議論し、「ヒンズー文化や国家への忠誠心を学び国民にふさわしい人物を作る」(RSS幹部のアルン・クマール氏)。シャーカーの数はモディ政権発足時の約4万から今年には6万近くまで増えた。

 

「仕事に忙殺され生きる意味を見失っていたが、RSSはそれを教えてくれた」。IT技術者のジャンク・ラジナジャニアさん(34)は15年にRSSに入った。

 

コラムニストのシバ・スンダル氏は「インド人の精神はいまだに宗教的。西洋化が進む中、中間層の若者が抱える疑問や不満、不安感をRSSがすくい上げている」と見る。

 

RSSは1925年に発足。インドを支配したイスラム王朝や英国を「よそ者」とし、古来のヒンズー文化を基盤とする強固な国家の形成を目指す。51年には政治部門としてBJPの前身政党を設立。産業界などさまざまな分野に事実上の傘下団体を持つ。モディ氏らBJP中枢はRSS出身だ。

 

こうしたヒンズー至上主義の拡大の中で進むのが、モディ政権の支持不支持を巡るインド社会の二極化だ。

 

著名な政治学者のカマル・ミトラ・チェノイ氏は「前回総選挙でモディ氏を支持した人の多くは経済成長や汚職対策を期待した。至上主義者がここまで勢いづくとは思っておらず、警戒感も広がっている」と説明。「建国の父ガンジーが目指した社会の統合はより遠のいている」とも強調した。【517日 毎日】

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今回選挙結果を見る限り、モディ首相のヒンズー至上主義重視は奏功したようです。

ただ、それがインドの将来にとっていいことかどうかは大いに疑問ですが。

 

【政治からも排除されがちな最下層ダリットやイスラム教徒】

冒頭【時事】にもあるように、宿敵パキスタンに強い姿勢で臨む姿を国民にアピールできたことも勝利に大きく影響したと思われます。

 

3月末にパキスタンを旅行したましたが、インド・パキスタンの間の衝突ついてパキスタンの方と話をすると「まあ、モディ首相は総選挙前だからね・・・」と早期の改善は見込めないとの認識を示していました。

 

冒頭に「世界史上最大の規模」の総選挙と書きましたが、そこから排除されている人々が存在することは、インド社会の根深い問題です。

 

****根強いカースト、総選挙に影 有権者9億人、インド23日開票****

(中略)

 発言力増す最下層、優先制度の功罪

「モディ首相は上位カーストや金持ちのためにしか働かない。ダリトのためには何もしなかった」。インド北部ウッタルプラデシュ(UP)州ジャウンプル。カースト社会で最下層のダリトでつくる大衆社会党(BSP)のマヤワティ党首(63)がだみ声で訴えると、40度を超える炎天下で支持者約3万人が両手を上げ「マヤワティ万歳」と応じた。(中略)

 

ニューデリー郊外のスラムで育ったマヤワティ氏が頭角を現したのは、小学校教師をしながら法律の勉強をしていた1977年。政府の集会で「ハリジャン」(ガンジーが使った言葉で「神の子」の意味)を連発した閣僚に対し、マヤワティ氏が壇上に行き「それなら上位カーストは悪の子なのか」と鋭く批判して注目された。84年のBSP設立に参加。UP州首相を計4期務め、「ダリトの女王」と呼ばれる。

 

同州は人口2億人を超え、最大の80議席を選出する重要州だ。今回マヤワティ氏は、ダリトの上に位置する「その他後進諸階級(OBC)」のカースト、ヤダブを中心につくる社会主義党(SP)とともに下位カースト連合を24年ぶりに組み、モディ氏への批判を強める。(中略)

 

ダリトの発言力が高まってきた背景には、インド政府の「留保制度」がある。過酷な差別を受けてきた下位カーストや少数民族に対し、政府が公務員採用や大学進学で設けた優先枠のことだ。

 

選挙では留保選挙区も全国に84カ所ある。選挙区内にはダリトでない有権者も住むが、立候補できるのはダリトだけだ。

 

「ダリト優遇政策はもうやめるべきだ。十分彼らは利益を享受してきた」。留保選挙区があるバラバンキに住む弁護士アビシェク・ミシュラさん(22)は、投票を終えてから不満を語った。自身はカースト最高位のバラモンの出身だ。

 

留保制度には、上位カーストから「逆差別だ」との根強い批判があり、抗議行動や暴動も起きている。比較的上位にあるカーストの人々が自分たちに優先枠を与えるよう求める抗議も相次いでいる。

 

ニューデリーにある民間機関、政策研究センターのラフル・バルマ研究員は「留保選挙区を設けなければ、ダリトで立候補できる人はほとんどいない。これは必要な制度だ。一方、カーストに基づいた政党や選挙区が人々のカースト意識を固定し、社会を分断している側面もある」と話す。

 

 有権者登録に壁、1億人投票できず

北部バラバンキの投票所入り口で6日、主婦ラージ・クマリさん(58)は投票を断られた。名前が有権者リストになかったためだ。インドでは18歳以上の全ての人が有権者として登録する必要があり、その後リストに名前が記され、投票できる。「教育のない私たちに役所の手続きは難しい。代行業者もあるが、払えるお金はない」と話す。

 

民間シンクタンクなどによると、本来記載されるべき有権者でリストに名前がない人は推計で約1億2千万人に上っている。女性やイスラム教徒、下位カーストの人々に多い傾向があるという。

 

クマリさんもダリトの出身。インドの非識字率は約3割に及び、十分な教育を受けられなかった下位カーストの非識字率は特に高い。様々な書類を求められる行政手続きは難しく、役所で賄賂を要求されることもある。

 

「女性は結婚で名字が変わったり、転居したりしても登録し直さない人が多いのではないか」。選挙管理委員会の広報責任者シェイパリ・サラン氏はそう推測する。「選管は毎年、有権者の名前がリストにあるかどうかの確認を各自に求めている。問題は投票日前にそれをしない有権者にある」との立場だ。「有権者数の多さも管理が難しい原因の一つ」とも話す。

 

また、インドでは子の出生後の届け出が徹底されず、管理も行き届いていない。このため自身の身分を証明できない国民が多い。政府は貧困層を正確に把握しきれず、必要な補助金や政策が届かない。

 

そこで政府が2010年から進めているのが、指紋や眼球の虹彩(こうさい)による生体認証を使って登録する個人識別番号「アーダール」の整備だ。ヒンディー語で「基礎」を意味する。全国民に番号を付与し、個人情報を一元管理する。有権者リストの管理も簡単になる可能性がある。

 

投票を拒否される人々を救済する動きもある。ソフトウェア会社レイラブ・テクノロジーズは携帯アプリを開発。有権者リストに名前があるかどうかをアプリで確認し、ない場合は申請手続きを助ける。同社はすでに約4万人を支援したが、うち6割がイスラム教徒やダリトだったという。

 

インド経営大学院アーメダバード校のジャグディープ・チョッカル元教授は「なぜ投票拒否が相次ぐのか、選管は十分な調査も説明もしていない。インドの民主主義の信頼性を根幹から揺るがす事態だ」と話す。(後略)【522日 朝日】

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絶対的貧困が残存するなかでのモディ首相のヒンズー至上主義、成長からも政治からも排除される人々の存在といったものが、以下のようなことも生む土壌にもなるのでしょう。

 

****IS、インドに「ヒンド州」設立を主張 勢力誇示狙いか****

中東の過激派組織「イスラム国」(IS)が、インドに「州」の設立を主張した。10日に声明を出し、インド軍を攻撃したとも明らかにした。

 

ISは先月29日に、約5年ぶりに最高指導者アブバクル・バグダディ容疑者だとする動画を公開したばかり。組織の衰退が進むなか、インドでの「支配領域」の保持を宣言し、影響力を誇示する狙いがあるとみられる。

 

ISは声明で、インドを「ヒンド州」と表現。北部のカシミール州でISの戦闘員がインドの「背教者の軍」と交戦し、殺害、負傷させたとしている。

 

ロイター通信によると、インドでの「支配領域」の主張は初めてだが、具体的な地域や、実際に組織化されているかは不透明だ。(後略)514日 朝日】

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なお、IS515日には「パキスタン州」の設立も表明しています。

 

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