(【11月25日 NHK】 スパイになるよう打診されたとASIOに明かし、今年3月にモーテルの部屋で死亡しているのが見つかった中国系オーストラリア人中国系オーストラリア人ジャオ氏)
【中国の政治力行使への警戒感】
オーストラリアは経済的には中国との関係が極めて強く、輸出では全体の三分の一、輸入でも四分の一弱を中国が占めており、輸出入全体では対中国貿易は日本やアメリカの3倍近い規模になっています。
一方で(“それだけに”と言うべきでしょうか)、政治的には保守派を中心に、存在感を強める中国への反発もあり、以前から中国のオーストラリア政治への影響力行使の疑惑に対する警戒感が存在しています。
****豪州、外国からの政治献金禁止へ 中国の影響力増大を懸念****
ターンブル首相は5日、オーストラリアが外国勢力による政治介入を防ぐ政策の一環として、外国からの政治献金を禁止すると発表。背景には中国による影響力拡大に対する懸念があるとみられる。
外国勢力が、オーストラリアや世界の「政治プロセスに影響を与えようと、これまで前例のない、ますます巧妙な工作を行っている」と、ターンブル首相は首都キャンベラで記者団に語った。また、「中国の影響について懸念すべき報告がある」と指摘した。
世界では約3分の1の国が外国からの政治献金を認めており、オーストラリアや隣国ニュージーランドもそれに含まれる。米国や英国、欧州の数カ国では、こうした献金は禁止されている。
ターンブル首相によると、今回導入する新たな法律は、米国の外国代理人登録法を一部参考にしたもので、外国の介入を犯罪とみなし、外国政府のために働くロビイストに対して登録を義務付ける。
オーストラリアでは、中国政府が影響を拡大しつつあるのではないかとの懸念が高まっており、自国の政治家と中国政府の国益との関係が注目を集めている。
地元メディアのフェアファックス・メディアやオーストラリア放送協会(ABC)は6月、中国の利益を促進するため、中国が組織的に豪州政治への「浸透」工作を行っていたと報じた。中国側は、こうした報道を否定している。
中国外務省の耿爽報道官は、オーストラリアの内政に介入したり、政治資金を使って影響を及ぼそうという意図は中国にないと述べた。「同時に、オーストラリアには偏見を取り払い、中国と中国との関係について、客観的かつ前向きな態度で評価することを求めたい」と、耿報道官は付け加えた。
しかし、野党労働党のサム・ダスチャリ上院議員は先週、党の方針に反して、中国の南シナ海での領有権主張を支持するような発言をした録音が表面化したことを受け、党の幹部職を辞職した。(後略)【2017年12月6日 ロイター】
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そうした中国警戒感がある状況での出来事。
****「スパイを豪連邦議員に」 中国の試みを捜査 オーストラリア*****
中国系オーストラリア人の高級車ディーラーを政治工作員にして連邦議会に送り込もうとしたとされる中国の試みについて、オーストラリア当局が捜査を進めている。情報機関のオーストラリア保安情報機構(ASIO)が24日夜、明らかにした。
豪メディア大手ナイン系列で24日夜に放送された報道番組「60ミニッツ」で、中国の工作員が高級車ディーラーのボー・「ニック」・ジャオ氏に100万豪ドル(約7400万円)を支払い、メルボルンの選挙区から連邦議会選に立候補させようとしたという疑惑を報じた。
ジャオ氏は昨年、スパイになるよう打診されたとASIOに明かし、今年3月にモーテルの部屋で死亡しているのが見つかった。
ASIOのマイク・バージェス長官は24日夜声明を出し、ASIOは以前からこの件について知っており、「積極的に捜査を進めている」と明らかにした。バージェス氏が声明を出すのは異例。
バージェス氏は、ジャオ氏の死も捜査対象になっているため、これ以上のコメントは避けるとした上で、「敵対する外国の情報活動は、依然としてわが国とわが国の安全保障に対する脅威となっている」と指摘した。
オーストラリア議会の情報・安全保障合同委員会で委員長を務めるアンドリュー・ハスティー議員は、「超現実的」で「スパイ小説から飛び出した話のようだ」と述べた。
オーストラリアでは23日に、中国のスパイだったという「威廉王」こと王力強氏が、香港で活動する中国軍の情報将校の身元と、台湾やオーストラリアで行われている活動の内容と資金源に関する詳細な情報を豪当局に提供していたと報じられたばかりだった。 【11月25日 AFP】
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こうした事件を内々に知る立場にあったASIOの元長官が下記のような警告も。
****中国が豪政治の「乗っ取り」企図、保安機関元トップが警告****
中国が水面下で狡猾(こうかつ)に組織的なスパイ活動と利益誘導を駆使してオーストラリア政治体制の「乗っ取り」を企てていると、オーストラリア保安情報機構の元トップが豪紙とのインタビューで警告した。
このインタビューは、今年9月までの5年間ASIOの長官を務めていたダンカン・ルイス氏のもので、22日付の豪紙シドニー・モーニング・ヘラルドに掲載された。ルイス氏がASIO長官退任後にメディアのインタビューに応じるのは初めてだ。
ルイス氏はシドニー・モーニング・ヘラルド紙外信部長とのインタビューで、豪政治関係者は誰もが中国諜報(ちょうほう)活動の標的となる可能性があり、何年間も気付かれないままにその影響が及び続ける恐れがあると警鐘を鳴らした。
「(中国の)スパイ活動や内政干渉は水面下で狡猾に行われている。その影響が表面化するのは何十年後かもしれないが、その時は既に手遅れになっているだろう。ある日、目を覚ましたら、我が国の政府が我が国にとって有益でない決断を下していたということになりかねない」
さらにルイス氏は、中国による乗っ取りは政界にとどまらず、地域社会や財界にも及んでいると指摘。基本的に活動の指令はオーストラリア国外から出ているという。
中国による大規模な利益誘導作戦の例としてルイス氏は、豪政党に多額の献金をしている中国人工作員の存在を挙げ、メディアや大学も標的となっていると警告。「疑心暗鬼を引き起こすつもりはないが、賢明に認識しておく必要がある」と訴えた。 【11月22日 AFP】
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中国側は「妄想に取りつかれている」「でっち上げている」と反発しています。
****豪内政への干渉疑惑、中国は「でっち上げ」と否定****
中国の情報機関が豪連邦議会へのスパイの送り込みを画策していたとされる疑惑を巡り、中国外務省は25日、中国は他国の国内問題に干渉しようと試みたことはなく、その意図もないなどとして疑惑を否定した。
一部の豪テレビ局や新聞は24日、中国の情報機関がメルボルンの高級車ディーラーの男性に対して、連邦議会選への出馬と引き換えに100万豪ドルを提供すると持ち掛けていた、と報じた。(中略)
中国外務省の耿爽報道官は、25日の定例記者会見で、一部の豪メディアは中国の干渉をでっち上げたと強調した。
報道官は、豪州の一部の政治家・組織・メディアが中国に関する問題で「妄想に取りつかれている」とし「いわゆる中国のスパイが豪州に潜入しているといった話を常にでっち上げている」と発言。
「どれほど突拍子のない話であれ、どれほど装いを変えても、嘘は嘘だ」と述べた。【11月25日 ロイター】
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【“中国スパイ” 豪・台湾の政界にも影響】
昨日は、前出【AFP】最後に書かれているように、“中国スパイ”に関する別の話題も。
****中国人スパイ 豪に亡命求める 工作活動の情報と引き換えに ****
香港と台湾などでスパイ活動に関わっていた中国人の男性が工作活動に関する情報と引き換えに、オーストラリアへの亡命を求めていると現地メディアが伝えました。
男性の亡命が認められれば、中国の影響力をめぐって冷え込んだ両国関係がさらに悪化することが予想され、オーストラリアがどのように対応するか注目されます。
オーストラリアの大手紙シドニー・モーニング・ヘラルドなどによりますと、亡命を求めているのは香港と台湾、それにオーストラリアでスパイ活動に関わっていた中国人の男性です。
香港で抗議活動が続くなか、中国軍からの指示で民主派の情報を収集したり、韓国人になりすまして台湾に入り、来年1月に行われる総統選挙に向けた工作を行ったりしたとされています。
男性はこうした工作活動の内容と資金源についての情報や、香港で活動する中国軍の幹部の情報をオーストラリアの情報機関に持ち込んで、亡命を求めていると報じられています。
現在、観光ビザでシドニーに滞在していて、中国に戻れば死刑になると訴えているということです。
男性の亡命が認められれば、中国によるスパイ活動の一端が明らかになる一方で、中国の影響力をめぐって冷え込んだ両国関係がさらに悪化することが予想され、オーストラリアがどのように対応するか注目されます。【11月24日 NHK】
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“韓国人になりすまして台湾に入り、来年1月に行われる総統選挙に向けた工作を行ったりした”ということですから、当然に総統選挙を控えた台湾でも問題になっています。
****台湾与党、中国は「民主主義の敵」と批判 選挙干渉疑惑受け****
台湾の蔡英文(ツァイ・インウェン)総統の与党・民主進歩党(民進党)は25日、1月11日の総統選・立法委員(国会議員)選挙を前に中国が台湾の政治に介入しているとの報道を受けて、中国は「民主主義の敵」だと批判した。
オーストラリアの報道によると、中国人スパイを名乗る男が亡命を求めており、中国が台湾、オーストラリア、香港でどのような政治的な干渉を行っているか豪保安情報局(ASIO)に情報を提供したという。
台湾独立を志向する民進党の卓栄泰主席は記者会見で、フェイクニュースの多くは中国発だとして、さらなる調査が必要だと指摘。「民主主義の敵は中国だ。現在、台湾にとって最も野心的な敵および競合相手も中国だ」と述べた。
報道によると中国人亡命者は、台湾で親中路線の最大野党、国民党の韓国瑜・高雄市長などをメディアが好意的に取り上げるよう誘導する手助けをしたと述べている。
卓氏は、国民党は選挙の直接的な敵だが、最大の挑戦を仕掛けてくるのは「最強の破壊力」を持つ中国だとした。
国民党の韓氏は中国共産党から金銭の受領があった場合は選挙への出馬を撤回すると表明した。
これとは別に国民党の報道官は、この問題は「共産党の間抜けなスパイ行為」の1つで、早急の調査が必要だと強調。また、台湾政府はこの問題を「選挙操作」のために使おうとしていると訴えた。
そのうえで「蔡政権や国家治安当局に関連事案の説明を求める。この問題について曖昧な態度を取って選挙に影響を及ぼすのはやめるべきだ」と述べた。【11月25日 ロイター】
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香港問題で中国との関係が逆風になっている国民党にとっては、更に状況を苦しくさせる問題でしょう。
最初の話題にせよ、後の話題にせよ、中国の関与が実際会ったのかどうかはわかりません。
ただ、“日頃の行い”から強い疑惑を持たれるというのは“不徳の致すところ”でしょう。
【豪国内の“中国スパイ”より懸念すべき風潮】
オーストラリアを取り上げたついでに、最近見たオーストラリア社会に関する懸念すべきニュースも。
****男がスカーフ着用の妊婦を殴打、イスラム嫌悪か 豪シドニー****
オーストラリアのシドニーで、無抵抗のイスラム教徒の妊婦に殴る蹴るの暴行を加えた男が起訴された。豪イスラム関係評議会は「イスラム嫌悪」に基づく襲撃事件だと非難している。
事件は20日、シドニー西部のカフェで起きた。店の防犯カメラ映像には、ヘッドスカーフを着用した女性3人が談笑しているテーブル席に男が近づき、いきなり飛び掛かるようにして女性1人を殴りつける様子が映っている。女性に男を挑発する様子はなかった。
男は何度も女性を殴り、女性が床に倒れ込むと今度は踏みつけるなど、周囲の人々が力づくで引き離すまで暴行を続けた。警察によると、被害者の女性は妊娠38週で、病院に搬送されたが既に退院したという。
男は「暴行によって身体障害と平穏侵害を引き起こした」罪で起訴された。保釈は認められない。男の動機について警察は明らかにしていないが、複数の余罪で追起訴する可能性があるという。
事件を受け、AFICが21日に発表した声明によると、男は被害者と友人の女性たちに向かって「反イスラム的なヘイトスピーチ(憎悪表現)を叫んでいた」という。ラテブ・ジュネイドAFIC議長は、「人種差別とイスラム嫌悪に基づいた襲撃なのは明らかだ。そのように対処されることを期待する」と述べた。
豪チャールズ・スタート大学の最近の研究報告によれば、オーストラリアではイスラム嫌悪が「継続的な現象」となっており、特にヘッドスカーフを着用した女性が被害に遭う事例が多いという。 【11月22日 AFP】
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