孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

カンボジア  深刻化する中国依存に批判も 野党元党首の帰国は実現せず 批判をかわす政権側

2019-11-14 23:28:10 | 東南アジア

(カンボジア・シアヌークビル州の州都シアヌークビルにある多数の中国系カジノの一つ【2月17日 AFP】)

 

【急速な中国化 批判も】

カンボジアのフン・セン首相が与党を追い上げていた最大野党「救国党」を解党に追い込み、最大野党不在の選挙で議席を独占するなど強権色を強め、対外的には中国との関係を強化していることは今更の話ではあります。

 

****中国の植民地化するカンボジアの悲劇****

カンボジア有数のリゾート観光地、シアヌークビルで6月22日未明、中国企業が所有する完成間近の7階建てビルが崩壊した。6月25日時点で死者28人を数え、犠牲者はさらに増える見通し。カンボジア史上最悪のビル倒壊事故となった。

 

ビル内には、中国人の電気技師ら作業員約80人が寝泊まりしていた。カンボジア当局が当初から違法建築で建設中止を勧告していた中で発生した事故だった。

 

ビルを建設していた中国企業はこの勧告を無視、違法建築を続行していた模様だ。

 

米ワシントン・ポスト紙によると25日、シアヌーク地裁で事故直後から拘束されていた中国人のビル所有者1人が過失致死罪の容疑で、さらに中国人の建設会社社長1人と中国人の現場責任者2人が共謀罪容疑で中国人計4人がそれぞれ起訴された。(中略)

 

この最悪の事態に、タイ・バンコクで23日まで開催されていた東南アジア諸国連合首脳会議に出席していたカンボジアのフン・セン首相は24日、急遽現地入り、シアヌークビル市内全域の建設状況の検査を直ちに指示した。

 

シアヌークビルは、カンボジアで唯一の深水港を要する港湾都市。カンボジアで崇拝されている故国王にちなみ、名づけられたシアヌークビル州の州都でもある。(中略)

 

カンボジア屈指の美しい海岸で知られるこの長閑な港町は、かつてはロシア人富裕層や欧米諸国からのバックパッカーの秘境だった。

 

しかし、数年前から中国の企業が巨額な投資を続け、中国本土からの移住者や観光客のための「カジノの町」に変貌。シアヌークビルの「中国化」が始まった。実は、ギャンブル好きの中国人は中国ではカジノで遊べない。中国本土ではカジノが禁止されているからである。

 

その反動もあるのか、アジアのラスベガスと呼ばれる中国特別行政区のマカオは、今や米国のラスベガスを大きく引き離す世界一のカジノ都市へと成長した。中国政府は、世界一の収益を上げるマカオのギャンブルビジネスを特別な法律運用で認可している。

 

シアヌークビルはそのマカオでは飽き足らない中国人向けのカジノ&リゾートとして人気が急上昇中なのだ。

 

そもそもカンボジアは、中国の習近平国家主席が提唱する一帯一路の重要拠点。

 

シアヌークビルには、「大型船停泊可能な同国唯一の深海港があるだけでなく、国際空港も備える物流の要衝。首都・プノンペンとシアヌークビル間の貨物量はカンボジア最大規模で、国内最大の輸出拠点として重要性が急速に増している」(ASEAN=東南アジア諸国連合の経済投資アナリスト)。

 

中国からの投資が最も顕著で急拡大しており、建設ラッシュに沸くシアヌークビルは、中国人移住者や急増する中国人観光客目当ての大小含め約90のカジノが乱立。

 

シアヌークビルの将来性に着目した中国企業の投資は、2016年10月に習近平国家主席がカンボジアを訪問した直後から急増。「中国は、インフラ整備などに巨額支援し、中国本土の企業進出を後押ししている」(同アナリスト)。

シアヌークビル経済特区への進出企業の約90%が中国企業で約150社ほどに上る。

 

1985年以来、独裁国家を率いる親中のフン・セン首相の盟友、かつては地方軍司令官だったユン・ミン・シアヌークビル州知事は次のように話す。

 

「2010年以降、中国はカンボジアの最大支援国で最大貿易相手国。カンボジアへの中国の投資額も最大で、2016年から2018年で10億ドルに達した」

 

投資額だけでなく、債務も破格だ。対外債務約60億ドルの約半分を対中債務で占め、他のどの国より断然に多い。

 

とりわけ、シアヌークビルは、タイ湾やマラッカ海峡進出への足がかりとなるカンボジアの要衝として、一帯一路における最重要戦略拠点の一つ。軍事的にも、極めて戦略的位置づけにある。

 

今年に入って、シアヌークビルの港に中国海軍のミサイル護衛艦「邯鄲」「蕪湖」(双方とも、全長約140メートル、排水量約4000トン)、補給艦「東平湖」(全長180 メートル、同2万トン)の巨大軍艦3隻がドック入りした。

 

「中国政府が周辺国と領有権を争っている南シナ海へのアクセスが簡単なシアヌークビルの北部・ココン州沿岸沖に海軍基地の建設を目論んでいる」と噂されるが、フン・セン首相は、今のところ否定している。

 

しかし、筆者の知人の地元メディアのベテラン記者は「シアヌークビルは、すでに中国企業の租借地で挟まれていて、カンボジアの海岸線の3分の1以上は中国企業に支配されている」と言う。

 

中国の軍事的戦略が粛々と進められているとみて間違いないだろう。

 

一方、中国からのヒト、モノ、カネが流入するなか、深刻化しているのが中国化による社会問題と凶悪犯罪の急増だ。

 

シアヌークビル市は人口が約10万人(同州は約25万人)。その街に中国人が7万人(2018年10月、プノンペン・ポスト紙)も大量移住しているとされる。

 

さらに、カジノ目当てに年間、数百万の中国人観光客が押し寄せる(2018年の外国人観光客は約630万人で、国別首位の中国人は前年比約70%増の約200万人に達した)。

 

シアヌークビルは、まるで 中国の中の”カンボジア村”のようだ。そのため、現在シアヌークビルは建設ラッシュが続き、浜辺が埋め立てられている。

 

カンボジア人に人気だった海水浴場は中国人に買い占められ、海の家は中国人経営で、中国人のためのメニューが並び、中国語しか通じなくなっている有様。

 

さらに、中国人経営の中国人のための病院、ヘアサロン、スーパーなど中国人向けのサービスが完備されている。

 

知人の地元メディア記者によると、カンボジアでは法律で看板などの表示はクメール語で表示されなければいけないが、自動翻訳された意味不明なクメール語を付記した中国語看板が散乱しているという。

 

カンボジア人の多くが「カンボジア文化への冒涜だ」と非難している。

こうした事態に、ユン・ミン知事がクメール語の間違いなどを含む中国語の看板をすべて撤去するよう命令したが、収拾には至っていない。

 

さらに、ホテルやレストランが出すごみに加え、観光客が捨てるごみで、美しかった海岸線は汚され、同知事や地元職員などが清掃の陣頭指揮を執らなければいけない危機的事態にも陥っている。

 

「チャイナ・タウン化」したシアヌークビルは、こうした問題以外に、土地価格の急騰、ごみ処理場や水不足、宿泊料高騰によるホテル不足なども深刻化している。

 

それだけではなく、最近急増しているのが中国人が引き起こす犯罪だ。

地元の交通ルールを無視し引き起こされる交通事故でカンボジア人の犠牲が絶えないのはまだ序の口。

 

中国で犯罪を起こしたマフィアグループが流入し、詐欺、殺人、麻薬密輸、人身売買、誘拐、違法賭博などの凶悪犯罪が後を絶たないのだ。(中略)

 

見かねたカンボジア政府はこのほど、国家レベルの警察、移民局、法律専門家の支援部隊をシアヌークビルへ派遣することを決定した。

 

一方、中国政府も治安悪化などの犯罪解決に地元当局などと連携強化することを明らかにしている。

 

しかし、こうした中国の反応に地元メディアは「シアヌークビルの治安維持に、中国政府がどうして乗り出すのか」「治外法権を逸脱した中国による支配強化に過ぎない」と強い反発が起きている。

 

さらに、恐るべき中国犯罪の流入も明らかになってきた。中国では、国が主導し軍病院などで組織的に臓器を収奪する「臓器狩り」が横行しているといわれる。(中略)

 

そうした臓器売買がシアヌークビルなどカンボジアの都市でも行われている実態が明らかになってきたのだ。

「プノンペンポスト」「カンボジア日報」など地元メディアによると、これまでにカンボジアの陸軍病院などで、臓器を違法に売買した罪で臓器移植の技術指導を行った中国人教授や医師、医療関係者が逮捕される事件が相次いでいる。(中略)

 

しかし、こうした事態を踏まえながらも、親中のフン・セン首相は、頻繁に北京を訪問し、習国家主席や李克強首相のご機嫌取りに余念がない。

 

今年早々には北京を訪問し、両国間の貿易額を2023年までに100億ドルに引き上げ、さらに、経済支援として5億8800万ドルを受ける約束を携え、上機嫌で帰国した。

 

しかし、今回のビル倒壊事故も含め、深刻になる一方の中国化問題は、カンボジアの自主統治を危うくする。

そればかりか、国民からの批判や、それに押された軍部の反発を招く危険性もある。

 

カンボジアは急速な中国化で、国の繁栄や安全も脅かされない状況に直面している。【6月26日 末永 恵氏 JB Press】

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“軍部の反発”とありますが、中国からの大量武器購入(軍へのプレゼント)はそうした軍の不満を封じる狙いもあるのかも。

 

****カンボジア、中国から武器「数万点」を購入 首相が明らかに****

カンボジアのフン・セン首相は29日、中国から「数万点」もの武器を購入したことを明らかにした。中国との武器取引の詳細を公表するのはまれ。

 

数日前に同首相は、中国軍艦が同国の海軍基地を使用することを許可する密約が結ばれたとの報道を否定していた。

 

米紙ウォールストリート・ジャーナルは先週、カンボジア南西部シアヌークビル近郊のリアム海軍基地に中国の軍艦停泊や武器保管を許可する協定の草案について報道。数か月前からのうわさを裏付けるかのような格好となった。

 

フン・セン首相はこの報道を繰り返し否定し、「中傷」だと非難したが、中国の武器売却の詳細について異例のレベルまで踏み込んで言及。「追加で武器数万点の購入を命じた」と明らかにした。購入した武器の種類については説明しなかったが、「現在船で輸送されている」という。

 

同首相はさらに、これまで中国から購入した武器の総額は2億9000万ドル(約315億円)に上り、これに加えて今年は4000万ドル(約43億円)を費やしたことを明らかにした。 【7月29日 AFP】

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解党に追い込まれ、幹部多数が逮捕されるか亡命を余儀なくされている野党勢力は、フン・セン首相のこうした対中国傾斜を批判しています。

 

****カンボジアの対中依存を批判 亡命中の最大野党幹部、日本に支援求める***

強権的な政治手法を取るカンボジアのフン・セン首相によって2017年に解散に追い込まれた当時の最大野党、救国党のム・ソチュア副党首が来日し、22日、産経新聞のインタビューに応じた。

 

「民主主義を取り戻し、過度の対中依存から抜け出す」と訴え、日本に支援を求めた。

 

同氏は解党時に拘束を逃れるため亡命した党幹部50人の一人。翌18年の上下両院選でフン・セン氏率いる人民党は議席を独占、事実上の一党支配を続ける。

 

ム・ソチュア氏は「フン・セン氏は政権を維持するため、中国の不透明な経済援助に依存し、腐敗を招いている」と批判。中国の狙いは「南シナ海からタイ湾に続く海域を掌握するための戦略的要衝、カンボジアで影響力を増すことだ」と指摘し、「国民が食い物にされている」と嘆いた。

 

実際、同国唯一の深水港がある南西部の港町シアヌークビルには中国系カジノが乱立し、首都プノンペンまでの高速道路の建設を中国資金が計画中。近くのリアム海軍基地の一部を中国が短くとも30年間独占利用するとの米報道もある。(後略)【8月22日 産経】

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【帰国予告のサム・レンシー救国党元党首、帰国は実現せず】

こうした状況にあって、亡命中のサム・レンシー救国党元党首はフランスからの完全独立を果たした記念日の11月9日に一斉帰国する予定を明らかにしました。

 

****「カンボジアに民主主義取り戻す」 元野党党首帰国へ 首相は逮捕方針****

カンボジアで、フン・セン政権の訴えを受けて、2017年に最大野党・救国党が解党させられてから約2年。フランスでの生活を余儀なくされてきた元党首が9日に帰国して、団結を訴える方針だ。政権側は「帰国すれば即逮捕」の構え。同国では緊張が高まっている。

 

「多くの同志が暗殺、逮捕され、亡命を余儀なくされた。暴力なしにカンボジアに戻り、民主主義を取り戻すしか道はない」

 

救国党のサム・レンシー元党首は10月末、そんなメッセージを公表して11月9日の帰国を明言し、国民に団結を呼びかけた。

 

同国では、昨年の総選挙でフン・セン首相が率いる与党・人民党が下院の全125議席を獲得し、「一党独裁」状態にある。救国党は17年11月、政権の訴えに基づく最高裁命令で解党させられ、昨年の総選挙では排除された。100人以上の党幹部は5年間の活動禁止となり、海外生活を余儀なくされている。

 

国内では同党の支持者らが弾圧を受け、今年8月半ばまでに元党員20人が逮捕された。10月にも「国家転覆をもくろんだ」などとして2人に有罪判決が出るなど、連日のように逮捕者らが出ている。

 

フン・セン氏は、元党首らが帰国すれば「即刻逮捕だ」と繰り返している。東南アジア諸国連合ASEAN)の全加盟国に逮捕状も送り、協力を要請済み。10月にタイに入国できなかった元党幹部もいる。(後略)【11月4日 朝日】

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サム・レンシー氏のこの帰国の試みは、パリの空港で経由地に想定していたバンコク行きタイ航空機への搭乗を拒否されたことで実現していませんが、現在はマレーシアのクアラルンプールに入って機会をうかがっているようです。

 

サム・レンシー氏はポル・ポト支配当時から危なくなると海外に・・・という対応を繰り返していますので、改革を目指す政治家として国民の信頼を得るためには、リスクを取りながらも「勝負」する必要があるでしょう。

 

フン・セン首相がポル・ポト時代に未曽有の悲劇を国民とともに共有していたのに対し、サム・レンシー氏は「優雅な海外亡命生活」を享受していたとの批判がつきまとっていますので。

 

【国際批判をかわしながらも基本姿勢は変えないフン・セン政権】

フン・セン政権は高まる国際批判をかわす狙いから、拘束している野党幹部らを保釈するなどの姿勢は見せつつも、基本的な弾圧姿勢は変えていません。

 

****野党指導者の軟禁解除=EU制裁回避が狙いか―カンボジア****

カンボジアの旧最大野党で、2017年11月に解党を命じられたカンボジア救国党のケム・ソカ党首(66)が10日、自宅軟禁を解かれた。

 

ケム・ソカ氏は17年9月、政府転覆を企てたとして国家反逆容疑で逮捕・起訴され、昨年9月から軟禁下に置かれていた。

 

フン・セン首相が長期政権を敷くカンボジアをめぐっては、国外に逃れていた救国党指導者のサム・レンシー氏が帰国を強行する構えを見せ、拠点とするパリから9日にマレーシアに到着。民主化運動の拡大を懸念するフン・セン政権は警戒態勢を強めており、緊迫の度を増している。

 

ケム・ソカ氏の軟禁解除は健康問題のためとされ、国外渡航や政治活動は認められない。カンボジアの有力な輸出先の欧州連合(EU)が民主化後退を理由に検討する経済制裁の回避を狙い、フン・セン政権が解除に踏み切った可能性もある。

 

サム・レンシー氏はツイッターに「軟禁解除は正しい方向へのわずかな一歩」と投稿し、「ケム・ソカ氏への訴追を取り下げ、救国党の復権を認めるべきだ」と要求した。【11月11日 時事】 

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****カンボジア首相 野党関係者などの保釈指示 国際社会の批判受け ****

カンボジアではフン・セン首相の政敵で、国外で生活を続ける最大野党の前の党首が帰国すると予告したことを受け、野党関係者など70人余りが逮捕されましたが、フン・セン首相は14日、保釈を指示したことを明らかにしました。フン・セン首相としては、国際社会で高まる批判をかわすねらいがあると見られます。

 

カンボジアでは4年前に逮捕状が出されたあと、国外で生活を続ける最大野党の前の党首、サム・レンシー氏が、ことし8月中旬に帰国すると予告したことを受け、野党関係者など70人余りが相次いで逮捕されました。

サム・レンシー氏は航空会社に搭乗を拒否されるなどしたため、予告していた今月9日の帰国を断念したことを明らかにしました。

これを受けてカンボジアのフン・セン首相は14日、南部のカンポットで行った演説で、逮捕した野党関係者などの保釈を関係当局に指示したことを明らかにしました。(中略)

今回、サム・レンシー氏の帰国の予告を受けて、政権側が野党関係者の締めつけをさらに強めたことで、国際社会の批判が一層高まっていて、フン・セン首相としては逮捕者の保釈を指示することで、こうした批判をかわすねらいがあると見られます。【11月14日 NHK】

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弾圧の手を緩めたり、強めたりはしていますが、強権的なフン・セン政権の基本姿勢は変わっていません。

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