(2017年3月、式典に参加するフィリピンのドゥテルテ大統領(右)とロブレド副大統領=ロイター【11月25日 朝日】 一見親しげな両者ですが、政治的には対立関係にあります)
【中国がボタン押せば、フィリピン全土の電気がストップする】
アメリカなどには、ファーウェイのような中国企業に情報通信など安全保障にかかわる分野をゆだねることに対する強い警戒感があります。
フィリピンは、周知のように南シナ海の問題にもかかわらず、ドゥテルテ大統領は中国との関係強化に前のめりになっていますが、社会全体には中国への警戒感も強く存在します。
そのフィリピンで、“中国がボタン押せば、フィリピン全土の電気がストップする”という事態にもなりかねないことが問題となっています。あくまでも理論上の話ですが。
****フィリピンの電力網、中国が「いつでも遮断可能」 内部報告書が警告****
フィリピンの電力供給網は中国政府の支配下にあり、紛争の際には遮断される可能性があるという議員向けの内部報告書の存在が明らかになった。
中国の送電会社の国家電網は、フィリピンの送電企業NGCPの株式の40%を保有している。民間の合弁企業のNGCPは2009年からフィリピンで送電事業を行っている。
中国がフィリピンの電力システムに介入する可能性については10年前の合意時から懸念が出ていた。
議員からは今月、取り決めについて再検討を求める声があがった。
内部報告書によれば、システムの主要素にアクセスできるのは中国人技術者のみで、理論上は中国政府の指示によって遠隔で動作を停止させることも可能だという。
中国によってこうした攻撃が電力網に行われたという前歴はない。また、喫緊にこうしたことが行われるという証拠が提示されているわけでもなく、あくまで将来的な理論上の可能性としている。
情報筋によれば、内部報告書は電力網が現在、中国政府の「完全な支配下」にあり、中国政府はフィリピンの電力網に混乱を引き起こす能力を保持していると警告している。
中国外務省は、国家電網が、NGCPのプロジェクトについて現地のパートナーとして関与していると述べた。中国外務省はまた、「フィリピンは中国にとって隣人であり重要なパートナーだ」と指摘。相互の利益の拡大とウィンウィンな関係の拡大に向けて、法と規則にのっとって、フィリピンで事業を行う中国企業を支援すると述べた。
電力網に関する取り決めについては2020年の電力予算を協議するなかで懸念が持ち上がった。
上院議員の1人は、「スイッチひとつで」電力が停止する可能性に懸念を示した。復旧には24時間から48時間かかる見通しだという。別の上院議員も中国がNGCPの株を保有していることについて、「中国の最近の行動や覇権主義的な願望を考えると、国家安全保障に対する深刻な懸念だ」と述べた。
NGCPはフィリピン全土で電力の送電事業を行っており、同社の報告書によれば、フィリピンの家庭の約78%に電力を供給している。2009年に民営化され、国家電網が株式を保有したほか、運営のためのスタッフも派遣している。【11月26日 CNN】
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フィリピン政府が所有する国営送電公社(TransCo)の総裁も「NGCPは中国のエンジニアに対し、フィリピンの送電回路上に遠隔モニタリングシステムを設置することを認めている。中国のエンジニアは、中国でボタンを1つ押すだけでフィリピン全土の供給を遮断できる」と発言しています。【11月25日 レコードチャイナ】
一方、“国家電網による遠隔モニタリングシステムはフィリピンだけでなく、インドネシアやタイでも用いられており、その目的は故障のチェックと排除、送電網の正常な運用を確保することにある”【同上】ということで、フィリピンだけの話ではないようです
こうした状況を受けて、議員からは調査要求が出されています。
****フィリピン議員、中国企業による送電事業者への出資巡り調査要求****
フィリピンのリサ・ホンティベロス上院議員は26日、中国企業がフィリピン唯一の送電事業者に出資していることについて、安全保障が脅かされかねないなどとして、調査を要求する決議案を提出した。
同議員は、防止策を講じない限り、中国の操作による停電やインターネット接続障害、選挙への介入などの可能性があると指摘。
「わが国の海域や領土で攻撃的に振舞う外国が、わが国の送電網を支配することについて、じっくり考えて欲しい」とし「その国はわれわれの選挙を妨害し、テレビやインターネットなど通信技術へのアクセスを遮断することができ、国の経済や安全保障を崩壊させかねない」と訴えた。
中国の国家電網公司は、ナショナル・グリッド・コーポレーション・オブ・フィリピン(NGCP)と呼ばれるコンソーシアムに40%出資している。【11月26日 ロイター】
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おそらく、ドゥテルテ大統領と反大統領派の確執の一環なのでしょう。
【麻薬対策責任者に対立派の副大統領を任命するも、18日後には解任】
ドゥテルテ大統領の施策を特徴づけているのは、対中国宥和政策と、あと何といっても実質的に警察や謎の組織による超法規的殺人をも容認している麻薬対策でしょう。
最近は国際社会・メディアも“慣れて”しまったのか、あまり麻薬対策に対する批判は目にしなくなりましたが、状況は以前と変わっていないようです。
****フィリピン麻薬戦争、殺されているのは農民=弁護士ら来日し訴え****
「麻薬の売人」「テロリスト」と名指しされ、警察や軍、あるいは正体不明の集団にいきなり殺され、容疑者は捕まらない―。フィリピンから弁護士らが来日し、ドゥテルテ政権下で激化している「超法規的殺害」の実態を訴えている。
東京都内で21日に開かれた集会で、マリア・ソル・タウレ弁護士は「『麻薬戦争』と政府は言うが、犯罪組織の大物は安泰で、貧しい人だけが殺されている」と強調した。
ドゥテルテ大統領が就任した2016年、「政治の在り方を大きく変える」と新政権に期待したが、過去3年間で「大きく変わった」のは人権状況だったとソル・タウレ弁護士は振り返る。
16年からの麻薬戦争で「無実を証明する機会すらなく殺される」法の枠外の殺人が一気に広まった。こうした中で殺害された人は必ずしも麻薬とは関係ない「農民が圧倒的に多い」という。
フィリピンの貧困の原因の一つが大土地所有制だ。歴代政権は繰り返し農地改革を打ち出してきたが現場では履行されず、同弁護士は「約束された畑を要求すると殺害されている」と語った。
農民運動を支援するアリエル・カシラオ前下院議員も農地改革について「証書だけが配られ、土地が配られていない」と指摘。
抗議の農民が弾圧される中、「日本政府が支援するフィリピン政府の軍が武装もしていない農民を殺している」として、日本政府に支援の再考を働き掛けてほしいと呼び掛けた。
中部ネグロス島でサトウキビ労働者の組合を率いるジョン・ミルトン・ロサンデ事務局長も来日する予定だったが、直前に逮捕された。
21日の集会では、保釈中の自宅からインターネットでつないだ動画で発言し「軍が事務所に来て銃器を置いていき、後から来た警官が武器の不法所持容疑で逮捕するのがフィリピンのやり方だ」と逮捕の不当性を訴えた。
ソル・タウレ弁護士ら一行は26日まで日本に滞在、24日午後に横浜市のかながわ県民センターで講演会を行う。【11月23日 時事】
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その麻薬対策を巡って最近、一つの騒動がありました。
フィリピンでは副大統領は大統領とセットではなく、別個に選挙で選ばれますので、大統領と対立する人物が副大統領になることもよくあります。現在もそういう状況です。
ドゥテルテ大統領は、その反大統領派の副大統領を麻薬対策の責任者に任命したとのこと。
****副大統領、挑発受けて立つ フィリピンの麻薬戦争を批判****
多くの死者を出し、「麻薬戦争」とも言われるフィリピンの麻薬犯罪取り締まりを担う責任者に、ドゥテルテ大統領の手法を批判してきたロブレド副大統領が就任した。ドゥテルテ氏の挑発的ともいえる任命を受けて立った格好だ。
麻薬犯罪撲滅を掲げるドゥテルテ氏の下、フィリピンでは密売などに関わったとされる5500人以上が警官に殺害されている。無実の人や貧困層が殺害される例も多く、ロブレド氏は先月もメディアに「麻薬戦争は失敗。調整が必要だ」と語っていた。
これに対し、ドゥテルテ氏は先月末、ロブレド氏を麻薬取り締まりを管轄する省庁間委員会(ICAD)の共同委員長に任命。「批判する者は答えをもっているべきだ」と、その手腕を試す人事であることを隠さなかった。
6日に受諾したロブレド氏は会見で「多くの人がわなだと言ったが、罪なき人が殺されるのを止めるチャンスになるならと考えた」と話したが、どの程度の権限が与えられるかは不明だ。
フィリピンでは大統領と副大統領が別々の選挙で選ばれるため、主張や政治的立場が対立することが珍しくない。【11月7日 朝日】
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「おやおや・・・」と思っていたら、18日後には今度は解任。
****比大統領、麻薬問題責任者を解任 起用から3週間足らず****
フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領は、自身の「麻薬撲滅戦争」を強く批判するレニ・ロブレド副大統領を、麻薬問題の責任者から解任した。大統領報道官が24日、明らかにした。その数日前にも大統領はロブレド氏を、国家機密を託すに当たらない「そこつ者」だと評していた。
ドゥテルテ大統領が推進する麻薬撲滅運動では、警察が多数の麻薬売買容疑者を殺害し、人道に対する罪を犯しているとの疑いが持たれている。3週間足らず前に責任者に任命されたロブレド氏は、「無分別な」殺害を終わらせると改革を宣言していた。
ドゥテルテ氏は19日、ロブレド氏が米大使館職員と国連の薬物専門家と協議したことに反発。国家の機密事項を不注意に第三者と共有しかねない「そこつ者」であり、「信用していない」と話していた。
これに対しロブレド氏は、大統領からの信頼がないのなら、自身を責任者から解任すべきだと訴えていた。
ロブレド氏の即時解任を発表したサルバドール・パネロ大統領報道官は、「副大統領は、本件に過度に集まっている国際的関心に訴えた。つまり副大統領が行ったことは、わが国を辱めることだ」と断じた。
ロブレド氏の任命については当初から懐疑的な声があり、同氏をおとしめるための計略か、あるいは単に同氏が麻薬撲滅戦争を繰り返し非難していることを受けての衝動的な反応ではないかとの見方が出ていた。
ロブレド氏の解任を受けて国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは、同氏が掲げた改革提案を実現していく真の機会は与えられなかったと指摘した。 【11月25日 AFP】AFPBB News
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****フィリピン副大統領、18日間で麻薬担当の職解かれる****
(中略)解任の理由について、パネロ大統領報道官は24日、現地メディアに「大統領は忍耐強く待ったが、2週間以上たっても彼女は明確な麻薬犯罪防止策を出さなかった。人々の命が関わる政策で1日は永遠に値する」などと明かした。
現地報道によると、ロブレド氏は責任者に就任後、ドゥテルテ氏と麻薬犯罪について議論する場はなかったとされる。
パネロ氏はまた、ロブレド氏が「大統領が私が嫌いなら、辞めろと直接言うべきだ。そもそも、なぜ任命したのか」と20日に発言したため、ドゥテルテ氏がこれに応じて解任したとの見方も示した。
ただ、この発言に先立つ19日の時点で、ドゥテルテ氏はロブレド氏を麻薬関係の閣僚にすることを取りやめると発言し、麻薬犯罪の重要情報をロブレド氏に公開していないとも述べていた。【11月25日 朝日】
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さすが、「フィリピンのトランプ」と称されるドゥテルテ大統領らしい騒動ですが・・・。
【健康状態の政治判断への影響は?】
ドゥテルテ大統領は天皇陛下の即位の礼に参列するため訪日したものの、耐えがたい痛みがあるとして予定を切り上げて帰国したように、体調が非常に悪いことはかねてより知られているところです。
****比大統領、体調不良を認める 2週間姿見せず****
健康状態をめぐり憶測が飛び交っていたフィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領が15日、体調不良を認め、人生が「私の健康を侵しつつある」と述べた。ドゥテルテ氏はここ2週間にわたって公的な場に姿を見せていない。
先月バイク事故に見舞われたドゥテルテ氏は、その翌週に天皇陛下の即位の礼に参列するため日本を訪れた際、背骨に「耐え難い痛み」を訴え、予定を切り上げて帰国していた。
ドゥテルテ氏は先月初め、自己免疫疾患の「重症筋無力症」を患っていると公表。この病は筋肉の衰弱を引き起こし、まぶたが垂れ下がる症状によって視界不良に至る可能性がある。事故があったのは、持病の公表からわずか10日後のことだった。
ドゥテルテ氏は現地テレビ局GMAニュースのインタビューで「もし、『健康状態は万全か?』と聞かれれば、もちろん違う」と述べ、「私が持つすべての病気は、もう年老いているためだ。人生が私の健康を侵し始めた」と語った。
健康不安を受け、ドゥテルテ氏の指導力に対する懸念が高まっている。サルバドール・パネロ大統領報道官によると、ドゥテルテ氏は先週以降、地元の南部ミンダナオ島のダバオで休養を取りながら執務を行っている。 【11月18日 AFP】
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個人的な経験からすれば、頭痛がしたり、歯が痛いだけでも、発想はネガティブなものになっていまい、創造的な仕事はできません。
大統領の「耐え難い痛み」に苦しむ健康状態は、政策決定・政治判断に大きな影響があるのではないでしょうか。
上記の副大統領をめぐるドタバタも、そうした混乱の一つではないでしょうか?
たとえ“休養を取りながら執務”が可能だったとしても、その内容は心身ともに問題がない場合とは大きく異なるものになってしまうように思うのですが・・・。