孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

世界各地で噴出する若者らの既成政治への怒り アルジェリア、レバノン、イラク

2019-11-24 21:42:28 | 民主主義・社会問題

(香港理工大学の構内に立てこもった学生たちにスマートフォンの光で支持の意思を示す人々(19日)【1124日 WSJ】)

 

【より直接的な行動を選択する若者 既成の政治エリートへの怒り】

これまでも取り上げてきたように、南米、中東、香港など世界各地で政治に対する抗議行動が発生し、その多くか過激化しています。

 

そうした抗議デモの中心にいるのは、これまで政治には関心がないとされていた若者たちであり、その行動を特徴づけているのは新世代の暗号化メッセージアプリの活用です。

 

若者たちは既成政治への不信感から、従来のような投票によって政治に関与するという方法ではなく、より直截的方法でその不満を噴出させているように見えます。

 

*****世界でデモ拡散、民衆を突き動かす怒り *****

過去の抗議活動を踏襲しながら、新たな社会運動の輪郭を形成

 

今年6月、対話アプリでつながった数十万人が香港市内を占拠した。中国政府によって市民生活が脅かされるのを阻止しようと立ち上がった若者たちだ。

 

それから4カ月余りが過ぎ、反政府デモは世界10カ国以上に拡大した。チリやボリビア、レバノン、スペインなど、数百万人の市民がデモに参加。平和的なものもあるが、その多くが暴徒化している。

 

数千人が負傷し、多数の死者も出ている。デモ隊は道路や空港を封鎖し、自分たちの激しい怒りの矛先が向いている機関に攻撃を加えている。

 

イランは16日、インターネットを遮断。全土に広がるデモを鎮圧するため武力行使に踏み切った。中南米では大規模デモが拡散しており、その波は5カ国目となるコロンビアも飲み込んだ。

 

世界に飛び火するデモを線でつなぎ、関連づけることは不可能だ。だが、数多くの地域で市民が蜂起しているという事実(その多くは戦術やスローガンまで共有している)は、「アラブの春」や1968年の学生デモなど過去の抗議活動を踏襲しながら、新たな社会運動の輪郭を形成している。

 

デモの直接の発端は国ごとに異なる。だが、その根底には社会や経済に対する似たような不満があり、既存の政治秩序に対する変革要求をあおる構図となっている。(中略)

 

抗議活動が発生している都市の多くは、所得格差が大きい。デモで中心的な役割を果たしている若者の多くは、両親と同水準の豊かさが得られるのか疑問を抱えながら生きている。

 

彼らの怒りの矛先は政界のエリートたちへ向けられている。市民の感覚とはかけ離れ、自分たちや同じような身分にある者にしか仕えないエリートたちのことだ。

 

デモ活動の勢いを猛烈に高めているのが「ワッツアップ」や「テレグラム」といった新世代の暗号化メッセージアプリだ。互いにまったく面識のない大規模なデモ隊グループが、匿名でやり取りすることを可能にしている。

 

ツイッターやフェイスブックなどのプラットフォームは考えを広く公開するには素晴らしい場所だが、こうした新たなテクノロジーでは、デモ隊予備軍を互いにつなぐことで、大規模な行動についてリアルタイムで合意を形成することができる。しかも、身元が割れるのを恐れずに。

 

またネットが世界をつないでおり、活動家たちは他国の同じようなデモ隊の動向を注視し、彼らとつながることで学んでいる。

 

カタルーニャ州バルセロナでは、独立を求めるデモ隊が「香港のデモ戦術」と題されたパンフレットを配布。伝説の武道家、ブルース・リー氏の有名な助言である「水のようにあれ」をスローガンにした香港デモ隊の「奇襲」戦術を踏襲している。

 

香港のデモ隊は、警察の目や監視カメラに向かってレーザー光を照射しているが、チリでも同じ手法が用いられるようになった。

 

「これらの抗議活動は一度限りの特異な現象ではない」。こう指摘するのは、カーネギー国際平和財団でデモ活動を研究するリチャード・ヤングス氏だ。「これは主流派の現象になりつつあり、世界の政治における主要な特性として今後も続くだろう」

 

ヤングス氏はその理由として、現在の政治制度が自分たちの要求にうまく対応していないと考えられていることがあると述べる。デモ参加者は「政治からは身を引き、より直接的な行動を選択している」。

 

多くのケースにおいて抗議活動の最前線にいるのが若年層、しかもかなり若い層だ。チリでは、地下鉄の改札口を飛び越えて入った高校生らがデモ発端のきっかけだ。香港では平日夜開催のデモでも、制服をまだ着たままの少年・少女らが参加している。

 

若者の参加は、それまで広く浸透していた「スマートフォン中毒の若者世代は基本的に無関心で、ネット上の幻滅感を現実の世界で行動へと変えることはない」という通念を覆す。

 

この抗議活動を突き動かしているのは、おそらく成功体験だろう。デモが発生した国では、指導者が次々とデモ隊の要求に応じざるを得ない状況に追い込まれた。だが、デモ隊はさらなる要求を掲げ、戦い続けている。

 

「デモを長く継続するほど、より多くのものを政治家から引き出せる可能性がある。政治家は今、われわれを恐れているからだ」。今月、バグダッドで起きた数十年ぶりの大規模なデモに参加した無職のイラク人、ワリード・イブラヒムさん(32)はこう話す。イブラヒムさんらを突き動かしているのは、経済発展を実現できない政界のエリートたちへの激しい怒りだ。

 

レバノンでは10月、ワッツアップ通話への6ドルの税金案に反対する市民デモが発生。サード・ハリリ首相は課税案を撤回したものの、10月下旬には辞任に追い込まれた。デモ隊は目下、宗派の違いに基づく政治制度を改革するよう要求している。

 

香港では、本土当局に譲歩を余儀なくさせるという、かつてなら想像もできなかったことを成し遂げた後も、若者がデモを続けている。

 

中国当局が後ろ盾となっている香港政府は8月、デモの引き金となった容疑者の本土引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」の改正案を正式に撤回。だがデモ隊は、普通選挙や警察の暴力行為に関する調査など、要求をさらに強めた。

 

デモ続行の決定は、匿名のメッセージグループ間で決定され、その後、デモは激しさを増した。

 

チリの旧世代の目には、デモに参加する若者らは、苦労して手に入れた選挙権などを当たり前のものだと考えていると映る。

 

同国では、長い流血の独裁体制を経て、30年前に民主主義へと移行した歴史があり、若者はこれを経験していない。チリは民主化後に経済が着実に成長し、根強い格差もこの20年で解消に向かっている。

 

大学教授のセバスチャン・バレンズエラさんは「若者は民主化後に育っており、軍事独裁(政権)の記憶はない。だが、選挙は何の役にも立たないと考えており、投票しない」と話す。

 

民主主義・選挙支援国際研究所の報告書によると、1990年代初頭以降、投票率は世界的に低下しており、政府に対する信頼感が総じて下がっていることを示唆している。

 

今年世界的な現象となったデモが、長期的にどのような変化をもたらすのかは不明だ。社会運動による影響は、その渦中で明らかになることはほとんどない。そして、答えがないまま、数世代にわたって議論されるかもしれない。

 

すでに確立された遺産もある。テクノロジーを活用してリアルタイムで市民の抵抗を促す匿名グループが持つ力だ。まるで10年前の行進や占拠などの運動が、スローモーションのように思える。

 

例えば、20代の香港デモ参加者イユさん。彼女は、7月のデモ隊による立法会(議会)占拠に直前で加わった一人だ。平和的な行進になると思っていたが、テレグラムのさまざまなチャンネル上でのやりとりを見ていると、次第に雰囲気が変化していくのが分かったという。その直後、香港政府のシンボルである立法会の占拠に参加するボランティア募集の告知メッセージを受け取った。

 

数分の間に、同じメッセージを受け取った数百人のデモ参加者が立法会前に集まり、実行の機会をうかがっていた。そして一斉に建物の中へと流れ込んだ。香港デモの象徴的な瞬間だった。

 

「数カ月前は、暴力的な行動はしたくなかった」と語るイユさん。「今ではもう気にしない」【1124日 WSJ

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【アルジェリア 従来同様の大統領選挙を拒否する人々】

今日報じられている事例としてはアルジェリアがあります。

 

*****アルジェリアでデモ拡大 12月大統領選へ刷新要求****

北アフリカのアルジェリアで、12月の大統領選を前に支配体制の刷新を求めるデモが拡大した。

 

大統領選の立候補者審査に不正があったとの見方が市民の間で強まり、2月から40週続いてきた金曜日の抗議活動が再び活性化。選挙は受け入れられないとの抗議が広がっている。

 

1212日に予定される大統領選には20人以上が立候補を申し出たが、最終的に必要条件を満たしたとされる5人に絞り込まれた。うち2人は首相経験者で、他の3人も4月まで20年続いた長期政権下で閣僚などを務めた人物。“清新な候補”は現れなかった。【1124日 共同】

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アルジェリアでは今年4月にブーテフリカ前大統領が抗議デモにより辞任に追い込まれて以降、政治空白に陥っていました。

 

空白からの回復にあたり、旧来の手法を踏襲しようとする政治エリートたちに対し、民衆は政治体制の改革を求めています。

 

****政治空白続くアルジェリア、デモ隊の首都立ち入りを禁止*****

アルジェリアのアハメド・ガイドサラハ軍参謀総長は18日、政治改革を求めて各地から集まってきたデモ隊の首都アルジェへの立ち入りを阻止するよう警察に命じた。

 

アルジェリアは今年4月、長期政権を維持してきたアブデルアジズ・ブーテフリカ前大統領が抗議デモにより辞任に追い込まれて以降、政治空白に陥っている。前大統領の辞任後も数か月にわたって大規模デモが続いているが、暫定政府は12月に大統領選を実施すると発表した。

 

デモ隊は、選挙の前にまず政治改革と前大統領派の排除を行うよう求めている。一方、ガイドサラハ氏は何としても年内に大統領選を実施する構えだ。アルジェでは昨年2月以降、毎週火曜日と金曜日にデモ隊が結集している。

 

ガイドサラハ氏によると首都立ち入り禁止令は、デモ隊を首都に輸送する「車やバス」を食い止めるのが目的。車両を押収し「所有者に罰金を科す」としており、移動の自由を悪用して「市民の平和を害する」「悪意ある複数の集団」への対策として必要だとしている。 【919日 AFP

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【レバノン ヒズボラ支配への抵抗】

レバノンでは宗教・宗派間の権力分割、その背後で実質的影響力を高めるヒズボラという政治構図がありますが、人々はこうした既成政治への不満を表明しています。

 

*****アンタッチャブル「ヒズボラ」へ反抗はじめたレバノン市民*****

レバノンでは10月中旬より、政治改革、腐敗撲滅、生活の向上等を訴える抗議運動が激化、1029日にはハリリ首相が辞任する事態となった。アウン大統領は1031日、抗議運動の要求通り、テクノクラートから成る新政府を組織したいと述べた。

 

米国のポンペオ国務長官は、新政府の設立を要求し、軍と治安当局が彼等からデモ参加者の権利と安全を守るよう要請した。もし、レバノンが経済改革を遂げ、腐敗と戦うのであれば、国際機関と協力して経済支援をしたいと国務省筋は述べた。この支援には昨年誓約されたが凍結されている117億ドルの支援パッケージが含まれる。

 

今回のレバノンでの抗議運動は、政治改革、反腐敗を超える注目すべき点がある。それは、レバノンの政治を支配して来たイランが支援するヒズボラへのあからさまな反抗である。

 

ヒズボラは今回のデモまではほとんど手を触れることの出来ない存在だった。しかし、そのシーア派の支持者すらデモに参加した。

 

ヒズボラの指導者ハッサン・ナスララ師はデモ当初の1019日には新政府樹立の要求に反対していた。25日には街頭デモは「混乱と崩壊につながる空白」を生みつつあると警告した。

 

しかし、抗議運動はこの脅迫を無視し抗議を継続したのである。改革運動の参加者は、ヒズボラは閣僚の人選に介入しようとするかも知れないが、アウンが非政治的な政府を求めたことは一歩前進だ、と見ているようだ。(後略)【1121日 WEDGE

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【イラク イランの影響力への反発】

イラクでも、内戦からの復興を実現できていない無能な既成政治への不満が噴出しており、その怒りの矛先はイラク政治に大きな影響力を有しているイランにも、更には、こういう混乱期に人々を扇動して影響力を拡大してきたサドル師にも向いているようです。

 

****「出口なし」イラク民衆の怒りはどこへ向かうのか*****

イラクでは9月初めより、大規模な反政府デモが起こっている。政府の腐敗、無能、失業等に対する抗議である。デモは一時小康状態となったが、政府側の強硬な弾圧によって多くの死者が出ており、未だ収まる気配はない。

 

イラクのアブドゥル・マハディ首相政権は昨年の選挙後、第1党となったシーア民族派のサドル派とイランに支持されたアミリ派(シーア派民兵組織の政党)の妥協によって生まれた政権であるが、サドル派は首相を見限り、アミリは様子見の態度を取っている。

 

イラクでは以前にも同様なデモ、騒乱が発生したが、今回の運動はイランに支援されたシーア派民兵組織及びイランそのものにも、また、以前の民衆運動を支持したサドル師に対しても民衆の怒りが向けられている。

 

政府においては、より強硬な鎮圧策を支持するグループ、当面首相が対応すべきとするグループ、首相退陣を予期して次の首相候補を模索するグループなどに別れている。騒乱はより過激になり、自信を持ち、大規模になりつつある。

 

今回の抗議運動の大きな特色は、雇用、電力不足、腐敗というような具体的な問題への抗議というよりも(勿論、それもあるが)、サダム・フセイン以降の基本的な政治体制(シーア、スンニー、クルド3派による大政翼賛的パワーシェアリング・システム)への挑戦となっていることである。

 

ナジャフの宗教指導者(シスターニ師)、イラン、サドルを含め、従来の権威全般に対する否定的な性格を帯びている。従って、政府側の対応は難しい。アブドゥル・マハディ首相は、後任についての合意が出来れば辞任する用意のある旨表明しているが、単なる首のすげ替えだけでは収まらない可能性がある。

 

今のところ、抗議運動は、特定の政治勢力による扇動ではなく、自発的な性格を持っているが、今後どの程度組織化が進むのか注目される。サドル派がこれに乗る可能性はあるが、今回は運動主体側がサドル派をも既成政治の一部として攻撃しており、見通しにくい。

 今

回の政府側の対応は、従来に比べて強硬なものであり、政府側の危機感の表れである可能性が大きい。今後、政府側がより強硬な鎮圧策に出るかどうかはイランの考え方によるところが大きい。

 

体制維持への危機感が強くなれば、イラン系民兵組織による本格的な弾圧に出る可能性があるが(そうなれば、イランの影響力が強まる)、当面は首相の交代や選挙の実施などによるアメと強い鎮圧策というムチを混ぜながら対応していくのではないかと思われる。

 

今回の運動が主張しているように、今の3派によるパワーシェアリングの体制が政府の非能率、腐敗の温床となっていることは事実だが、これに変わる体制(例えば、与党、野党による政権交代システム)を築くのは容易ではない。宗派政治からの脱却はイラク政治の大きな課題であるが、実現するとしても時間がかかる(政党の非宗派化は徐々に進んではいるが、未だ未成熟)。斬進的に進めていくほかないであろう。

 

イラクの現政治体制は、シリアのように抑圧的なものではなく、またレバノンにように機能不全なものではないので、大きな騒乱状態に陥るとは思われない。

 

但し、やっとIS戦に勝利し、選挙で選ばれた新政権による安定への方向が見え始めた時点での今回の騒乱が長引けば、スンニー派過激分子、IS残党等の反政府活動が復活し、経済、政治の停滞が深刻化することが危惧される。【1120日 WEDGE

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各地での若者らを中心とする民衆の既成政治への怒りの噴出は、これまで一定の成果を獲得していますが、単なる一時的なものでなく、より基本的な政治の変革に至るかどうかについては難しいものがあります。

 

SNSなどを活用した、特定の政治勢力によらない行動であるだけに、長期的な政治改革を具体化していくには不向きな面もあります。

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