孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

米バイデン大統領 日韓歴訪で中国包囲網  “中国排除”を生き抜くファーウェイが示すことは?

2022-05-21 23:20:58 | 国際情勢
(20日、韓国平沢のサムスン電子半導体工場で尹錫悦大統領と生産施設を視察し、両手の親指を立てているバイデン米大統領。【5月21日 中央日報】)

【中国を牽制するバイデン大統領の日韓歴訪 中国は中国切り離し・排除の動きを批判】
アメリカのバイデン大統領が明日5月22日から24日にかけて、大統領就任後初めて日本を訪問します。
その目的はアメリカのインド太平洋地域への関与は揺るがないと明確に示すことにあるとされています。

より具体的には、台湾有事の可能性も念頭にした日米の安全保障分野での連携強化、アメリカの「核の傘」を含む(同盟国に対する攻撃を自国への攻撃と見なし、もし攻撃したら報復することをあらかじめ宣言する)「拡大抑止」の再確認、インドとの関係強化が主眼となる日米豪印の4か国からなるクアッド首脳会合開催、IPEF(アイペフ インド太平洋経済枠組み)の発表などにあります。

それらの取り組みは中国への対抗を念頭に置いたものになります。

****バイデン氏がアジア歴訪へ、大統領補佐官「メッセージは中国にも届くだろう」****
(中略)ジェイク・サリバン米国家安全保障担当大統領補佐官は18日の記者会見で、歴訪の意義を「同盟国・友好国とともに、米国のリーダーシップが世界中の人々に貢献できるという力強いメッセージを発信することだ」と強調。「特定の国を狙ったものではないが、メッセージは中国にも届くだろう」とも語り、中国をけん制する意図もにじませた。(後略)【5月19日 読売】
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当然ながら中国は不快感・警戒感を示しています。

****中国、米大統領の日韓歴訪牽制 中国紙「騒動の旅」****
中国外務省の趙立堅(ちょうりつけん)報道官は19日の記者会見で、バイデン米大統領の日韓歴訪について「米国と日本が二国間関係を発展させるのに、第三国を標的にしたり、その利益を害したりすべきではない」と述べ、アジア太平洋地域での「中国包囲網」強化に警戒感を示した。

趙氏は「いかなる地域協力の枠組みも、平和と発展という時代の潮流に即したものであるべきだ」と強調。米主導の新経済圏構想「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」を念頭に置いた発言とみられる。

一方、中国共産党機関紙、人民日報系の環球時報は19日付の社説で、今回の歴訪について「中国を標的にした騒ぎを起こす旅だ」と論評した。歴訪を前に米側の当局者やメディアが「どのように韓国、日本と調整して中国を包囲、排除するか熱弁を振るっている」とした。

同社説は、バイデン政権が経済面における新たな「対中カード」としてIPEFを持ち出してきたと警戒。「中国とのデカップリング(切り離し)に引き込み、経済面で中国を排斥する小派閥をつくる」ことが米国の狙いだと分析した。【5月19日 産経】
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【経済的中国包囲網としてのIPEF 日本とって経済的メリットは大きくないとも】
「対中カード」としてIPEF・・・ということですが、日本にとっては日米の協力関係を強化するということでは意味がありますが、経済的に見るとあまりメリットがないのが実情で、アメリカのTPP復帰が見込めないなかでの“次善の策”とも。

****「なぜTPPではなく新しい経済枠組み?」 バイデン提案への岸田首相の本音****
バイデン米大統領が22日からの訪日中に打ち出す新たな経済連携「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」について、日本政府は参加を表明する方向で調整しているものの、経済的な実利は少ないとの冷めた見方が政府関係者の間から聞かれる。米国の環太平洋経済連携協定(TPP)復帰が見込めない中、中国包囲網の抜け穴を埋めるための次善の策だと関係者は口を揃える。

IPEFはバイデン大統領が昨年10月の東アジアサミットで表明した経済圏構想で、シンガポールや韓国などが参加検討を表明している。日本も参加する方向で調整を進めており、松野博一官房長官は18日、米国のインド太平洋地域への関与を示すものとして歓迎の意を示した。

貿易や供給網(サプライチェーン)、脱炭素などいくつかのテーマを設定し、どこに参加するかを自由に選べる形になる見込みで、米政府は多くの国が手を挙げられるようハードルを低く設定している。しかし、TPPと異なり関税引き下げによる市場開放を打ち出しておらず、巨大な米国市場にアクセスできる機会が増えるかどうか分からない経済枠組みに参加するメリットを感じる国は多くない。

米・ASEAN(東南アジア諸国連合)首脳会談のためにワシントンを訪れたベトナムのファム・ミン・チン首相は11日、「関心があるが詳細を知る必要がある」と述べた。インドネシアなども参加を表明していない。

日本の経済産業省の関係者は「米国はアジアの実情について不勉強。アジア各国が乗りやすい仕組みを作らないと、上から目線で新たな枠組みを構築しても参加しない」と解説する。

TPP脱退で恨み節
表向きは支持する姿勢を表明した日本の政府内にも、米国の通商政策が目まぐるしく変わる状況を冷淡な目で見る向きがある。日本は対中包囲網の意味合いがあった米国主導のTPPに乗ったものの、自国第一主義を強めたトランプ政権が途中で離脱を決め、はしごを外された苦い経験がある。

岸田文雄首相に近い政府関係者は、米国主導のTPP交渉に「日本側は多大な労力を割いてきたにも関わらず米国が勝手に脱退した」と話す。

バイデン大統領は12日、ASEAN(東南アジア諸国連合)首脳らとの特別会議でて総額1.5億ドル(約193億円)の支援を表明した。しかし「同時期に米国はウクライナに約400億ドル(約5.1兆円)の支援を表明しており、米国にとってアジアの優先順位は高くないとの見方を助長する可能性がある」と、テンプル大学ジャパンキャンパスのジェームス・ブラウン上級准教授は指摘する。

米国のアジアへのコミットを強めるため
それでも日本がIPEFに参加するのは、中国が台頭する中で米国のアジアへの関与を一段と強めるためだと、複数の政府関係者は言う。

日米安全保障条約や日米豪印4カ国の枠組みクアッドなど、安全保障面で中国をけん制する地域協力は複数あるが、経済面は米国がTPPが参加しなかったことで網に穴が空いた状態にある。

本来は米国のTPP復帰という形でけん制したいところだが、バイデン政権に代わっても保護主義が続く中で実現は難しいと、日本の政府関係者はみている。

「トランプ前大統領以来の保護主義的な通商政策に対し、民主・共和両党の穏健派から懐疑的な声がある」と、外務省関係者は言う。「日本は引き続き米国にTPP復帰を求めるという立場だが、それまでのつなぎという位置づけでIPEFを歓迎する」と語る。(後略)。【5月20日 Newsweek】
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IPEFについて冷めているのは日本だけでなく、ASEAN諸国も同様です。

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アメリカが参加を期待するASEAN=東南アジア諸国連合の国々の反応がいまひとつです。
ASEAN諸国のなかには、アメリカの「本気度」に対する懐疑的な見方や、経済的結び付きの強い中国との関係悪化を懸念する声が少なくないからです。さらに、関税の引き下げといった目に見えるメリットが感じられないことへの不満もあります。

このためバイデン大統領は今回、ASEAN諸国の間で信頼度の高い日本の後押しを受ける形で、IPEFの立ち上げに向けた協議の開始を東京で発表することで、スタートダッシュを図りたい考えです。IPEFの具体的な中身のほか、何か国が参加するのかが注目されています。【5月21日 NHK】
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【先端技術と供給での中国排除を目指すバイデン大統領】
対中国ということでは、バイデン大統領は、日本に先立つ訪問国である韓国の尹錫悦大統領とサムスン電子の半導体工場を視察し、供給網の強化に向けて韓国と連携し、中国に依存しない考えを強調しています。

****バイデン氏 半導体供給網で「脱中国」強調 日韓歴訪を開始****
アメリカのバイデン大統領は、日韓歴訪を開始し、最初の訪問先・韓国で、半導体の供給網について「脱中国」を目指す考えを強調した。

アメリカ・バイデン大統領「ウクライナでのプーチンの残忍で無謀な戦争は、われわれの重要な供給網を確保し、経済や国家安全保障で価値観を共有しない国に依存しないことが必要となっている」

尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領「今回の訪問を機に、米韓関係が先端技術と供給網の協力に基づいた、新たに経済安保同盟に生まれ変わることを望む」

バイデン大統領は、尹錫悦大統領とサムスン電子の半導体工場を視察し、供給網の強化に向けて韓国と連携し、中国に依存しない考えを強調した。尹大統領も、先端技術と供給でアメリカとの連携を強化していくことを確認した。

また、バイデン大統領は「アメリカの労働者は世界クラスの技術を持っている」と述べ、半導体工場のアメリカへの誘致を呼びかけた。【5月21日 FNNプライムオンライン】
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先端技術と供給で“中国企業締め出し”の代表企業とされたのが中国通信機器大手ファーウェイですが、アメリカと共同歩調をとる(孟晩舟副会長を拘束した)カナダと中国のバトルは今も続いているようです。

****カナダ 5GでファーウェイとZTE排除、中国との関係さらに悪化の可能性****
カナダ政府は、次世代通信規格「5G」から、中国通信機器大手ファーウェイとZTEの製品を排除すると発表しました。

カナダ政府は19日、5Gに関して、安全保障上の懸念があるなどとして、ファーウェイとZTEの製品の新規利用を禁じ、既に利用中の機器は2024年6月までに撤去するか利用を停止するとしています。また、ファーウェイとZTEについて、「カナダの法律に違反したり、カナダの利益を損なうような外国政府からの指示に従う可能性がある」と指摘しています。

ファーウェイに対しては、アメリカをはじめイギリスなどヨーロッパ各国や日本も政府調達から事実上排除していて、カナダもこれに追随した形となりました。

これまでファーウェイをめぐっては孟晩舟副会長が2018年にカナダ当局に拘束され、その後、中国がカナダ人2人を拘束し、カナダ政府が報復措置だと批判するなどしていて両国の関係がさらに悪化する可能性があります。【5月21日 TBS NEWS】
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【生き残った“中国企業締め出し”の代表企業ファーウェイ その現在が示すことは?】
このように先端技術と供給の分野での“中国企業締め出し”の代表企業とされている中国通信機器大手ファーウェイですが、必ずしもアメリカの意図したようには事は進んでいないとの指摘も。

****米国の「中国ハイテク企業締め出し」、先行き不透明で自国内に「死活問題」も発生****
米国政府は2019年5月、中国企業70社を列記する「エンティティーリスト」を発表した。自国企業などに対して、リストに掲載された企業との取引を厳しく制限する措置だ。

リストに掲載された企業で特に注目されたのは、スマートフォン売上台数でアップルを抜いて世界第2位に躍り出ていた華為技術(ファーウェイ)だった。スマートフォン製造に必要な電子部品を米国企業から調達できなくなり、さらに中国企業が製造したスマートフォンではグーグルが提供する各種サービスを利用できなくなるからだ。

■米国の制裁により、ファーウェイの「脱皮」が加速
しかし、それから3年が経過した現在も、ファーウェイは生き残っている。それどころか、企業としての体制を整備して、技術力も大いに向上させた。

スマートフォン分野での「快進撃」の記憶は実に強烈だったが、同社の状態は大きく変化した。まず同社はスマホの売り上げに大きく頼るのではなく、「通信会社向け事業」、「(通信会社以外の)事業者向け事業」、「端末事業」の三大分野を推進する性格を強めた。(中略)

■ファーウェイの「ピンチ」は、大きなチャンスにつながる可能性も
(中略)「あまりにも偉大な成功」を経験すると、その成功経験に固執したことが大失敗につながる例は多い。象徴的な実例として語られることが多いのが、米国企業のコダックだ。(中略)

ファーウェイの場合、「苦境」は現在も続いている。しかし、スマホ事業での大成功という「過去の栄光」に束縛されない状態が、米国の制裁のおかげでより早く実現した感すらある。ピンチは時として、大きなチャンスのきっかけになる。

■米政府が中国製品撤去のために用意した助成金は実情と比べて大幅に不足
一方、制裁を科した側の米国の状況はどうなのか。米国メディアのブルームバーグは11日、米国当局が進める「安全の確保」を理由とする自国の通信インフラからの中国ハイテク製品の締め出しが順調に進んでいないと報じた。

米国当局は自国の通信インフラで使われている華為科技(ファーウェイ)や中興通訊(ZTE)の製品を他の製品に交換するよう、分野ごとに指示している。業者側の負担を低減するために、助成金制度も設けたが、予算総額が大幅に不足している。(中略)

影響が特に大きいのは、地方の規模が小さな接続業者だ。中国製品の排除という政府の方針は支持しつつも、資金が足りない場合には事業からの撤退を決断すると話す経営者もいるという。(中略)

■米通信業者は10年前、自国政府の誘導により中国製品を導入
(中略)米国政府が「中国製品締め出し」のために制定した助成金制度には、もう一つの問題がある。同等の機能を持つ中国製品以外の機器に交換する場合に対しての助成金という制約だ。

技術の進歩が速い通信業界では通常、「機器交換」はアップグレードを意味するが、助成金に付帯する条件のために、機器を交換しても技術面では「停滞」せざるをえないという。

また、通信の仕様が変わるために、サービスの個別利用者が、携帯電話などの端末機器を自己負担で買い替えねばならない場合もある。米国による「中国企業制裁」は、自国の業者にも消費者にも、大きな負担をもたらしつつある。

■米国で「中国との競争について見通しが甘かった」の真剣な反省
米ハーバード・ケネディ・スクール ベルファーセンターは2021年12月、「大いなる技術の対抗:中国 vs 米国」と題する長大なリポートを発表した。同リポートは、米国国内における「中国関連予想」が、はずれ続けたと紹介した。(中略)

2010年になると、中国が巨大工業国として成長しつつあることははっきりと認識されていたが、中国問題の専門家ですら「中国では(学習の方法の)大部分が丸暗記」であり、中国は「規則に縛られた国」であり、中国人はイノベーションを成し遂げることはできず、模倣しか出来ないと考えていた。また、「情報技術における進歩はファイアー・ウォールの背後にある独裁的な体制の下ではなく、自由に考える者で成り立つ社会で達成される」と考えが一般的だった。

そして、ベルファーセンターのリポートは、技術分野における中国観は現在までに「中国は巨大製造国の地位を越えて、21世紀の基礎的な技術分野である人工知能(AI)、5G、量子情報科学(QIS)、半導体、バイオテクノロジー、グリーンエネルギーで、脅威ある対抗者になった。中国はいくつかの競争において、すでにトップだ」などと、大きく変化したと指摘。

同リポートによれば、多くの米国人は古い中国観に固執しているが、専門家からは「このままの状態が続けば、中国は最先端技術の分野で、10年以内に米国を追い越す」との指摘も出ている。

■米国のファーウェイ制裁、中国の「米国猛追」をさらに加速する可能性
(中略)最も成功した中国ハイテク企業の一つであるファーウェイは、最低でも売上高の10%に相当する金額を研究開発費に充てることを社是としている。21年における研究開発費の売上高に対する割合は、前年比6.5ポイント増の22.4%だった。同割合が大きく跳ね上がった最大の要因は売上高が前年比28.6%と激減したことだが、研究開発費は実際の金額も、前年よりわずかではあるが増えている。

中国ではファーウェイの創業者であり最高経営責任者(CEO)である任正非氏が、「経営の神様」と見なされている。米国の圧力に堂々と立ち向かう姿が、「愛国心」を刺激している面もあるが、それだけではなく、常に長期展望をもって会社を成長させてきた姿勢と手腕が評価されているという。そのファーウェイの経営に大きな特徴が、「研究開発に多くをつぎ込む」だ。

科創板に上場した企業の経営者が、任氏やファーウェイの経営方針を大いに意識にしていることは間違いない。その結果、中国のハイテク企業には「研究開発に多くをつぎ込む」が、企業文化として浸透したと言える。

その結果、中国企業が画期的な技術を開発する可能性は高まりつつある。企業の研究開発に対する米国のファーウェイに対する制裁が、長期的に見れば中国との技術開発競争で、米国にとって「さらに不利な状況」をもたらす可能性は否定できない。【5月20日 レコードチャイナ】
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上記記事はいささかファーウェイの側に立つような感もありますが、そこを差し引いても、IPEFのような取引面で中国を排除するような“小細工”を弄している間に、中国企業はイノベーションでその壁を乗り越え、排除したはずの国々がやがて置いていかれる・・・といった事態にならなければ幸いですが・・・。

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