孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

カザフスタン、ベラルーシに見る旧ソ連CSTO参加国にも広がる「ロシア離れ」

2022-05-17 23:34:58 | ロシア
( ロシア・モスクワで開かれた、集団安全保障条約機構(CSTO)の会合に臨むウラジーミル・プーチン大統領ら加盟国首脳(2022年5月16日撮影)【5月16日 AFP】 会議場はロシアの権威を示すように豪華ですが、会議の内容はプーチン大統領にとっては寒いものだったようです)

【「ロシア離れ」 北欧だけでなく親ロシア地域や旧ソ連のCSTO参加国でも】
ウクライナの状況に関しては、ロシア軍の苦戦、欧米の武器支援を受けるウクライナ側の反転攻勢の流れが強まりつつあることが連日報じられています。

もちろん戦況は水物ですから今後のことは断言できませんし、特に、追い詰められたロシアが懸念されるような核使用に至った場合は事態は混とんとします。

ただ、現時点の状況で言えば、戦局だけでなくロシアを取り巻く国際情勢が日に日にロシアにとって悪化しています。

欧州にあっては、北欧のフィンランド、スウェーデンが正式にNATO参加を表明するということで、NATOの拡大を封じるためにウクライナに侵攻したプーチン大統領の戦略は完全に裏目に出ています。

北欧の両国だけでなく、永世中立国スイスもロシアを警戒してNATOとの距離を縮めるような動きにもなっています。
“「永世中立」のスイスがNATOに急接近 ウクライナ危機で揺らぐ国是”【5月17日 Newsweek】

更に、ロシアを後ろ盾とする親ロシア地域でも、ジョージアからの分離独立を主張する南オセチアの大統領選挙で、ロシアへの編入を実施するという現職大統領が編入慎重派候補に敗れる事態に。

また、ベラルーシ、カザフスタンといった旧ソ連諸国にもロシアと距離を置こうとする動きが目立ちます。

今回はこのうち、旧ソ連諸国の動きについて。

****【舛添直言】プーチンの誤算、親露派諸国にじわじわ広がる「ロシア離れ」****
北欧の安全保障体制が猛烈なスピードで変化している。
(中略)

プーチンの選択が裏目に
(中略)

親ロシア地域でも揺らぎ
(中略)
さらに、ウクライナ周辺の旧ソ連地域を見渡せば、ウクライナの現状を見て、多くの地域がロシアとの紐帯を緩めようとしている。
 
ジョージア(グルジア)には、親露派で分離独立を唱える南オセチアとアブハジアが存在する。2008年8月、グルジア軍が、南オセチアの首都ツヒンヴァリに対し軍事行動を起こしたが、これに対抗してロシア軍が南オセチアに入り戦闘が行われた。ロシア軍に反撃されたグルジア軍は撤退し、ロシアは南オセチアとアブハジアの独立を承認した。
 
その南オセチアでは、5月8日に「大統領選」の決選投票が行われたが、ロシアへの編入を実施するという現職のアナトリー・ビビロフ候補が、編入慎重派のアラン・ガグロエフ候補に敗北した。43%対54%という得票率であった。
 
南オセチアは、ウクライナのロシア軍に協力するために戦闘員を派遣したが、そこで戦死者が出たことが、現職への批判につながったようである。
 
ガグロエフ政権となる南オセチアが親ロシア路線を継続することは間違いないが、ロシアへの編入に慎重になったことは変化への兆しかもしれない。また、この選挙結果は、ウクライナの東部2州やヘルソン州での親露派の動きにも影響を与えると思われる。

カザフスタンの動向にも微妙な変化
カザフスタンの動向も気にかかる。今年の1月、カザフスタンでは、燃料価格の高騰に抗議するデモが暴徒化したが、トカエフ大統領は、ロシア主導の軍事同盟である「集団安全保障条約機構(CSTO)」に治安部隊を派遣するように要請した。これに応じてロシアの精鋭部隊がカザフスタンに入り、事態を鎮静化させた後に撤退した。
 
CSTOは、ソ連邦崩壊後の1992年5月にロシア、アルメニア、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、ウズベキスタンが組織したものである。翌1993年にアゼルバイジャン、グルジア(ジョージア)、ベラルーシが加盟し、1994年4月に発効した。その後、離脱する国も出てきて、現在は、ロシア、アルメニア、ベラルーシ、カザフスタン、キルギス、タジキスタンの6カ国が加盟している。
 
ジョージアは、NATO加盟を目指し、また先述したように親露派分離勢力をかかえながらロシアと対立している。
 
ロシアによるウクライナ侵攻は、西側諸国による経済制裁を招き、それは、親露派諸国にも影響を与えている。
 
3月15日、ロシアはユーラシア経済連合(EEU、EAEU)への小麦など穀物や砂糖の輸出を一時的に禁止することにしたが、これは、戦争の長期化に備え、ロシア国内自給態勢を強化するためである。
 
ユーラシア経済連合とは、2015年に発足した地域経済協同体で、ベラルーシ、カザフスタン、ロシア、アルメニア、キルギスが加盟国である。EUに対抗する経済協力体樹立を狙ったプーチンの構想だが、ウクライナは賛同せずに、EU加盟を求めた。それもまたプーチンのウクライナ憎悪に繋がったのである。
 
カザフスタンでは、ウクライナ情勢、そして、経済制裁に伴う小麦や砂糖の禁輸を前にして、CSTOやEAEUから脱退すべきだという声もあがり始めている。中央アジアの大国、カザフスタンの今後の動きも要注意である。(後略)【5月17日 JBpress】
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【求心力の低下を露呈したCSTO首脳会合】
上記記事にもあるロシア主導の軍事同盟「集団安全保障条約機構」(CSTO)の首脳会合が16日に行われましたが、“友好国の結束を図ったロシアの思惑は外れ、かえって求心力の低下を露呈した”結果に終わっています。

****露軍事同盟に足並みの乱れ 首脳会合で侵攻めぐり批判も****
ロシア主導の軍事同盟「集団安全保障条約機構」(CSTO)の首脳会合は16日、モスクワで共同声明を採択し、閉会した。

会合では異例のロシア批判やウクライナ侵攻の早期終結を促すような発言が出たほか、共同声明にも侵攻を直接支持する文言は記載されず、足並みの乱れを示唆。友好国の結束を図ったロシアの思惑は外れ、かえって求心力の低下を露呈した。

プーチン露大統領は公開された会合冒頭の演説で、「ウクライナではネオナチと反露主義が横行し、米欧も奨励している」と主張した。だが、ベラルーシのルカシェンコ大統領を除き、各国首脳から同調する発言は出なかった。

アルメニアのパシニャン首相は、係争地ナゴルノカラバフ自治州をめぐり2020年に起きたアゼルバイジャンとの紛争の際、「CSTO諸国はアルメニアと国民を喜ばせなかった」と指摘。アルメニアに実効支配地域の多くを放棄させる条件で停戦合意を仲介したロシアを批判した形だ。

カザフスタンのトカエフ大統領はCSTOと国連平和維持活動の連携を提案。同氏は対話による侵攻の早期終結を訴えてきた。ウクライナのクレバ外相によると、4月末に会談したカザフのトレウベルディ外相は「ロシアに制裁回避の手段を提供しない」と表明。ロシアとの距離感が目立つ。

キルギスのジャパロフ大統領、タジキスタンのラフモン大統領はアフガニスタン情勢について演説した。

唯一、ウクライナに言及したルカシェンコ氏も「米欧はウクライナを支援して戦争を長期化させようとしている。狙いはロシアを戦争に没頭させ、弱体化させることだ。そのために米欧はさらに火を注ぐことができる」と指摘。米欧を批判しつつ、侵攻継続は不利だとしてロシアに停戦を勧めたとも取れる発言をした。

各国はロシアと米欧の対立に巻き込まれる事態を警戒しているとみられる。実際、CSTO事務局によると、プーチン氏は作戦の進捗を各首脳に説明したが、CSTO軍の参戦は議題にすら上らなかった。

共同声明では「ナチズムの美化や外国人排斥に対抗していく」などとしたものの、米欧側やウクライナを直接的に非難する文言は盛り込まれなかった。【5月17日 産経】
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【カザフスタン ロシアの“思い入れ”を警戒 欧米との経済関係を重視】
カザフスタンでは1月、燃料価格の引き上げをきっかけに暴動が起きると、CSTOに部隊の派遣を要請し、CSTOの規定に基づいて初めて部隊が派遣されました。

そうした経緯からすれば、カザフスタン・トカエフ政権はロシア寄りの姿勢になるとも予想されました。

****ロシア、カザフ関係強化を確認 プーチン氏、治安回復支持****
ロシアのプーチン大統領は(2月)10日、モスクワでカザフスタンのトカエフ大統領と会談した。カザフで1月に暴動が起きて以降、直接会談は初めて。

プーチン氏は会談後の共同記者会見で、暴動はカザフの主権を脅かした「テロ攻撃」だったとし、治安回復を支持した。両首脳は関係強化を確認した。
 
トカエフ氏は「われわれの地域の安全保障においてロシアは格別に大きな役割を担っている」と強調。プーチン氏はカザフと軍事協力を強化する考えを表明した。会談に合わせ、ロシアとカザフは教育や宇宙に関する11の文書に署名した。【2月11日 共同】
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しかし、カザフスタンは欧米の資本を誘致して石油などの資源開発を進めたい思惑があり、ロシアと欧米の対立に巻き込まれ、欧米の制裁の対象になりたくない思いが強いようです。

なお、上記のカザフスタンへのロシア主導のCSTO介入が行われたことに関し、同様措置を求めたアルメニアの要請は認められませんでした。アルメニアはそのことでロシアに“恨み”があるようです。

資源大国カザフスタンはロシア革命後にロシア人の大規模入植が行われ、1980年代まではロシア系住民の方がカザフ系住民より多かった程です。

そのためロシアは、ウクライナに特別の思い入れがあるように、中央アジアにあってはカザフスタンを特別の存在として扱う傾向があります。

そのことが1月のCSTO介入にもつながった訳ですが、ロシア語と同じキリル文字を使ってきたカザフ語の表記をラテン文字に切り替えるなど“脱ロシア”を進めてきたカザフスタンからすれば、そのような“ロシアの思い入れ”は“ウクライナの次は・・・”といったことにもなりかねないとの警戒感を抱かせます。

****カザフは侵攻参加拒否 ウクライナ、米報道****
米NBCテレビは27日までに、ロシアと緊密な中央アジアのカザフスタンがウクライナ侵攻への軍派遣を求められ、断っていたと報じた。当局者の話としている。
 
報道によると、ロシアが侵攻に先立ち承認したウクライナ東部の親ロ派2地域の独立についても、カザフは認めていない。
 
カザフのトカエフ大統領は1月、燃料価格引き上げに抗議するデモが暴徒化した際、ロシア主導の集団安全保障条約機構(CSTO)に部隊派遣を要請して治安を回復。ロシアとの関係を強めたとみられていた。【2月27日 共同】
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****カザフ、ウクライナ支持デモを許可 ロシアから距離****
ロシアと軍事同盟を結ぶカザフスタンは6日、ロシアによるウクライナ侵攻に抗議するデモを最大都市アルマトイで行うことを許可した。
 
旧ソ連構成国のカザフは通常、政治的なデモを認めていない。しかし、ロシアを支持する国も経済制裁の対象とすべきだとの声が西側諸国から上がっていることから、許可に踏み切ったとみられる。
 
カザフ外務省は、ロシアの侵攻について中立の立場を強調している。(後略) 【3月7日 AFP】
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ロシア側からすれば、「一体誰のおかげで助かったと思っているのか?」「次はカザフスタンの番だ」といった憎悪のこもった批判が出ているようです。

キルギスはタジキスタンと国境紛争を抱えていますが、国内にはCSTOが機能していないとの不満があり、脱退論も出ているとか。

【ベラルーシ 表向きのロシア協調とは異なるルカシェンコ大統領の本音】
ロシアを支持し、自国内からのロシア軍の侵攻を認めているベラルーシも、これまでロシアに協調して参戦するのでは・・・との話が飛び交いましたが、実現していません。

べラルーシ・ルカシェンコ大統領もカザフスタン同様に自国内で不正選挙疑惑から反政府運動が高まった際にロシアの後ろ盾を得てこれを鎮圧した経緯がありますので、とりあえずはロシア・プーチン大統領と協調はしています。

ただ、以前からプーチン大統領の意のままにはならない“独自色”が強く、表向きの協調はともかく、参戦までしてロシアと一蓮托生になる考えは毛頭ないようです。特に、ロシアの苦戦が表面化した今はなおさらです。

****「こんなにも長引くとは」ウクライナ侵攻にベラルーシのルカシェンコ大統領****
「正直、この作戦がこんなにも長引くとは思っていなかった。私はこの問題に深入りしていないので、ロシアが言っているように計画通りに進んでいるのか、私が感じていることが事実なのかは分からない。私が強調したいのは、この作戦が長引いているように感じるということだ」。
 
ロシアの同盟国、ベラルーシのルカシェンコ大統領は5日、AP通信とのインタビューに応じた。(後略)【5月6日 ABEMA Times】
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****ベラルーシ大統領「ロシアの侵攻失敗」の認識示唆か SNSで憶測****
ロシアの同盟国、ベラルーシのルカシェンコ大統領が、ロシアのウクライナ侵攻は失敗に終わる−との認識を示したとも取れる発言をし、ロシア語圏のメディアやSNS(交流サイト)上で話題となっている。

ベラルーシ国営ベルタ通信によると、ルカシェンコ氏は9日、同国で開かれた第二次大戦の対ドイツ戦勝記念式典の後、「自国内で領土や家族、子供のために戦う国民を打ち負かすのは不可能だ」と述べた。発言は、報道陣が「北大西洋条約機構(NATO)側がベラルーシへの軍事圧力を強めている」とし、それに対するルカシェンコ氏の見解を尋ねた際のものだが、露SNS上などでは「暗にロシアを批判したのではないか」との憶測が広がった。

憶測の背景には、ルカシェンコ氏がロシアに忠誠を示しつつ、侵攻には否定的で、米欧側との決定的対立や国内の不安定化を招く参戦を巧妙に避けてきた−との見方が強いことがある。ベラルーシとウクライナは歴史的に、同じ東スラブ系のロシアを長兄とする「兄弟国」ともされてきた。

米欧やウクライナの防衛当局は侵攻開始当初から、ロシアが「偽旗作戦」を用い、ベラルーシを参戦させる恐れがあると警戒。3月にはウクライナ国境警備隊が「露軍機が国境地帯のベラルーシ側を爆撃した」と発表し、ベラルーシの参戦が近いとの観測を示した。

しかし、ベラルーシは爆撃の情報を否定。ウクライナ情報当局は、ベラルーシ軍が「現場部隊が前進命令に従わない」との口実で、ロシアからの参戦要求を拒否しているとも発表した。

ルカシェンコ氏もこれまで、国内会議などで「露軍は独力で目標を達成できる。助太刀は不要だ」と何度も発言。ロシアを持ち上げつつ、ベラルーシは参戦しない方針を示してきた。【5月11日 産経】
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プーチン大統領からすれば、以前からおとなしくロシアに従わないルカシェンコ大統領は“煮ても焼いても食えない”存在です。

16日のCSTO首脳会議では、「米欧はウクライナを支援して戦争を長期化させようとしている。狙いはロシアを戦争に没頭させ、弱体化させることだ。」として、実質的にロシア・プーチン大統領に停戦を勧めたとも取れる発言したことは前出【産経】のとおり。

今回は詳しい話はパスしますが、中国も“中国のハイテク大手がロシアとの取引をひそかに停止―米メディア”【5月9日 レコードチャイナ】というように、欧米との軋轢を覚悟してまでロシアに肩入れする考えはないようです。

以上のように、ロシアを支えると思われるような親ロシア地域や旧ソ連諸国にあっても、ロシアと距離を置く姿勢が強まっています。

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