孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イギリス  国内的には苦境のジョンソン首相 北アイルランド議定書を放棄する意向

2022-05-23 23:12:40 | 欧州情勢
(【5月18日 BBC】)

【ウクライナ問題で存在感をアピールするものの、国内ではパーティー問題にインフレ進行】
イギリス・ジョンソン首相は4月9日にはウクライナを訪問してゼレンスキー大統領と会談、4月23日にはゼレンシキー大統領との電話会談でウクライナへの装甲車やドローン、対戦車兵器など武器追加供与を発表、5月3日には外国の首脳として初めてウクライナ議会で演説し、さらなる軍事支援を表明・・・と、外交面ではウクライナへの積極支援でEUを離脱したイギリスの存在感をアピールしています。

しかし、内政面では問題山積・・・だからこそ、外交面で話題作りに励んでいる(あるいは、指導力をアピール)と言うべきか・・・。

先ずは新型コロナ規制を無視したバーティー参加で罰金を課された件

****罰金の英首相、「逃げ切り」図る 世論調査は57%「辞任すべきだ」****
ジョンソン英首相は(4月)12日、新型コロナウイルス対策の行動規制中にもかかわらず首相官邸で開かれた自身の誕生日パーティーに参加したとして、警察当局から罰金を科され、支払ったことを明らかにした。

野党は辞任を求めているが、ロシアによるウクライナ侵攻で欧州が揺れる中、与党の大半は首相の指導力が不可欠と擁護しており、首相は「逃げ切り」を図る構えだ。
 
英メディアによると、現職の首相が法律違反で罰金を科されるのは初めて。罰金は50ポンド(約8000円)と報じられている。スナク財務相も同様に罰金を科された。

処罰対象となったのは2020年6月19日の集まりで、首相は「私の誕生日に10分以下の集まりがあり、職員らが祝ってくれた。当時は違反とは思わなかった」と釈明。「全面的に謝罪する」と述べる一方、今後も責務を果たすとして辞任を否定した。
 
これに対し野党・労働党のスターマー党首は「統治者として不適格」と辞任を要求。与党・保守党の一部からも「擁護できない」(ミルズ議員)との声が出始めている。
 
それでも首相が辞任を否定する背景には、ウクライナ情勢がある。2月のロシアによるウクライナ侵攻後、首相はウクライナのゼレンスキー大統領と頻繁に電話で協議。4月9日には首都キーウ(キエフ)を電撃訪問し、新たに装甲車の提供を申し出るなどウクライナ支援の姿勢を内外に示してきた。保守党のミリング議員はツイッターに「ウクライナを守るには最適の人物だ」と擁護した。
 
だが世論は厳しい。調査会社ユーガブの緊急世論調査では、英国民の57%が辞任すべきだと回答した。【4月14日 毎日】
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****パーティー問題で首相調査へ=議会にうそ?退陣論加速も―英****
英首相官邸で新型コロナウイルスの規制中にパーティーが繰り返されていた問題で、同国下院は(4月)21日、ジョンソン首相が議会にうそをついたか否か調べる動議を承認した。警察による捜査の終了後、調査が始まる見込み。結果次第で首相退陣論が加速する可能性もある。
 
野党労働党が提出した動議は、規則違反はなかったと再三述べてきたジョンソン氏の主張が虚偽だったかどうか、下院の特権委員会に調査を求める内容。与党保守党を含め反対は出なかった。首相は先週、パーティー参加で罰金を科されたことを認め、「違反行為」が明白となっている。
 
インド訪問中のジョンソン氏は、英テレビのインタビューで「隠すことは何もない。(調査の行方を)全く心配していない」と強気の姿勢を示した。【4月22日 時事】 
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ジョンソン首相への国民視線が厳しくなっているのはルール違反のパーティー問題だけでなく、経済の根幹であるインフレ問題もあります。

****4月の英物価9%上昇 40年ぶり高水準****
イギリスの4月の消費者物価指数は、電気・ガス料金が大幅に引き上げられた影響で前の年の同じ月と比べて9.0%上昇しました。およそ40年ぶりの高い水準です。

イギリスの国家統計局が18日に発表した4月の消費者物価指数は前の年の同じ月と比べて9.0%上昇しました。

4月から電気・ガス料金が大幅に引き上げられたことにより、3月の物価上昇率よりも大きくなっていて、およそ40年ぶりの高い水準となりました。

ロシアのウクライナ侵攻に伴うガソリンや食料などの価格高騰も続いていて、中央銀行にあたるイングランド銀行は年内に消費者物価指数が10%を超えると予測しています。【5月18日 TBS NEWS】
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【統一地方選挙で与党敗北】
こうしたパーティー問題、インフレ進行を受けて、地方選挙では与党への厳しい審判が下されています。
ただ、敗北は想定内で“首相辞任論が加速するかどうかは見通せない”との指摘も。

5月5日、イギリスでは統一地方選が行われました。イングランドとスコットランド、ウェールズでは主な計200の自治体で各議会の6千以上の議席が選ばれました。英領北アイルランドでも、自治政府の行方を左右する議会選が行われました。有権者は国政レベルの課題も考慮するとみられ、政権の取り組みに審判が下されると見られていました。【5月5日 共同より】

****英与党の保守党、地方選敗北 ジョンソン政権に痛手****
英各地で5日に投票が行われた統一地方選は6日に大半の開票が終わり、ジョンソン首相の率いる国政与党の保守党が議席を大幅に減らした。BBC放送が伝えた。事実上の敗北となった。首相官邸でのパーティー開催問題で批判を浴びたことや、最近の物価高騰が逆風となったもようだ。
 
ジョンソン政権にとっては痛手となった一方、一定の議席減は想定通りで「直ちに危険区域に入ったわけではない」(英メディア)との見方もある。保守党内でくすぶっていた首相辞任論が加速するかどうかは見通せない。【5月7日 共同】
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【敢えて(?)強気姿勢を貫くジョンソン首相】
そうした国内に問題を抱えるジョンソン首相ですが、攻めの姿勢で大胆な財政改革も手がけています。

****英首相、公務員9万人削減を指示 減税の財源確保で=報道****
ジョンソン英首相が、減税の財源を確保するため公務員9万1000人の削減を閣僚に命じたと、デーリー・メール紙が12日報じた。

ジョンソン氏は生活コストに関する11日の閣議で、家計への圧迫を緩和するための取り組み強化を指示。

公務員を5分の1近く削減する計画を1カ月以内に策定するよう命じた。これによって年間約35億ポンド(42億7000万ドル)を節減できるという。【5月13日 ロイター】
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公務員を5分の1近く削減・・・労働組合、野党・労働党の反発は必至ですが、政権基盤である保守層には歓迎される政策でしょうか。

ジョソン首相を生みだしたのはブレグジット支持層ですが、ブレグジット支持層ではEU離脱によって移民流入を減らせるとの考えが強く、下記の不法移民対策などもそうした政権支持層には歓迎される政策でしょう。たとえ、「非人道的」云々の批判はあっても。

ジョソン首相自身も、EU離脱のプラス面として「国境管理の主権を取り戻したこと」を挙げて来た経緯があります。

****英「不法移民、ルワンダに移送」案が波紋 「非人道的」と批判も****
英仏海峡を渡って英国に入国を試みる不法移民・難民について、英政府がアフリカ中部ルワンダに「移送」する新政策を発表し、波紋を広げている。政府は危険な密航を阻止する効果を狙うが、命がけで渡航してきた人々の身柄をさらに別の国に引き渡すことになり、「非人道的だ」といった批判の声も上がっている。
 
「制御できない移民の増加は、わが国の医療や福祉に過度な負担となる」。ジョンソン首相は4月14日、英南東部ケント州で演説し、新政策の理由を説明。そのうえで「ルワンダは世界で最も安全な国の一つだ」と述べ、移送への理解を求めた。
 
ルワンダは約80万人が死亡した1994年の内戦後、民族和解が進展。現在は政情も安定して経済成長も著しく、「アフリカの奇跡」と呼ばれている。近年はリビアなどからの難民を受け入れた実績もある。
 
英政府の説明によると、英国は今後ルワンダに1億2000万ポンド(約195億円)を投資し、移送される移民らを支援する。移送の対象となるのは今年1月1日以降の不法入国者とされるが、実際にどれだけの人数が移送されるかは不明だ。
 
だが、いわば「カネと引き換え」に人々を受け入れてもらう政策については反対の声も上がっている。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は「戦争や迫害から逃れてきた人々に思いやりや共感を持つべきだ。商品のように交換されるべきでない」との声明を出した。

英国国教会の最高位聖職者のウェルビー・カンタベリー大主教も4月17日、「深刻な倫理的疑問がある」と述べた。世論調査会社ユーガブの調査でも、英国内でこの政策に反対と回答した人は42%に上り、賛成の35%を上回った。
 
ルワンダでは強権的なカガメ大統領の下、言論の自由が制限されているとの指摘もあり、ルワンダの野党からも「ルワンダは人々を歓待する国だが、まずは国内問題の解決が先だ」との声が出ているという。
 
英BBC放送によると、2021年に英仏海峡をボートで渡り、英国に到着した人々は2万8000人以上で、20年から約8000人増加した。21年11月にはボートが転覆し、27人が死亡する事故もあった。渡航者は中東やアフリカ出身者が多いという。
 
英国では、ブレグジット(欧州連合=EU=からの離脱)につながった16年の国民投票で、離脱派が移民増加を理由の一つに掲げていた。ジョンソン首相も19年の就任以降、不法移民対策の強化を訴えている。【4月29日 毎日】
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支持層が歓迎する施策なら、もともと政権に批判的な層がどのように反対しようが押し通す・・・というスタイルは、トランプ前大統領的な政治スタイルのようにも。

【ブレグジットの条件だった北アイルランド議定書を放棄 英・EU間の貿易戦争の懸念も】
EUとの関係でさらに問題となりそうなのが、ブレグジットの条件であった北アイルランドの扱いを一方的に反故にしょうという施策。ブレグジットの際に最後まで問題となったところでもあります。

****英、北アイルランド通商協定を変更へ EUは反発****
英政府は17日、欧州連合離脱(ブレグジット)協定に盛り込まれた英領北アイルランドに関する特別通商ルールを大幅に変更する意向を表明した。北アイルランドでの政治的停滞を解消するためとしているが、EUとの貿易戦争に発展する可能性がある。

変更が発表されたのは、「北アイルランド議定書」と呼ばれる離脱協定の一部。英政府は、協定内容の変更は不可能だとするEU側の立場が変わらなければ、同議定書を修正する法案を数週間以内に提出するとしている。

同議定書は、紛争を経験した北アイルランドの不安定な情勢や、EU加盟国のアイルランドと国境を接していることを踏まえて合意されたもので、イングランド、スコットランド、ウェールズの英本土3地域から到着する商品への通関検査を義務付けている。

だが、北アイルランド最大の親英派政党・民主統一党は検査義務に反発。議定書が修正されなければ、今月の自治議会選挙で歴史的勝利を収めた親アイルランド派政党・シン・フェイン党との共同統治を拒む構えを見せている。

英政府は、通関検査の大部分を廃止する方針を示した。2019年にボリス・ジョンソン首相が合意したEU離脱協定の重要な要素を事実上放棄する形になるが、ジョンソン氏はこの変更が国際法に違反するとの見方を否定している。

しかしEUは、英国が離脱協定に違反した場合、重い関税が課される可能性があると警告。議定書の再交渉には応じない意向を示している。 【5月18日 AFP】AFPBB News
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ブレグジットで問題になったのは、EU加盟国であるアイルランドと英領北アイルランドの国境において物流管理のためにハードな国境管理を復活させると、IRAのテロなど多くの血が流れた北アイルランド問題を再燃させることにもなること。

そこで、北アイルランドはEUルールに従うとしてアイルランド国境はこれまで同様にフリーに行き来できることとし、代わりにイギリス本土と北アイルランドの間で物流管理を行うとしました。当然、北アイルランド最大の親英派政党・民主統一(DUP)は「北アイルランド切り捨てだ」と反対していました。

自治議会選挙で敗北した民主統一党が態度を硬化させたこともあっての「北アイルランド議定書」反故のように見えますが、当初からジョソン首相の頭にはいずれこうした事態があるという考えもあった・・・のかも。

****英、EUと摩擦か 「北アイルランド」問題でルール変更模索****
英国が本土と英領北アイルランドの間に税関手続きが発生した欧州連合(EU)離脱に伴う通商ルールの変更に乗り出した。

北アイルランドでは議会選で勝利した親アイルランド派政党に対し、本土との一体性を重視し、第2党に転落した民主統一党(DUP)が協力を拒み、自治政府の新政権樹立が見通せない。

DUPは協力の条件として通商ルールの変更を求め、英政府が応じようとしている形だが、変更を拒否するEUとの摩擦が懸念される。

トラス英外相は17日、EUとの離脱協定に盛り込まれている通商ルールの変更に向けた法案を議会に提出すると表明した。新法案では、税関手続きの一部撤廃を含める見通しだ。

英国は2020年末でEUを完全離脱したが、北アイルランドと本土と間の物流に税関手続きを設ける通商ルールが決まった。北アイルランドとEU加盟国のアイルランドとの間で国境管理を復活させないためで、北アイルランドの帰属を巡り約30年間続いた紛争の再燃を防ぐ措置だった。

5日の北アイルランド議会選では、隣国アイルランドとの統一を掲げるカトリック系のシン・フェイン党が初めて第1党となった。

同党はアイルランド統一を求めて過去にテロ行為を重ねた過激派、アイルランド共和軍(IRA)の元政治組織。選挙戦では住民の関心が高い住宅や医療の問題に焦点を当てて支持獲得につなげた。

北アイルランドでは1998年の和平合意の下、親アイルランド派と親英派の代表政党が共同で自治政府を運営している。第1党から首相、第2党から副首相を出すのが通例だが、DUPは副首相の擁立に非協力的な姿勢を見せ、通商ルールの修正がなければ「共同統治に応じない」との姿勢を示す。DUPは通商ルールの内容について以前から「(北アイルランドが)EUに取り残された」と不満を示していた。

政権を樹立できなければ共同統治の原則が崩れ「和平が危機に陥る」(トラス氏)との懸念は強い。現地では今春、親英派と親アイルランド派の住民が衝突する暴動も起こった。

ただ、EU欧州委員会のシェフチョビッチ副委員長は17日の声明で、「一方的な行動は許されない」と英側の動きに反発。「EUはあらゆる手段を講じて対応する」と警告した。【5月20日 産経】
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再交渉を拒否しているEUも、昨年一定の譲歩案は示していました。

****「北アイルランド議定書」とは? なお続くブレグジットの通商問題****
(中略)
EUは以前から、北アイルランド議定書の再交渉は問題外であり、イギリスによる一方的な行動は悪影響を招くと警告してきた。

昨年10月には議定書の改定案を発表し、譲歩の道を模索した。その内容は以下の通り。
イギリスから北アイルランドに到着した食品の8割は、物理的な検査を必要としない
北アイルランドの輸入業者に必要な事務手続きを削減する
貿易業者の認可を拡大し、より多くの企業と製品を関税から除外する
医薬品のアイルランド海をまたぐ移動に支障が出ないよう法律を改正する
北アイルランドの政治家や企業団体といったステークホルダーとの協議体制を改善する

一方で、イギリスから北アイルランドに運ばれた製品がEUに輸送されない対策が必要だとしていた。

しかし、イギリスは先週、事態をさらに悪化させるとして、この改定案をはねつけた。

これからどうなる?
法案はイギリス議会で可決される必要があるため、一連の手続きには数カ月かかる可能性がある。
EUがどういった対応を取るかは明らかではないが、英・EU間の貿易戦争につながるとみる専門家もいる。

テリーザ・メイ前首相は、北アイルランド議定書を放棄すればイギリスの評判を損なうと警告した。
メイ氏は政府に対し、このような動きが「イギリスと、イギリスが署名した条約を順守する意志について、どんなメッセージを発するのか」考えるべきだと述べた。【5月18日 BBC】
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EUとの合意を一方的に反故にする「イギリス・ファースト」的な姿勢もトランプ的なところがあります。支持層には受けるのでしょうが・・・。

ウクライナ問題で手一杯のEUは、この件でイギリスと事を構える余裕はないのかも。
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