孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ウクライナ戦争  ウクライナの反撃で「勝利」も視野にいれる米 長期化でも好都合 独仏とは温度差

2022-05-10 23:02:53 | 欧州情勢
(【5月7日 読売】)

【ウクライナ側の反撃も】
ウクライナ戦争の戦況に関して、最近下記のようなウクライナ側の反撃の記事を目にする機会も増えました。

****ウクライナ抗戦「大きな弧」に…東部5集落を奪還と発表、露は米欧の武器供与ルート攻撃強化****
ウクライナ軍参謀本部は6日、東部ハルキウ(ハリコフ)の郊外で五つの集落をロシア軍から奪還したと発表した。米政策研究機関「戦争研究所」は、ウクライナ軍がハルキウで「局所的ではなく、より広範な反撃に転じている」と分析した。露軍も米欧からの武器供与ルートを狙った攻撃を強めており、東部での攻防が激しくなっている。
 
ウクライナ軍の制服組トップは5日、SNSで、ハルキウなどで「反撃作戦への移行」を表明していた。戦争研究所は、ハルキウ周辺でのウクライナの抗戦が「大きな弧に沿ったものとなり、これまでより規模が大きくなっている」とも指摘した。
 
ウクライナ大統領府のオレクシイ・アレストビッチ顧問は6日、ドネツク州の北部一帯で続いている双方の攻防で露軍が「最も力を集中させている」と指摘し、露軍の進軍を防いでいると強調した。
 
一方、露国防省は7日、東部で弾薬庫や米欧の武器を破壊したと発表した。東部ドンバス地方(ドネツク州、ルハンスク州)の制圧を目指し、米欧からウクライナへの武器供与ルートへの攻撃を強めている。(中略)

米政府は6日、ウクライナに対し、1億5000万ドル(約195億円)の追加軍事支援を行うと発表した。バイデン大統領は声明で「ウクライナが次の戦局で成功を収めるため、武器・弾薬の供給を絶え間なく続ける」と表明した。
 
米国は、射程の長い榴弾りゅうだん砲の砲弾2万5000発などをウクライナに供与し、東部での戦闘を支援する。米政府はこれまで榴弾砲90門の供与を表明しており、今回はレーダー3台と電子妨害装置なども供与する。
 
ドイツのクリスティーネ・ランブレヒト国防相は6日、ドイツ製の自走榴弾砲「パンツァーハウビッツェ(PzH)2000」7両をウクライナに供与し、ウクライナ兵への訓練も行うと明らかにした。
 
紛争当事国への武器供与をしてこなかったドイツは方針を転換し、4月下旬には、自走式対空砲ゲパルト約50両の提供を表明している。【5月7日 読売】
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【「ウクライナ勝利」の可能性も視野に、武器供与を強化するアメリカ】
ロシア軍の侵攻開始当時は、予想に反しロシア軍の進撃はスムーズにはいっていないものの、首都キーウ陥落は避けられないだろう・・・時間の問題だろう・・・といった雰囲気でしたが、欧米の武器供与を背景にしたウクライナ軍の抵抗とロシア軍自体の問題で、だいぶ様相が変化しました。

こうなると、ロシア軍を国外に駆逐してウクライナ側が勝利する・・・・という可能性も現実のものとなり、支援するアメリカ側にもそうした変化が見られます。

****米国が新たに見せる「ウクライナ勝利」という目標****
4月25日、キーウ訪問をすませたブリンケン国務長官およびオースティン国防長官はポーランドの国境近くで記者団と会見した。この中で、ブリンケン長官は「ロシアは失敗しつつある、ウクライナは成功しつつある」と述べた。
 
オースティン長官は「彼等(ウクライナ)は勝ちたいという思いでいる。われわれは彼等が勝つことを助けたいという思いでいる。われわれはそのことをやろうとしている」、「ロシアがウクライナに侵攻してなしたようなことを再び出来ない程度にロシアが弱体化することを我々は望んでいる」などと述べた。

そして、ウクライナを助けるために、翌26日にはドイツのラムシュタイン米空軍基地でオースティン長官主催の同盟国・有志国による会合が行われ、ウクライナに対する榴弾砲、戦車など長距離攻撃が可能な兵器を含めこれまで以上に強力な武器支援が申し合わされることとなった。
 
これは、戦闘が新たな段階に入ったことへの新たな対応と見られる。ウクライナ東部をめぐる戦闘では、キーウ周辺での防衛戦と異なり、平地での本格的な地上戦が予想され、異なった地形での異なった戦闘には異なった能力が必要になると国防総省のカービー報道官は説明している。
 
しかし、オースティン長官の発言は、米国の目標は変わりつつあるのかとの印象を与えた兆候がある。ウクライナの「勝利」を定義しないままでは意味がないが、米国はウクライナが生き残るだけでなく、勝利させることを視野に入れつつあるのではないかとの印象をメディアに与えたようだ。

今はまだ武器支援に徹する時
短期的には、真の意味での和平、真の意味での紛争終結はまずあり得ず、成功と言えるのは、ロシアが占拠する領域を2月24日以前の状態に押し戻した上での敵対行動の収束であり、西側は制裁と外交によって完全なロシア軍の撤退の達成を長期的に追及することとなろうという有力な意見がある。

それが現実的な見方であり、ロシアの損害は既に甚大とは言え、ウクライナ戦争を通じてロシアの「能力」を制限することを目標とし得る余地はないように思われる。  

ウクライナ東部の戦闘の本格化はこれからである。経済制裁は未だ実効をあげているとは言い得ない状況かと思われる。今はレトリックに慎重を期し、有効な武器支援に徹すべき段階だと思われる。【5月9日 WEDGE】
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アメリカ・バイデン政権は「武器貸与法」成立でウクライナへの武器供与を更に強める意向です。

****米国、武器貸与法が成立 大統領権限を強化、ウクライナに迅速な支援****
バイデン米大統領は9日、ロシアが侵攻を続けるウクライナに対する兵器の貸与を容易にする「レンドリース(武器貸与)法」に署名し、同法が成立した。

武器貸与法は第二次世界大戦でナチス・ドイツと戦う英国などへの支援で大きな役割を果たし、連合国の劣勢を挽回した。ウクライナへの支援強化のために復活した形で、より迅速な軍事支援が見込まれている。
 
武器貸与法は大統領の権限を強化し、ウクライナや東欧諸国に対して兵器や軍装備品を貸与する際に必要な手続きの一部を免除する。バイデン氏は、ホワイトハウスで開いた署名式で「戦いの代償は安くはないが、侵攻に屈することはもっとコストがかかる」とウクライナ支援への決意を語った。
 
武器貸与法は4月6日に上院を全会一致で通過した。下院でも同28日、共和党議員10人が反対に回ったが、圧倒的な賛成多数で可決。党派対立の激しい議会で、超党派での支持を得ている。【5月10日 毎日】
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アメリカもウクライナへの大量供与で、大活躍の対戦車ミサイル「ジャベリン」などの国内在庫が不足しつつあるといったことも報じられていますが、「ここで使わずに、いつ使う」といったところでしょう。

【ウクライナは6月逆襲で反転攻勢に出るとも ロシア側の“禁じ手”の懸念も】
ウクライナも、こうした欧米からの武器が揃った段階で、反転攻勢にでるというとも言われています。
クリミア奪還という言葉も目にするようにも。

ただ、そうした反転攻勢が明らかになれば、何としても「敗北」は避けたいロシア・プーチン大統領が核兵器や化学兵器といった禁じ手を使っても反撃するという危険性も高まり、注意深い対応が求められるようにもなります。

****ウクライナが6月逆襲で反転攻勢か…ロシア軍が弱体化、米欧「攻撃用」兵器供与で強気に****
膠着状態が続くロシアとウクライナの攻防戦。この先、戦況はどうなるのか。ウクライナは6月にも“逆襲”に出てくる可能性がある。 

ウクライナ大統領府のアレストビッチ顧問は5日、「米欧から提供される武器がそろう6月中旬以降に反転攻勢に出る」と発言。東部ドンバス地方などでロシア軍の撃退を目指す考えを示した。
ゼレンスキー大統領も、2014年にロシアに併合されたクリミア半島について「奪還を目指す」と明言している。  

これまでの「守勢」から一気に「攻勢」に転じるつもりだ。国際ジャーナリストの春名幹男氏はこうみる。 
「2月24日の開戦後、西側諸国からウクライナに供与されたのは、対戦車、地対空ミサイルといった『防衛用』兵器だけでした。ところが、4月中旬から榴弾砲や戦車など『攻撃用』兵器が供与されるようになった。

結果、ウクライナ軍がロシア軍を各地で押し返すなど、戦況は好転。4月下旬に首都キーウを訪れた米国のオースティン国防長官が『ロシアを弱体化する』と発言しましたが、実際にロシア軍は相当、弱体化している。ウクライナはかなり強気になっているはずです。6月中旬に兵器が届き次第、攻勢に出ても不思議ではありません」

ロシアの逆鱗に触れ攻防は長期化
しかし、ロシアが事実上支配してきたドンバス地方やクリミア半島にウクライナが手を伸ばしたら、ロシアも絶対に黙っていないだろう。プーチン大統領は9日の演説でドンバスやクリミア半島について、「われわれの土地だ」とハッキリと明言していた。ウクライナが両地域の奪還のために攻勢に出れば、プーチン大統領の逆鱗に触れるのは間違いない。 

「オースティン長官の『弱体化』発言直後、プーチン大統領は議会演説で『われわれは全ての手段を有している。必要があれば使用する』と、核兵器の使用を示唆しました。これは、『ウクライナが攻勢を強めれば核使用も辞さず』という警告でしょう。ドンバスやクリミアに手をかけられれば、プーチン大統領が最悪の決断をする可能性は否定できません」(春名幹男氏)  

やはり、この戦争は簡単には終わらない恐れがある。【5月10日 日刊ゲンダイ】
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【一気の勝利が難しく“長期化”しても、アメリカにとってはロシア弱体化が実現でき、それはそれで好都合】
そうしたロシア側の“なりふり構わぬ”反撃の危険性を含めて、一気にウクライナ側が“勝利”するというのは難しいと思われています。

前出【WEDGE】にもあるように、4月26日にドイツのラムシュタイン米空軍基地でオースティン長官主催の同盟国・有志国による会合に日本を含むウクライナ支援の世界約40カ国が集まり、今後の新たな戦闘段階に備えた重火器供与を目的とした体勢強化が図られました。ウクライナ勝利に向けた「新たな同盟」の態勢が確認されたとも言えます。

ただ、“「新たな同盟」がロシアに軍事的に対抗したとしても、すでにロシアが占領しているドンバス地方を奪い返すことは無理があるとの見方もある。仮に同地方からロシア軍を一掃させることができたとしても、かなりの長期戦になるはずだ。”【4月29日 堀田 佳男氏 JBpress】

しかしながら、アメリカにとっては長期戦でロシアが軍事的に疲弊・弱体化すること、場合によってはプーチン政権が揺らぐことは、ウクライナ勝利以上に“価値ある勝利”でしょう。

*****ロシア軍に襲いかかる40カ国参加の“新同盟”、その威力とは****
(中略)
こうしてみると、米国の究極の目標がおぼろげに見えてくる。
 
バイデン大統領はロシアに近隣諸国を攻撃させないばかりか、ロシアの国力を弱体化させ、究極的にはプーチン政権を崩壊させることを念頭に入れていそうだ。
 
公の場でこう明言する米政府関係者はいないが、多くの米政府関係者はこうしたシナリオが現実化した時にほくそ笑むはずである。
 
本当にそうなるのか、それともロシアが盛り返すのか、しばらく見守るしかない。【同上】
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こうしたアメリカの“思惑”は、ロシア軍の侵攻前からロシアの侵攻があることを盛んに“煽って”いたアメリカの意図として、「アメリカはプーチン大統領を抜き差しならないところに追い込んで、実際にウクライナ侵攻という泥沼に誘いこみ、ロシア制裁を含めてロシアの経済的・軍事的弱体化を図ろうとしている」とも言われていたシナリオにも合致します。

実際にアメリカ側にそうした“シナリオ”があったかどうかはわかりませんが、結果的にはそうしたシナリオに沿うような流れになりつつあるとも言えます。もちろん、ロシアがどういう反撃を見せるかにもよりますが。

【交渉・停戦を重視する仏独】
ウクライナの「勝利」、あるいは、ロシアの弱体化を視野に入れるアメリカに対し、欧州諸国はまた違った立場にあります。

何と言っても自分の家の隣で銃弾が飛び交っている、ひょっとしたらその銃弾が自分の家に撃ち込まれるようなことにもなりかねない・・・といった事態ですから、欧州にとってはウクライナが勝利するか否か、ロシアがどうなるかよりも、先ずはこの銃弾が飛び交う事態を収めたいというのが一番の思いでしょう。

下記記事も、「勝てる」と前のめりになるアメリカと“交渉再開に重点を置く仏独とは温度差がある”と指摘しています。

****仏独首脳、ウクライナ加えた欧州の新協力枠組み提唱****
マクロン仏大統領は9日、ベルリンを訪問し、ショルツ独首相と会談した。共同記者会見でマクロン氏は、ウクライナによる欧州連合(EU)加盟に難色を示しつつ、EUがウクライナを迎えて欧州のエネルギーや安全保障をめぐる新たな協力枠組みとなる「欧州政治共同体」を構築すべきだと訴えた。また、独仏首脳は、ウクライナとロシアの間で停戦交渉の再開を急ぐべきだと主張した。

マクロン氏はウクライナのEU加盟について、経済、法制度などの要件を満たすのに「数十年かかるかもしれない」として、早期実現は現実的ではないとした。代わりに、ウクライナや英国、バルカン諸国などEU非加盟の欧州各国とともに「欧州政治共同体」を作り、連携を図るべきだと主張した。ショルツ氏は提案を支持した。

ウクライナは2月、ロシアの侵攻後にEU加盟を正式に申請し、欧州委員会が近く是非をめぐって意見書を出す予定。バルト3国や東欧諸国は、加盟交渉を急ぐよう求めている。

一方、マクロン氏はウクライナ戦争をめぐり、言葉の応酬がエスカレートし、戦闘が激化する現状に懸念を示し、「われわれが求めているのは停戦だ。交渉で和平を実現し、ロシア軍を撤収させるべきだ」と述べた。

ショルツ氏はウクライナの主権と領土を守る必要性を指摘し、「和平交渉で早期に合意を」と語り、マクロン氏に同調した。

ウクライナをめぐってはオースティン米国防長官が「適切な装備と支援があれば勝てる」と発言しており、交渉再開に重点を置く仏独とは温度差がある。

マクロン氏の外国訪問は、4月の大統領選で再選されて以降初めて。ベルリン訪問に先立ち9日、仏ストラスブールの欧州議会で演説し、欧州政治共同体の構想を披露した。【5月10日 産経】
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(【5月7日 ABEMA Times】ロシアの9日の対独戦勝記念日に行われる軍事パレードのリハーサルに登場した核戦争などの非常時に大統領らがこれに乗って指揮を執るといわれ、「終末の日の飛行機」とも呼ばれている「イリューシン80」 本番での登場はありませんでした)

ここから先は蛇足と言うか、杞憂と言うか・・・万一の場合の話になりますが、もしロシアが核兵器を使用することになると、日本の立場は難しいものになるようにも思えます。

アメリカは当然激しくロシアを非難して、国際社会から締め出そうとするのでしょうが、ロシアは「そういうアメリカだって広島・長崎で使ったじゃないか」という反論にもなるでしょう。

日本は広島・長崎についてアメリカへの批判というよりは、核兵器を使用する人類の愚かさを戒めるという立場にありますが、アメリカが「広島・長崎はOK、ウクライナはダメ」という主張を前面にだしたとき、アメリカに追随することはできないでしょう。

一方で、「ウクライナもダメだが、広島・長崎もダメ」と言った場合、アメリカの核の傘に入っている現実とどのように整合性をとるのか・・・・なかなか難しそうです。

まあ、杞憂に終わることを願いますが。

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