孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イラン  ロシアと接近、中国も加えて反米協調 現実にはロシアとの競合も 実力行使のイスラエル

2022-05-29 22:54:05 | イラン
(5月26日、ギリシャ海運・島しょ政策省の関係筋などは、米国がギリシャ周辺でロシアの運航船に積まれたイラン産原油を押収したと明らかにした。写真は同日、ギリシャ沖で原油の積み替えを受けるイラン船籍のタンカー「ラナ」【5月27日 ロイター】)

【イラン・ロシア・中国で反米協調】
イラン核合意再建協議について革命防衛隊のテロ組織指定解除をめぐって“膠着状態”にあることは、5月16日ブログ“イラン 核合意再建協議は膠着状態、決裂の可能性も 国内では食料品補助金廃止で抗議行動が拡大”で取り上げましたが、その後の動きについてはほとんど報じられていません。「望み薄」との見方も。

****イラン核協議「妥結は望み薄」 米、テロ指定解除を否定****
米国のマレー・イラン担当特使は25日、上院外交委員会の公聴会で、イラン核合意の修復に向けた同国との間接協議について「ひいき目に見ても妥結する可能性は乏しい」と証言した。

イランが合意と無関係な要求をする限り「拒否し続ける。合意はない」と述べ、イランが求める革命防衛隊に対するテロ組織指定の解除に否定的な見方を示した。
 
革命防衛隊はイラン指導部の親衛隊的な性格を持つ軍事部門。2018年に核合意を一方的に離脱したトランプ前米政権が19年にテロ組織に指定しており、合意とは直接の関係はない。指定を巡って間接協議は折り合いがつかず、行き詰まっている。【5月26日 共同】
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こうした欧米との歩み寄りが進展しない状況の結果なのか、あるいは逆に、欧米との歩み寄りを阻害する背景なのかはともかく、このところはイラン同様に欧米の制裁を受けるロシアとの接近が目立ちます。

****ロシアとイラン、石油・ガス相互供給を協議****
 ロシアのノバク副首相は25日、イランと石油・ガスの相互供給や物流ハブの設置について協議したと明らかにした。欧米の対ロシア制裁に対応する措置となる。

同氏はイラン訪問中にロシア国営テレビに対し、何年も制裁下にあるイランの経験について話し合ったと語り、「相互に商品輸送を図るためにイランは主要な物流ハブになり得る」と述べた。

両国間のモノの貿易量は現在の年間1500万トンから数年内に5000万トンに拡大する潜在性があるとの見方を示した。

ロシアがイラン北部にエネルギーを供給し、イラン南部からアジア太平洋地域に石油・ガスを輸出する可能性に触れ、近い将来に合意締結があるかもしれないと述べた。【5月26日 ロイター】
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実際に、イラン産原油を積んだロシア運用の船舶が拿捕されるということも起きています。

****露イラン、原油密輸で協力か ギリシャ拿捕 米没収****
ウクライナに侵攻したロシアに対する欧州連合(EU)の制裁の対象だとして、ギリシャ当局がロシアの運用する船を拿捕(だほ)したところ、イラン産の原油を積んでいたことが判明した。

米国は26日、原油を没収して別の船に積み替え、同国に送ることを決めた。ロイター通信が複数の関係者の発言として報じた。

拿捕された船は「ペガス」で、米国はEU同様、露国防省に関係があるとして制裁対象に指定していた。ギリシャが拿捕したのは先月のことで、ペガスには19人のロシア人が乗っていた。イラン政府は在テヘランのギリシャ大使館の責任者を呼んで抗議した。

ペガスはロシアの侵攻後、船名や船籍が変わっており、ロシアとイランが協力して偽装した疑いがありそうだ。米財務省は今月25日、イランの最高指導者に直属する革命防衛隊の原油密輸や資金洗浄に関与したとして、ロシアに拠点を置く企業などを新たな制裁対象に指定、監視を強める方針を示していた。

核合意の修復を目指すイランと米国の間接協議は休止状態で、両国の対立が深まる可能性もある。【5月26日 産経】
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「敵の敵は味方」ということで、ともに欧米と対立し制裁を受けるイランとロシアが接近するというのは、ある意味自然な流れにも思われます。

【ロシアがイランの天然ガス顧客を奪う動きも】
しかし、現実はもう少し複雑。
イランにしても、ロシアにしても制裁を受けながらの生き残りに必至。自分が生き残るためには・・・

****液化石油ガス、ロシアが値引き輸出 イランから顧客奪う****
ウクライナに侵攻し、米欧から事実上の貿易制限を受けるロシアが主要輸出品の一つ、液化石油ガス(LPG)の値引き販売に乗り出した。アフガニスタン、パキスタンなど、イランの大口顧客が相手だ。

イラン核合意の再建協議でも、ロシアは土壇場で新たな条件を持ち出し、イランへの制裁解除を遅らせている。ロシアとイランの「蜜月」が揺らいでいる。

イランも核開発を理由に貿易制限の制裁を受けている。暖房、調理だけでなく自動車の燃料にも使うLPGの輸出は重要な外貨獲得の手段だ。

だが、イランの石油輸出業界のトップは地元紙に「アフガニスタンに1トン約600~700ドル(約7万7000~8万9000円)で販売していたが、最近では450ドルへの値下げを求められる」と打ち明ける。

ロシアの安値攻勢はカザフスタン、ウズベキスタンといったほかのガス供給国にも値下げを迫る。

統計サイトのワールドメーターによると、(メタンが多く液体が生じない)乾性の天然ガスをイランは年9兆立方フィート(約0.25兆立方メートル)生産する。米国、ロシアに次ぎ世界で3番目に多い。このうち3分の1程度を輸出する。

イランがガスを販売する契約を結ぶ相手はイラク、トルコ、アフガニスタン、パキスタンだ。アゼルバイジャンとはガスのスワップ取引の契約がある。その中で、長期の顧客になりそうなのはイラクだけだと複数のアナリストは指摘する。

イラン国営ガス会社(NIGC)のトップは5月中旬の記者会見で、イラクがガス購入契約の更新を求めていると明らかにした。一方、現在の契約が間もなく失効するトルコとは新たな年間契約を巡る交渉を続けていると説明した。

イランのジャーナリストは最近、ロシアがトルコへのガス供給を想定し、これから3年間、トルコのガスタンクを借りる契約を結んだという業界情報をツイッターに投稿した。これが事実ならば、イランのガス輸出には打撃となる。

NIGCのトップは日本経済新聞に対し、トルコやアフガニスタンのような顧客をロシアに奪われる可能性を否定しなかった。「効率よく安いエネルギー資源を確保する自由はどの国にもある」と述べ、仮に顧客を失っても仕方がないという姿勢をみせた。

米欧がロシア産の原油や天然ガスの輸入を停止あるいは制限する制裁を発動することで、イランは核合意の再建交渉が前進すると期待した。米国がイランに歩み寄って核合意の枠組みに復帰し、イランに科していた制裁を解除して石油や天然ガスの輸出拡大を容認すると見込んだからだ。

ところがロシアは3月、核合意の再建交渉をまとめる条件として、同国への制裁をイランとの貿易・投資に適用しないよう米国に迫った。交渉の妥結後、イランへの制裁がある程度、解除されることを見越しての対応だ。米国は応じず、交渉は宙に浮いている。国際社会でイランはロシアを頼りにしていたが、いまは、いら立っている。

イラン核合意は同国の核開発を抑制するのが目的だ。2015年、米国、英国、フランス、ドイツ、ロシア、中国の6カ国がイランとまとめた。18年、トランプ政権だった米国が離脱を表明すると、ロシアは中国とともにイラン寄りの姿勢を示した。【5月25日 日経】
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互いに利用しようという動きと、相手を押しのけてでも・・・という動き。
イラン国営ガス会社が“仮に顧客を失っても仕方がないという姿勢”というのは、国家としてはロシアとの協調を重視する意思決定がなされているということでしょうか?

イラン・ロシアの協調に、同じくアメリカと対立する中国も加われば、反米協調の出来上がりです。

****露、イランに接近 市場拡大、中国含め反米協調狙う****
ロシアが経済を中心にイランとの関係強化を進めている。ウクライナに侵攻したロシアは米欧の強力な制裁で経済が疲弊しており、イランを自陣に引き留めて市場拡大につなげる狙いがうかがえる。

米欧がウクライナでの戦闘への対応で忙殺される裏側で、ロシア、イランに中国を含めた反米3カ国が連携を強めている可能性も否定できない。

ロイター通信などによると、露のノバク副首相は25日、イランの首都テヘランで同国の高官と協議し、協力強化を盛り込んだ複数の文書に署名した。ノバク氏は侵攻後、米欧など「非友好国」の対露圧力が強まったため、「イランとの関係発展の必要性が高まった」と述べた。

イランでは干魃(かんばつ)による不作が続いており、露は小麦など穀物500万トンをイランに供給する見通しだ。核開発問題で米国の制裁を受けているイランの高官は、外貨を介さず、両国の通貨で決済を行うことに意欲を示した。

ノバク氏は、露がイランにエネルギーを供給し、イランは南部の港からアジア諸国に原油・天然ガスを輸出する枠組みでも近く合意するとの見通しを述べた。イランは米制裁で原油輸出が禁じられているが、中国は非公式にイランから原油を購入して同国の経済を支えている。

一見不可解なこの枠組みからは、欧州が依存脱却を進めて行き場を失う露産原油をイラン経由で搬出する狙いさえちらつく。

露とイランはすでに、協調して原油の不正取引を行っている疑いもある。ギリシャ政府が先月、同国近海で停船を命じた船にはロシア人約20人が乗っていたが、イラン産原油を積んでいたことが判明。同船は露の侵攻後、船籍や船名を変えて偽装を図ったとみられ、米国は監視を強化する方針を打ち出している。

露の侵攻で原油は高値傾向が続き、中国という〝販路〟を持つイランは、核合意を修復して対米関係を改善することへの意欲を失っていると指摘される。

昨年、25年もの長期に及ぶ包括的な協力協定をイランと結んだ中国と違い、露は近年、イランとの間で目立った協力強化を打ち出してこなかった。侵攻後のイランへの接近は、露が制裁で深刻な影響を受けていることを示すとともに、中国とイランを頼りにそのダメージの緩和に動いている可能性を示している。【5月27日 産経】
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アメリカは欧州ではNATOの同盟関係でロシアに対抗し、アジアではクアッドやAUKUS、更にはIPEFといった枠組みで中国包囲網を形成しようとしていますが、ロシア・中国更にイランが協調する形で欧米主導の枠組みに対抗する・・・そういった情勢にもなりつつあるようです。

【きな臭いイスラエルの動き】
イランにとって、アメリカ同様に・・・というか、アメリカ以上に厄介な“天敵”が、イラン核開発を絶対阻止する構えのイスラエル。アメリカはその影響を考えて直接的な実力行使には慎重ですが、イスラエルは手段を選ばず実行します。

イスラエルは、核合意などイランの時間稼ぎに過ぎないと眼中にありません。“実力”で核開発を阻止しないと・・・という立場です。

****革命防衛隊大佐を射殺=首都自宅前、イスラエル関与か―イラン****
イラン国営メディアによると、精鋭の「革命防衛隊」の大佐が22日、首都テヘラン市内の自宅前で何者かに射殺された。実行主体は不明だが、イラン側は殺害の手口から敵対するイスラエルなどの関与を疑っているとみられ、何らかの報復によって緊張が高まる恐れもある。
 
報道によれば、殺害されたハッサン・サイアド・ホダイ大佐は車で自宅に着いた際、オートバイ2台に分乗した何者かから銃弾5発を受けて死亡した。革命防衛隊は「反革命勢力のテロで暗殺された」と非難した。同大佐は革命防衛隊で対外工作を担うコッズ部隊に所属し、シリアなどでの戦闘歴があるという。
 
革命防衛隊は大佐暗殺に先立ち、イスラエル諜報(ちょうほう)機関とつながりがある集団を摘発したと発表していた。「窃盗や破壊行為、誘拐」などの容疑を主張しているが、殺害事件との関連性は不明だ。【5月23日 時事】 
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****イランの大佐暗殺に関与=イスラエルが米に伝達―NYタイムズ****
米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は25日、イラン革命防衛隊の大佐が自宅前で何者かに射殺された事件で、イスラエルが暗殺への関与を米側に伝えていたと報じた。

イランは当初からイスラエルの関与を疑っており、ライシ大統領は「偉大な殉教者が流した血に対し、報復は避けられない」と宣言していた。
 
大佐は革命防衛隊で対外工作を担うコッズ部隊に所属していた。同紙が情報当局者の話として伝えたところによると、イスラエル側は、コッズ部隊の中で外国人の拉致や暗殺を担う秘密部隊「840ユニット」の活動に警告を発するために殺害したと説明したという。【5月26日 時事】 
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イランのライシ大統領は「間違いなく報復する」と報復を確約しています。

****イラン大統領「間違いなく報復する」 革命防衛隊の大佐暗殺****
(中略)イランのライシ大統領は23日、国際的組織が関与した暗殺だと非難し、「間違いなく報復する」と述べた。複数のイランメディアが伝えた。(後略)【5月23日 産経】
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その「報復」より先に、イスラエルによるイランの研究施設攻撃が報じられています。

****ドローンでイラン軍研究所攻撃か=イスラエル関与濃厚―米紙****
米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は27日、イランの首都テヘラン近郊パルチンにある国防軍需省の研究施設で25日に起きた「事故」について、イラン国内から飛び立ったドローンによる攻撃だったと伝えた。

ドローンが建物内に突っ込んで爆発したとみられ、その手法からイスラエルの関与が濃厚という。【5月28日 時事】
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イランは欧米制裁によって経済苦境にあり、食料品価格高騰をめぐって国内にデモや混乱が起きています。食料品価格を落ち着かせるためにはロシア・中国との関係だけでは不十分でしょう。
アメリカはロシア産石油の禁輸で同盟国の足並みをそろえ、エネルギー市場を安定化させるためには、イラン産石油が欲しいところ。

そうした両者の歩み寄りを促す事情もありますが、ここのところ目立つのは上述のようなロシア・中国との協調、あるいはイスラエルとの衝突といった離反の流れです。

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