(【5月25日 橋本昇氏 JBpress】1986年2月 エドゥサ革命(黄色革命 ピープルパワー革命)では100万人の市民がマラカニアン宮殿に押し寄せ、強権支配者マルコス元大統領は国を追われました。)
【親中継続と見られるマルコス新政権】
フィリピンのマルコス新政権は具体的政策を明らかにしないままイメージ選挙で圧勝した感がありますが、対外的にはドゥテルテ前大統領の親中国路線を引き継ぐとみなされており、実際、就任したマルコス大統領も中国重視の発言をしています。
****「中国は友人」比次期政権、親中継続へ****
9日投開票のフィリピン大統領選で勝利したフェルディナンド・マルコス・ジュニア元上院議員(64)は、ドゥテルテ現大統領が推進した親中姿勢を継続する見通しだ。
南シナ海問題でも国際的な圧力より、中国との対話で解決する姿勢を示した。マルコス次期政権が親中姿勢を強めればインド太平洋地域の安定に影響が出かねないだけに、外交政策が注目される。
「中国は友人だ」。マルコス氏は選挙前の地元メディアのインタビューでこう明言した。南シナ海問題をめぐっては中国の権益を否定した仲裁裁判所(オランダ・ハーグ)の裁定を棚上げし、中国と2国間交渉で解決する意向を表明。
ドゥテルテ政権の親中姿勢も評価し、中国との領土問題に米国が関与することは「災いのもとだ」とも述べた。
ドゥテルテ氏は2016年6月に大統領に就任すると、仲裁裁判所裁定を「ただの紙切れに過ぎない」と断言し、中国接近を進めた。国内では中国支援のプロジェクトが進む。
首都マニラ中心部では今年4月、中国の全面支援で旧市街と中華街をつなぐ「ビノンド−イントラムロス橋」が完成。開通式典に出席したドゥテルテ氏は、中国を「わが国のインフラを強化するためのパートナーだ」と持ち上げ、退任が迫っても親中姿勢が変わらないことを印象付けた。
しかし、融和姿勢にもかかわらず、中国の南シナ海の実効支配は止まらなかった。昨年3月には中比が領有権を主張するスプラトリー(中国名・南沙)諸島の周辺海域で220隻以上の中国船が確認され、両国間の緊張が高まった。
こうした状況を受け、フィリピンでは経済面での中国との関係を重く見つつも、安全保障面で同盟国である米国との連携を深めたいとの空気が強まっている。3〜4月にかけ、米国との定例の合同軍事演習「バリカタン」を過去最大規模で実施したのもその流れを受けたものだ。
マルコス氏自身は「強い政治的信念はなく、考えが良く分からないタイプ」(外交筋)との評価で、ドゥテルテ政権下で亀裂が入った米比関係の修復に乗り出すのかなど不明な点が多い。
米国では父のマルコス元大統領時代の人権弾圧をめぐって集団訴訟が起き、約24億ドル(約3000億円)の賠償命令が出たが、マルコス一族は支払っていないという問題もある。
フィリピン政治評論家のアンドレア・ウォン氏は過去の人権問題などを踏まえた上で、「バイデン米大統領がどのように〝マルコス復活〟に反応するか注目される」と話している。【5月11日 産経】
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****フィリピン新大統領 マルコス氏 中国との関係重視の姿勢強調****
フィリピンの大統領選挙に勝利したフェルディナンド・マルコス氏は18日、中国の習近平国家主席と電話で会談し「新政権のもとでは中国との関係のギアをさらに上げる」として、中国との関係を重視する姿勢を強調しました。
今月9日に投票が行われたフィリピンの大統領選挙で勝利したマルコス氏は来月の新政権の発足を前に18日、中国の習近平国家主席と電話で会談しました。
中国外務省の発表によりますと、この中で習主席は「中国は周辺国との外交において常にフィリピンを優先的に位置づけていて、これまでどおりフィリピンの経済や社会の発展に積極的な支持と援助を行う」と述べ、フィリピンの新政権とも協力を深めていく考えを示しました。
一方、マルコス氏側の発表によりますと、マルコス氏は「新政権のもとでは中国との関係のギアをさらに上げ、実りある結果をもたらしていく」と述べ、中国との関係を重視する姿勢を強調しました。
またマルコス氏は両国が争う南シナ海の領有権問題を念頭に「現在の対立や困難を歴史的に重要なものにしてはならない」と述べたうえで、両国間で対話を続けていくことで一致したということです。
マルコス氏は1975年に中国との国交を樹立した故マルコス元大統領の長男で、父親が築いた縁をきっかけに中国政府の関係者などとの個人的な関係を深めてきており、18日の会談は中国寄りの姿勢を改めて鮮明にした形です。【5月18日 NHK】
中国外務省の発表によりますと、この中で習主席は「中国は周辺国との外交において常にフィリピンを優先的に位置づけていて、これまでどおりフィリピンの経済や社会の発展に積極的な支持と援助を行う」と述べ、フィリピンの新政権とも協力を深めていく考えを示しました。
一方、マルコス氏側の発表によりますと、マルコス氏は「新政権のもとでは中国との関係のギアをさらに上げ、実りある結果をもたらしていく」と述べ、中国との関係を重視する姿勢を強調しました。
またマルコス氏は両国が争う南シナ海の領有権問題を念頭に「現在の対立や困難を歴史的に重要なものにしてはならない」と述べたうえで、両国間で対話を続けていくことで一致したということです。
マルコス氏は1975年に中国との国交を樹立した故マルコス元大統領の長男で、父親が築いた縁をきっかけに中国政府の関係者などとの個人的な関係を深めてきており、18日の会談は中国寄りの姿勢を改めて鮮明にした形です。【5月18日 NHK】
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【国民草の根的にも、軍部にも強い中国への警戒感】
ただ、中国との関係はそうそう単純な単線でもないようにも思えます。
マルコス大統領はあまり政治的に確固たる考え・信念を持っているような政治家でもなさそう・・・という点以外にも、国民レベルで中国に対する警戒感も存在します。
****フィリピン新大統領が必ずしも独裁で親中でない現実****
(中略)
ここで参考までに、経済関係をめぐって米中間で激しい応酬が交わされていた2020年秋の、フィリピンにおける中国をめぐる動きを振り返ってみたい。
同年9月1日、フィリピン大統領府報道官は「わが国は如何なる国の属国でもなく、外交方針を決定するのは大統領である」と主張し、「米国が制裁を加える中国企業であっても、自国の利益を追求するためにはフィリピン国内における活動継続を認める」と発言した。事前に伝えられていた「米国に制裁を科された中国企業との関係を断つ方針である」とするテオドロ・ロクシンJr外相の発言を、真っ向から否定してみせた。外相発言を否定することで、同報道官はロドリゴ・ドゥテルテ大統領の対中姿勢を内外に明確に示したのである。
当時フィリピンでは、(1)最有力華人企業家のルシオ・C・タンが中国交通建設集団傘下の中国交通建設と組んでマニラ市南郊カビテ省で国際空港を建設。(2)ドゥテルテ大統領に極めて近い華人企業家のデニス・ウイ(黄書賢)などが中国電信集団と組んで創業した第3通信事業者(ディト・テレコミュニティー=DITO)による通信市場への参入(じつはフィリピンの通信部門は長年2大通信企業による独占状態にあった)。(3)中国能源建設集団(CEEC)によるマニラ市東郊でカリワ・ダムの建設――などの巨大プロジェクトが進行中であった。
中国に悩まされる一面も
どうやら、中国政府系企業を巻き込んでのドゥテルテ政権版の「クローニー資本主義」(縁故や家族関係が大きな意味を持つ経済体制のこと。 狭義では、権力者の親族や取り巻きが一体となり利権をあさる傾向を指す。【コトバンク】)とでも言えそうな状況が見られた。(中略)
10月20日、一部上院議員が「17年以来、約300万人の中国人が不法入国し、移民局関係者が400億ペソを不正に入手した」と暴露する。ドゥテルテ政権の対中姿勢に異議を表明したと受け取れるが、同時にフィリピンも大量の中国人不法入国者に悩まされていることが明らかとなったわけだ。
その前後のことだが、タイの華人系メディアはフィリピン共産党が反中武装闘争に乗り出したと報じている。「フィリピン国内に7カ所の軍事基地を建設し、フィリピンの主権を侵し、海洋資源を掠奪する中国企業の活動を許すドゥテルテ政権を打倒せよ」と、傘下武装組織の新人民軍(NPA)を動員し、フィリピン国内で拡大を続ける中国企業の活動阻止を決定したというのだ。
このように20年秋の2カ月ほどの短い時間をとってみても、フィリピン社会が中国企業と中国人への対応に苦慮していることが見て取れる。中国と中国人問題は政権や大企業のレベルを超えて、いわば草の根レベルにまで広がっていると見るべきだ。(後略)【5月21日 樋泉克夫氏 (愛知県立大学名誉教授) WEDGE Infinity】
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また、軍部にも南シナ海への進出を進める中国への警戒感があるようです。
****比海軍スービックに基地 中国けん制、米軍も利用か****
米海軍が約30年前に基地を撤収したフィリピン北部スービック湾で、フィリピン海軍は26日までに新たな用地を確保し、基地として運用を始めたと発表した。米軍も共同利用する可能性がある。
スービックが面する南シナ海で軍事活動を活発化させる中国をけん制する狙い。
スービック港湾公社幹部によると、旧米海軍基地を民間転用した空港の一部でもフィリピン空軍が監視任務のため駐留する。
フィリピン海軍によると、新基地に24日、フリゲート艦が初めて配備された。港湾公社のロレン・パウリノ総裁(59)は26日までの共同通信の取材に対し、南シナ海の権益を主張する中国を名指しし「ドゥテルテ政権は海軍の改善に尽くしたが、中国海軍の強力な能力に対しては不十分。米海軍のプレゼンスは均衡を取るのに役立つ」と強調。米国や日本の艦船の寄港を歓迎した。【5月26日 共同】
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【懸念されるのは、マルコス・ジュニア圧勝に見る「民主主義疲れ」】
マルコス新政権が親中国路線を強めるかのどうか・・・以上に重要なのは、ドゥテルテ前政権の超法規的殺人で大きく揺らいでいるフィリピンの民主主義がどうなるのか、権威主義的な傾向を強めるのかどうか・・・ということです。
別にマルコス・ジュニアが強権支配者として国を追われた父マルコス元大統領の息子であることを云々している訳ではありません。マルコス・ジュニアが「父の政治は民主主義の面で間違っていた。自分は父とは違う」と明言するなら何も問題ありません。
しかし、現実にはマルコス・ジュニアは「父の時代はいい時代だった」みたいな形で、負の側面を語ることなく、有権者もそれを受け入れたということが気がかりです。
****「民主主義疲れ」が決めたフィリピン大統領選東南アジア諸国で「民主化の逆行」が始まるのか****
5月のフィリピン大統領選で、故マルコス大統領の息子であるフェルディナンド・マルコス氏が当選した。民主主義的価値が後退し、権威主義的傾向がいっそう強まることが懸念されている。
5月9日に投票が行われたフィリピン大統領選挙で、フェルディナンド・マルコス氏(通称ボンボン、64歳)が地滑り的勝利を収めた。悪名高い独裁者フェルディナンド・マルコス元大統領(在職1965年~1986年)の息子だけに、海外メディアの報道では、とかく彼のうそや欺瞞、そしてSNSを中心とした偽情報ネットワークに注目が集まった。
しかし、マルコス氏の勝利は多くのフィリピン人有権者が「悪い男に騙された」ことが原因なのだろうか。現地でみた実像を報告したい。
1986年、首都マニラを貫く12車線のエドサ通りを怒れるデモ隊が埋め尽くした。そして戒厳令のもとで反対派への拷問や殺害を繰り返していた当時のフェルディナルド・マルコス大統領を退陣させることに成功したのだ。
のちに「エドサ革命」や「ピープルパワー革命」と呼ばれるようになったこの抗議活動は、世界的な民主化の波の先駆けとなり、その間接的影響は、韓国、台湾、中国などのアジア各国、そして東欧諸国にまで及んだとされる。
目の当たりにしたマニラの「変わらない」現状
(中略)マニラ取材中、そのすぐそばのエドサ通り沿いの歩道を歩いていた時だ。黒ずんだ、マルコス候補のキャンペーンTシャツを身にまとった細身の中年男性が目にとまった。裸足で、足の爪が長く、「ドブネズミ」を連想させる風体だ。男の周りでは、MRT(都市高速鉄道)の高架から汚水が滴り、大渋滞の大通りからは、エンジン、クラクションの音がけたたましく鳴り響いていた。小銭を渡すと、男は私の英語の質問には耳を貸さずに無表情のまま立ち去っていった。
そして、そのマルコス陣営本部の真横にあるフィリピンの有名ファストフードチェーン「ジョリビー」で食事をしていると、今度は「ハンス」と名乗る、20歳というには小柄な青年が私のテーブルにやってきて、恵みを求めてきた。聞くと、シングルマザーの母が、他の3人の兄弟を養うために苦労しているのだという。金銭的な支援が得られるので、マルコス候補を支持しているとのことだった。
こうしたマニラの「変わらない」現状を目の当たりにすると、マルコスに未来を託した人々の心情が見えてくる。
1986年に自由と民主主義を取り戻したフィリピンだが、経済的繁栄には程遠い状況が続いてきた。IMF(国際通貨基金)のデータによると、2021年のフィリピンの1人当たりのGDP(国内総生産)は3572ドル。この40年でタイやインドネシアといったASEAN(東南アジア諸国連合)の中所得国に抜かれたのみならず、最近ではついにベトナムに逆転を許した。
民衆を失望させた「停滞の30年」
「(フィリピンには)経済発展の兆しはあります。過去10年、貧困率は低下しました。ですが、まだ15~18%程度あります。人々は(富の)再分配という点ではもっとできたはずだと感じています」。フィリピン出身で、京都大学のキャロライン・ハウ教授(東南アジア地域研究)はそう解説する。
マルコス政権(1965年~1986年)の後に、幅広い勢力の支持を得て登場したのがコラソン・アキノ大統領(1986年~1992年)だった。そもそも、(マルコス元大統領を追放した)エドサ革命の端緒の一つは、彼女の夫で、マルコスと対峙した政治家ベニグノ・アキノ・ジュニアが1983年に暗殺されたことだった。
その後、アキノ夫妻の息子であるベニグノ・アキノ3世が2010年から2016年にかけて大統領を務めた。いずれもフィリピンのリベラル派政党で、2016年まで与党だった自由党の政治家だ。
だが、近年エドサ革命の物語は明らかに色褪せてきている。
マルコス候補の対抗馬だったレニ・ロブレド現副大統領を支持する公務員のロレンソさん(33)は、リベラルの牙城であるフィリピン大卒。毎年エドサ革命記念日(2月25日、祝日)にエドサ革命のモニュメント前で開かれる記念活動に参加する人数が年々減ってきていることを嘆く。「貧しい人にとってエドサ革命は間違いなのです」
そうした傾向とともに、フィリピンの民主主義回復を象徴してきた自由党の退潮が近年顕著になってきた。今回の大統領選の大きなテーマは「マジョリティーによる反自由党感情」だと話すフィリピン現地メディア記者もいたほどだ。
取材中に接したマニラのタクシーや配車サービス「グラブ」のドライバーのほとんどが、マルコスのキャンペーンカラーの赤いTシャツを着て、いかに「黄色」(自由党のシンボルカラー)が嫌いかを熱心に語るのが印象的だった。 そのうちの1人、ブランドさん(43)は、これまで眠っていたフィリピンはついに「真実に目覚めた」のだと言い切った。(中略)
「脱アキノ」の動きが進んでいる
フィリピン紙インクアイアーのコラムニスト、マニュエル・ケソン3世は、「エドサ革命の象徴はとっくに崩壊し始めている」と話す。
(中略)今回の選挙では中間層や低所得者層がマルコス支持に流れたとみられるが、彼ら彼女らの目には、エドサ革命後に政権を担った寡頭制民主主義下の伝統的エリートは「何もしなかった」どころかフィリピンを「むしろ悪くした」と映る。
筆者はASEAN10カ国すべてを訪問した経験があるが、フィリピンほど汚職が日常化している国はなかなかないと思う。
交通警察が違反キップ取り下げの代わりに現金を要求するのを初めて目撃したのもマニラだった。また、マニラの商業モールには、銃を持った警備員がいる。他の東南アジア諸国ではほとんど見ない光景だ。マニラに広がるスラム街を夜間歩くときは、身の危険を感じる。
民衆の立場からすると、国際的に非難を受けながらも麻薬戦争で治安回復に取り組み、これまでの政権が手をつけられなかった警察腐敗の撲滅に切り込んだドゥテルテ大統領は「ようやくフィリピンを変えた」リーダーなのだ。だからこそ、フィリピン国内で高支持率を維持してきた。当然、有権者としては主要候補の中で唯一ドゥテルテ路線の継承を訴えたマルコス氏を推すことになる。
一時的な現象と言い切れるか
前出のハウ教授は今回のマルコス圧勝について、「エドサ革命後の自由民主主義体制への、そしてその制度が自由と平等を実現できなかったことへの幻滅、『民主主義疲れ』が起きている明確な根拠があると思います」と総括する。自由についてはある程度実現したが、平等はおろか繁栄も実現できなかったという見方だ。
マルコス独裁時代が「暗黒時代」でなく「黄金時代」だったというナラティブ(物語)の反転、そして今回の選挙結果が許したマルコス一族再興の裏には、マルコス退場後からドゥテルテ登場までの30年間への深い失望があると見ていい。
そして、そのフィリピン政治の転換が、中国が東南アジアで影響力を拡大させる中で起きたことは特筆に値する。
父親が大統領の時代にフィリピンが中国と国交を樹立したことなどもあり、マルコス次期大統領は引き続き中国と良好な関係を築くとみられる。中国はまたドゥテルテ一族との関係強化を狙って、2018年に彼らの本拠地であるダバオ市に領事館を開設した。中国の努力は実った。
それは、今回の副大統領選で過半数の票を得て当選確実となったドゥテルテ大統領の長女、サラ・ドゥテルテ氏(43歳)が一気に2028年の次期大統領選の最有力候補に躍り出たからだ。現職のドゥテルテ氏から3代続けて親中政権が誕生する可能性は小さくない。
さらには、東南アジア全体への波及効果も気になるところだ。ASEAN大陸部に目を向けると、タイやミャンマーでは軍事政権が根付きつつある。隣国インドネシアでも、2024年に迫る次期大統領選挙へ向けて強権化と権威主義的傾向が強まることへの懸念が広がる。ジョコ大統領を、現行憲法では認められていない3期目に推す声が上がっているのだ。
マルコス当選確実の報を受け、インドネシアの英字紙ジャカルタポストは「フィリピンに続き、インドネシアでも権威主義への回帰へ向けて機が熟している」と題した記事を掲載し、危機感を示した。
民主主義を放棄し、権威主義に逆戻りするのか
「インドネシアは、30年以上にわたって軍の後ろ盾で統治してきたスハルトを、同じく民衆の力で倒し、1998年にフィリピン、タイとともに東南アジアの民主主義リーグに加盟した。(中略)インドネシアは今、東南アジアの近隣諸国に対して、完全な自由を伴う民主主義が依然として最良の政府形態であり、成果をあげられるものである、そうした希望とインスピレーションを与える立場を守れるだろうか。それとも、民主主義を同じように放棄し、権威主義に逆戻りするのだろうか」
フィリピンで現在進行中の「逆行」を、安易な考えや誤解に基づいた有権者の一時的な揺れ動きと結論づけるのは早計だ。むしろ同国で長年蓄積されたやるせなさを反映した、「民主主義がすべてをよくするとは言えない」という意識の現れとして国際社会は直視すべきだろう。ことは構造的な問題なのだ。【5月28日 舛友 雄大氏 東洋経済ONLINE】
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『民主主義疲れ』はアメリカのトランプ前大統領に象徴されるように、東南アジアだけでなく世界的な現象です。
今日のニュースでも、南米コロンビア大統領選挙では、親米路線をとってきた伝統政党候補は敗退し、決選投票に進んだのは元ゲリラの左派候補と「トロピカル・トランプ」と称される独立系実業家とのこと。
マルコス新政権が民主主義に軸足を置いた政権なら、フィリピンの事情から中国と接近することはフィリピンの判断です。しかしその軸足が揺らぎ強権支配を是認するということであれば、中国的政治と親和性がよく、その影響はアジア全体に及びます。