(中国の地域別貿易総額 対アジア貿易の伸びが他の大規模市場を大きく上回っている。【12月30日 WSJ】)
【世界経済のつながりの中にある東南アジア 昨年はウクライナ戦争の影響でインフレ、生産縮小も】
昨年は世界中がウクライナ戦争、新型コロナ、それらの影響もあってのインフレなどの経済混乱に振り回された1年でした。
東南アジアも例外ではありませんでした。インフレは東南アジア諸国をも襲っています。世界的な食料・エネルギー価格の上昇、通貨安による輸入物価上昇などによるものです。世界経済がつながったグローバル社会にあっては当然の帰結です。
シンガポールなどの華人社会が選んだ「今年の漢字」は物価上昇を意味する「漲」という字だったとか。
****マーライオンの目 物価高直撃の東南アジア、今年の漢字は「漲」****
年末の風物詩であるその年の世相を表す「今年の漢字」。日本で選ばれたのは「戦」だったが、中国語を使う中華系住民が多い東南アジアの国でも同様の催しが行われている。
シンガポールの中国語紙「聯合早報」は読者投票の結果、今年の漢字を物価などの上昇を意味する「漲」と発表した。マレーシアの華人団体が選んだのも同じ字だ。2月のロシアによるウクライナ侵略が引き金となった世界的な物価高などが、各地で家計を直撃した様子がうかがえる。
たしかにシンガポールでは、ただでさえ高かった生活費の値上がりが顕著となった。英エコノミスト誌の調査部門が発表した調査によると、米ニューヨークとともにシンガポールは「世界で最も生活費が高い都市」にランクインした。
特に不動産価格の上昇は急で、日本人駐在員の間で家賃の高騰を嘆く声が絶えない。賃貸物件の契約更新時に「これまでの1・5倍以上の金額を要求された」との声も聞いた。安価なはずの公団住宅の販売価格も値上がりし、100万シンガポールドル(約9800万円)超の物件も相次いでいる。
ウクライナでの「戦」に終結の気配が見えない中、来年は世界で「漲」の傾向に拍車がかかると感じる。来年はもっと幸福な漢字が選ばれる1年であってほしいと願う。【12月27日 産経】
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物価上昇だけでなく、ウクライナ戦争の影響で東南アジアの人々が職を失いという事態も。
「ロシアのウクライナ侵攻を受けて、食料とエネルギー価格が上がり、欧米の消費者は洋服を買う余裕がなくなっている」という欧米諸国の需要減退は東南アジア諸国の生産縮小をもたらしています。
****「遠い国の戦争が…」 東南アジアの縫製工場を襲う解雇の波****
ナイキ、カルバン・クライン、ビクトリアズ・シークレット――。世界的なファッションブランドの商品を生み出すインドネシアやベトナムの縫製工場を、解雇の波が襲っている。背景には、ロシアによるウクライナ侵攻がある。解雇された社員は「戦争で自分が失業するとは思わなかった」と肩を落とす。いったいどういうことなのか。
「クリスマスに向けた繁忙期を前に私は無職になった」――。インドネシアの首都ジャカルタに住むシングルマザー、スリ・エスニ・インダルティさん(45)は10月末、勤めていた西ジャワ州の縫製工場から解雇を言い渡された。それまで有名ブランド衣料の新作サンプルを作り、価格帯を報告する仕事をしていた。しかし新作を発表するブランドが減り、人員削減の対象となった。
解雇の際、会社側からこう告げられた。「ロシアのウクライナ侵攻を受けて、食料とエネルギー価格が上がり、欧米の消費者は洋服を買う余裕がなくなっている」
欧州連合(EU)の統計機関「ユーロスタット」が12月に公表したデータによると、10月の小売りの売上高は前年同期に比べ、ユーロ圏で2・7%、EU全体で2・4%下落した。英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)電子版は「各世帯が光熱費と金利の引き上げに直面する中で、冬にかけて消費はさらに落ち込むだろう」とする識者のコメントを紹介している。
インダルティさんは「戦争の影響で食費の高騰に悩まされているのは私も同じ。でも、遠くの国の戦争が自分の職を奪うとは思わなかった。3人の子どもをこれからどのように育てればいいのか」と不安そうに話した。
西ジャワ州の織物製品事業組合によると、州内の多くの工場では夏以降、ナイキなど大手ブランドからの注文が半減した。売れ残りがあるために出荷の延期も求められているという。解雇は10月ごろから増え始め、これまでに州内の108の縫製工場が約5万5000人を解雇。この他に18社が倒産したことで9500人が職を失った。同組合のヤン・メイ代表は「今後もこの状況は続き、残る工員の労働日数も週6日から3日ほどに減らされる可能性が高い」と説明した。
靴などのブランドの縫製工場があるベトナムでも同様のことが起きている。現地メディアによると、9月から11月にかけて靴、衣料、家具の製造工場で働いていた約3万4000人が失業。約57万人が労働時間を削減された。現地メディアは「新型コロナウイルスの感染拡大時を超える規模だ」と伝えている。
インドネシア織物製品事業組合のジェミー・カルティワ・サストラマジャ代表は「買い控えがいつまで続くかも見通せず、このままでは東南アジア全体の繊維産業が衰退してしまう」と懸念する。「現状への対応だけでなく、新たな市場開拓、自国消費向けの生産への切り替えなど、抜本的な改革を迫られている状況だ」と説明した。【12月24日 毎日】
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今年2023年については、世界的なコロナ規制緩和による経済の持ち直し、また、東南アジア諸国にあってはインバウンド需要の増加により観光関連産業が持ち直し、内需を中心に安定した成長が続く・・・・・ことが予想(期待?)されています。
【アメリカの要請に反して対中国依存が強まるアジア経済】
東南アジア経済にあっては中国の影響が極めて大きくなっています。
アメリカは米中の対立・競争を有利に展開するため、アジア諸国にも中国経済から距離を置くことを求めていますが、実態はますます中国との関係が深まる方向にあります。
****中国がアジア貿易加速、米デカップリング尻目に中国と域内各国の関係、一段と深まる****
米国は世界2位の経済大国・中国への依存度を下げるよう各国の説得を試みているが、中国と他のアジア諸国の貿易上の結びつきは、域内各国の経済成長や企業のサプライチェーン(供給網)再構築が進む中で、一段と深まるばかりだ。
この傾向の背景には、小規模な経済を大きな経済と結びつける強い推進力が働いているほか、急成長国が求める手頃な自動車や機械などの製品の供給国として中国が圧倒的な役割を担っていることがある、とエコノミストは指摘する。
だが同時に中国のアジア諸国との貿易拡大は、世界の二大経済大国の関係悪化がもたらした波紋も映し出している。それは貿易戦争に始まり、テクノロジーや国家安全保障、外交政策にまで範囲が広がった。
2018年に本格化した貿易戦争は、それに続く新型コロナウイルス禍の混乱も相まって世界的サプライチェーンの再編を促した。中国に拠点を置くメーカーは生産ラインの一部をアジアの近隣諸国に移転させようとしてきた。関税の回避や、米中の関係悪化で将来状況が激変するリスクから身を守ることが目的だった。
だがこうした再編は、中国と他のアジア諸国の貿易を減らすどころか、拡大につながりやすいことをデータは示している。それは通常おびただしい数の部品と多工程の組み立てを必要とする製造プロセスの複雑さにも起因する。例えば、ベトナムやインドでスマートフォンを組み立てるには、最終製品を出荷する前に、メーカーがアジア域内で中国製部品や基本素材を移動させる必要がある。
要するに、米国は巨大な自国市場との貿易を促進する具体策を講じることなく、アジア諸国を中国から引き離すのは難しいことに気づくだろう。すなわち通商協定を結び、地域貿易協定に参加するなど、アジア諸国が米国の消費者にはるかにアクセスしやすくなるような措置を取るということだ、とエコノミストは話す。
「アジア域内で米国は本当に苦戦を強いられている」。英コンサルティング会社TSロンバードの首席中国エコノミストでアジア調査責任者のローリー・グリーン氏はそう指摘した。「彼らは経済の引力と戦っている」
インドネシア、マレーシア、シンガポール、ベトナムなど東南アジア諸国連合(ASEAN)10カ国を相手にした中国の貿易総額(輸出+輸入)は、米国が最初の対中関税を発動した2018年7月以降に71%増加し、今年11月までの12カ月間に9790億ドル(約131兆円)に達した。中国税関総署のデータをウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が分析した。
アジアでの影響力
2018年の米中貿易戦争以来、 中国は他のアジア諸国との経済的な 結びつきを深化させてきた。
中国の対インド貿易は同じ期間に49%増加した。中国のデータによると、対米では23%、対欧州では29%増加しており、ことが浮き彫りになった。
米国の対中貿易は関税で窮地に陥り、米国の輸入に占める中国製品の割合は2018年以降低下しているが、コロナ下で両国の貿易は成長軌道に戻った。長期間の在宅勤務中に消費者が電子機器や家庭用品などに散財したためだ。欧州でも同様の傾向が見られた。
中国の対アジア貿易の伸びが突出する理由の一つは、中国の「引力」にある。エコノミストは数十年前、各国はより大きな経済国や距離の近い経済国との貿易を増やすことを立証した。アジア最大の経済規模を誇る中国が、急成長する近隣諸国の貿易パートナーとなるのは当然であり、カナダやメキシコの最大貿易相手国が米国であるのと同じことだ。
もう一つの理由は、中国の輸出品には安価なスマートフォンや基本的なモデルの自動車、安い工場設備が多く、周辺にある急成長中だが経済規模はまだ小さい国々でよく売れることだ、とエコノミストは話す。
中国はまた、米国が中国製品に高い輸入関税を課したのに対抗し、中国が他国から輸入する際の関税の多くを引き下げ、国内の企業や消費者がアジア製品をこれまでより安く買えるようにしている。中国はアジア太平洋地域15カ国の貿易関税を引き下げる2020年の東アジア地域包括的経済連携(RCEP)にも署名した。
一方、アジア諸国も米中の緊張関係から大きな恩恵を受けており、対立する両国との貿易が大幅に伸びる傾向にある。
対中貿易が拡大している東南アジア10カ国からは、米国の輸入額も急増しており、2018年7月以降に89%増えた(米国の税関データによる)。米国から同じ10カ国への輸出額を合わせると、10月までの12カ月間の貿易総額は4500億ドルに達する。2018年半ばには2620億ドルだった。米国の全世界に対する貿易総額は同じ期間に29%増加した。
貿易戦争で加速した世界的サプライチェーンの再編は、台湾問題と国家安全保障をめぐる米中の緊張の高まりやコロナ禍で拍車がかかった。中国依存度の高い企業はゼロコロナ政策による混乱の危険にもさらされた。
生産の大部分を中国から他のアジア諸国に移転させた企業には、日本の電子機器大手パナソニック・ホールディングスやアンテナメーカーのヨコオ、アップルのサプライヤーである中国の電子部品メーカー、歌爾(ゴーアーテック)などがある。
米外交政策シンクタンクの戦略国際問題研究所(CSIS)が台湾企業525社を対象に行った10月の調査では、中国で事業展開する企業の3分の1が同国からの撤退を検討中で、4分の1が既に活動の一部を移したことが分かった。
他のアジア諸国はこうした新規投資で潤っているが、現地の工場が機能するためには中国製の部品や材料が依然として必要だ。エコノミストによれば、そのことが中国と他のアジア諸国が絆を深めるのに役立っている。ただしその効果を正確に測定することは難しい。
WSJは、アップルが生産拠点を中国外に移す計画を加速させ、サプライヤーに対し、インドやベトナムなどアジアの他の国々でアップル製品を生産することをもっと積極的に計画するよう伝えたと報じている。だがアップルは中国を完全に捨て去るわけではなく、他の中国企業との取引量を増やす可能性さえあるという。
こうした相反する流れは、対中貿易をめぐる米国の政策にひずみがあることを明らかにしている、とエコノミストは言う。アントニー・ブリンケン米国務長官と米通商代表部(USTR)のキャサリン・タイ代表は、米中どちらかを選ぶよう強要するのではなく、選択肢を与えると発言してきた。
とはいえ「これらの国々がいずれにせよ中国と貿易したがる理由は山ほどある」。貿易経済学者でピーターソン国際経済研究所の上席研究員であるチャド・バウン氏はそう語る。米国のこれまでのアプローチは、中国への経済的依存が同国政府に利用されかねないと諸外国に警告することだった。
だがアジア経済の中国依存がますます強まる中、米国が真の選択肢を提供するためには、アジアとの貿易を加速させる努力がもっと必要になるとエコノミストは指摘。恐らく、米国の「環太平洋経済連携協定(TPP)」離脱後に11カ国が立ち上げた「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)」に加わることが一つの手段になるだろう。
米バイデン政権は現状のまま参加することは支持しないが、再交渉に応じる用意はあると述べている。USTRはコメントの要請に応じなかった。【12月30日 WSJ】
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要するに、様々な理由でアメリカの意図に反して中国とアジア諸国の経済関係は強まっており、もし、アメリカがアジア諸国の中国依存を減らしたと思うなら、アメリカ自らがアジア諸国へ自国市場を解放してアジア諸国との経済取引を増大させる努力が必要だ・・・ということでしょう。
【年明け早々にフィリピン・マルコス大統領が訪中 予想される経済関係強化】
もちろん、「東南アジア諸国」とは言っても、中国との関係は各国が独自の事情を抱えており、一様ではありません。
例えば、フィリピンは12月23日ブログ“南シナ海近況 中国へ対抗するベトナム 親米姿勢、中国牽制を強めるフィリピン”でも取り上げたように、南シナ海情勢では中国牽制を強めていますが、一方で経済的には中国と強い結びつきがあります。
各国はそうしたバランスを求められていますが、フィリピン・マルコス大統領は1月にも訪中の予定です。おそらく、これまで以上の経済関係強化が示されるでしょう。
****フィリピン・マルコス大統領が1月に訪中、重点は中国との経済関係強化*****
フィリピン政府は29日、マルコス大統領が1月3日から5日まで中国を訪問すると発表した。大統領夫妻のほか、アロヨ前大統領、ロムヤデス下院議長、マナロ外相らと、さらに大型ビジネス代表団が同行する。
フィリピン外務省は大統領の訪中について「大統領就任以来、ASEAN以外の国への2国間訪問は初めてだ。両国指導者は2カ月足らずの間に、2回目の対面会談を行うことになる」と説明。
さらに、中国の習近平国家主席が10月の中国共産党全国代表代表大会で任期5年の党トップの総書記に再任され、マルコス大統領が6月の選挙で任期6年の大統領になったことから、マルコス大統領の訪中は、今後5〜6年の両国関係の基礎を決める重要な意味を持つとの認識を示した。(中略)
フィリピン外務省が発表した日程によれば、マルコス大統領は1月3日夜に北京に到着し、1月4日に本格的な訪問日程を開始する。(中略)
フィリピン外務省はまた、マルコス大統領の訪中に先立ち、中国側と農業、再生可能エネルギー、ニッケル加工、観光業、橋梁建設プロジェクトについて話し合っていることを明らかにした。今回の大統領訪中では10件から14件の両面政府間協定が締結される見通しという。
中国との貿易はフィリピンの貿易の2割を占めており、中国資本はフィリピンへの対外直接投資の主要な源泉でもある。
経済協力が緊密であるにもかかわらず、二国関係はしばしば、中国の南シナ海における領有権主張によって阻害されてきた。フィリピン外務省のインペル次官補は、大統領の訪中時に、領有権絡みの係争が発生した際に誤解が生じないよう、各レベルの外交官間の意思疎通を促進する協定が結ばれる予定と説明した。(後略)【12月30日 レコードチャイナ】
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