(ミャンマーの首都ネピドーで、ミンアウンフライン国軍総司令官(右手前)から称号を授与されるウィラトゥ師(左手前)【1月4日AFP】)
【スー・チー氏裁判結審 選挙前に民主派一掃を狙う】
ミャンマーでは軍事政権によるアウン・サン・スー・チー氏に関する19件すべての裁判が結審しました。禁固刑は合計で33年。今年8月までに行われる予定の「民主的選挙」前にスー・チーら民主派勢力の一掃を図る軍事政権の狙いがあるとのこと。
****ミャンマー、スー・チーの裁判が結審 禁固刑合計33年で政治生命絶つ狙いか****
<軍政主導の「民主的選挙」前にスー・チーら民主派勢力の一掃を図る?>
ミャンマーで軍事政権の強い影響下にある首都ネピドーの裁判所は12月30日、2021年2月1日の軍によるクーデターが起きるまで民主政府の実質的指導者だったアウン・サン・スー・チー氏に対し汚職などの容疑5件について禁固7年の実刑判決を言い渡した。
これでスー・チー氏の裁判は19件すべての審理が結審したことになり、言い渡された禁固刑の合計は33年となった。
ミン・アウン・フライン国軍司令官率いる軍事政権は2023年8月までに「民主的選挙」を実施することを発表しており、年内にスー・チー氏の裁判をすべて終えて、2023年からは選挙実施に専念したいとの軍政の意向が12月30日の「全ての裁判で結審、判決」に反映したとみられている。
クーデター発生当日にネピドーの自宅で身柄を拘束されて以来、スー・チー氏は自宅軟禁下に置かれ、その後ネピドー郊外の刑務所に収監となり、19件の容疑で訴追され被告の身となっていた。この間1度だけ法廷でのスー・チー氏の写真が公開されたものの、消息や動向は弁護士を通じて伝えられるだけだった。
そして刑務所収監後は刑務所内の特別法廷で裁判が続き、独房での様子が断片的に漏れてくるだけだった。健康問題には変化ないものの、自宅軟禁時に一緒だった馴染みのお手伝いさんや愛犬の「同行」は許されず、孤独な日々を送っていたという。
また裁判所が弁護団に対して「法廷での被告の様子を海外メディアなどの部外者に公表することを禁ずる」と命じたため、スー・チー氏の健康状態を含めた状況はほとんど外部に伝えられることはなくなってしまった。
弁護団は以前、スー・チー氏は訴追されたすべての裁判で「事実無根である」として容疑を全面的に否定していることを明らかにしていた。
このため公判でスー・チー氏は無罪を主張したものの、軍政の意向を反映して公平、公正な裁判とはかけ離れた審理が進められた。その結果スー・チー氏は訴追されたすべての裁判で有罪となり禁固刑という実刑判決を受けた。
軍政は2023年に「民主的選挙」を計画しているが、スー・チー氏や民主政府の与党でスー・チー氏が率いていた「国民民主連盟(NLD)」関係者らの参加を阻止し、スー・チー氏の政治生命を完全に絶ち、民主派勢力の動きを封じ込めたい考えだ。今回の禁固刑の判決もこうした軍政の意向が色濃く反映された結果になったといえる。
抵抗勢力との戦闘激化
軍によるクーデター発生から間もなく2年を迎えるミャンマーだが、国内の治安は依然として不安定は状態が続いている。
これは国境周辺を拠点とする少数民族武装勢力やクーデター発生後に民主派が組織した反軍政組織「国民統一政府(NUG)」が組織した武装市民勢力「国民防衛軍(PDF)」が各地で軍と戦闘を続けていることが主な要因だ。
軍政は力による抵抗勢力掃討に力を入れるあまり、無実、非武装、無抵抗の一般市民が多数戦闘に巻き込まれ、暴行、拷問、虐殺といった人権侵害が多数発生する事態になっている。【12月30日 大塚智彦氏(フリージャーナリスト) Newsweek】
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【軍事政権 ロヒンギャ排斥を煽る“怪僧”ウィラトゥ師を表彰】
軍事政権は一方で独立記念日に大規模な恩赦も行うとのこと。イメージアップのためでしょうか。政治犯が対象になるかは不明です。
****ミャンマー軍事政権、独立記念日で7000人恩赦 政治犯含むか不明****
ミャンマーの国営放送MRTVは4日、軍事政権が同国の独立記念日に際して7012人に恩赦を与えると報じた。
報道によると、殺人や性的暴行で有罪判決を受けた者や、爆発物、不法結社、武器、麻薬、汚職など関する罪で収監された者は今回の恩赦い含まれないとしている。政治犯が対象になるかどうかは明らかでない。(中略)
ミンアウンフライン国軍最高司令官は独立記念日の演説で「あらゆる圧力、批判、攻撃の中で(ミャンマーに)積極的に協力してくれた国や組織、個人に感謝の意を表したい」と述べた。
「われわれは中国、インド、タイ、ラオス、バングラデシュといった近隣諸国と緊密に連携している。国境の安定と発展のために協力する」と表明した。【1月4日 ロイター】
報道によると、殺人や性的暴行で有罪判決を受けた者や、爆発物、不法結社、武器、麻薬、汚職など関する罪で収監された者は今回の恩赦い含まれないとしている。政治犯が対象になるかどうかは明らかでない。(中略)
ミンアウンフライン国軍最高司令官は独立記念日の演説で「あらゆる圧力、批判、攻撃の中で(ミャンマーに)積極的に協力してくれた国や組織、個人に感謝の意を表したい」と述べた。
「われわれは中国、インド、タイ、ラオス、バングラデシュといった近隣諸国と緊密に連携している。国境の安定と発展のために協力する」と表明した。【1月4日 ロイター】
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個人的に注目したのは、軍事政権が“ある人物”を表彰したことです。
****ミャンマー国軍、「仏教徒のビンラディン」を表彰****
ミャンマー軍政は3日、宗教的憎悪をあおり「仏教徒の(ウサマ・)ビンラディン」とも称される高僧ウィラトゥ師に、称号を授与したと明らかにした。
国軍の情報部門によると、ウィラトゥ師に授与したのは「ミャンマー連邦のために優れた功績を残した」人物に贈られる「ティリピャンチ」。
4日の英国からの独立75年を前に行われた授与式典には、ミンアウンフライン国軍総司令官が出席した。式典ではウィラトゥ師のほか、数百人が称号や賞を授与された。
ウィラトゥ師は、特にイスラム系少数民族ロヒンギャに対する反イスラム的な国粋主義で知られている。 【1月4日 AFP】
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「仏教徒のビンラディン」とも称される“怪僧”ウィラトゥ師については、5年ほど前に何回か取り上げたことがある、イスラム系少数民族ロヒンギャ排斥の指導者です。
“怪僧”ウィラトゥ師は軍事政権・ミンアウンフライン国軍最高司令官とも太いパイプを持つ差別主義者ですが、彼が民衆から支持されるにはそれなりの背景もあります。
****ロヒンギャを弾圧する側の論理****
(中略) ラカイン州はミャンマー南西部を南北に走るアラカン山脈によって、最大都市ヤンゴンから地理的に分断されている。1785年にビルマ人に侵略されるまでアラカン王国という独立国家が栄えていたこともあり、ラカインの文化はミャンマーの多数派であるビルマ人のものとは人きく異なる。
ラカイン州はロヒンギャのホームランドだが、6割以上は仏教徒のラカイン人だ。ラカイン人もまたミャンマーの少数民族で、中央政府からの差別や搾取に長年苦しんできた。それ故、ラカイン州の貧困率は78%と全国平均37.5%(世界銀行2014)を大きく上回っており、国内で最も高い。(中略)
イスラム教徒への嫌悪感
そんなラカイン人が不満のはけ口にしているのが、イスラム系少数民族ロヒンギャに対する差別だ。
ロヒンギャの祖先は英国植民地時代にベンガル地方からミャンマーにやって来たと言われているが、70年代後半から不法移民として扱われるようになった。現在は無国籍の状態にあるため、教育や医療、福祉といった基本的な公共サービスにアクセスできず、多くの大が貧困と差別、そして断続的な武力弾圧に苫しんでいる。
ラカイン人は普段は礼儀正しく親切だが、ロヒンギャの話題になると急に嫌悪感をむき出しにする。(中略)
ミャンマー市民にロヒンギャに対する憎悪を植え付けるのに一役買っているのが、13年に発足した強硬派の仏教徒集団「国家と宗教保護のための委員会(通称マバタ)」だ。マバタの前身は「969運動」と呼ばれた反イスラム団体で、それを扇動してきたのが「ミャンマーのウサマ・ビンラディン」の異名を持つ怪僧アシン・ウィラトゥ(50)である。(中略)
利権に群がる軍と中国
(中略)なぜ、ウィラトゥやマバタはこれほどまでにミャンマーの人々を魅了するのだろうか。シットウェにマバタの僧院を構える仏教僧ウーナンダバータ(51)は、「マバタが地域のセーフティーネットの役目を負っているからだ」と話す。(中略)
マバタは貧困者、少数民族被災者、女性に対する支援を積極的に行っている。食糧を施すだけでなく、学校建設に無償教育の提供、女性の積極的な雇用など、その内容は多岐にわたる。
ミャンマーで広く信仰されている上座部仏教は、修行の妨げになるという理由から、世俗的な活動を禁止している。ある仏教研究者によれば、戒律の厳守を重んじるミャンマーの仏教界において、僧侶たちが「俗世間の人々」のために奉仕活動をするのは珍しいという。(中略)
ラカイン人には、ビルマ人に対する根強い不信感もある。ラカイン州は、天然ガスや石油などの天然資源が豊富な地域だ。ところが、地理的な遠さやロヒンギャ問題のせいで、民主化前から軍部と深く結び付く中国以外に外資の進出は進んでいない。
ラカイン州のリ党であるアラカン国民党(ANP)の書記長フタンアウンチョーによれば、天然資源から生じる利益は中国と中央政府が独占しており、地元ラカイン人にはほとんど還元されていない。
ミャンマー政府とスーチーに対するラカイン人の評価は辛辣だ。フタンアウンチョーもこう不満を吐露した。「われわれは独立以来、ずっと差別に苫しんできた。アウンサンスーチーが返り咲いたときにやっと状況がよくなると思ったが、全く期待外れだった。政府はラカインの開発から得た利益を地元住民に還元すべきだ」
その一方で、マバタは信者に貧困の原囚と解決方法を明示してくれる。原因とはイスラム教徒であり、彼らを排斥することが貧困から抜け出す道なのだと。
そして、こうしたマバタの活動を支える潤沢な資金の源は、大勢の在家者によるお布施以外に軍部にもある。
ロイター通信によれば、ウィラトウは軍部出身の元宗教相サンシンに重用されてマバタの勢力を拡大した。また、ミャンマー紙イラワジは、ウィラトウと国軍司令官ミンアウンフラインとの間に太いパイプがあると報じている。(中略)
さらに、掃討作戦が起きたロヒンギャの居住地の近くには、中国の投資金融グループ「中国中信集団(CITIC)」が港や経済特区を建設しようとしている。
ミャンマー政府は17年9月、掃討作戦で空いたロヒンギャたちの居住地を「再開発」する目的で管理すると発表した。
ミャンマーの宗教対立の原因を「民衆を扇動する過激な仏教僧」と「少数民族を弾圧する無慈悲な多数派」のせいにすることは簡単だ。だが、マバタやウィラトゥもこの搾取構造の駒の1つにすぎないのではないか。
無垢な市民の妄信によって反イスラム運動は拡大し、ロヒンギャ危機は臨界点に達した。解決には、マバタやラカイン人といった表舞台の人間だけでなく、水面下で暗躍する「悪」を追及する必要がある。
そしてマバタの僧侶や市民もまた、自らに問いただすべきではないだろうか。自分の頭で考えることを放棄し、悪の甘言を信じ続けた罪はどれはどの重さなのかと。【2018年11月20日号 Newsweek日本語版】
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(中略) ラカイン州はミャンマー南西部を南北に走るアラカン山脈によって、最大都市ヤンゴンから地理的に分断されている。1785年にビルマ人に侵略されるまでアラカン王国という独立国家が栄えていたこともあり、ラカインの文化はミャンマーの多数派であるビルマ人のものとは人きく異なる。
ラカイン州はロヒンギャのホームランドだが、6割以上は仏教徒のラカイン人だ。ラカイン人もまたミャンマーの少数民族で、中央政府からの差別や搾取に長年苦しんできた。それ故、ラカイン州の貧困率は78%と全国平均37.5%(世界銀行2014)を大きく上回っており、国内で最も高い。(中略)
イスラム教徒への嫌悪感
そんなラカイン人が不満のはけ口にしているのが、イスラム系少数民族ロヒンギャに対する差別だ。
ロヒンギャの祖先は英国植民地時代にベンガル地方からミャンマーにやって来たと言われているが、70年代後半から不法移民として扱われるようになった。現在は無国籍の状態にあるため、教育や医療、福祉といった基本的な公共サービスにアクセスできず、多くの大が貧困と差別、そして断続的な武力弾圧に苫しんでいる。
ラカイン人は普段は礼儀正しく親切だが、ロヒンギャの話題になると急に嫌悪感をむき出しにする。(中略)
ミャンマー市民にロヒンギャに対する憎悪を植え付けるのに一役買っているのが、13年に発足した強硬派の仏教徒集団「国家と宗教保護のための委員会(通称マバタ)」だ。マバタの前身は「969運動」と呼ばれた反イスラム団体で、それを扇動してきたのが「ミャンマーのウサマ・ビンラディン」の異名を持つ怪僧アシン・ウィラトゥ(50)である。(中略)
利権に群がる軍と中国
(中略)なぜ、ウィラトゥやマバタはこれほどまでにミャンマーの人々を魅了するのだろうか。シットウェにマバタの僧院を構える仏教僧ウーナンダバータ(51)は、「マバタが地域のセーフティーネットの役目を負っているからだ」と話す。(中略)
マバタは貧困者、少数民族被災者、女性に対する支援を積極的に行っている。食糧を施すだけでなく、学校建設に無償教育の提供、女性の積極的な雇用など、その内容は多岐にわたる。
ミャンマーで広く信仰されている上座部仏教は、修行の妨げになるという理由から、世俗的な活動を禁止している。ある仏教研究者によれば、戒律の厳守を重んじるミャンマーの仏教界において、僧侶たちが「俗世間の人々」のために奉仕活動をするのは珍しいという。(中略)
ラカイン人には、ビルマ人に対する根強い不信感もある。ラカイン州は、天然ガスや石油などの天然資源が豊富な地域だ。ところが、地理的な遠さやロヒンギャ問題のせいで、民主化前から軍部と深く結び付く中国以外に外資の進出は進んでいない。
ラカイン州のリ党であるアラカン国民党(ANP)の書記長フタンアウンチョーによれば、天然資源から生じる利益は中国と中央政府が独占しており、地元ラカイン人にはほとんど還元されていない。
ミャンマー政府とスーチーに対するラカイン人の評価は辛辣だ。フタンアウンチョーもこう不満を吐露した。「われわれは独立以来、ずっと差別に苫しんできた。アウンサンスーチーが返り咲いたときにやっと状況がよくなると思ったが、全く期待外れだった。政府はラカインの開発から得た利益を地元住民に還元すべきだ」
その一方で、マバタは信者に貧困の原囚と解決方法を明示してくれる。原因とはイスラム教徒であり、彼らを排斥することが貧困から抜け出す道なのだと。
そして、こうしたマバタの活動を支える潤沢な資金の源は、大勢の在家者によるお布施以外に軍部にもある。
ロイター通信によれば、ウィラトウは軍部出身の元宗教相サンシンに重用されてマバタの勢力を拡大した。また、ミャンマー紙イラワジは、ウィラトウと国軍司令官ミンアウンフラインとの間に太いパイプがあると報じている。(中略)
さらに、掃討作戦が起きたロヒンギャの居住地の近くには、中国の投資金融グループ「中国中信集団(CITIC)」が港や経済特区を建設しようとしている。
ミャンマー政府は17年9月、掃討作戦で空いたロヒンギャたちの居住地を「再開発」する目的で管理すると発表した。
ミャンマーの宗教対立の原因を「民衆を扇動する過激な仏教僧」と「少数民族を弾圧する無慈悲な多数派」のせいにすることは簡単だ。だが、マバタやウィラトゥもこの搾取構造の駒の1つにすぎないのではないか。
無垢な市民の妄信によって反イスラム運動は拡大し、ロヒンギャ危機は臨界点に達した。解決には、マバタやラカイン人といった表舞台の人間だけでなく、水面下で暗躍する「悪」を追及する必要がある。
そしてマバタの僧侶や市民もまた、自らに問いただすべきではないだろうか。自分の頭で考えることを放棄し、悪の甘言を信じ続けた罪はどれはどの重さなのかと。【2018年11月20日号 Newsweek日本語版】
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いずれにしても、“少数民族ロヒンギャを排斥することが貧困から抜け出す道”と扇動する“怪僧”ウィラトゥ師と実際に虐殺・レイプ・放火でロヒンギャを国から追い出した軍事政権・・・実にわかりやすい組み合わせです。
もっとも、軍事政権にとっては利用価値次第で、前軍事政権下の2003年には、暴動をあおったとして逮捕、投獄されています。
また2019年のスーチー政権下では、集会でスーチー氏について「化粧することや着飾ること、ハイヒールで歩くことしか知らない」などと侮辱発言して逮捕状が出され、1年以上逃亡していましたが、2020年11月に出頭しています。
【手製の武器で戦う民主派若者 「世界はウクライナほどミャンマーに関心を持ってくれない」】
最後に、ミャンマーの現状について、武力闘争で軍事政権に抵抗する民主派若者の声。
****泥沼のミャンマー内戦 若者の悲痛な叫び「ウクライナほど関心を持ってくれない」****
軍事クーデターが起きたミャンマーで、内戦が泥沼化している。空爆など暴力をエスカレートさせる軍。手製の武器で対抗する民主派。「世界はウクライナほどミャンマーに関心を持ってくれない」。ミャンマーの人たちは、忘れられていくことに危機感を抱いている。
■双子の弟を殺害された男性「世界は見て見ぬふりをしている」
2021年に起きたクーデターのあと取材で出会い、いまも連絡を取り合っている20代のミャンマー人男性がいる。男性はいま、母親を最大都市ヤンゴンに残し、父親とともにタイの国境地帯に避難している。民主派勢力に食料や寄付金を届ける活動を続けているという。
男性の双子の弟はクーデターの直後、軍への抗議デモに参加し、治安部隊に射殺された。その2か月後、男性は取材に対し「若者には誰でも夢を持って生きる権利があります。何かが間違っています」と、涙をこらえながら語っていた。あれから1年8か月。自らとミャンマーの現状について、SNSでメッセージを送ってくれた。
「クーデターで日常は完全に変わってしまいました。人々は恐怖と不安におびえながら、軍政下で生き延びようとしています。離ればなれになった母親には無事でいてほしいです。困難を抱えた生活の中では、“生きている”と感じられない時があります」
「いま、ミャンマーで起きているのは、軍と国民の内戦です。軍は自らの権力を維持するために、同胞を殺すことをためらいません。私たちが終わらせない限り、虐殺は今後も続くでしょう」
男性もほかのミャンマー人と同様、軍への抵抗を「革命」と呼ぶ。「ミャンマーの現実を世界は見て見ぬふりをしています。世界はウクライナの問題ほど、ミャンマーで続いている革命に関心を持ってくれません」。忘れられていくことに強い危機感がにじむ。
■増え続ける死者と国内避難民
ミャンマー軍に焼き打ちされた村(Irrawaddy)ミャンマーではいま、内戦が泥沼化している。民主派の武装勢力「国民防衛隊」は、少数民族から軍事訓練を受けてゲリラ戦を展開。一方の軍は、空爆や村の焼き打ちなど無差別攻撃を繰り返し、無抵抗な市民の犠牲者は増え続けている。
現地の人権団体によると、軍の武力弾圧による死者は2600人を超えた。国連機関によると、ミャンマー全土でクーデター以降、110万人以上が住む家を追われ、国内避難民となっている。
現地では何が起きているのか。激しい戦闘が続く北西部ザガイン管区の「国民防衛隊」3人がオンラインで取材に応じ、前線の生々しい状況を証言した。
■手製の武器で応戦する「国民防衛隊」
国民防衛隊の大隊長 ※本人の希望でモザイク不要インターネットが辛うじてつながるというジャングルの小屋で、37歳の大隊長は、1953年製の小銃を手元に置いたまま「戦闘は昼夜を問わず発生する」と話し始めた。
「寝ていた午前2時ごろ、軍の部隊が突然現れて戦闘になることがある。これまでに62人の隊員が犠牲となった。軍の攻撃に(抵抗のサインである)3本指を立てたことで、頭を撃ち抜かれた仲間もいる」
「軍はいま、ロシア製の軍用ヘリコプターで、近くの基地から15分ほどでやってくる。上空から見えるものすべてを撃ってくる。人間を人間と思っていない」
大隊長は手製の武器の写真を見せてくれた。大部分が木製の小銃とビニールテープが巻かれた手りゅう弾。「我々は軍と同じレベルで戦いたいが、武器や弾薬が不足している」
クーデターの前は学生だったという22歳の隊員は、国民防衛隊に入った理由について「市民を拷問する兵士を見て、独裁者を倒さなければならないと思った」と話した。
「死ぬのは怖くない。独裁政権から解放されないことのほうが怖い」と強がる隊員だが、家族は心配していないのかと尋ねた時、はにかみながら「ケガをした時は、無性に家が恋しくなる」と明かした。
■声なき声に耳を傾けて
クーデターから間もなく2年。国際社会は事態打開の糸口すら見つけられていない。
ミャンマーの独立系メディア「イラワジ」は2022年12月の社説で、軍事政権と関係を深めるロシアや友好関係を維持する中国とインドを名指しし、「この軍政の寿命は短く、付き合うと裏切られると分かっているはずだ。ヒトラーと友達になるようなものだ」と皮肉った。
その一方で、アメリカの議会がミャンマーの民主派勢力に非軍事的な支援を可能にする法案を可決したことを「心強い」と歓迎した。「これまでミャンマーに関わってきた欧米の友人たちは、抑圧されたミャンマー国民を見捨てず、長年の友人として立ち上がり、支援するべきだ」と強調する。
ミャンマーの人たちは国際社会の言動を注視している。ロシアのウクライナ侵攻の陰に潜む、声なき声に耳を傾けてほしいと訴えている。【12月31日 日テレNEWS】
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