(【1月2日 FNNプライムオンライン】年末 北京 池に張った氷の上では所狭しと人が遊ぶ)
【中国政府の想定を上回る感染爆発】
欧米・日本的理解では人権侵害とも言える極端な行動制限を国民に強いてきた「ゼロコロナ」政策に事実上終止符を打ち、一転して、感染者でも働ける状態なら出社を促すような経済重視の「ウィズコロナ」状態へのハードランディングを試みている中国・習近平政権ですが、習近平国家主席は年頭の祝辞で「ゼロコロナ」という言葉は使わず、「未曽有の困難と挑戦に打ち勝った」とも述べています。
*****習主席が新年の祝辞「未曽有の困難に打ち勝った」感染対策で自賛****
中国の習近平国家主席は新年の祝辞を発表し、新型コロナウイルス対策について「未曽有の困難に打ち勝った」と自賛しました。
習近平国家主席「苦難に満ちた努力の末、未曽有の困難と挑戦に打ち勝った」
習主席は31日夜、国民向けのテレビ演説でこのように述べ、これまでの感染対策が「最大限、国民の生命と健康を守った」と成果を強調しました。
その上で、厳しい行動制限を強いてきた「ゼロコロナ」政策に事実上、終止符を打ったことを念頭に、「防疫対策は新しい段階に入った」と指摘しました。
政策が急転換したことを機に、中国では感染が爆発的に拡大する中、習主席は「夜明けの光はすぐそこにある。団結がすなわち勝利だ」と述べ、国民に結束を呼びかけました。
また、ゼロコロナ政策による低迷が続く中国経済については、「強じん性と潜在力、活力に満ちている」と述べ、今後の回復に自信を見せました。【1月1日 日テレNEWS】
**********************
「未曽有の困難に打ち勝った」云々は政治的詭弁に過ぎませんが、問題は現在の感染爆発状態が社会に(ひいては政治に)どのような影響を与えるのか、ハードランディングが成功するのかどうかです。
****中国コロナ死、1日9千人と推計 数日で大幅増、英調査会社****
英国拠点の医療系調査会社エアフィニティは29日、中国で新型コロナ感染による死者数が1日当たり9千人に上っているとの推計を発表した。
同社は21日付の発表で1日当たり5千人超の可能性があると指摘しており、ここ数日で大幅に増加したとみている。1日当たりの感染者数は推計180万人としている。
一方、中国疾病予防コントロールセンターは29日の発表で、28日に全国で新たに確認された死者は1人、感染者は5102人だとしている。
エアフィニティは推計で、1日からの累計感染者は1860万人、死者は10万人に達したとの見方を示した。【12月30日 共同】
***********************
年末段階では火葬場に車列ができるような状況も報じられていました。
****中国 火葬場に車の長い列 新型コロナで死者増えている可能性****
中国で新型コロナウイルスの感染が急拡大するなか、首都 北京の火葬場では、ひつぎをのせた車の長い列が確認され、多くの人が死亡していることをうかがわせています。
中国政府が発表した感染による死者は、20日も全国でゼロですが、基礎疾患のある感染者が重症化して死亡するケースが増えている可能性が出ています。
中国政府が発表した感染による死者は、20日も全国でゼロですが、基礎疾患のある感染者が重症化して死亡するケースが増えている可能性が出ています。
中国では、今月7日、政府が新型コロナウイルスの感染対策の緩和に踏み切ったあと各地で感染が急拡大しています。
こうした中、首都 北京の郊外にある火葬場では21日午前中、ひつぎをのせた車が、およそ80台の列をつくっているのが確認されました。
火葬場の担当者は「ふだんよりも亡くなる人が多い。来月3日まで予約が空いていない」と話していて、多くの人が死亡していることをうかがわせています。
ただ、中国政府が発表した感染による死者は、おとといは全国でゼロで、今月に入って、10人にも達していません。
中国政府の記者会見で、感染症の専門家は基礎疾患のある感染者が重症化して死亡した場合は新型コロナによる死亡と数えていないという見解を示していて、こうしたケースが増えている可能性が出ています。【12月22日 NHK】
こうした中、首都 北京の郊外にある火葬場では21日午前中、ひつぎをのせた車が、およそ80台の列をつくっているのが確認されました。
火葬場の担当者は「ふだんよりも亡くなる人が多い。来月3日まで予約が空いていない」と話していて、多くの人が死亡していることをうかがわせています。
ただ、中国政府が発表した感染による死者は、おとといは全国でゼロで、今月に入って、10人にも達していません。
中国政府の記者会見で、感染症の専門家は基礎疾患のある感染者が重症化して死亡した場合は新型コロナによる死亡と数えていないという見解を示していて、こうしたケースが増えている可能性が出ています。【12月22日 NHK】
******************
中国政府も感染拡大は想定してのハードランディングだったでしょうが、その想定以上に感染は急拡大したようです。
****中国各地の感染率50~80% 専門家「想定外の勢い」****
新型コロナウイルス感染症がまん延する中国で、各地の感染率が50~80%に達したとの見方が12月31日までに相次いで示された。年末年始の3連休が31日に開始。1月下旬には春節(旧正月)の大型連休もあり流行拡大が必至だ。
中国メディアによると、中国の著名な感染症専門家は31日までに、北京の感染率が80%を超えたとの見方を示した。北京としては第1波の流行だが「想定外の勢いだ」と指摘した。
中国政府は正確な数を把握できないとして無症状感染者の発表を12月14日にやめた。一部の地方政府はアンケートで地元の感染率を推計。海南省は30日、感染率が50%に達したようだと明らかにした。四川省当局も25日時点の感染率は64%だったと発表している。【12月31日 産経】
********************
【集団免疫獲得で感染状況は急速に落ち着く可能性も】
“北京の感染率が80%を超えた”ということになると、今後については急速に感染が縮小することも予想されます。
ただ、都市部に遅れて感染が拡大する地方・農村部にあっては医療体制も不十分で、相当の犠牲者の発生も予想dされます。
ただ、“CDCは「実際の感染率はさらに高い」と分析。農村部でも感染率は54・91%になるとされている。都市部を中心に拡大しているとみられた感染が、農村へも広がっている模様だ。”【12月30日 日系メディア】ということからすれば、地方の状況が落ち着くのも早いかも。
こうした状況を国民がどのように受け止めているかですが、年末年始の人出は“そろり回復”とも。
****中国、人出そろり回復 年末年始、コロナ前及ばず****
中国の文化観光省は2日夜、同日終わった年末年始の連休のレジャー客が全国で延べ5271万人だったと発表した。前年同期比0.44%増と、ほぼ横ばいだった。
新型コロナウイルスの流行は収まっていないものの、北京など一部で人出が戻り始めた。ただコロナ流行前の2019年と比べると4割程度にとどまっている。
北京中心部の公園では凍った池に毎年恒例のそり遊び場が開設され、多くの市民でにぎわった。北京は昨年11月以降、市民の感染率が80%に達したとの見方が専門家から出るほどの爆発的流行になっている。ただ体調が回復した市民も多く、繁華街に人が増え始めている。【1月3日 共同】
********************
【社会も「驚異の回復」か】
上記にもあるように北京などは「驚異の回復」とも言えるような活況を呈しているとも報じられています。
****北京に溢れる人 コロナ禍から「驚異の回復」も 予測不能な今年の中国****
2022年年末の中国・北京には人が溢れかえっていた。
池に張った氷の上では所狭しと人が遊び、人気のある通りには老若男女が楽しげに歩き、笑う姿があった。コロナなどなかったかのような活気には唖然とするしかなかった。
火葬場に行列が出来たのも現実だが、すでに陽性を経験した「陽過」「陽康」という新たな言葉が定着し、人々が日常を取り戻しつつあるのも現実である。朝夕の渋滞は以前よりも激しくなった印象すらある。
日本をはるかに凌ぐスピードで変わっていく中国の今年を考える。
“異質な中国”を知る市民
コロナ対策への不満がデモに繋がったように、中国市民の権利意識、特に生活に直結する問題への関心は今後もさらに高まるだろう。
ネットやSNSの普及で人々は諸外国の実情を簡単に知ることが出来るようになった。中国の体制やルールが異質であることに、すでに多くの人が気づいている。海外旅行なども通じて自国と全く違う環境を体験する中、中国国内の限られた自由や権利を当局がさらに押さえつければ反発するのは当然である。
北京で最後の隔離生活を送った12月中旬、あまりの拘束時間の長さにバスの中で乗客が「もうフラフラだ!」と一斉に不満を口にする一幕があった。市民の不満は思いがけないところで噴出するものだと感じた瞬間だった。
去年12月のデモでは、習近平体制への批判も出る一方で「国の政策を実行しない地方政府、現場レベルへの不満もあった」(日本大使館筋)との分析もあり、体制批判は大きなうねりにはなっていないようだ。少なくとも北京市民は感染するリスクよりも各種の制限がなくなり、自由を享受出来ることに充実を感じているように見える。北京の感染増加が続く中で起きたデモだっただけに、複数の関係者が「(デモは)ゼロコロナを緩和するには渡りに船だった」と指摘している。
医療体制が脆弱な地方や、高齢者への影響についても「すでに地方もピークアウトしはじめている」(外交筋)との見方も出るほどで、今のところその影響は限定的なようだ。
政策の急激な変更に粛々と応じる市民には、政治に参画できない割り切りのようなものが感じられるが、ひとたびその不満と先行き不安の高まりが表面化すれば、国内はたちまち混迷の度を増すことになるだろう。(後略)【1月2日 FNNプライムオンライン】
*********************
中国メディアCRI(中国国際放送)も海外メディアを引用しながら「回復ぶり」をアピールしています。
****【CRI時評】生気を取り戻した中国の都市が世界に発信するメッセージとは****
「北京の街中では再び渋滞が発生している。観光客は海外で休暇を過ごすために争って予約している。企業はビジネス活動の回復を見込んでいる」、「リゾート地ではホテルの利用客が著しく増えている」……。
これは英紙フィナンシャル・タイムズやロイター通信などのメディアによる中国の最新の観察だ。多くの海外メディアが、「中国人の生活は正常に戻りつつある」、「北京や上海で灼熱の活気が再び出現している」といった内容の記事に重要な紙面を割いた。
中国国外からは、中国の感染予防や抑制政策の調整の効果はどうなのかとの、強い関心が寄せられてきた。そして、新年早々に北京や上海など中国を代表する都市が復活した活力は、中国の積極的な回復の重要なシグナルと見られるようになった。街頭の活気が春の暖かさを運んでいる。
中国国外の観察者の報道に含まれる「秩序ある正常への回帰」、「生気の回復」、「需要の再燃」といったキーワードは、中国の新年の雰囲気を伝えている。それは予想外のように見えても、理にかなう現象だ。
中国の感染予防や抑制政策は、最近なり調整され転換され、感染の予防と抑制は新たな段階に入った。これらの調整は病原体と疾病に対する認識、集団免疫のレベルと衛生健康システムによる対抗能力、社会における公衆衛生の介入措置という、3つの要素についての判断に基づいて実施されたものだ。(中略)
中国政府がまさに一貫して国民第一、生命第一を堅持し、科学的で精確な予防と抑制を堅持し、状況の推移に応じて予防と抑制措置を最適化し調整してきたからこそ、国民の生命の安全と身体の健康を最大限に保護し、目下の活気にあふれて、元気ではつらつとした中国を実現することができたのだ。
消費者ニュースやビジネスを扱う米国の放送局「CNBC」は、中国で消費ブームが起こると予測した。世界経済の布局が一つの重要な分水嶺に至った時、中国経済の回復と上昇は世界にとって大いにプラスに働くことになる。【1月3日 レコードチャイナ】
*********************
中国政府の公式見解に沿えば、上記のような表現にもなるのでしょう。
確かに感染拡大の犠牲はありますが、国民も「感染拡大は自由の代償」として、とにもかくにも自由に行動できるようになったことを喜んでいる向きもあるようです。
****ゼロコロナの壁崩壊 「自由の代償」の行く先は****
“ゼロコロナ”の壁が崩壊して、まもなく1か月。師走の首都・北京では人出は徐々に戻るも、医療体制はひっ迫している。アメリカの研究機関の予測では、中国のコロナによる死者が来年、100万人を超える恐れもあると言われている。
厳しすぎる政策で国民を締めつけたかと思いきや、突然に与えられた自由な生活。政策1つで国民の気持ちをもてあそぶかのように感じ、まるでジェットコースターに乗せられているような気分だ。
中国の知人女性の1人が、感染急拡大の最中にこんなメッセージをくれた。
「世界は3年目のコロナだが、中国はまるで今、始まったようだ。最初にコロナが見つかった国なのに…」
この言葉に、ゼロコロナ政策がいかに国民の心をむしばんでいたのかと感じた。
一方、ゼロコロナの緩和とともに街を歩き始めた人々にインタビューすると、「感染は大変だが、治せば済むこと」「感染拡大は自由の代償」…こんな声も聞かれた。
中国に赴任直後、この国で生まれ育った人が口にした話を今でも覚えている。
「中国に“現状維持”という言葉は存在しない」
経済、技術、科学などあらゆる分野における「発展」のスピードはすさまじい。同様に、衰退するときも急速だという。このゼロコロナ政策をめぐる3年の動きも同じではないか。
ゼロコロナによる鎖国を続けた中国は「14億人の無菌室」とも指摘されている。この3年、世界が“ウィズコロナ”へ舵(かじ)を切っていくなかで、かたくなに“ゼロコロナ”を堅持した習政権は、今、諸外国から周回遅れでコロナと共存していくことを決めた。
経済への回復を急務にしているが、“ゼロコロナの壁”が崩壊した副作用は、2023年も続きそうだ。【1月2日 日テレNEWS】
*********************
【「今も変わらず、自由にものが言えない社会だ」】
一連の報道を見ると、感染爆発で集団免疫を獲得し、かなり早い段階で表面上は感染状況は落ち着きとりもどし、中国社会・経済は「驚異の回復」と呼ぶべき状況に至るのではないか・・・と個人的には推測しています。
ただ、それをが「コロナに勝利した」と言えるかどうかは別問題です。
中国のような、火葬場に車列出来るような状況にあっても不平・不満、政権批判を許さないという体制にあっては、強引にハードランディングを進めることも可能で、結果、「驚異の回復」の実現も可能でしょう。
問題は、そういう不平・不満、政権批判を許さないこと、そのことで国民が一方的・強権的に強いられる犠牲をどう考えるかです。
****「原因不明の肺炎」発表から3年…中国SNS「今も変わらず、自由にものが言えない社会だ」****
新型コロナウイルスの感染が最初に広がった中国湖北省武漢市の政府が、原因不明の肺炎患者の存在を発表してから31日で3年となった。
政府の公表前に警鐘を鳴らし、その後感染死した武漢市の李文亮リーウェンリャン医師(当時34歳)のSNSのアカウントには、追悼の声や感染が再拡大している現状を嘆くコメントが相次いで投稿されている。
SNSには「3年たつが、3年前に戻ったようだ。今病院は人でいっぱいだ」「皆が陽性になり薬も買えない。2023年1月には、(中国人の海外旅行を再開し)中国を開放すると言っている。恐ろしいことだ」「今も変わらず、自由にものが言えない社会だ」といった投稿が並んだ。
李氏は19年12月30日、SNSに「7人がSARS(重症急性呼吸器症候群)と診断された」と投稿し、デマを広げたとして警察の訓戒処分を受けた。20年2月7日に死去した。【12月31日 読売】
*********************