孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

女性差別  男性にはわかりにくい意識に刷り込まれた差別意識も

2023-01-08 22:56:48 | ジェンダー
(【2022年8月7日 GINZA】振る舞いも含めた自然な対話を可能にすることを目指して開発された自律対話型アンドロイド「エリカ」)

【パキスタンなどにおける“わかりやすい女性差別”】
アフガニスタン・タリバン政権の女性差別については何度も繰り返し取り上げていますが、こうした女性の人権を軽視した状況は、言うまでもなくアフガニスタンに限った話ではなく、世界中で、途上国でも、日本を含めた先進国でも、程度の差はあれごく普通に見られるものです。

特に、一部の国々では“あからさまな女性蔑視”が社会的に許容されている状況が未だ残存しており、例えばアフガニスタンの隣国パキスタンでも。

****「女子にも権利がある」──11歳で結婚した私が教育を諦めない理由****
<児童婚の風習が残るパキスタンで家族を説得。電気もない家から看護師を目指すまでの軌跡>

私は8人きょうだいの1人として生まれ、両親を含め10人家族の家庭で育った。パキスタン南部シンド州のケティ・バンダー郡で育ち、今もそこで暮らしている。自宅や近所には電気がほとんど通っておらず、住居は土壁造り。太陽光発電で料理や携帯電話の充電が多少できるぐらいだ。

小さい頃は村に学校がなかったが、叔父はある程度の教育を受けた人で、基本的なシンド語を教えてくれた。祖母にはコーランの教えを習った。

学校には6歳から通えた。非営利団体「シチズン財団」が村に学校を作ったのだ。開校当初は子供を通わせる家庭は少なく、女子生徒のほうが多かった。「女は5年生くらいまで通わせて、その後は結婚や家事をさせればいい」という雰囲気だったのだと思う。

私の母も通学に反対だった。女の子は嫁に行っても困らないように料理や伝統的ししゅう、裁縫、若いきょうだいの世話などの家事を学ぶべきだという立場だった。父は母の意見に従うと言うだけだったが、当時同居していて発言力の強かった祖父が学校行きを後押ししてくれた。

母が働きすぎなのは分かっていたので、手伝う気持ちと学校へ行きたい気持ちの板挟みになり、苦しかった。母の気持ちを静めるために、何日か学校を休んで家にいたこともある。そのときは学校に戻れるように、叔父が母を説得してくれた。でも家で教科書に夢中になって呼び掛けに答えず、激高した母に教科書を火にくべられたこともある。

結婚の後も毎年闘いが
5年生になると、両親は私の結婚相手を選び、ニカという婚姻の儀式の準備を始めた。相手は1歳下の私のいとこで学校の下級生。ニカは私が11歳のときに執り行われた。結婚については何も教わらなかった。

儀式が終わり、別の家族の一員になったと実感したけれど、夫の考えや行動がまだ幼いことが気になった。

結婚後も、教育は受け続けると決意していた。学年末ごとに家族からこれで学校はおしまいだと聞かされ、そのたびに校長のファルザナ先生がもう少し続けさせるよう両親を説得してくれた。

ルクサティと呼ばれる儀式を終え義理の家族と同居が始まったのは、私が14歳で、10年生が終わりを迎える頃だった。

その頃には自分の意見を主張するすべや、ある程度は妥協が必要なことも学んでいた。夫は最初はかたくなだったけど、叔父が私の教育を続けるべきだと家族を説得してくれたことは、とても幸運だった。

叔父は、夫や義理の家族の考えを少しは変えてくれた。それでも毎年が闘いだった。家族には教育の意義について、あの手この手で説明しなければならなかった。ただ、教員の助手として働いた少額の給料を家に入れることで、義母の態度も少し軟化した。

村の近くに大学進学を目指すための学校が作られ、私もそこに通うようになった。同時に、学士と教員資格を得るための通信教育プログラムも受け始めた。将来的には4年制の看護学校に通って医療の分野に進みたいと考えている。

義母と夫も、教育やキャリアを追い求めることを今では認めてくれている。女子教育に否定的な伝統に縛られず、教育を受ける権利があるはずの女性たちの模範となりたいと思う。(ニアズは現在22歳になり、シンド州で看護師の見習いをしている)【12月8日 Newsweek】
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アフガニスタン・タリバンの女子教育否定の考えの根底には、上記のようなこの地域に共通した女性観が存在することが想像されます。

****レイプ犯、被害者と結婚で釈放 パキスタン****
パキスタン北西部で、強姦(ごうかん)罪で有罪判決を受けた男が、長老会議の仲介した和解により被害者と結婚したことを受け、釈放された。男の弁護人が28日、明らかにした。権利活動家は、女性に対する性暴力を合法化する決定だと批判している。

ダウラット・カーン被告は今年5月、聴覚障害者の女性をレイプしたとして、カイバル・パクトゥンクワ(旧北西辺境)州ブネル地区の下級裁判所により終身刑を言い渡された。だがペシャワル高裁は、被害者の家族が裁判外の和解に同意したことを受け、カーン氏の釈放を命令。同氏は26日に自由の身となった。

弁護人のアムジェド・アリ氏がAFPに語ったところによると、カーン氏は被害者の女性と親戚関係にあった。未婚だったこの女性が今年出産した後に身柄を拘束され、親子鑑定により子どもの実父であることが確認された。

同国では、女性が二流市民扱いされることが多く、レイプ事件の刑事責任追及が極めて困難であることで知られている。被害者に対する偏見から、事件が通報されることはほとんどない。

裁判になった場合でも、警察や検察のずさんな対応や、裁判外の和解により、有罪判決が出ることはまれ。社会的弱者の女性に法的支援を提供している団体「アスマ・ジャハンギール法律扶助組織」によると、レイプ裁判の有罪率は3%に満たないという。 【12月29日 AFP】
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おそらく被害者家族が和解に応じたのは、“レイプされたあげく、未婚の母として生きていく”ことの伝統社会における困難さ、それよりは結婚という形で一定に保護された方が・・・・という考えでしょう。

日本的感覚では“あり得ない”話ですが、その地域にはいろんな事情もあるのでしょう。しかしながら、やっぱりおかしい!という感も。

【日本など先進国でも“意識”の問題が存在】
日本を含めた先進国では、上記のような“あからさまな女性蔑視”は許されないものとなってはいますが、未だ男性中心の社会であり、女性に大きな負荷がかかっていることは今更の話です。

日本や韓国などは、欧米に比べると、アフガニスタンやパキスタンに近い「男は仕事、女は家事」という意識が強く存在しています。

****家事分担を妨げる「男は仕事、女は家事」という日本のジェンダー意識****
<男性の労働時間が減っても、その分だけ家事をする時間が増えるとは限らない>

先週の記事「日本の男性の家事分担率は、相変わらず先進国で最低」で見たように、日本の男性の家事分担率は国際的に見て低い。OECDの統計によると、15~64歳男性の1日の家事等の平均時間は41分で、女性は224分(2016年)。男女の合算に占める男性の割合は15.4%でしかない。他国の同じ数値を計算すると、アメリカは37.9%、スウェーデンは43.7%にもなる。

日本の男性は、仕事時間がべらぼうに長いからではないか、という意見もあるだろう。同じくOECDの統計によると、日本の15~64歳男性の1日の平均仕事時間は452分で、アメリカの332分、スウェーデンの313分よりだいぶ長い。家事等の平均時間は順に41分、166分、171分と逆の傾向だ。(中略)

傾向としては、仕事時間が長いほど家事等の時間は短い、両者はトレードオフの関係にあると言えなくもない。
仕事時間が短ければ、自宅にいる時間も長くなり、家事や育児にも勤しむようになる。

いたって自然なことだ。政府の『男女共同参画白書』でも、男性が家事・育児・介護等に参画できるよう、長時間労働を是正する必要があると言及されている。
だが、事はそう単純ではない。定時に上がっても、自宅ではなく酒場に足が向く男性もいるだろう。コロナ禍以降、在宅勤務が増えているものの、夫が家事をしないのは相変わらずで、「大きな子どもが1人増えたようだ」という妻の嘆きもSNS上で散見される。仕事時間を減らせば万事解決となるかは分からない。(中略)

男性を見ると、仕事時間の多寡に応じて家事時間が大きく変わる傾向はない。小さな差はあるものの、どのグループも家事時間は週10時間未満が大半だ。対して女性は、仕事時間に関係なく、家事時間が週20時間以上の人が多い。(中略)

未婚化が止まらないが、結婚生活の負荷を女性が認識し出したこともあるだろう。2021年の国立社会保障・人口問題研究所の『出生動向基本調査』によると、女性が結婚相手に求める条件として最も多いのは「人柄」だが、それに次ぐのは「家事・育児への姿勢」だ。2015年との比較でいうと、この項目を重視する女性の割合が増えている(57.7%→70.2%)。対して、職業や経済力を重視するという回答は減っている。

女性の社会進出を促し、かつ未婚化・少子化に歯止めをかける上でも、男性の「家庭進出」が求められるが、長時間労働の是正だけでは足りない。意識の啓発も必要になってくる。家庭内での性別役割分業を子どもに見せることは、既存のジェンダー構造を次代にまで持ち越す恐れがあることをしっかりと自覚しなければならない。

また日本では、「男は仕事、女は家事」という性役割分業で社会が形成されてきた経緯があるので、家事に求められるレベルが高くなってしまっている(一汁三菜の食事、洗濯物は綺麗にたたむなど)。外国人が驚くところだ。これなども、男性の家事分担を妨げている。共稼ぎが主流になっている今、見直すべきだろう。【2022年10月26日 Newsweek】
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上記記事ではスウェーデンが取り上げられていますが、労働時間に関する男女差が一番少ないのはやはり北欧のようです。

****フィンランド、労働時間が初めて男女平等に****
フィンランド統計局は10日、国民が家事労働と有償労働に費やした時間の合計が、昨年初めて男女で等しくなったと発表した。

10歳以上の人口の有償労働と家事労働を合わせた1日の総労働時間はこれまで、女性の方が長かった。統計局は、男性の有償労働時間が減少し、家事労働時間が増加したと説明。特に男性が育児に費やす時間が大きく増えたとし、その要因としては文化の変化に加え、男性向け育児休暇制度の拡充があるとした。

ただ、有償労働の時間は依然として男性が女性よりも1日平均30分長かった。 【2022年11月11日 AFP】
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制度的なジェンダー格差は次第になくなってはいますが、状況の差を生むのは「男は仕事、女は家事」といった“意識”の問題。

【女性は文系?】
****「女子の文系バイアス」高1から強まる傾向に  数学点数に文理バイアスの形成も影響か IGS調べ****
Institution for a Global Society(以下、IGS)は、生徒の潜在的な文系・理系傾向などのバイアスを明らかにする診断ツール「Ai GROW(アイ・グロー)傾向チェックテスト」のデータをもとに、中学3年生~高校3年生(計3,325名)の文理傾向のバイアスの変化を男女別に分析し、結果を公表した。

同調査の結果、中学3年生の時点では男女ともに理系傾向であったにも関わらず、高校1~2年生にかけて、女子生徒は男子生徒よりも文系のバイアスが急激に強まっていることがわかったとのことだ。(中略)

小学4年生や中学2年生時点では数学点数に男女差はないが、高校3年生になると点数に男女差が出ている。このことから、文理選択を迫られる高校1年生の時期から2年生の時期に、「女子は文系」というバイアスが、環境(先生や保護者からの声掛けなど)等の要因で強まり、実際に高校3年生で点数に影響が出ている可能性があるとしている。 

バイアスは無意識であり、本人や周囲も自覚することが難しいため、まずは文理傾向バイアスを定期的に可視化することが重要だという。

さらに、数学と身近な接点やつながりを実感できるようにするなど、将来やりたいことと直結するイメージを抱いてもらうような環境づくりや声掛けが必要だといえるとのことだ。

■「文理傾向バイアス」とは
自分は意識していないが、脳が潜在的に「自分は文系」「自分は理系」と捉えている、認知バイアス。
数学の点数が下がることで文系バイアスが強まる可能性もある一方で、同リリースの分析結果にもある通り、文系バイアスが強くなると数学の点数が下がるなどの影響が出る可能性もあるとしている。(後略)【2022年11月2日 AMP】
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【「美人顔」ヒト型ロボットは“ジェンダー不平等に対する危機感が根本的に欠けている”せいか?】
このあたりの“意識”の問題になると、世の中には溢れかえっています。そのため、一体何が女性差別に当たるのかよくわからない状況もあります。

京都大学がAIを使ったヒト型ロボットを開発したところ、そのロボットが若い女性の美人顔であることや、しゃべり方や声の高さに、“ルッキズム(外見至上主義)やジェンダーステレオタイプに対する意識が表れてはいないか”という批判が起きているとか。

****若く従順で美人顔──女性ロボットERICAの炎上は開発者個人だけの問題か****
<しゃべるアンドロイドに女性差別だと批判が。なぜ「媚びるように話す」「若い女性」なのか>

京都大学の研究グループが2022年9月、人間の笑い声に反応して、一緒に笑い声を出す機能を搭載したヒト型ロボット(ERICA)を開発した。このニュースをNHKがツイートしたところ、女性差別だと炎上する騒ぎが起こった。(中略)

問題の1つ目は、なぜこのヒト型ロボットが若い女性だったのか、ということだ。
これまでも、アップルのSiriやアマゾンのアレクサの声がジェンダーバイアスをはらんでいると言われてきた。どちらのAIも、なぜか女性の声と名前がデフォルトになっている。(中略)

大阪大学の研究ポータルサイトには、ERICA開発の研究成果のポイントとして「見た目は美人顔の特徴を参考にコンピューターで合成され......」と記載されている。日本を代表する国立大学の研究グループが女性アンドロイドを「美人顔」に作ったと堂々と記す──。「男ばかり」の環境で生きる研究グループの、ルッキズム(外見至上主義)やジェンダーステレオタイプに対する意識が表れてはいないか。

2つ目は、ERICAに従順さを印象付けるニュアンスのセリフを言わせたことだ。ERICAの動画を見ると、その言葉は「あははは、そうなんですね」「えへへへ、いいですね」「えへへへ、そうなんですか」「うふふふ、素敵ですね」だった。(中略)

ERICAの声の高さは(中略)全体的に高めと言える声だった。

人間の声の高さには体の大きさに比例する声帯の長さが関係している。小柄なアジア系女性の声はほかの人種よりも高くなる傾向があるが、日本人女性の声は先進国では一番高いと言われてきた。

山﨑氏によると、高い声は未成熟さや弱さ、幼さを示す。女性は高い声を発することで「守られなければ生きていけない存在」と無意識的に周囲に見せる。男性優位の社会ゆえに、女性は男性に従う弱く未成熟な存在であれという社会圧があり、そのような社会の価値観に合わせて無自覚のまま女性の声は高くなった──と山﨑氏は考えている。
(中略)

開発者個人の問題なのか
(中略)温泉地に行くと「今日こそは夜這いがあるかもとドキドキする」などと描かれたご当地温泉むすめキャラクターのポスターが貼られ、テレビをつければ年長男性のアシスタントをする声の高い若い女子アナウンサー、野球場へ行くとミニスカートの若いビアガール......。記号化された「若い女性」の象徴が日本の津々浦々に存在している。

なぜERICAが若い「美人顔」の女性で、従順と捉えられる言葉をしゃべらせたのか。(中略)これは開発者個人の問題ではなく、若い女性に「男性の助け」と「美しさ」を当然のごとく求める日本社会全体の価値観の問題なのだろう。

ジェンダーステレオタイプが刻み込まれ、ジェンダー不平等に対する危機感が根本的に欠けている。だからこそ、女性ロボットを「美人顔」で作ったとルッキズムを公言し、ロボットに「従順な」セリフを言わせることの問題に、AI開発の最先端を担う男性研究者が気付かない。

これが22年のグローバル・ジェンダーギャップ指数で146カ国中116位、先進国最低レベルの日本の現状なのである。【1月6日 此花わか氏 Newsweek】
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「美人顔」ロボットに“ジェンダー不平等に対する危機感が根本的に欠けている”と言われると、正直、普通の男性である私はとまどいます。エキセントリックな議論に違和感も。

ただ、“男女間賃金格差が世界各国に比べ大きい。OECD(経済協力開発機構)の2020年の調査によると、日本の男性賃金の中央値を100とした場合、女性は77.5にとどまる。男女差は22.5ポイントで、韓国(31.5ポイント)、イスラエル(22.7ポイント)に次いで大きい。管理職に占める女性割合の水準も低く、内閣官房の調査(21年時点)によるとアメリカの41.4%に対し日本は13.2%しかない。”【同上】という現実があるのも事実です。

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