孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ミャンマー  軍事政権下での治安悪化の様相  なぜ国軍兵士はこれどほに残虐になれるのか?

2023-01-26 23:32:57 | ミャンマー

(炎・黒煙は市民の軍への抵抗運動 【2021年4月12日 伊藤和子氏「市民を虐殺するミャンマー国軍。日本政府・企業は軍と国民、どちらに立つのか?」YAHOO!ニュース】

【国軍が警察を民主派への弾圧に使う構造になり、警察の治安維持機能は喪失】
軍事政権支配が続くミャンマーでは治安が悪化し、日本人の被害も報じられています。
現地日本大使館は、夜間だけでなく日中の時間帯でも安全に注意するよう呼びかけています。

****ミャンマー 日本人刺されけが 経済落ち込み治安悪化****
ミャンマーの最大都市ヤンゴンで14日、日本人男性1人が刃物のようなもので刺されてけがをしました。現地の日本大使館によりますと男性は、病院に搬送されて手当てを受け、命に別状はないということです。

ミャンマーにある日本大使館によりますと、ヤンゴンで現地時間の14日午後9時ごろ日本人男性2人が路上を歩いていたところ複数の男に襲われ、このうち1人が刃物のようなもので刺されて、病院に運ばれました。
男性は胸のあたりにけがをしたということですが、手当てを受け、命に別状はないということです。

ミャンマーでは軍によるクーデター以降、経済が落ち込み都市部では強盗が数多く起きるなど治安が悪化していることから、日本大使館では現地にいる日本人に対して、夜間だけでなく日中の時間帯でも安全に注意するよう呼びかけています。【1月16日 NHK】
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治安悪化の背景にあるとされる経済の悪化は、軍事政権の統治能力の不十分さを示すものでもありますが、治安悪化はそれだけでなく、軍事政権のより直接的な行為・姿勢の結果だとする見方もあります。

ひとつは、国軍の影響下にある警察は、強盗などの一般犯罪より、民主派弾圧を目的とする組織となってしまっているということ。

国軍が警察を支配下に置き、民主派への弾圧に警察を使う構造になり、警察の治安維持機能は失われてしまっているという指摘も。

ミャンマーでは路線バス強盗がしばしば起きており、犯人たちは突然バスに乗り込み、凶器をちらつかせて乗客から金品を奪うとのことですが、警察はこういう犯罪にほとんど対応していないとか。

あまりに出来過ぎた話なので実際の話ではないと思われますが、下記のような話がミャンマー国内SNSで拡散しています。

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強盗が乗っているバスの乗客の若い女性が、バスの窓から国軍に抗議する民主派の人々のサインである3本指を突き出し、近くにいた警官にアピールした。

普段は強盗には反応しない警察がこの「3本指」に反応してバスに乗り込み、バス強盗犯はそれを見て逃走、女性は助かった。
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“出来過ぎた”話ですが、出来過ぎにしても現地の実情を反映した話でしょう。

【国軍は恩赦で釈放された元犯罪者で民兵組織強化 恩赦で治安悪化】
治安悪化のもう一つの要因は、軍事政権が行っている「恩赦」 1月4日にも独立記念日似合わせて7千人ほどの恩赦が行われるとの発表がありました。

国軍は恩赦で釈放された人たちを手なずけ、国軍を支持する民兵組織」の増強を図っているとの指摘も。

民兵組織は、国軍が手を下したとわかると問題になるような、残忍な攻撃や略奪などを担うことでも知られています。

国軍が恩赦を使って元犯罪者を暗躍させ、市民の不安を煽っているという意図的行為なのかどうかは知りませんが、もし、元犯罪者による民兵組織強化ということが事実なら、恩赦そのものがほとんど軍事政権による犯罪的行為になります。

【軍事政権支配による経済・社会混乱によってケシ栽培増加】
軍事政権支配による経済・社会混乱の結果は、ケシ栽培増加という形でもあらわれています。

****ミャンマーでケシ栽培が大幅増、軍政移行が背景=国連報告****
国連薬物犯罪事務所(UNODC)が26日公表した報告書によると、軍政下のミャンマーで昨年、麻薬の原料となるケシの栽培が33%増加し、6年連続の減少から反転した。

UNODC当局者は、この増加は2021年2月にクーデターで軍政となって以降の政治・経済混乱と「直結している」と指摘。

地域担当者は「軍政移行以来、経済、治安、統治の途絶が重なり、紛争地帯を中心とするへき地の農民はケシ栽培に戻る以外ほとんど選択肢がなくなっている」と述べた。

UNODCのミャンマー担当者は、「選択肢がなく経済が安定しなければ、ケシの栽培は今後も拡大する公算が大きい」と述べた。

ケシ栽培は、中国、タイ、ラオスと国境を接する東部シャン州で最も増加した。【1月26日 ロイター】
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【民主派との戦闘で村を焼き払い、避難民増加】
一方、国軍は民主派との戦闘で村を焼き払っており、避難民が増加しているとの訴えが。

****ミャンマー、村焼き払い避難民増 民主派が訴え****
ミャンマー国軍によるクーデターから2月で2年となるのを前に、在日ミャンマー人や支援者らが21日、東京で記者会見した。

民主派が組織した国民防衛隊の一員として国軍と戦闘を続け、北部ザガイン地域の司令官を務める男性がオンラインで現地から出席し「村は焼き払われ国内避難民が苦しい生活を送っている」と訴えた。国軍の空爆に「市民が巻き込まれている」と批判。「対抗するための武器が足りず苦戦している」と明かした。
 
国内避難民は増加傾向でUNHCRによると昨年11月時点で140万人を超えた。支援団体「ミャンマーの平和を創る会」はクラウドファンディングで寄付を募っている。【1月21日 共同】
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【ミャンマー国軍兵士はなぜこれほどまでに市民に残虐になれるのか?】
ラカイン州でのイスラム系少数民族ロヒンギャに対する虐殺・レイプ・放火でもそうですが、ミャンマー国軍の暴力行為はしばしば指摘されるところです。

そのあたりの国軍兵士の残虐性などの実態について、国軍を脱走した元軍医が下記のように証言を。

****あるミャンマー脱走軍医の告白──酒と麻薬の力を借りて前線に赴く兵士とその残虐性****
<軍に洗脳され、アルコールと薬物に依存する兵士は、普通の精神状態ではできないような残虐行為にも手を染める。軍による兵士の搾取も横行している>

ミャンマー(ビルマ)で2021年2月1日に軍事クーデターが起きてから、間もなく2年。同国では、国軍と少数民族武装勢力、民主派の軍事部門である国民防衛隊(PDF)による内戦が続く。

市民に対する国軍の苛烈な弾圧が頻繁に報じられ、民間人を巻き込んだ空爆や村落への放火、女性や子供に対する銃撃など、国際人道法を無視した暴力が横行している。

なぜ国軍兵士は、これほどまでに無辜(むこ)の市民に残虐になれるのか。

クーデター後に国軍を脱走し、今はタイ領内のミャンマー国境付近で潜伏生活を送る元軍医(30代前半)に昨年12月、現地で取材。国軍内部で体系化されているという洗脳の手法や、兵士に対する搾取、国軍総司令官ミンアウンフラインの知られざる素顔を聞いた。(聞き手はジャーナリストの増保千尋)

◇ ◇ ◇
(中略)
――クーデター前にも国軍に失望したことはあったか?
軍では多くの人権侵害が横行していた。私が最も許せないのは、戦闘によって心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症した兵士に何の治療も施さないことだ。彼らは酒と麻薬の力を借りて、前線での任務を継続している。

この国では70年以上、内戦が続いていて、多くの兵士がPTSDを抱えている。だが、病院で治療を受けられるのは、精神に異常をきたしたと明らかに分かる人だけだ。

今は国中で戦闘や殺し合いが起きているから、PTSDになる人も増えている。私の見立てでは、脱走兵の5、6割がPTSDに苦しんでいると思う。

ほかの脱走兵に聞いたところによれば、精神的な不調を抱えながら前線に立つ兵士のほぼ全員が酒と麻薬を服用しているという。兵士たちは国境警察から麻薬を入手しているそうだ。酒と麻薬を摂取すれば恐怖心が薄れ、村を焼くといった、普通の精神状態なら決してできないような行為も抵抗なくやれるという。

――だから国軍兵士は、一般市民にも暴力を振るうことができるのか?
兵士たちが一般市民にあそこまで残虐になれるのは、軍内部で洗脳されているからだ。民主化運動を率いる国民民主連盟(NLD)が政権を取ればこの国は破滅に向かい、仏教が脅かされ、他国に支配されると、彼らは上官に長年言われ続けてきた。

兵士たちの多くはこの話を信じ、自分たちは祖国を守っていると思っている。実際には、全く正反対のことをしているというのに。

彼らは(戦闘から離脱した兵士、捕虜、武器を持たない一般市民の人道的な取り扱いを定めた)国際人道法について何も知らないし、兵士としての倫理観も持ち合わせていない。彼らはただ、上官に盲目的に従うように訓練されている。

戦場で彼らに善悪の判断がつくとは思えない。村に火を放ち、子供を殺しても、それは国軍兵士にとっては特別なことではないのだろう。
私が救出した脱走兵の中には、軍に在籍していた当時、なぜPDFや少数民族と戦わなければならないのか、理解していなかったという人もいた。彼らはただ、命令に従っていた。特にイデオロギーを持たない兵士も多い。

それに兵士の生活は非常に貧しく、厳しい。任務は過酷で、休みもない。追い詰められると、兵士たちは前線に行きたがる。そこで死に瀕しているときに、彼らは幸福すら感じると言っていた。もうこれ以上、過酷な任務に耐えなくてもいいからだ。

一方、国軍の中には悪賢い人たちもいる。軍が権力を握っている限り、自分たちは富を手に入れられると考えるたぐいの人たちだ。そういう欲深いやからは、自分の財産と地位のために、できる限り長くこの内戦が続いてほしいと願い、やはり軍の命令に従う。つまりミャンマー国軍は、愚か者と強欲な者で成り立っているということだ。

――そうした洗脳が有効なのは、兵士たちが社会から隔絶されているからか。
そのとおりだ。クーデターの前も後も、兵士たちの行動は厳しく制限されているし、簡単には除隊できない。兵士の家族も基地に住まわされ、抑圧される。下士官の妻は、上官の妻のメイド代わりにこき使われる。任務に就いているときは、家族を基地に置いていかなければならないから、人質代わりでもある。

さらに、兵士たちは自由にSNSを使えない。見ることのできないメディアがある一方、軍のプロパガンダ番組は強制的に視聴させられる。

――兵士を洗脳する方法が体系化されているということか。
非常に体系化されている。兵士たちは今、民主化運動に参加する市民こそ「売国奴」で「テロリスト」で、彼らを銃撃することは英雄的な行為だと教え込まれている。

07年に僧侶たちが反政府デモ(サフラン革命)を起こしたときも、同じような洗脳の手法が使われた。兵士たちは非常に若い頃から洗脳されている。彼らは、「劣悪なプログラムで動くロボット」みたいなものだ。

(中略)
――兵士はどんな出自の人が多い?
貧しい地方出身者で、ちゃんとした教育を受けていない人が多い。中には読み書きできない人もいる。クーデター後は人員不足から、国軍は犯罪者をリクルートしている。刑に服するか、軍に入隊するかを選ばせるのだ。100万から200万(約6万~12万円)の支度金と引き換えに、入隊する人もいる。これはほとんど人身取引だ。

――脱走する兵士は増えている?
増えている。除隊の許可を得るのは、不可能に近いからだ。腕や足を失っても、退役の年齢を過ぎても、何らかの仕事をさせられる。除隊できても、満足な年金をもらうこともできず、多くの退役兵が困窮する。
脱走する兵士が増えているせいで、国軍の兵力は急速に落ちている。(民主派が樹立した)国民統一政府(NUG)が脱走兵に対し、金銭的・法的支援や安全な場所を提供している。食料などを支給してくれる民間の団体もある。

だが、私たち兵士は軍で人質のような生活を送ってきたし、洗脳もされているから、脱走後の暮らしは大変だ。ここで軍の追っ手やタイ警察に見つかったら、ミャンマーへ連れ戻される懸念もある。

――ミンアウンフラインに会ったことはあるか?
3回ほどある。初めて彼を見たのは、軍医学校の卒業式のときだった。総司令官になる前から、彼の悪名は知られていた。

多くの将校が、陰で彼を「猫のふん」と呼んでいた。一見、人当たりはいいが、実は狡猾な彼の人柄にちなんで付けられたあだ名だ。猫のふんは柔らかいけど、非常に不愉快な臭いがするからだ。彼を初めて見たとき、あだ名どおりの印象を持った。

その後、配属された病院で2回ほど彼に会った。彼が来ると兵士たちは、「業者が仕事を探している」と冗談を言った。病院を訪れると彼はいつも、物資発注や、老朽化した建物の修復、新しいビルの建設をするように指令を出したが、こうした仕事は全て彼の親族が所有する企業が受注したからだ。

彼はさまざまな方法で私腹を肥やしていた。兵士は(共に国軍系の巨大複合企業である)ミャンマー・エコノミック・ホールディングス(MEHL)とミャンマー・エコノミック・コーポレーション(MEC)の株を無理やり買わされる(両者ともミンアウンフラインを含む国軍幹部が経営に大きな権限を持ち、その利益は軍事作戦などの資金源になっている)。

また、彼が関与する生命保険会社にも強制的に加入させられる。死亡後に家族が給付金を受け取ることは非常に難しいが、誰もそれに文句を言えない。彼が設立した私立病院で、国軍に所属する医療従事者を無償で働かせていたこともある。彼の悪行をあなたに全て伝えたら、本が1冊出版できるだろう。

――ミャンマー国軍と日本の政財界には深いつながりがある。それを実感したことはあるか?
ミャンマー国軍は旧日本軍を手本につくられたと聞いているが、現在の編成などは英軍のそれに近い。国軍は日本の政治家と深くつながっていると思う。

例えば軍事クーデター後も、日本の防衛省は国軍兵士を招聘し、軍事訓練を行っていた(昨年9月に停止を発表)。安倍晋三元首相も、国軍とよい関係を築いていたと聞いている。

私の目からは、日本はミャンマーの状況を傍観しているように見える。おそらく日本政府は、NUGと国軍のどちらが政権を握るかにこだわりはなく、ただミャンマーと外交的、経済的な関係を保持したいのだろう。

その事情は理解できるが、日本には軍事政権にもっと強く圧力をかけてほしい。ロシアや中国とは違い、日本政府は私たちを支援してくれるはずだと、今も多くのミャンマー市民が信じている。

――ミャンマーの未来に何を望む?
私たちが国軍と戦う意思を貫ければ、自分たちにふさわしい政府を手に入れられるだろうし、そうでなければ、これからも軍事政権が続くのだろう。2年間戦い続けて簡単には勝利できないと悟った。これからも多くの戦いが必要だろう。

だが、私たちは優勢に立ちつつある。たとえ負けるのだとしても、私は歴史における「正しい側」でありたい。いつかきっと私たちが勝利し、民主的な政府を樹立できると信じている。【1月26日 Newsweek】
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国軍を脱走してほかの脱走兵の手助けをしている人物の証言ですから、一方に偏っている可能性はあります。

“酒と麻薬”(アフリカなどの武装勢力でも聞く話です)や“洗脳”(どこでもやっている話でしょう)より印象的だったのは、“兵士の家族も基地に住まわされ、抑圧される。下士官の妻は、上官の妻のメイド代わりにこき使われる。任務に就いているときは、家族を基地に置いていかなければならないから、人質代わりでもある。”ということ。

国軍に好意的な解釈をすれば、兵士だけでなく、その家族の面倒をみている・・・ということになるのかも。

“メイド代わり”“人質代わり”なのか、“家族まで面倒をみている”のか・・・どっちが真実に近いのか?

ミャンマー国軍兵士の精神構造については下記のような指摘も。

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「イラワジ」は報道の中で「ヒエラルキーの末端、下部にいる兵士個人は、軍隊内で奴隷のように虐待を受けている」として軍少佐の「兵士は何らかの理由で自分より高い階級の人を常に恐れている」という言葉を引用し、軍隊内部における下級兵士の精神状態を説明している。

そして「軍の内部で残忍に扱われた兵士がそれを自分たちより弱い立場の民間人に向けることはなんら不思議ではない」としている。つまり「恐怖の論理」が残虐行為へと向かわせるというミャンマー軍独特の性質に原因が求められるというのだ。【2022年7月21日 大塚智彦 現代】
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