孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

スリランカ  大統領与党地滑り的勝利 ただ、IMFと国民期待の板挟み状況と言う難題は変わらず

2024-11-16 23:09:05 | 南アジア(インド)

(就任後に仏僧たちの祝福を受けるディサナヤカ大統領(9月23日、コロンボ)【9月23日 BBC】)

【大統領を国外脱出に追いやった2022年の経済危機】
インド洋の島国スリランカで経済危機が深刻化して、大規模なデモが起きる中、当時の大統領ラジャパクサ氏が国外に脱出するという政変が起きたのが2022年7月のことでした。

****スリランカで経済危機 なぜ大統領が国外脱出?いったい何が?****
(中略)
いま何が起きているの?
スリランカでは経済危機が深刻化し、ことし(2022年)3月以降、政権の退陣を求めるデモが繰り返し起きていました。

そして、7月9日には大規模な抗議デモが広がり、最大都市コロンボではデモ隊の一部がゴタバヤ・ラジャパクサ大統領の公邸を占拠する事態に発展。公邸に入った人たちがプールで泳いだり、ジムでトレーニングをしたり、ベッドに寝転がったりする様子が世界中に配信され、衝撃を与えました。

事前に公邸を出ていた大統領は13日未明に軍用機で家族とともにモルディブに脱出。その後、シンガポールに向かい、議長に辞表を提出していましたが、15日、記者会見した議長は辞表を正式に受理したと発表しました。

なぜ経済危機が起きたの?
スリランカはインフラ整備を進めるため借金を繰り返し、対外債務の残高は2021年末の時点で507億ドル(日本円でおよそ7兆円)に膨らんでいます。新型コロナウイルスの影響による観光客の激減なども重なり、深刻な外貨不足に陥りました。

また、ロシアによるウクライナ侵攻で原油価格が高騰する中、外貨不足で輸入が滞り、ガソリンなどの燃料費も高騰。食品や医薬品などの生活必需品の輸入も滞るようになっています。

こうした経済危機の根本的な原因は財政運営や農業政策の失敗、それに汚職にあるとしてラジャパクサ政権に対する不満が高まっていました。

ラジャパクサ政権、何が問題だったの?
国民の間ではラジャパクサ一族が権力を独占しているという批判が出ていました。

ゴタバヤ・ラジャパクサ氏は2019年の選挙で勝利し大統領に就任しましたが、2015年まで2期10年にわたって大統領を務めた兄のマヒンダ・ラジャパクサ氏の元で国防次官を務めていました。兄弟で合わせて10年以上大統領として実権を握り、首相や財務相に親族をあてるなど一族支配を強めてきました。

また、ラジャパクサ政権は兄弟ともに中国に近いとされ、中国企業などによる大規模な開発事業で国の借金を増やす一方、私腹を肥やしてきたという批判にもさらされています。

2017年には中国からの融資を受けて南部ハンバントタに建設した港の運営権がローンの返済が滞ったことを理由に99年間にわたって中国側に譲渡され、いわゆる「債務のわな」の典型例といわれています。(後略) 【2022年7月14日 NHK】
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【IMF支援もあって、ウィクラマシンハ前大統領のもとで一定に危機は緩和したものの、市民生活の苦しさは続く】
この政治・経済混乱を一定に(あくまでも“一定に”ですが)鎮め、再建への道筋をつけていたのがウィクラマシンハ前大統領。

IMFからの支援を受けて、債権国との債務整理を行い、外貨不足も緩和、物価上昇などの経済状況もひと頃に比べたら落ち着きをみせてきていました。

しかし、物価上昇が落ち着いてきたはいっても、一般国民にとっては依然高い水準で、生活困窮は続いていましたが、IMFとの合意で財政再建が優先し、市民生活支援は後回しにされた感も。

こうした2022年の混乱がまだ尾を引き、市民生活が困窮するなかで行われたのが今年9月の大統領選挙でした。

****三つどもえのスリランカ大統領選 財政破綻で前政権崩壊から初の選挙****
スリランカで(9月)21日、大統領選(任期5年)が実施される。2年前に国家財政が破綻して前政権が崩壊してから初の直接選挙で、ウィクラマシンハ大統領の経済再建策に対する評価が争点となっている。

スリランカ国内の経済状況や大統領選の注目ポイントについて、日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア経済研究所の荒井悦代・南アジア研究グループ長に聞いた。

 ――スリランカは2022年4月、対外債務不履行(デフォルト)を表明しました。経済危機以降、政治・経済状況はどう変化しましたか。
 ◆2年前、深刻な経済危機によって当時のラジャパクサ大統領が国外逃亡し、議会で選ばれたウィクラマシンハ氏が残りの任期を引き継ぐ形となりました。誰も引き受けたがらない大統領職に就き、国際通貨基金(IMF)からの支援を取り付け、緊縮財政路線を進めるなどしました。

 その結果、極度に減少した外貨準備高が回復するなど、さまざまな経済指標で改善がみられ、うまく経済を立て直しているように見えます。

 ――現政権に対する国民の評価はどうですか。
 ◆国民の人気は高いとは言えません。2年前よりインフレ(物価上昇)の状況が改善したとはいえ、燃料費やガス、水道代などは依然として高いままで、国民は不満を募らせています。

 ウィクラマシンハ氏自身、首相を6回務めた昔ながらのエリート政治家であり「民衆の気持ちを分かっていない」との声が上がっています。これまで、与党であるラジャパクサ一族の政党と連携してきたこともあり、国民は従来の古い政治体質に嫌気がさしているとの見方もあります。

 ――大統領選の争点は。
 ◆政権が進める緊縮財政路線に対する評価や今後の経済運営の進め方が焦点になるとみられます。
 経済に関する論点の一つは、外貨をどう獲得していくかです。お茶や衣料品は有名ですが、1970年代後半の経済自由化以降、大きなインパクトのある輸出産業が成長しないまま現在に至っています。

 確固たる産業がない中、スリランカ政府は無計画で債務に依存し、新型コロナウイルスによる打撃や経済失策なども絡んで22年の経済危機に結びついたと指摘されています。

 今回の大統領選では、数十年続いてきたスリランカの経済の弱点を克服できる可能性のある候補を選ぶという意味でも注目されています。

 もう一つは、長年引きずってきた汚職問題があります。スリランカでは「国の屋台骨を揺るがす」と言われるほど汚職が深刻で、問題の解決が強く望まれています。(中略)

 ――選挙の結果は外交にどう影響しますか。
 ◆インド洋のシーレーン(海上交通路)の要衝に位置するスリランカを巡って、これまでにインドと中国が影響力を争ってきました。
 南アジアでは政権次第で「親中」「親印」の見方をされますが、財政再建の途上にあるスリランカは双方の国々と協調していく必要があり、外交政策がどちらかに大きく傾くことはないと考えます。【9月20日 毎日】
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結果、緊縮財政路線や汚職のまん延を批判、クリーンなイメージを打ち出して支持を広げた左派野党・人民解放戦線(JVP)のディサナヤカ党首が勝利しました。現職ウィクラマシンハ前大統領は大きく離され3位で落選。

JVP(人民解放戦線)は、1970年代と80年代に二つの不成功だったが血生臭い蜂起を主導した革命的なマルクス・レーニン主義の政党で、その党首であるディサナヤカ大統領の紹介にはマルクス主義者だったという記述がなされますが、JVPは階級闘争と私有財産拒否を否認して、その起源にあるマルクス主義を希薄化していますし、ディサナヤカ大統領自身も「革命運動」とは距離を置いています。

【議会に3議席しか持たない左派・一匹狼のディサナヤカ氏が国民不満の受け皿となって大統領選挙勝利】
ディサナヤカ大統領の問題は、そうしたマルクス主義者の経歴ではなくて、JVPが議会に3議席しか占めていないという絶対的少数与党政権にあること、そして現実的な政策遂行能力があるのかという点だとも指摘されていました。

****スリランカ新大統領は異色な左派の一匹狼****
<マルクス主義者の過去は捨て去ったが、行く手には3つの障害が立ちはだかる>
9月21日のスリランカ大統領選で左派のアヌラ・クマラ・ディサナヤカが勝利したことは、政治の刷新を願う国民に大きな希望をもたらした。

ディサナヤカは「王朝政治」的な腐敗からの脱却を公約し、有力な政治家一族のいずれとも関係がない。2022年、当時のゴタバヤ・ラジャパクサ大統領は深刻な経済危機から国民の激しい抗議デモに遭い、国外脱出後に辞任したが、ディサナヤカはこの反政府行動にも参加している。

腐敗一掃を目指す上で、新大統領は国民の支持を頼りにできる。だが、行く手には3つの勢力が立ちはだかる。野党勢力、経済界、少数民族だ。

ディサナヤカは実は複雑な人物だ。メディアではマルクス主義者と呼ばれ、彼が率いる人民解放戦線(JVP)は1970〜80年代に反政府暴動を起こしている。

だが、ディサナヤカは革命家ではない。既にその過去を捨て去り、かつてJVPが異を唱えた体制内に身を置いている。現在55歳の彼は20年以上にわたって国会議員であり、短期間だが閣僚も務めた。

国会での議席は3議席
それでも、ディサナヤカはこの国の政治家としては異色だ。(中略)
この中で反汚職を掲げれば、ディサナヤカは必然的に一匹狼になる。しかもJVPは国会で3議席しか占めていない。

国会で過半数の議席を握るのは(国外脱出した元大統領の)ラジャパクサ一族が率いる政党で、225議席中145議席を占める。ほかに(選挙で2位になった)プレマダーサの野党が54議席を押さえている。

過去に超党派の妥協に応じたことがないディサナヤカは、法案審議で野党から支持されない恐れがある。9月24日、彼は議会を解散し、11月に総選挙を実施すると発表。選挙後に与党の影響力は強まるかもしれないが、それでも野党の妨害はなくならないだろう。

ディサナヤカは、マルクス主義者の過去に神経をとがらせる経済界との関係を築くのも難しいかもしれない。経済政策に関する現在の立場も近年の大統領とは違っていることを、経済界は懸念する。

経済界がもう1つ心配するのは、IMFの支援条件を再交渉するというディサナヤカの公約だ。目的は貧困層の負担を軽くすることだが、国にとって重要な国際機関との間で緊張が高まる恐れがある。

新大統領は少数民族、特に最大の集団であるタミル人の支持も必要としている。しかし長年の内戦の中で、JVPが政府による残虐なタミル人弾圧を無条件で支持したことを多くの人は忘れていない。

彼にとってベストの選択肢は最もシンプルなものでもある。否定的な見方をする相手と向き合うことだ。

就任演説では結束を呼びかけた。党派の垣根を越えれば、法案通過の可能性は高まる。経済界や外国人投資家の懸念に耳を傾けるのもいいだろう。少数民族の代表と頻繁に接触すれば、安心感はさらに増す。

対立する勢力との交渉は、ディサナヤカ自身の利益になるばかりではない。経済の足元が不安定ななか、結束への努力は国益にかなうだろう。【9月30日 Newsweek】
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【大統領選挙勝利の勢いで、議会選挙も地滑り的圧勝 議会に支持基盤は得たものの、IMFと国民期待の板挟みという難題は変わらず】
この9月~10月の大統領選挙後の予測では、“彼は議会を解散し、11月に総選挙を実施すると発表。選挙後に与党の影響力は強まるかもしれないが、それでも野党の妨害はなくならないだろう。”【前出 Newsweek】 “JVPを含む彼の左派グループは議会の225議席のうち3議席を持つに過ぎない。彼は議会を解散し、11月に選挙が予定されているが、過半数を勝ち取るとは思われない。”【後出 WEDGE】と、議会における支持基盤の弱さは議会選挙でも解消去れず、今後のハードルとなると指摘されていました。

しかし、11月14日の議会選の結果はそうした予測を超越し、与党JVPは僅か3議席から3分の2を越える159議席へと、地滑り的勝利を収めました。

****スリランカ議会選、与党が159議席獲得し圧勝 大勢判明****
インド洋の島国スリランカで14日に議会選(1院制、225議席)があり、15日に大勢が判明した。ディサナヤカ大統領が率いる左派連合・人民の力(NPP)が、議会の3分の2以上となる159議席を獲得して圧勝した。ロイター通信などが伝えた。

ディサナヤカ氏は9月の大統領選で初当選したものの、NPPは議会で3議席にとどまっていた。与党の勢力急拡大により、政権は目標とする貧困対策や汚職撲滅を推進する構えだ。

スリランカでは、新型コロナウイルス禍の影響で観光業が低迷したことなどから経済危機が深刻化し、2022年4月には対外債務のデフォルト(債務不履行)状態に陥った。経済失政を非難する反政府デモが盛り上がり、当時のラジャパクサ大統領は22年7月に国外逃亡して辞任した。

後継となったウィクラマシンハ前大統領は、国際通貨基金(IMF)の支援を受けるため、電気料金値上げなどの緊縮政策を進めた。ディサナヤカ氏は貧しい国民に過剰な負担を強いているとして見直しを主張し、初当選を果たした。【11月15日 毎日】
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これで議会における支持基盤は獲得しましたが、ディサナヤカ大統領が直面する課題は、以前から指摘されているところと変わりません。

****〈スリランカで起きた番狂わせ〉経済困窮立て直しで転換図るも、新大統領が心配な理由****
Economist誌9月28日号の社説が、9月23日にスリランカの大統領に就任したディサナヤケのマルクス主義のルーツは重大視する必要はないが、問題は、庶民の経済困難救済に必要とされる国際通貨基金(IMF)との支援合意の見直しなど、公約を実現する彼の能力にある、と指摘している。要旨は次の通り。(中略)

今年の選挙戦で、ディサナヤケは、宥和的な態度を示し、国の結束を強調し、市場経済に対する支持を表明した。22年に当時の大統領ゴタバヤ・ラジャパクサが大衆の抗議運動で追放されて以来、JVPを中核とする連合は、経済危機とその解決を目指す緊縮政策によって生活水準を破壊された中産階級の広い支持を獲得した。

ディサナヤケを心配する主たる理由は、彼が(マルクス主義)狂信者だからではなく、彼には政府の経験がほとんどない点である。彼はどうにかして彼を選んだ人々の不興を買うことなく経済を安定的に維持するための痛みを伴う改革を継続しなければならない。それはほとんど不可能な任務である。

ラジャパクサの腐敗し常軌を逸した政権の下で経済は崩壊した。スリランカは22年4月に債務不履行に陥った。3カ月後、大衆がラジャパクサの官邸を襲い、彼は国外に逃亡した。

後継のウィクラマシンハはインフレを抑え込み、通貨を安定させ、IMFおよびインドと中国を含む債権国との間で債務再編の合意を達成した。しかし、彼は一般市民の経済の苦痛を癒すことに失敗し、汚職を抑制し反体制派の権利を守ることはほとんど何もしなかった。

ディサナヤケは腐敗の根絶とIMFとの合意の再交渉を約束して選挙戦を戦った。しかし、IMFとの合意を違えれば、スリランカは経済危機に再び転落しかねない。

従って、彼は合意を守る可能性の方が大きい。しかし、それでは彼は約束通り税を下げ福祉支出を増やす余地はほとんどないことになろう。債務返済の額は来年の予算の半分を食うと予想され、経済成長を促進するためのディサナヤケのアイディアははっきりしないままである。

経済的苦痛を緩和することに失敗すれば、ディサナヤケの支持者を怒らせる。(後略)【10月14日 WEDGE】
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“彼はIMFとの30億ドルの支援合意を維持するとしつつも、2年にわたる緊縮財政による一般市民の経済的苦境を救済すべく、IMF合意にある条件の緩和を望んでいる。或る程度の手直しは出来るのかも知れないが、彼の支持者が満足出来るかどうか、要はIMFにどこまで譲る用意があるかであろう。”【前出 WEDGE】

IMF支援で経済危機をなんとか持ちこたえたものの、IMFの要求する財政再建と国民が求める生活苦の緩和が両立せず、政権が苦境に立つ・・・というのは、これまでも各国でありました。

これまで政界の一匹狼だったスリランカ・ディサナヤケ大統領がどのような手腕を発揮するのか・・・・。
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