(マリの首都バマコで開かれた親軍事政権・親ロシア集会で、ロシア国旗を振る軍事政権支持者(2024年5月13日撮影)【8月6日 AFP】)
【フランス・アメリカを排除してロシアに接近する西アフリカ軍事政権】
旧フランス領西アフリカのマリ、ブルキナファソ、ニジェールではイスラム過激派の勢力が拡大、治安の悪化から軍事クーデターが起き、過激派に有効に対処できない駐留フランス軍への不満が強まり、軍事政権はロシアに接近、フランス軍は撤退、米軍も撤退・・・という似たような経過をたどっています。
****アフリカ・サヘルの政情不安****
アフリカ大陸の北部サハラ砂漠の南で、半乾燥地域のことをサヘルというが、そこにはセネガル、モーリタニア、マリ、ブルキナファソ、ニジェール、ナイジェリア、チャド、スーダン、南スーダン、エリトリアという国々がある。(中略)
今、このサヘルで旧宗主国のフランスやアメリカに代わって、ロシアがプレゼンスを高めている。
この地域では、国際テロ組織のアルカイダや過激派組織「イスラム国(IS)」などが活動しており、新型コロナウイルス流行で職を失った若者をリクルートして、勢力を拡大してきた。
そのために治安が悪化し、国民の不満が高まったが、民主派政権は過激派テロ組織の鎮圧に失敗し、統治能力の欠如を示した。そこで、軍部がクーデターを起こしたのである。
マリでは2020年8月に軍部が反乱し、民主的に選ばれたケイタ大統領を追放し、ゴイタ大佐が2021年5月に大統領に就任した。
ブルキナファソでは、2022年1月に軍事クーデターでカボレ大統領が失脚した。
ニジェールでは、2023年7月、軍部がクーデターを起こした。首謀者のアブドゥハーマン・チアニ大統領警護隊長は、親欧米派のモハメド・バズム大統領を追放し、憲法を停止し、自ら国のトップに就任した。
これらの軍事クーデターの背後には、ワグネルを軍事政権の傭兵として活動させるロシアの存在がある。ニジェールはウランの有数な産出国であり、EUのウラン輸入の約24%を占める最大の供給国である。また、マリもブルキナファッソも金を産出するなど、資源に恵まれている。ロシアは、その資源も自由に入手する。
これらの国々では、旧宗主国のフランスへの反感が強く、駐留フランス軍の安全が確保できなくなった。そこで、マクロン大統領は、ニジェールから約1500人の仏軍を昨年12月に撤退させた。今年の4月には、約1000人の米軍も全てニジェールから撤退した。米仏に代わってロシアが居座っているのである。(後略)【8月14日 舛添要一氏“「ゼレンスキーは《最悪の選択》をした」 ロシア越境攻撃を仕掛けたウクライナが、「アメリカ・フランスに見放される」運命にある理由” 現代ビジネス】
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この地域では上記記事にあるように、反乱を起こしたプリゴジン氏が創設したロシアの民間軍事会社ワグネルが活動しています。
“昨年、創設者のエフゲニー・プリゴジンがウラジーミル・プーチンに対する反乱の末、飛行機事故で亡くなった後、ロシア政府は新たな準軍事組織「アフリカ軍団」を立ち上げて、ワグネルの部隊を管理下におき、その事業を引き継いでいる。”【7月31日 Newsweek】
【対ロシアの一環としてウクライナがマリ反政府勢力に情報提供 マリはウクライナと断交】
そのワグネルの部隊が7月、マリで少数民族トゥアレグ反乱軍による待ち伏せ攻撃を受け、兵士数十人が死亡しました。
****ワグネル戦闘員84人殺害か マリの反政府武装勢力****
西アフリカ・マリ北部で活動する遊牧民トゥアレグの反政府武装勢力は1日、7月下旬にロシアの民間軍事会社ワグネルの戦闘員らと交戦し、少なくとも84人を殺害したと主張した。ロイター通信が報じた。ワグネルがマリに進出したここ数年で最大の被害とみられる。
マリと隣国のニジェール、ブルキナファソでは近年クーデターが相次いだ。各国の軍事政権は、テロ対策で駐留していた米国やフランスの軍部隊を撤収に追い込みロシアに接近している。
ロイターによると、戦闘は数日間続いた。反政府勢力はマリ軍の兵士47人も死亡し、兵士やワグネル戦闘員の一部を捕虜にしたとしている。【8月2日 共同】
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“アメリカのシンクタンク戦争研究所(ISW)は29日、ロシア国防省はマリでのワグネル部隊の敗北を利用して、ワグネルの傭兵部隊をアフリカ軍団の他の部隊に置き換えていく可能性があると述べた。アフリカ軍団は去年12月の時点で、指揮官を含む構成員のうち、およそ半分がワグネルの元メンバーであることを公表している。”【7月31日 Newsweek】
ロシアのワグネル及びマリ政府軍に損害を与えた少数民族トゥアレグ反乱軍に、ロシアに敵対するウクライナが情報を提供していたということで、国内情勢に加えて、ロシア・ウクライナの対立も反映した状況になっています。
当然ながらマリはウクライナに反発し、断交に至っています。
****西アフリカのマリ、ウクライナと断交 反政府勢力支援関与の疑い****
西アフリカのマリ政府は4日、北部の遊牧民トゥアレグの反政府武装勢力を支援したとして、ウクライナとの外交関係を直ちに打ち切ると発表した。
ウクライナ国防省情報総局(GUR)のユソフ報道官は7月29日、マリ軍兵士とロシア民間軍事会社ワグネルの戦闘員が死亡した北部での戦闘について、マリの反政府勢力がマリ軍やワグネルに対する攻撃を成功させるのに「必要な」情報を受け取っていたと発言した。
トゥアレグの反政府勢力は、数日にわたる激しい北部での戦闘で少なくともワグネル戦闘員84人とマリ人兵士47人を殺害したとしている。ワグネルにとって2年前にマリに進出して以降最大の敗北とみられる。
マリ政府は、ユソフ氏が「マリ国防・治安部隊の隊員を死亡させた武装テロリスト集団による卑怯で危険かつ野蛮な攻撃へのウクライナの関与を認めた」と指摘。「ウクライナ当局の行動はマリの主権を侵害している」と主張した。【8月5日 ロイター】
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マリに同調するニジェールもウクライナと断交を発表しています。
【スウェーデン閣僚「ロシア支持のくせに我々の援助を受け取るな」】
マリ軍事政権と北欧スウェーデンのバトルも。
****スウェーデン大使を追放 マリ、ロ接近批判に反発****
西アフリカ・マリの軍事政権は9日、ロシアに接近するマリをスウェーデンの閣僚が批判したことに反発し、マリ駐在のスウェーデン大使を追放すると発表した。ロイター通信が報じた。
マリは4日、ロシアが侵攻を続けるウクライナとの断交を表明。スウェーデンのフォシェル国際開発協力・貿易相は7日「侵攻を支持しながら、スウェーデンから開発援助を受け取ることはできない」と訴えていた。
近年クーデターが相次いだマリやニジェール、ブルキナファソの軍政は、テロ対策で駐留していた米国やフランスの部隊を撤収に追い込み、欧米離れを鮮明にしている。【8月10日 共同】
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なぜ北欧スウェーデンがこのように西アフリカ・マリを露骨に批判したのか・・・背景には、スウェーデン国内の反イスラム的な世論があるとの指摘が。
****スウェーデン自身のイスラーム嫌悪****
最後に、現在のスウェーデン政府では極右系の発言力が強く、あえて"反イスラーム的"をアピールしやすい(マリ人口の93% はムスリム)ことだ。
スウェーデンでは2022年9月の総選挙により、民主党を中心とする連立政権が発足した。民主党は「スウェーデン人のためのスウェーデン」を標榜する右派政党で、移民制限などを主張している。
その結果、スウェーデンでは2023年、イスラームの聖典コーランを抗議活動のデモンストレーションとして焼却することが合法と認められた。この方針は当然のようにムスリム系市民やイスラーム各国の強い反発を招き、警察が"治安を脅かす"と反対するなかで決定された。
そこでは民主党の支持基盤へのアピール効果が優先されたといえる。【8月14日 六辻彰二氏 Newsweek】
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一方、ウクライナはクレバ外相が8月上旬にアフリカのマラウイ、ザンビア、モーリシャスを訪問し、対ロシアのウクライナへの支持拡大を図っています。
****ウクライナ外相がアフリカ3カ国歴訪、対ロシアで支持取り付けへ****
ウクライナのクレバ外相は、ロシアとの戦争におけるウクライナへの支持を集めるため、今週アフリカ3カ国を歴訪する。外務省が4日明らかにした。
ここ2年間で4回目のアフリカ外遊で、4─8日にマラウイ、ザンビア、モーリシャスを訪問する。
6月にスイスで開かれた「ウクライナ平和サミット」にはアフリカ諸国が多数出席したものの、孤立させようとする西側諸国の取り組みに加わることには消極的な姿勢を示した。ロシアはアフリカ諸国にとってエネルギーや食料などの重要な調達先だ。
外務省によると、クレバ氏は今回の訪問中、ウクライナ産の穀物をアフリカ地域へ供給すること、ウクライナ再建へのアフリカ企業参加についても話し合う。【8月5日 ロイター】
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【悪化する状況の中で、過酷な暴力にさらされる住民】
西アフリカにロシア・ウクライナの対立が持ち込まれ、更にアフリカを舞台にロシア・ウクライナの外交合戦が展開されるという状況ですが、西アフリカにおける悲惨な状況は改善しておらず、その暴力の犠牲となるのは結局地域住民です。
****武装勢力襲撃で百人死亡 アルカイダ系、ブルキナファソ****
軍事政権下の西アフリカ・ブルキナファソ中部の集落で先週末、国際テロ組織アルカイダ系の武装勢力による襲撃があり、住民ら少なくとも100人が死亡した。AP通信が26日報じた。
ブルキナファソでは、アルカイダや過激派組織「イスラム国」(IS)に忠誠を誓う勢力の活動が活発で、対応が課題となっている。
APによると、軍政は全土の半分程度しか掌握できておらず、軍が集落を守るために住民と塹壕を掘っていた際、武装勢力から攻撃を受けたという。武装勢力は攻撃を認め、集落周辺を制圧したと主張している。【8月27日 共同】
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****「ウクライナやガザと同じことが…マリの実態知って、虐殺止めて」現地ジャーナリストが国際社会にSOS****
軍事政権下にある西アフリカのマリで、十数万人の少数民族らが隣国モーリタニアに逃れ、過酷な難民生活を送っている。背景にはロシアの民間軍事会社「ワグネル」の進出に伴う紛争激化がある。長年、現地の少数民族トゥアレグを取材してきたジャーナリスト、デコート豊崎アリサさん(53)に現状を聞いた。(太田理英子)
◆国際機関の支援なし、気温50度近い砂漠で
フランス人と日本人の両親を持つデコートさんは、1997年に初めてアフリカ大陸北部のサハラ砂漠を訪れて以来、砂漠を拠点にするトゥアレグのキャラバンのドキュメンタリー撮影や取材活動をしてきた。「今、民族浄化の危機が迫っている」と訴える。
今年7月には国境近くに点在する難民キャンプを取材。木の棒と布で作ったテントの下に人々は身を寄せていた。昨年10月以降、北部から約12万人が逃げてきたといい、多くはトゥアレグを中心とした少数民族。8割は女性と子どもだ。
国境なき医師団を除き、国際機関の支援は見られない。砂漠地帯で気温は50度近い。「衛生環境が悪く感染病も広がっている」
◆ワグネルの進出で事態がさらに悪化
トゥアレグは、マリやニジェールをまたぐサハラ砂漠の遊牧民だったが、1950~60年代にマリや周辺国が独立。マリでは政府の弾圧に対し、トゥアレグの組織が自治を求め反乱を繰り返した。2012年に独立を宣言したが、混乱に乗じてイスラム過激派組織も勢力を広げ、紛争の様相は複雑化した。
事態がさらに悪化したのは、2021年の軍事政権樹立。駐留仏軍が撤退し、代わってマリ政府に接近したのがロシアだった。ワグネルが進出し、軍事支援や情報工作を展開。2023年にはマリ軍とワグネルが「反テロ対策」としてトゥアレグの組織の拠点地域に侵攻。交戦が続き、トゥアレグや別の少数民族プルの人々も隣国に逃れたという。
◆ロシアがアフリカに近づく狙いは
ワグネルは2017年ごろからアフリカ諸国で現地政府への軍事協力、選挙介入や鉱物採掘などの活動を展開したが、2023年に実質解体された。ロシアの準軍事組織「アフリカ部隊」などに吸収され、従来の活動はロシア政府主導で強化。現在マリ軍と活動しているのもアフリカ部隊とみられる。
ロシアがウクライナ侵攻で欧米と対立する中、アフリカに近づく狙いは何か。
日本エネルギー経済研究所中東研究センターの小林周主任研究員は「ワグネルが築いた現地政府との関係や開発利権を生かして収益源にすると同時に、国連や欧米の影響力、存在感を低下させている」とみる。
◆かつてないほど残酷な虐殺が
政府軍とアフリカ部隊による攻撃に加え、過激派組織のテロなど、住民への脅威は増大している。
デコートさんは「かつてないほど残酷な手段で虐殺が起きている」と話す。キャンプにいた50代女性は、親族が切り刻まれたほか、生きた状態で井戸に投げ込まれた人もいたと証言。「マリ軍などは国境付近に集中し、逃げることさえ危険」と語ったという。
現地に入る報道機関はなく、デコートさんは国際社会に現状が伝わらないことに危機感を募らせる。「ウクライナやパレスチナ自治区ガザと同じことが起きている。マリの実態を知ってもらい、無差別な虐殺を許さない世論を広げたい」【8月25日 東京】
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少数民族の独立運動、イスラム過激派の活発化、軍事クーデター、ロシアの介入、更にウクライナも関与・・・しかし。国際社会からの支援は少なく、悪化する状況の中で住民が犠牲に・・・。