(ドキュメンタリー映画「プレジデント」より)
現在、南アフリカ・ジンバブエ方面を旅行中です。
15日・16日は、世界三大瀑布として知られるヴィクトリアの滝観光やチョベ国立公園(公園自体はボツワナに位置しています)でのサファリ観光のためジンバブエに滞在しています。
ジンバブエについては、故ムガベ前大統領時代の天文学的数字のハイパーインフレーションや強権支配による政治混乱について、たびたびこのブログでも取り上げてきました。
「ムガベは初めは黒人と白人の融和政策を進め、国際的にも歓迎されてきたが、2000年8月から4,500人の白人が所有する4,000箇所以上の大農場の強制収用を政策化し、協同農場で働く黒人農民に再分配する「ファスト・トラック」が開始された。 」【ウィキペディア】
こうした黒人優先政策が経済崩壊・ハイパーインフレーションを招く一方で、一定の国民からは歓迎もされました。
ムガベ前大統領の後継者をめぐる混乱のなかで、軍部を背景に権力を掌握したのがナンガグワ大統領ですが、ムガベ前大統領同様に、その政治は「民主的」とは言い難いものがあります。
下記はムナンガグワ氏が再選を果たした8月の選挙をめぐる記事です。
*****ジンバブエ大統領選、現職が再選 野党陣営受け入れ拒否****
アフリカ南部ジンバブエで大統領選挙が行われ、選挙管理当局は(8月)26日、現職ムナンガグワ大統領が勝利したと発表した。一方、主要対立候補だった野党指導者チャミサ氏の陣営は結果受け入れを拒否している。
選挙管理当局の発表によると、得票率はムナンガグワ氏が52.6%で、チャミサ氏が44%だった。
チャミサ氏は27日、結果を受け入れないと表明。新政権を樹立すると述べたが、詳細は明らかにしなかった。
一方、ムナンガグワ氏は「勝利をうれしく思う」と述べ、「選挙戦が適切に行われなかったと感じる者はどこに行けばいいのかを知るべきだ」と述べた。
大統領の任期は2期までと憲法で定められている。
ジンバブエでは37年間政権を握っていた故ムガベ前大統領が2017年に軍のクーデターで失脚。ムナンガグワ氏が権力を掌握したが、1期目はインフレ高進や外貨不足などで経済が大きく混乱した。【8月28日 ロイター】
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1期目の2018年大統領選挙については、ドキュメンタイリー映画「プレジデント」に、その薄れゆく民主主義の様が描かれています。
****薄れゆく「民意の反映」 ジンバブエの混乱から見る「選挙」****
選挙で多数の有権者に「任せる」と判断されたからこそ、かじ取りの資格が生じる。
当たり前のようだが、世界の現実はどうだろう。結構あやしい。アフリカ南部のジンバブエで8月、大統領選があった。現地は不正の有無で大混乱だ。日本の私たちも投票の意味について考え直す機会になるのではないか。
「私は全国民の大統領になる」。ジンバブエのムナンガグワ大統領(80)が4日、そう宣誓した。8月23日の大統領選で2回目の当選を果たしたとされるが、野党候補チャミサ氏(45)の陣営は「大規模な不正があった。勝ったのはわれわれだ」と選挙のやり直しを求めている。
国連のグテレス事務総長も「選挙監視人の身柄拘束や有権者への脅迫、嫌がらせ、強制があった」と述べている。この混乱、実は5年前に続いて2回連続なのだ。
ジンバブエといえば、1980年の独立から37年間にわたって実権を握ったムガベ前大統領が世界的に有名だ。2000年代に起きた天文学的なハイパーインフレで日本でも知られるようになった。
「100000000000000」と印刷された当時の100兆ジンバブエドル紙幣は、廃止された今もコレクターズアイテムとなっている。
もともとは英国からの独立闘争の英雄だったムガベ氏が17年にクーデターで失脚し、側近として独裁政権を支えてきた元副大統領のムナンガグワ氏が後を継いだ。18年の大統領選は、変革を掲げるチャミサ氏との激戦になった。
この年の大統領選を記録したドキュメンタリー映画「プレジデント」が今、日本全国で順次公開中だ 。1時間55分の作品を見て驚いた。前半と後半の落差が大きすぎるのだ。
野党陣営のチャミサ氏が街頭に出ると、各地で民衆が会場を埋め尽くす。選挙運動は希望と熱気に満ちている。ついに長い圧政と腐敗から抜け出す時が来た。特定の為政者が好き放題に権力を乱用する時代は終わりだ、と。
ところが、映画が半分も進まないうちにスクリーンは重苦しい空気に包まれる。開票結果が一向に発表されず、公正に集計されているのだろうかと不信感が充満する。なんでこんなことに--。
この映画を監督したデンマーク出身のカミラ・ニールセンさんがオンライン取材に応じた。「18年の大統領選では40カ国以上から選挙監視団が来ました。建国以来初めて自由で公正な選挙が行われると期待が高まりました」。
だが、この選挙監視は十分に機能しなかったという。「与党側の裏工作に対して警告すべきだったのに、監視団の仕事は雑でした。その結果、ジンバブエの人々を失望させてしまった。不当逮捕や人権侵害が大規模に広がり、経済危機も進んで、ジンバブエは再び暗黒時代を迎えています」
ニールセン監督が当局に監視されながらもカメラを回してから5年。再び出馬したチャミサ氏は今年も敗れた。
ニールセン監督は「自由で公正な選挙は民主主義にとって最重要です」と強調する。一方、あからさまな不正選挙は考えにくい日本を含む先進国の側に対しても注文があるそうだ。
「民主主義の基盤があったとしても、きちんとしたリーダーを選ぶこと、投票率を上げること、投票に対する無関心をなくすことが非常に大事です。それがなければ、独裁者にタガを外させ、極端な政治を許してしまうことにつながる。真剣に考えて投票に行くべきです」
これは日本の私たちにとって耳が痛い言葉だ。例えば8月の埼玉県知事選では投票率が過去最低の23%台に落ち込んだ。有権者4人のうち3人以上が棄権したわけだから、多数派は「自分の一票なんてどうでもいい」と感じていたのかもしれない。
民主主義脅かす無関心
「日本では政治が抱える問題が解決されないまま次の問題が起きて『複雑骨折』が生じています。一党優位が続き、政府側は国民があまり政治に興味を持ってくれなくていいと考える。有権者は受け身で信任させられ、政治参加に熱意を持てない状態です」。
そう解説するのは、日本の現代政治に詳しい中野晃一・上智大教授(政治学)だ。一例として挙げるのが「首相の専権事項」と称してまかり通る「解散権の乱用」である。
憲法7条に基づく衆院の解散は、建前こそ「国民に信を問う」だが、政権にとって最も都合の良い政治的タイミングが計られるのが常だ。
「民意を黙らせるために選挙に持ち込み、『選挙で勝った』と全権委任されたかのように振る舞う。有権者が政治家をコントロールするためでなく、政府が世論を抑え込むために選挙をやるところまできてしまっています」
この状況を招いたことに対して中野さんは「政治学の怠慢でもあります」と自省的に語る。「欧米ではポピュリストの政党や民主的でない勢力が台頭し、『民主主義の後退』を問題にするようになってきた。日本でも選挙を通じて明らかに民主主義が形骸化してきています」
中野さんの観察では、日本では選挙が始まる日には選挙戦がほぼ終わっている。「期日前投票が盛んに奨励されますが、公示直後に投票すれば選挙活動を何も見ずに選んでいることになる」。
一方、公職選挙法では事前運動はできないことになっているが、衆院解散が近いと察知した人たちはポスターを張り替えたり、突然「国政報告会」を開いたりして、事実上の選挙戦を始めている。現職や世襲政治家にとって有利で、新陳代謝が起きにくい仕組みなのだ。
そこで懐かしいセリフが持ち出された。「関心がないといって寝てしまってくれればいい」。無党派層について、00年の衆院選の前に当時の森喜朗首相が語った言葉だ。選挙こそ民主主義の基盤だという意識が希薄だから、そういった本音が漏れてしまうというのである。
「なのに政治家もメディアも、政治学の学界すら危機感が足りなすぎると思います」。そう話す中野さんに、打開策を尋ねた。
「一般に言われるほど今の若者は政治に無関心ではありませんよ」。大学の教壇に立つ中野さんは希望を捨てていないようだ。「環境問題や入管法、同性婚、選択的夫婦別姓など、若い人たちは前の世代よりも人権に関わることに問題意識を持っている印象があります」。
そうした社会の課題は、まさに政治が解決すべきテーマだ。投票に行く前提としての知識を持ち、タブー視せずに議論して、投票行動につなげていくプロセスが重要だという。
「かつての中選挙区制では投票率が上がると自民党の勝ち幅が大きくなることがありました。今では与党の組織票と低投票率の関係がよく指摘されます。でも、投票率を上げるべきなのは有利不利の問題ではありません。きちんと民意を反映させましょうよ、という当然の話なのです」
投票に行っても政権が代わらないジンバブエ。そして、「どうせ変わらない」と投票せずに諦めてしまうムードが漂う日本。ジンバブエの選挙を映画で追体験すると、途中の過程が正反対なのに結果だけは共通していることに気づく。棄権するなんて、モッタイナイ。【9月14日 毎日】
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ジンバブエの人が政治状況についてどのように考えているのか知りたいところではありますが、今回旅行はツアーを利用しており、観光スポットとホテルをつなぐだけで、政治状況への人々の思いはもちろん、街の様子すらまったくわかりません。
今宿泊しているホテル(現地ではかなり大きいホテルです)のフロントにはある人物の写真が掲げてあります。まだ老衰していない頃の故ムガベ前大統領のように思うのですが・・・・
チョベ国立公園のあるボツワナでは初等教育が無料だという話をジンバブエ側のドライバーが添乗員から聞いて驚いていたという話もありました。
なお、ハイパーインフレーションの結果、ジンバブエでは自国通貨は見捨てられ、米ドルが流通しています。
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