孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

フランス  「政教分離の原則」が重視されるなかで問題視されてきた「アバヤ」 公立学校で禁止

2023-09-04 22:52:32 | 欧州情勢

(フランス・パリ市内を歩くアバヤ着用の女性(2023年8月28日撮影)【8月28日 AFP】
一口に「アバヤ」と言っても、その印象は様々。

アラブ世界で見かけるような黒一色の「アバヤ」に目だけを残して顔を覆う「ニカブ」という服装は日本人的にはさすがに「異様」ですが、上記のようなものならファッションのひとつと言えば、言えなくもない・・・
宗教ではなく伝統的な服装と言えばそうかも・・・。
でも、多くのイスラム教徒が同じような恰好をしているとなると、それはそれでまた・・・・)

【「ライシテ」(政教分離の原則)が重視されるフランス社会 「アバヤ」は「これ見よがしな宗教的標章」か否か?】
フランスでは、フランス革命以来の歴史的経過を踏まえて、「ライシテ」という概念が重視されます。一言で言えば、政教分離の原則でしょうか。

****ライシテ*****
ライシテ(形容詞 ライック)とは、フランスにおける教会と国家の分離の原則(政教分離原則)、すなわち、(国家の)宗教的中立性・無宗教性および(個人の)信教の自由の保障を表わす。(中略)

フランスは「自由、平等、友愛」を標語に掲げる共和国であることはよく知られているが、加えて、フランス共和国憲法第1条に「フランスは不可分で、ライックで、民主的で、社会的な共和国である」と書かれており、ライシテはフランス共和国の基本原則の一つである。【ウィキペディア】
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この考えに基づいて、2004年3月に施行された法律では、校内でキリスト教の大きな十字架やユダヤ教徒のキッパ(帽子)、イスラム教のヘッドスカーフなど、「児童・生徒が自身の宗教を表立って示すシンボルや衣服の着用」が禁じられています。

「ライシテ」は歴史的にはカトリック教会との関係を規定するものでしたが、中東からの移民増加に伴って、イスラムとの関係で論じられることが多くなり、一部には「反イスラム主義」的な色彩を帯びることもあります。

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中東からの移民増加とその文化的軋轢が表面化した1990年代以降はイスラムとの関係で論じられることが多いが、ライシテに関する歴史・社会学者のジャン・ボベロ(フランス語版)によれば、2001年のアメリカ同時多発テロ事件以後、「政治的イスラム」という新たな脅威が生まれ、一部のイスラムに対する恐怖が支配的な趨勢となっていったことがフランスではライシテ法本来の精神からの逸脱、世俗化 ―「ライシテの右傾化」― につながった。【同上】
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イスラムに特徴的な衣装として(特に欧州各国で)いつも問題になるのがムスリム女性が髪を隠すスカーフですが、フランスではすでに上記のように2004年の法律で公立学校では禁止されています。

顔全体を覆う「ブルカ」や、目だけを出す「ニカブ」も公共空間では禁止されています。

最近フランス社会で問題になっていたのが、やはりムスリム女性が頻用する「アバヤ」というスタイルの服。胸元からかかとまで、体形を隠すように緩くすっぽり覆う衣装です。

****「アバヤ」と「カミス」 再燃する宗教的衣装の問題****
12月9日は、ライシテの基本法である1905年の政教分離が制定された日である。近年のフランスはこの日を記念日にして大切にするようになっている。

そうしたなかで、この1年ほど公立中学や高校でのライシテ違反が増加中と報告されている。教育省によれば、9月で313件、10月で720件の違反があった。その多くが、ムスリムが着用するアラブの伝統的民族衣装アバヤとカミスに関するものだという。アバヤは女性用、カミスは男性用の長衣である。

フランスでは、2004年の法律で公立校における「これ見よがしな宗教的標章」の着用を禁じており、キリスト教徒の大きな十字架、ユダヤ教徒のキッパ、ムスリムのヴェールが該当する。その後、公共空間全般でのブルカやニカブの着用が禁じられ、浜辺やプールでのブルキニの着用の可否が論争になってきた。今回再び学校を舞台に特定の衣服が問題化している。

内務大臣のG・ダルマナンと市民権担当副大臣のS・べケスは、ライシテ違反の報告件数急増はイスラーム主義者が攻勢を強めているためだと強調する。教育大臣のP・ンディアイも04年の法律を厳格に適用すべきだと主張している。

ヴェールはそれ自体で「これ見よがしな宗教的標章」を構成するとされているが、アバヤやカミスは現状ではそのリストに入っていない。

しかし、宗教的祭礼などで着用される伝統的衣装をつねにまとい、外す要請を拒否し続けるなど、生徒の態度によっては、これ見よがしな宗教的標章のカテゴリーに入りうる。

アバヤやカミスを着用する生徒やその親たちは、衣装の宗教的側面を否定して文化的側面や伝統的側面を前面に打ち出し、学校での着用を正当化しようとする。

思春期の子どもたちは、アラブ・イスラーム文化圏に由来する服を着てティックトックなどのSNSでネット空間に流すが、背景に流れている音楽はラップなどで、その歌詞はイスラームという宗教の敬虔さを感じさせるものではない。

校長らは判断に迷っている。同じ地域でも、こうした挑発は由々しき問題だと考える校長も、長衣は問題ではないと考える校長もいるようだ。それでも、ケースバイケースの解釈の余地を求める声は少ない。教育省には明確な統一見解を出すことが期待されている。

ムスリムであるなしを問わず、高校生の過半数がヴェールを含む宗教的標章の着用に賛成という数字も出ており、世代間の差も浮き彫りになっている。

教員のなかにも、思春期は自分のアイデンティティーを求める時期と理解を示す者もいる。アバヤに身を包む一方で髪を赤く染める女子生徒もいるようで、その格好は過激的なイスラームとはひとまず無縁である。

宗教批判で知られるヴォルテールは『寛容論』で、「今日の課題は、穏健なひとびとに生きる権利をあたえ、そして、かつては必要だったかもしれないがいまでは必要性がないような厳しい法令の適用をゆるめることである」と書いた。

だが、現代フランスの世論は学校でのヴェール禁止を大前提としており、アバヤやカミスを認めるくらいなら制服にしてはどうかという意見まで出てきている。【2022年12月14日 伊達聖伸氏(東京大教授) 中外日報】
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【アバヤを着用して登校することは「宗教的行為だ」(アタル国民教育相) 公立学校出の着用禁止】
上記のような議論、統一見解を求める声を受けて、フランスのガブリエル・アタル国民教育相は8月27日、イスラム教徒の一部の女性が着用する、全身を覆うゆったりとした服「アバヤ」について、教育現場における厳格な「ライシテ」を定めた法律に違反するとして、今後公立学校での着用が禁止されると発表しました。

****フランス公立学校 イスラム教徒の長衣を禁止 宗教色を服装規制で封じ込め 摩擦の懸念も****
フランス政府は9月の新学期から、公立学校でイスラム教徒の女性用長衣アバヤの着用を禁止した。マクロン大統領は「わが国の公教育は政教分離が原則。宗教を示すものがあってはならない」と訴えた。

服装規制には、イスラム移民2世や3世が宗教で自己主張しようとするのを封じる狙いがあるが、新たな摩擦を招くとの懸念も出ている。

フランスは2004年、公立学校で「宗教シンボル」を排除する法律を施行し、イスラム女性が髪をスカーフで覆うことを禁じている。政府は8月31日の通達で、アバヤを禁止対象に追加。さらに、イスラム男性が着る長衣カミスも禁止した。説得しても生徒が着用をやめない場合、学校は処罰できるとしている。

アバヤやカミスは胸元からかかとまで覆う服装。主にアラブ圏で着用されており、「仏イスラム教評議会」(CFCM)は「宗教シンボルとみなすのは誤り」と抗議した。

移民社会で着用は一般化しており、パリ郊外のイスラム教徒の会社員マリヤムさん(23)は「服装を口実にした差別」と憤りを示す。インターネット上では「長衣をアバヤではなく、ロングスカートだと言って規制をかわす方法」を生徒に伝授する動画も広がる。

フランスでイスラム教徒への服装規制は強まるばかり。11年には、公共の場で女性がベールで顔を隠すことを禁止された。

最近はスポーツ大会で髪をスカーフで覆うことを禁じたり、「ブルキニ」と呼ばれるイスラム女性用の水泳スーツを公営プールから排除したりする動きが広がる。

背景には、イスラム人口の増加に伴い、国是である政教分離が脅かされているという不安がある。世論調査では77%が「イスラム主義は国の脅威」と答えた。

特に学校現場の危機感は強い。20年には、中学で預言者ムハンマドの風刺画を生徒に見せた教員がイスラム過激派に惨殺されるテロが起きたためだ。宗教をめぐる校内トラブルは年々増加し、今年1〜5月には2000件以上報告された。長衣を着て登校するイスラム教徒が増え、学校に戸惑いが広がっていた。

仏ナンテール大のイスマイル・フェラト教授は「中東でアバヤやカミスは単なる伝統衣装とみなされるが、フランスでは若いイスラム教徒が教員を挑発する手段になった。彼らは社会で差別に直面し、宗教を通じて自分の尊厳を保とうとしている」と指摘。規制で封じ込めれば、反発を強めるだけだと警告する。

フランスは政教分離を憲法で定める。原点は19世紀、義務教育からカトリック教会の影響を排除した法律にあり、いまも学校の脱宗教化は共和国の基盤とみなされている。

今回の長衣禁止に急進左派は「宗教狩り」と反発したが、共産党から極右まで保革野党の多くは支持を表明している。【9月4日 産経】
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今後、訴訟にも発展し、司法の場で争われる可能性があるようです。

****フランス、アバヤ禁止で波紋拡大 アラブ女性の伝統衣装、訴訟も****
フランス政府がアラブ女性の伝統衣装「アバヤ」を宗教的だとして学校での着用を禁止する方針を表明したことに波紋が広がっている。政教分離(世俗主義)の原則を重視するフランスでは、右派や左派の多くが賛同する一方、左派の一部はアバヤは宗教的ではないと批判。訴訟も辞さない構えだ。

アバヤは顔や手を除く女性の全身を覆う長い丈の衣服で、イスラム諸国で伝統的に着用されている。「アバヤはもう学校に着て行けない」。アタル国民教育相は27日のフランスのテレビ番組で、アバヤを着用して登校することを「宗教的行為だ」と明言。9月の新学期から禁止する方針だ。【8月31日 共同】
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【スポーツなど様々な場面で問題となるイスラム教徒女性の服装】
前出記事にもあるように、フランスでは“スポーツ大会で髪をスカーフで覆うことを禁じたり、「ブルキニ」と呼ばれるイスラム女性用の水泳スーツを公営プールから排除したりする動き”などが広がっています。

スカーフ「ヒジャブ」をサッカーの試合中に着用することを禁じたフランスサッカー連盟の規則も裁判で争われましたが、フランスの行政裁判所はこの禁止措置を支持しています。

****「ヒジャブ」着用禁止を支持 フランス裁判所、サッカー試合中****
フランスの行政裁判所、国務院は29日、イスラム教徒の女性が頭に巻くスカーフ「ヒジャブ」をサッカーの試合中に着用することを禁じたフランスサッカー連盟の規則を支持する決定を下した。

フランスメディアによると、イスラム教徒の女子サッカー選手のグループが規則に反対していた。グループの弁護士は「表現の自由を揺るがす」と決定に反発した。

キリスト教会と結び付いた王政を革命で倒したフランスは憲法に政教分離(世俗主義)の原則を明記しており、長年論争のテーマとなっている。
 
同連盟のこの規則が来年のパリ五輪・パラリンピックでも適用されるかどうかは不明だ。【6月30日 共同】
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一方で、フランスではシャルリー・エブド襲撃事件(2015年1月7日 ムハンマドを風刺した週刊風刺新聞『シャルリー・エブド』の本社にイスラム過激派テロリストが乱入し、編集長、風刺漫画家、コラムニスト、警察官ら合わせて12人を殺害した事件)に対して、世論が「表現の自由」を高く掲げて反発したように、「自由」を重視する社会です。

イスラム風刺を認める「表現の自由」とイスラムに特徴的な服装を禁じる「ライシテ」の解釈・・・思想としては一貫しているのか・・・

ただ、現実面ではイスラム教徒は抑圧されているような息苦しさを感じるかも。
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