孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

オーストラリア・ニュージーランド 「自国第一」の流れでビザ・永住権取得の厳格化

2017-05-07 23:13:06 | 難民・移民

(首脳会談前に握手するトランプ米大統領(左)とオーストラリアのターンブル首相【5月5日 AFP】
“騒動”もあった両者には「自国第一」を掲げる共通傾向も)

ICCに捜査要求が出たオーストラリアの難民政策
トランプ米大統領は1月にオーストラリアのターンブル首相と電話会談した際、オバマ政権時代に両国間で合意された難民引き受けに関して暴言を発し、一方的に切ったと報じられ大きな話題にもなりました。

合意内容は難民認定を求めオーストラリアへ密航後、国外の施設に収容された人々について、一部をアメリカへ移住させる一時的措置ですが、ターンブル首相が電話会談で、トランプ政権もこの合意を守ることを確認しようとしたところ、トランプ大統領は「これまでで最悪の取引だ」とこき下ろし、1時間を予定していた電話は25分で切り上げられたと報じられています。

ただ、豹変するのはトランプ大統領の得意とするところで、この件についても「大きく誇張」された「偽ニュース」とすることで、両者の“手打ち”が行われています。「米豪の間に鉄の絆が築かれた」(トランプ大統領)とも。
“鉄の絆”というより“鉄の神経”のようにも。

****トランプ大統領、豪首相との関係修復をアピール NYで首脳会談****
ドナルド・トランプ米大統領とオーストラリアのマルコム・ターンブル首相は4日、ニューヨークで首脳会談を行った。今年1月の電話会談では、難民の受け入れ問題で対立が表面化していたが、トランプ氏は「すべて解決した」と述べ、関係修復をアピールした。
 
トランプ氏は、大統領就任直後に行われたターンブル首相との電話会談で怒りをあわらにしたと伝えられてるが、同氏は、これはメディアが「大きく誇張」して報道した「偽ニュース」だったと述べた。
 
1月の電話会談をめぐっては、バラク・オバマ前政権で米国が合意していたオーストラリアからの難民受け入れについて、トランプ氏が不満を述べて怒りをあらわにし、予定を大幅に切り上げて会談を打ち切ったと報じられていた。
 
イントレピッド海上航空宇宙博物館でターンブル首相と初めての首脳会談に臨んだトランプ氏は「われわれは素晴らしい電話会談を行った。君たちがそれを誇張したんだ。大きな誇張だった。われわれは赤ん坊ではない」と述べ、いつものメディア攻撃を展開した。
 
またトランプ氏は「われわれはすごくうまくやっている。素晴らしい関係だ。私はオーストラリアを愛している。いままでもずっとそうだった」と述べた。
 
一方、ターンブル首相は「難民に関する問題は水に流し、前に進もう」と述べた。
 
トランプ大統領とターンブル首相は、第2次世界大戦中に米国とオーストラリアが旧日本軍と戦った「珊瑚海海戦(Battle of the Coral Sea)」から75年となるのに合わせて、ニューヨークにある退役した空母「イントレピッド」を使った同博物館に、いずれもタキシード姿で現れた。
 
アジア太平洋での緊張が高まる中、今回の米豪首脳会談には第2次世界大戦から続く両国の長い同盟関係を演出する狙いがある。【5月5日 AFP】
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オーストラリアが自国で受け入れを拒否した難民をアメリカに押し付けようという内容ですから、難民嫌いのトランプ大統領が“キレる”のも、当然とも言えます。

オーストラリアの難民政策の評判は芳しくありません。

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オーストラリア政府は業者に委託し、難民や移民の上陸を船が領海に入る手前で阻止している。海上で捕まえて、そのまま南太平洋の島国ナウルやパプアニューギニアのマヌス島にある収容所に移送しているのだ。領海手前ならまだ入国前、難民条約で規定された保護の責任は負わなくてもいい、という論法だ。

海外の収容所は表向きは民営だが、実質的にはオーストラリア政府は管理している。施設の維持費を負担し、運営方針を定め、民間業者と契約して運営させている。

人権団体は収容所ではびこる深刻な暴力と虐待を何度も訴えてきた。だがその非人道的な状態を作り出すことこそが、オーストラリア政府の狙いだという。【2月24日 Newsweek】
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そのため、イギリスの人権弁護士らがオーストラリアの難民政策について今年2月、国際刑事裁判所(ICC)に捜査を要求、もし訴追されれば先進国が人道犯罪で国際的に裁かれる最初の例になるかもしれない・・・という話は、2月27日ブログ“オーストラリアの難民収容施設問題 国際刑事裁判所(ICC)の捜査を要求する動きも”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20170227で取り上げました。(その後どうなったのかは、情報がありません)

【「移民の国」で強まる「オーストラリア第一主義」 一方で、外国人労働に依存する経済構造も
オーストラリアは約2300万人の人口のうち、実に4分の1が海外生まれという「移民の国」で、かつての白豪主義を捨て1970年からは多文化主義を目指してきました。

しかし最近では、アメリカや欧州同様に外国人労働力によって雇用が奪われているという反移民・反外国人感情の高まりが見られ、ターンブル首相も「オーストラリア第一主義」を掲げて、移民政策の厳格化に動いています。

「トランプ現象の影響によって、政府が、『オーストラリア人第一主義』というのを公然と掲げること、それに対する抵抗感が薄まったのかなという印象を持ちました。」(青山学院大学 教授 飯笹佐代子氏)【5月1日 NHK】ということで、トランプ大統領とターンブル首相が“鉄の絆”で結ばれることにも一定の背景があるようです。

もっとも、産業界にとっては国際競争力のために優秀な人材の確保が不可欠で、また地方の農業とか建設の現場などでも移民なしでやっていけないということで、『オーストラリア人第一』と掲げながらも、移民に頼らざるをえない現状もありますので(このあたりもアメリカと同じです)、“優秀”で、オスートラリア社会との摩擦を生まない“価値観を共有する”移民に絞って受け入れていこうという選別主義でもあります。

これまでのオーストラリアのビザ制度・永住権(市民権)取得制度については、ブログ「俺的GC観光マップ」【http://gcwalkerjp.com/archives/49899053.html】以下のように説明されています。

****ワーホリ→就職→永住までの一般的な道****
彼らは、ワーホリ(ワーキングホリデービザ)や学生ビザの期間内で自身をスポンサーしてくれる雇用主・就職先を探して回り、運よく見つけたら、そこでワークビザ457を取得し2年以上働きます

そして今までは、そのビザが切れるタイミングまでにIELTSっていう英語のテストで5とか6とか取って、自分が熟練就労移民者としての永住権申請に可能な総合ポイントに達していれば、移民コンサルタントや弁護士を通して手続きを開始し、日本の無犯罪証明発行手続きと健康証明を行い、数カ月待てば晴れて永住ビザを取得する事が出来ました

こうしてオーストラリアに居住している外国出身者を日本人を含め永住権とか、パーマネントとか、PR(パーマネント レジデンシー)とか言います

その後は、雇用期間満期を迎えるか、それを待たずに雇用主と円満の内に退職すれば、その後はこの国で縛りなしで自由に就職をして、オーストラリア人と大して変わらぬ政府からの恩恵のもと生活ができます(中略)

今までは、このビジネス・ビザ(サブクラス457)からの永住権への道は最短4年ぐらいでした

例:ワーホリ(1年)→申請(半年)→就労ビザ期間(2年)→永住権申請(半年)→永住ビザ発行

そうです たったの2年間、ビジネスビザで働くだけで永住権が取れる国、オーストラリアだったんです

他の国とくらべたら超簡単です だからまあ、この方法で永住権を取ろうと働いている外国人が、現在でも豪州に9万5千人居ます  ブログ「俺的GC観光マップ」【http://gcwalkerjp.com/archives/49899053.html】より
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ターンブル首相は上記のビジネス・ビザ(サブクラス457)を利用して2年の就労ビザの後に移民化できる制度を廃止して、新しいTSSビザ Temporary Skills Shortage (TSS) visaを創設。

新しいTSSビザには、「2年:永住権に繋がらない職種を含むShort-term Skilled Occupation List (STSOL)」と「4年:永住権に繋がる可能性ありMedium and Long-term Strategic Skills List (MLTSSL)」があり、永住権取得が認められる職種が限定される形になります。

例えば「コック」では2年のSTSOLしか認められず、永住権につなげるためには「シェフ」として4年のMLTSSLが必要になります。

オーストラリアでは、法律上の最低賃金がシェフ(料理人)とコック(調理人)で異なり、シェフとして雇うと会社の人件費が高くつくということで、現在はコックでビザ取得している人の割合の方が多いそうです。【前出「俺的GC観光マップ」より】

なお、永住権につながる職種については、日本での就職経験(在職証明書)のみで手が届きそうな職種はシェフだけで、他の職種は会計士とか技師とか医者とか看護師とか免許取得が必要な専門職に限定されるとか。

同時に、永住権取得には、必要な居住年数が延長され、「堪能な英語力」、更には「オーストラリア的な価値観」も必要とされます。

****オーストラリア、外国人向け就労ビザを厳格化へ=首相****
オーストラリアのターンブル首相は18日、外国人に人気の「457」一時就労ビザ(査証)を廃止し、より高度な英語力や労働スキルを必要とするビザに置き換える方針を明らかにした。

ターンブル氏は、「オーストラリアの仕事とオーストラリアの価値に焦点を当てた政策変更」になると、フェイスブックに掲載された声明で述べた。

457ビザは、スキルのある労働力不足を補うことを目的としたもので、同ビザの所有者には家族の呼び寄せも許可されていたが、安価な外国人労働者を輸入しようとする雇用主らに悪用されているとの批判も高まっていた。

「457ビザを終わらせる。それは、信頼性を失くした」と、ターンブル氏は首都キャンベラで行われた記者会見で述べた。

現在、約9万5000人の外国人労働者が457ビザを利用している。新しいビザは滞在期間が2年に限定されるほか、対象となる職業も現在の200以上から減る見通し。【4月18日 ロイター】
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****オーストラリアの市民権取得難しく「堪能な英語力」必要に****
アメリカのマイク・ペンス副大統領の訪問を今週末に控えたオーストラリアのマルコム・ターンブル首相は、移民制度の大幅な変更を発表した。

まず、オーストラリアの市民権を取得するために必要な居住期間を1年から4年に延長。試験では、新たに「堪能な英語力」が必要になるほか「オーストラリア的な価値観」を持っているかどうかを確認するため、子供を学校に行かせているか、就労はしているか、などの質問を追加する。

「単純な公民的な試験だけで良いのか。審査の厳格化は、この国の多文化主義と価値観を強化するためのものだ」と、ターンブルは言った。

ターンブルも、母方の祖父母はイングランドからの移民だ。(中略)

近年はヨーロッパやアメリカでも反移民感情が高まりつつあり、オーストラリアも例外ではない。反移民を掲げるワンネーション党のような極右政党や、超保守的なオーストラリア保守党が人気を集めている。(後略)【4月21日 Newsweek】
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なお、オーストラリアで働く外国人若者らの“入口”となっている、ワーキングホリデー ビザ (サブクラス 417)については以前、重税が課されることが検討されましたが、関係者の反対で緩和されています。

この件は、外国人若年労働力に依存しているオーストラリア経済の実態を反映しています。

****出稼ぎ日本人」も無縁じゃない豪州のひずみ 増税をめぐる混乱の陰でグレーな雇用が横行 ****
「出稼ぎワーホリ」政策に異変?
これに猛反発したのがオーストラリアの農業や観光業界関係者だった。
 
「ワーキングホリデー制度」は、表向き「各々の国・地域が、青少年に文化や一般的な生活様式を理解する機会を提供するため、一定期間の休暇を過ごす活動とその間の滞在費を補うための就労を相互に認める制度」と規定されている。
 
ところが、実際は地方の産業や農業などの働き手不足を補う頼みの綱となっている。特に農業では、野菜や果物の収穫の繁忙期には、ワーホリの若者たちがいなければ成り立たないほど、貴重な労働力として頼っているのが現状だ。労働力全体の約4分の1をワーホリ滞在者に依存しているとするデータもある。
 
ワーホリ税の増税は、オーストラリアのワーホリ滞在者がカナダやニュージーランドなどに流れてしまう懸念を生じさせた。これが関係者からの猛抗議につながったワケだ。(中略)

その後、議会で迷走を続けたワーホリ税をめぐる議論は昨年暮れ、最終的に税率は当初の32.5%から15%に落ち着いた。
 
だが、15%の増税が施行されて以降、すでにオーストラリアを渡航先に選択するワーホリ希望の若者たちの数は減り始めていると、オーストラリア各紙は次々に報じている。

そもそも、オーストラリア政府がワーホリ税の増税に踏み切ったのは財政再建とともに、若年層の失業者保護などの狙いもあったのだが、関係者からの反対で、ワーホリ滞在者に頼ったいびつな産業構造が浮き彫りになる事態となった。(後略)【4月8日 東洋経済オンライン】
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上記の話は、課税を避けて記録が残らないよう、給料が現金手渡しで支給される雇用形態「キャッシュジョブ(またはキャッシュ・ハンド・ジョブ)」の横行という実態につながるのですが、その話は今回はパスします。

移住先として人気のニュージーランドでも永住権取得は厳格化の方向
一方、隣国ニュージーランドはオーストラリアよりもビザ取得が容易で、ニュージーランドの市民権を持っていればオーストラリアでも居住、労働可能なため、ニュージーランド移住はオーストラリア移住への「登竜門 」になっている・・・というニュージーランドでも変化がみられるそうです。

****トランプを嫌い、米国からニュージーランドへ大量脱出****
日本人に大人気のニュージーランド移住
日本人永住者の中でも、ニュージーランドは、米国をトップとしてランクインする上位10位中、前年比で最高の約10%増を記録。

アジアで人気のシンガポール(約2400人、前年比約7%増)やマレーシア(約1500人、同約5%増)をはるかに超える「約9700人」を数え、知る人ぞ知る「日本人の大人気永住先」である。
 
しかし、ここ最近、異変が起きている。
米国人の米国離れが加速化し、米国人のニュージーランドへの移住が急増。英語を母国語とし、資金力も潤沢な米国人富裕層の流入で、不動産や家賃の高騰、さらに日本人など非英語圏移住希望者や現地の同出身者に対する雇用環境が厳しくなるとの予測から、移住先を他国に変更したり、日本へ帰国する動きが出てきている。
 
ニュージーランド内務省によると、米国のトランプ政権誕生後のここ100日間の米国人のニュージーランドでの市民権申請数が、前年同期比の約70%増と記録的な拡大となっている。
 
さらに就労ビザ申請も約20%増で、ニュージーランド政府の移民関連公式サイトは、米大統領選後、米国からのアクセスが約10倍増の4000件を超える記録だという。
 
もともとニュージーランドは英語圏からの移住先で大人気の国。(中略)
それではなぜ、外国人はニュージーランドへの移住を目指すのか?
 
それは永住権など各種ビザが他国より取りやすく、特に隣国のオーストラリアでの移住を目指す場合は、それより先にニュージーランドで取得する傾向にある。
 
オーストラリアは経済も堅調で、人口も多く、給与もニュージーランドよりはるかに高く、物価はニュージーランドより安いが、永住権どころか数年の労働ビザ取得もかなり困難だ。
 
しかし、ニュージーランドの市民権を持っていればオーストラリアでも居住、労働可能なため、「急がば回れ」、ニュージーランド移住はオーストラリア移住への「登竜門 」になっている。
 
さらに、ニュージーランドは、オーストラリア、英国、カナダなどと違い、一度、永住権を取得すると更新は一切不要で、居住の滞在日数要件もない。

原発がなく、贈与税・相続税もない
取得後、長年ニュージーランドを離れていても、永住権が失効しないことから、世界でも有数の「永遠の永住権国家」として移住先の人気国だ。
 
また、原発がない豊かな自然が売りで、贈与税や相続税課税もなく、「租税回避」の楽園として英国や米国、さらには日本、中国などからの富裕層に注目され始めている。
 
隣国のオーストラリアへの移民の半数はニュージーランド人だが、そのニュージーランド人の7人に1人が外国出身者と言われるゆえんだ。
 
日本人の中にも、そのため、ニュージーランドを「トランジット(中継地点)移住」の移住先として目指す人が多いが、ここに来て新たな障壁が浮上している。
 
ニュージーランド政府は、4月19日、移民法の改正を発表し、永住権取得の資格条件の大幅変更を決定(8月14日施行)。これにより、外国人の永住権取得は、厳格化されることとなり、永住権を見込む日本人の多くが大きなショックを受けている。(後略)【5月2日 JB Press】
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“ニュージーランドでは、10年間居住すれば、65歳から満額年金を受理することが可能で、ニュージーランド生まれの国民と同じ待遇だ。
高齢者移民急増は、年金支出の拡大要因で、国民から懸念や批判が続出している。こういった状況から、今までとは違い、外国人の永住権取得は今後、さらに難しくなるだろうということだ。”【同上】とも。

世界中で「自国第一」の流れが進んでいます。一見、国民にとってはもっともな主張のようにも見えますが、各国がそうした内向き姿勢を強める結果がどうなるのか? そこらは十分に検討する必要がありますが、また別機会に。

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