孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

北朝鮮問題  アメリカの後押しによる中国の圧力は強まってはいるものの、今後については不透明

2017-05-06 22:50:59 | 東アジア

(5日付の労働新聞は、金正恩(キム・ジョンウン)委員長が、韓国の延坪(ヨンピョン)島を2010年に砲撃した部隊を視察し、新たな攻撃計画を承認したと報じています。【5月5日 Yahoo!ニュース】 それにしても不健康そうな金委員長です。)

強まる中国の対北朝鮮圧力
北朝鮮問題に関してはメディアで連日報じられているところで、特段付け加えるような話もないし、誰も(おそらくトランプ大統領も金正恩委員長も)この先の展開がよめない状況ですから、話のしようもないところではありますが、スルーしっぱなしもいかかがなものか・・・ということで、最近の報道を取りまとめてみました。

****米国人の2人に1人、地図上で北朝鮮を見つけられない****
2017年5月2日、米国の調査会社ラスムッセン・レポートの最新の調査で、米国人の2人に1人が、地図上で北朝鮮を見つけることができないと考えていることが分かった。露通信社スプートニクの中国語ニュースサイトが伝えた。

調査は米国の成人1000人を対象に、4月27日から30日まで行われた。それによると、地図上で北朝鮮を見つけることができると考えている人は全米の31%に過ぎず、見つけられない人は50%に上った。「確信を持てない」と回答した人も19%いた。

北朝鮮の核・ミサイル開発により、朝鮮半島情勢はこの数カ月、緊迫の度合いを増している。米国では、北朝鮮に対する軍事攻撃も排除しないとする声がある一方で、経済制裁による圧力強化に集中すべきだとの意見もある。【5月4日 Record China】
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米軍兵士にも5万人前後の死者(いろんな数字があるようですが)を出した朝鮮戦争もすでに過去の話で、全体としてはアメリカ人の国際認識はこんなものでしょう。日本を見つけることができる者がどれだけいるかも怪しいところです。

その程度の認識の国が、朝鮮半島だけでなく、日本を含む東アジア全域に多大な影響を及ぼしかねない動きの中心にあるというのも考えてみると奇妙ではありますが、国際政治と言うのはこんなものでしょう。

そのアメリカ・トランプ政権との経済問題も絡めての(中国が協力するなら、貿易面で譲歩するといった)“取引”によってか、あるいは、“(アメリカ・北朝鮮双方に対する)何をしでかすかわからない”不安に駆られてか、中国もこれまでにない北朝鮮への圧力をかけているようです。

****北朝鮮の3月石炭輸出ゼロ 中国による輸入停止で****
国連安全保障理事会の下に設置されている北朝鮮制裁委員会(1718委員会)のウェブサイトによると、5日時点で、3月に北朝鮮から石炭を輸入したと報告した国はない。中国が2月に北朝鮮からの石炭輸入を停止した後、北朝鮮は石炭を輸出できなくなったとみられる。

安保理は昨年11月、北朝鮮の5回目核実験を受け北朝鮮の石炭輸出に上限を設ける制裁決議を採択した。同決議は、国連加盟国が北朝鮮から輸入した石炭の量と金額を毎月末日から30日以内に北朝鮮制裁委に届け出るよう定めている。

1月と2月には中国と推定される1カ国がそれぞれ144万トンと123万トンの石炭輸入を報告していた。

中国は2月18日、安保理制裁決議に基づく措置として、同月19日から年末まで北朝鮮からの石炭輸入を停止すると発表した。その後に北朝鮮から到着した石炭は送り返したとされる。

一方、北朝鮮制裁委は北朝鮮の石炭輸出が上限を超えないよう、一定水準に到達すると警報を出すことになっている。現在までの輸出量は上限の35.7%程度だ。【5月5日 ソウル聯合ニュース】
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石炭輸入よりはるかに大きな効果があるのは、石油輸出停止(断油)で、すでに供給制限が行われているのか、ピョンヤンのガソリン価格が上がっているとの報道もありますが、北朝鮮が備蓄に努め市場供給を絞っている可能性も。

ティラーソン米国務長官は4月27日、「中国が北朝鮮に対し、『再び核実験を行えば独自制裁を科す』と警告したと、アメリカ側に伝達した」と語っており、その「独自制裁」の最たるものが“断油”になります。

ただ、先の大戦で日本がアメリカの“断油”によって戦争へとなだれ込んだように、致命的な“断油”は政権崩壊あるいは戦争への暴発もありうる措置ですので、金正恩がどうなっても構わないが緩衝地帯としての北朝鮮は残したい、またアメリカとの直接対決とか大量の難民流入といった事態も避けたい中国としては極めて慎重にならざるを得ないでしょう。

“断油”よりは穏やかですが、大きな効果が期待できるのが金融的な締め上げです。

****中国、すべての金融機関に対北朝鮮取引の停止を指示か****
2017年5月5日、中国外交部の耿爽(グン・シュアン)報道官は定例記者会見で、中国政府が国内のすべての金融機関に対し、北朝鮮との取引を停止するよう指示したと韓国メディアが報じたことについて事実確認を求められ、「具体的な状況を把握していない」と回答した。新浪が伝えた。

韓国メディアは、中国の外交消息筋の話として、最近まで北朝鮮への送金が可能であった銀行の従業員が「すべての対北朝鮮外貨業務を中断するよう指示が下りてきた」と話しているとし、「中国の5大銀行はすでに対北朝鮮業務を中断した状態で、さらに中小金融機関まで中断措置が拡大しているものと解釈される」などと伝えていた。

耿報道官は「中国は一貫して安保理の北朝鮮制裁決議を全面的かつ正確、真剣、厳格に履行している」とした上で、韓国メディアの報道については「具体的な状況を把握していない」と述べた。【5月6日 Record China】
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こうした中国の北朝鮮への圧力を“促す”というか“迫る”というか、「今後の取引先は北朝鮮かアメリカか選択を迫らなければならない」と、アメリカ議会下院は対北朝鮮制裁強化法案を可決しています。

***北朝鮮への制裁強化法案 米下院が可決****
アメリカ議会下院は、北朝鮮の核やミサイルの開発資金につながるとして、北朝鮮と取り引きのある外国人や外国企業を対象に、制裁を科すことができる法案を可決し、北朝鮮への圧力強化を目指すトランプ政権を後押ししています。

アメリカ議会下院は4日、北朝鮮に対する制裁を一段と強化する法案を賛成多数で可決しました。

法案は北朝鮮の核やミサイルの開発資金につながるとして、外国人や外国企業が北朝鮮の労働者を雇用して不当に働かせたり、北朝鮮から大量に農産物や天然資源などを輸入したりした場合に、アメリカ政府が制裁を科すことができるとしています。

法案を提出した議会下院のロイス外交委員長は、採決に先立ち2日に演説し、「法案は北朝鮮の核・ミサイル開発計画をやめさせ、国連の制裁決議を順守させるものだ。中国を含めすべての国が制裁に取り組む必要がある」と述べ、北朝鮮と取り引きの多い中国などをけん制しました。

さらに「北朝鮮を支援する中国などの外国の銀行や企業には、今後の取引先は北朝鮮かアメリカか選択を迫らなければならない。それがトランプ新政権の取り組みの重点でもある」と強調し、北朝鮮への圧力強化を目指すトランプ政権を後押しする姿勢を示しました。

法案は今後、議会上院で審議される予定で、トランプ政権としては北朝鮮の後ろ盾となっている中国に対して、中国企業への制裁もちらつかせながら協力を引き出したい狙いです。【5月5日 NHK】
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話が横道にそれますが、この制裁法案採択は“賛成419票、反対1票”でしたが、圧倒的“流れ”に逆らった反対者1名の考え・信念も聞いてみたい気がします。

それはともかく、“対北の金融制裁は、2005年にマカオにある銀行、バンコ・デルタ・アジアが、北の資金洗浄に使われているとして締め上げたことがある。今回、トランプ政権が北と取引のある中国の金融機関に、この「二次的制裁」を発動すれば、北朝鮮の口座を持つ中国金融界が大混乱に陥る。”【5月3日 産経】ということで、中国としても独自対応を余儀なくされているとも思えます。

当然ながら、アメリカの脅し・威嚇に追随・乗っかるような中国の対応に対し、北朝鮮側は強く反発しています。

****北朝鮮、異例の中国名指し批判 米中協調に不快感****
北朝鮮が中国を名指しで批判した。国営メディアの朝鮮中央通信が伝えた。肩書のない個人名の論評を3日付で発表する形をとった。

北朝鮮が中国を直接批判することは極めて異例。論評は、北朝鮮の核・ミサイル開発をめぐり、中国が米国と歩調を合わせることに強い不快感を示した。
 
中国共産党機関紙「人民日報」と系列の国際情報紙「環球時報」の記事が北朝鮮の核開発を批判したことについて、論評は「不当な口実で朝中関係を丸ごと壊そうとしていることに怒りを禁じ得ない」と非難。「中国は無謀な妄動がもたらす重大な結果について熟考すべきだ」と指摘した。
 
さらに「米国の侵略と脅威から祖国と人民を死守するために核を保有した。その自衛的使命は今後も変わらない」と主張。「朝中友好がいくら大切でも、生命も同然の核と引き換えにしてまで哀願する我々ではない」と強調した。【5月4日 朝日】
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「親善の伝統を抹殺しようとする許しがたい妄動だ」とも言及していますが、“まるで慣用句のように中朝は「血の絆」で結ばれているという大前提で報道されている”ことについて、“朝鮮戦争が始まった1950年に、中朝国境沿いの吉林省延吉市という朝鮮民族の自治州にいて、灯火管制の下で生きてきた”遠藤誉氏は、“中国は朝鮮戦争勃発時点から、北朝鮮とは「本当は」仲が悪く、「血の絆」などでは、一切、結ばれていない”と強調しています。【4月25日 遠藤誉氏 “中朝同盟は「血の絆」ではない――日本の根本的勘違い” Newsweek】

また、文化大革命期における中国における北朝鮮の存在は、「敵国」さながらのものとなり、毛沢東を崇拝する紅衛兵たちが、金日成(キムイルソン)を走資派あるいは逃亡派として血祭りに上げ始めた・・・といった歴史もあるようです。【5月1日 遠藤誉氏 “中国は北にどこまで経済制裁をするか?” Newsweek】

北朝鮮の金正日なども中国を非常に嫌っていたというのはよく言われていましたが、中朝両国の関係は互いの利害によるものであり、利害次第ではいかようにもなるものでしょう。

ただ、建前にすぎないにしても、その建前を崩すためには、それ相応のものが必要にもなります。

中国側にも、すべて中国に押し付けられても困るという思いがあります。
「中国の努力だけでは北朝鮮の核問題は根本的に解決できない。なぜなら、その根源は米朝の対立にあるからだ」「米政府は中国政府に過度の期待を抱くべきではない。中国政府は米国の役割を代わりに担うことはできない。米政府は自らの努力を少しも欠いてはならないという基本的なロジックは変えられない」【5月2日 環球時報】

進む対北朝鮮包囲網
アメリカは、中国だけでなく、北朝鮮との関係が深いASEAN諸国への働き掛けも強め、北朝鮮「包囲網」の構築を進めています。

****米、北朝鮮「包囲網」構築へ ASEANに制裁促す****
トランプ米政権は4日、東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国との外相会議と、オーストラリアのターンブル首相との首脳会談を相次いで開いた。オバマ前政権が進めたアジア・太平洋地域を重視する政策を継承するとともに、「最重要課題」とする北朝鮮問題で「北朝鮮包囲網」を構築したい考えだ。
 
ティラーソン米国務長官は4日、ワシントンでASEAN加盟10カ国の外相らと会議を開催。終了後、米国務省のマーフィー次官補代理は記者団に「ASEAN各国には北朝鮮の収入源を断ち、外交関係を見直すよう求めた」と述べた。ティラーソン氏は会議で、北朝鮮の外交官が外交特権を利用し、核・ミサイル開発の資金や材料を違法に得ていると指摘したという。
 
米側が神経をとがらせているのは、ASEAN諸国には北朝鮮と政治的、経済的なつながりが深い国が少なくないからだ。北朝鮮にとってタイは第4位、フィリピンは第5位の輸出相手国。シンガポールでは北朝鮮のダミー企業が取引をし、制裁の「抜け穴」となっているとの指摘が出ていた。
 
このため、各国に外交関係の凍結や制限を促しつつ、国連安全保障理事会の制裁決議の履行を徹底させることで、北朝鮮を追い込みたい思惑がある。(中略)

ただ、北朝鮮との外交関係の見直しについて、ASEAN加盟国の政府関係者は「国によってスタンスは違う」と話す。米国の働きかけがどこまで奏功するかは不透明だ。
 
また、トランプ大統領は4日、ニューヨークでターンブル豪首相と会談し、北朝鮮を含む安全保障問題を協議、同盟関係を再確認した。【5月6日 朝日】
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ロシアも、極東ウラジオストクと北朝鮮北東部の羅先経済特区の間に新設される定期航路として、8日に予定されていた貨客船「万景峰号」の第1便の就航を今月後半以降に延期しており、アメリカの対北朝鮮圧力に一定に配慮したものとみられています。

この先の一手は不透明
このように、中国を主軸とする圧力・包囲網の形成は進んではいますが、この先どうするのか?ということについては不透明です。

リビア・カダフィ政権の教訓から、北朝鮮も国の命運がかかっている核開発を断念することはありえないとも言われています。

やれ先制攻撃とか斬首作戦、あるいは体制転覆と言っても、現実論としては難しいものがあります。

さりとて、現在のような状況が長引けば、その弊害も大きくなります。
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中国に対北圧力を依存する手法は、合理的ではあるが、長引けばオバマ前政権の「戦略的忍耐」と称した対北政策と変わらず、同盟国の不信を買うだろう。不信のタネはすでにある。台湾の扱いのほかに、中国に対する「為替操作国」の指定を取りやめ、南シナ海で中国の圧力下にある東南アジアの沿岸国を不安にさせている。【5月3日 湯浅博氏 産経】
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トランプ大統領が言及した「金正恩朝鮮労働党委員長と状況次第で会談する」という話も、今のところ可能性は小さいと指摘されています。

****最高指導者就任から5年でも外交経験「ゼロ」 金正恩氏がトランプ氏と会談する日は来るのか****
トランプ米大統領が北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長と状況次第で会談する考えを示した。金委員長は最高指導者就任から5年を超えたが、首脳外交の経験はゼロといわれる。父や祖父もなし得なかった米朝首脳会談の可能性はあるのか。

(中略)北朝鮮外交に詳しい龍谷大の李相哲教授は「先代も成し遂げられなかったことで権威付けになる。対米関係を好転できれば、日本や韓国との交渉も必要ないと考えており、のどから手が出るほど実現したいはずだ」と指摘する。
 
ただ、可能性は「ゼロに近い」ともみる。まず場所だ。安全が保証されないとして訪米は拒否するだろうし、トランプ氏が訪朝すれば「米国が屈した」と宣伝に使われるのがオチだ。中露などが会談場所だけを提供する望みも薄い。
 
最大の壁は、米国が北朝鮮の非核化目標を対話の前提にしている点だ。金委員長は、核・ミサイル開発を政権維持の柱に据えており、2012年2月に米国とウラン濃縮やミサイル実験の凍結に合意しながら半月後には、「衛星打ち上げ」と称して長距離弾道ミサイルの発射を通告し、ほごにした“前歴”がある。
 
「トランプ氏も無理を承知で、全ての選択肢がテーブルにあるとのポーズを示しただけではないか」と李教授は推測する。【5月2日 産経】
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ではどうするのか?

首脳会談は難しくても、それを“模した”ものなら可能かも。

ただ内容は、曖昧で時間稼ぎ的な合意で当面の危機を回避するが、核開発という長期的な火種は残る・・・といった類で終わるようなことも考えられます。(トランプ大統領が批判するイランとの核合意みたいなものでしょうか)

もっとも、圧力が強まれば不測の事態、想定外の行動が飛び出す可能性も大きくなりますので、この先のことは何とも・・・・。

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