(タイの首都バンコクの警察署に到着し、支持者に囲まれる革新政党「新未来党」のタナトーン党首=6日【4月6日 共同】)
【「不正選挙」の疑惑がかかる選挙管理員会への批判】
3月24日から4月2日まで、パキスタンを旅行していた関係で、日々のニュースをフォローすることが難しく、時折ニュースサイトで垣間見る程度。
そうした中で気になったのは、民政移管に向けてのタイの総選挙。“気になった”というのは、特別関心があるという意味ではなく、目にする記事によって選挙結果の印象が異なるという意味です。
“タイ総選挙:タクシン派政党が勝利を主張、公式結果は5月9日までに”【3月25日 bloomberg】
“タイ総選挙、軍主導の政権が優勢 予想外の結果に疑いの声も”【3月25日 ロイター】
端的に言えば、タクシン派が勝ったのか、親軍政勢力が勝ったのか・・・どうも判然としませんでした。
帰国後改めて確認すると、“判然としなかった”理由は、単に私の情報量がごく限られていたということだけでなく、選挙管理員会からの詳細な公式発表がなく、そもそも開票集計過程自体になにやら“不明瞭なもの”が漂っていたためのようです。
****タイ総選挙「公平に実施されず」市民らから選管への批判高まる****
タイの民政復帰に向けた3月24日の総選挙で、選挙管理委員会に対する批判が強まっている。
市民団体や学生らが「公平に選挙が実施されなかった」と抗議活動を始めると同時に、タクシン元首相派の中核政党「タイ貢献党」は疑惑の解明を求める声明を発表。
一方、アピラット陸軍司令官が記者会見で「タイの人々が街頭で戦わないことを望む」と述べ、こうした動きへのけん制を強めている。
貢献党の1日の声明によると、選管が選挙当日の24日と、その4日後に発表した投票総数には、約449万票もの差があった。
また選管の不手際も目立ち、25日に小選挙区当選者のリストを非公式に発表したが、これに間違いがあり貢献党の獲得議席数が一つ減った。一方、白票などの無効票の合計は約273万票と多い。
こうしたことから「票が不正に操作されたのではないか」との疑惑が指摘されている。バンコクでは市民団体などが「選管はいらない」「不正選挙」などと叫んでデモ行進。主催者の一人は「国民の意思は選挙で示された。選管は正しく発表しなければならない」と話した。
一方、アピラット司令官は2日の会見で、民主主義が「ゆがめられる」事態が起きていると指摘。5月9日に予定される選管の公式発表を待つべきだとの考えを示した。【4月3日 毎日】
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****選挙管理委員の辞任求める署名広がる タイ総選挙****
タイで3月24日に実施された総選挙で票の取り扱いなどに不透明、不公正な点があるとして、民主活動家や学生らが、選挙管理委員の辞任や罷免(ひめん)を求める運動を続けている。
インターネット上の署名はすでに80万を超え、街頭での署名の呼びかけも広まっている。
署名活動は31日夕もバンコクの繁華街であり、民主活動家や学生らが「我々の投票を尊重しろ」「不正をやめろ」などと書かれたプラカードを掲げ、「選管は出て行け」などと、シュプレヒコールを上げた。
主催者らは親軍政政党に有利になる様々な不正があった疑いがあると指摘。投票に関するあらゆる情報の開示を選管に要求するとともに、選管委員が速やかに辞任するよう求めた。
開票をめぐっては、選挙当日と4日後の発表に整合性がないとの指摘や、いくつかの投票所で票数が投票者の数より多かったとの指摘が出るなど、選管による開票作業に様々な疑問の声が寄せられている。
選管は政党別の得票数や各小選挙区の暫定結果は発表したが、比例代表を含めた各政党の議席数や、細かいデータは公表していない。
31日の署名活動に参加した学生(25)は「今回の選挙の不透明さに気づいているということを示したかった。様々な方法で不正をしようとしたことは明らかだと思う」と話した。
総選挙では、反軍政のタクシン元首相派のタイ貢献党が第1党になる見通しだが、親軍政の国民国家の力党も事前の予想を上回る伸びを見せ、第2党になる見込みだ。政党としての得票数では国民国家の力党がタイ貢献党を上回り、最多となっている。【4月1日 朝日】
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【アピラット司令官は「なぜ議会で闘わないのか」と言うものの・・・】
【毎日】記事にもある、アピラット司令官の発言については、以下のようにも。
****「なぜ議会で闘わないのか」タイ司令官、抗議デモに警告****
タイのアピラット陸軍司令官は2日、先月24日の総選挙後、選挙管理委員会による不正などを訴える抗議デモが相次いでいることを念頭に、「なぜルールに従って議会で闘わないのか」と述べ、街頭での抗議行動に警告した。
総選挙をめぐっては、票数が投票者の数より多かった投票所があるとの報告が寄せられるなど、選管の票の取り扱いに様々な疑問の声が寄せられている。民主活動家らは、親軍政政党を利する不正があった疑いがあると指摘。情報開示や選管委員の辞任を求める活動を続けている。
地元メディアによるとアピラット氏は、各政党は選管の決定に従うべきだとし、「サッカーの試合のようにもしチームが負けたら、ファンもそれを受け入れなければならない」と述べた。
選管は選挙の公式結果を発表していないが、軍政のプラユット暫定首相の続投を目指す親軍政勢力と、タクシン元首相派を中心とする反軍政勢力が多数派工作でしのぎを削っている。
アピラット氏は軍の政治的中立を強調したが、一方で汚職防止法違反で有罪判決を受け、国外逃亡生活を受けているタクシン氏を念頭に「法の裁きを受け入れず、国外で動き回っている人がいる」と批判した。【4月4日 朝日】
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アピラット司令官の発言は「正論」ではあります。特に、タクシン派と反タクシン派が互いに街頭行動で政権を揺さぶり、収拾不能な社会混乱を招いた経緯があるタイでは。
「正論」ではありますが、そもそも軍事政権によって軍部等に都合のいいような議会・選挙制度を含む新憲法体制がつくられ、野党・メディアによる政府批判は厳しく弾圧され、しかも選挙自体に“不明瞭なものが漂う”・・・・という状況にあっては、“結果を受け入れ、議会で戦う”ことの意味合いは、日本のような社会と同等に語ることは難しいとも言えます。
【圧力のもとでタクシン派善戦 新興勢力・新未来党躍進・・・・か?(今後の選管発表次第ですが)】
でもって、選挙結果は判然としませんが、いろんな形で軍政から圧力・制約を受け、選挙戦途中で王女の首相候補擁立問題で片輪をもがれた状態ともなったタクシン派が、「善戦」したとの評価が。
****タクシン派の善戦に終わったタイ総選挙****
「タクシン派」が取り組む政策の起源を考える
2019年3月24日、タイの総選挙が終わった。3月26日付の日本貿易振興機構(ジェトロ)の「ビジネス短信」は、タイの公共放送PBSの報じた選挙結果を伝えており、それによれば、タイ貢献党が135議席で第1党、国民国家の力党が119議席、新未来党が87議席、民主党が55議席となっている。
ただし、2017年憲法によれば、首相の選出にあたっては、今回公選された500議席の下院に加えて250議席の上院にも投票権がある。そして、上院は事実上軍政の任命議員によって占められている。
その結果、首相選出に必要な議席数は、750議席の過半を超える376議席以上となる。PBSの速報通りであれば、軍政側は、既に369議席獲得しており、52議席を獲得したタイ誇り党との連立や、その他の未定を含む52議席のうちから、7議席を切り崩せば首相を指名することができる。
また、そもそも軍政寄りの民主党がどのように最終的な判断をするかは予断を許さない。
軍政寄りの民主党は惨敗
以上の情勢を踏まえた上でも、やはりタクシン派の善戦というのが今回の選挙結果の一つの総括であることに変わりないだろう。
今回の選挙は、小選挙区で選出される議席を減らしており、小選挙区制の特性を活用してきたタクシン派のタイ貢献党には厳しい選挙制度となっていた。
また、民主党が惨敗したことも今回の選挙の一つの総括であろう。同党はタイ貢献党と対立し、一時は親軍政党、タイ貢献党との三つどもえを演じるとも思われた。そもそも、政党でありながら軍政との距離を測りかねていた民主党は、新興政党である新未来党に惨敗したともいえる。
現職の強みを生かして軍政支持政党である国民国家の力党が政権を発足させるとしても、やはり国会運営や、次の選挙(?)でタクシン派の動向を無視することはできないだろう。ところで、タクシン派とはそもそもどのような人々なのだろうか。(後略) 【4月4日 高木佑輔氏 日経ビジネス】
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上記高木氏の記事は、タクシン派の人気の根源となった「30バーツ医療制度」がどのように実現されたのかが詳述されており興味深いものですが、本旨とは少し離れますので割愛しました。
タクシン派というと米の買取り制度のような“ばらまき”的な施策がイメージされますが、そういう面だけではないようです。(“ばらまき”はタクシン派でも軍事政権でも似たり寄ったりですし、誰を対象に“ばらまく”かに、その政権の目指すものがうかがえます)
【未来新党党首への卑劣な圧力 「なぜ議会で闘わないのか」】
選挙結果の話にもどると、“タイの公共放送PBSの報じた選挙結果を伝えており、それによれば、タイ貢献党が135議席で第1党、国民国家の力党が119議席、新未来党が87議席、民主党が55議席となっている。”という数字が現実のものになるなら(“不明瞭なものが漂う”選挙管理員会がどのような公式発表をするのかは定かではありませんが)、タクシン派の善戦とともに、新興勢力である新未来党の躍進が目立ちます。
完全に老舗政党・民主党を蹴落としたようです。
ただ、先ほどの「なぜ議会で闘わないのか」というアピラット司令官への反論にもなりますが、躍進した、かつ、反軍政を明らかにしている新未来党に対し、軍政当局による“議会の外での”不当な圧力がかけられています。
****タイ、人気の新党党首に扇動容疑 「政治的動機」と批判噴出****
タイ警察は6日、3月の下院総選挙で大躍進して第3党となるのが確実となっている革新政党「新未来党」のタナトーン党首(40)を首都バンコクの警察署に呼び出し、扇動などの容疑が掛けられていることを告知した。
新未来党は、軍政と対立するタクシン元首相派陣営に加わることを表明しており、タナトーン氏に対する訴追に向けた動きは「政治的動機に基づくもの」との批判が噴出している。
タナトーン氏は、5人以上の集会が禁止されていたにもかかわらず、2015年6月に反軍政を訴える集会を開催した活動家らを支援するなどした疑い。タナトーン氏は容疑を否認している。【4月6日 共同】
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****タイ新未来党党首が出頭、反軍政デモ幹部の逃走手助け容疑を否定****
タイの民政復帰に向けた3月24日の総選挙で、下院第3党になるとみられる新未来党のタナトーン党首が6日、バンコクの警察署に出頭した。2015年に実施された反軍事政権デモにかかわったとして、国家平和秩序評議会(軍政)から扇動罪など三つの容疑で告訴されたため。タナトーン氏は否認した。
14年5月のクーデター後、戒厳令が敷かれ5人以上の政治集会が禁止された。タナトーン氏はデモ幹部の逃走を手助けしたなどの疑いが持たれている。
「タナトーンを救え」。警察署を取り囲む支持者数百人がシュプレヒコールを上げるなか、タナトーン氏はこの日午前10時に出頭。2時間半後に建物を出て記者団に改めて「無実」を主張した。5月15日までに弁明書を提出するという。
支持者の男性(67)は「今ごろ告訴だなんておかしい。タナトーン氏は軍政に攻撃的なので圧力をかける狙いだろう」と話した。
新未来党はタクシン元首相派政党「タイ貢献党」と反軍政勢力の中核を担っている。【4月6日 毎日】
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このような卑劣かつ露骨な圧力を辞さない軍政当局に対してこそ、アピラット司令官は「なぜ議会で闘わないのか」と言うべきでしょう。
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