(14日、チャンカイ港の開港式にオンラインで出席した習近平主席とボルアルテ・ペルー大統領。【11月15日 新華網】)
【アメリカが今後保護貿易主義に走るなかで開催される自由貿易を掲げるAPEC】
アメリカで「タリフマン(関税男)」を自任するトランプ氏が復権し、アメリカが保護貿易に傾斜する予測がある状況で、自由で開かれた貿易を掲げるアジア太平洋経済協力会議(APEC)の会議が南米ペルーで開催されています。 首脳会議に先だって行われていた閣僚会議は14日に閉幕しました。
****APEC、自由貿易の重要性確認=閣僚会議閉幕、声明で調整続く―保護主義対抗、意見隔たりも****
日本や米国、中国など21カ国・地域が参加するアジア太平洋経済協力会議(APEC)の閣僚会議は14日(日本時間15日午前)、閉幕した。
関税の大幅な引き上げを主張するトランプ次期米大統領の返り咲きで保護主義拡大への警戒感が強まる中、自由貿易の重要性を確認した。
ただ、閣僚共同声明を巡っては意見に隔たりがあり、事務レベルで調整を続ける。
日本からは武藤容治経済産業相と岩屋毅外相が出席した。
会議では、域内経済の成長に向けた貿易・投資などを議論。岩屋氏は会議終了を前に記者団に「自由で公正な貿易環境、投資環境を促進し、持続的成長を実現すべく連携していくことを確認できた」と話した。
武藤氏は閉幕後の記者会見で「世界貿易機関(WTO)の機能強化や経済連携協定(EPA)の推進、拡大を通じ、ルールに基づく自由貿易体制を強化する意見が多かった」と述べた。
声明のとりまとめが難航している理由へのコメントは避けた一方、「新しい世界に入ろうとしている中、国際協調は非常に大事な観点だ」と強調した。【11月15日 時事】
********************
日米と中国が、更には新興国・途上国が参加する会議ですので、“意見の隔たり”は当然にあるでしょう。
【最も大きな存在感を見せるのは中国・習近平国家主席】
首脳会議にはバイデン大統領も出席し、習近平国家主席と最後の会談も予定されていますが、アメリカが政権交代の最中にあるということもあって、最も大きな存在感を見せるのは中国・習近平国家主席のようです。
****習氏、南米歴訪開始 中国出資のペルー大型港式典に出席****
中国の習近平国家主席が14日、1週間にわたる南米歴訪を開始した。初日は中国が13億ドルを出資したペルーの大型深海港「チャンカイ港」の開港式典にオンラインで参加。南米で通商や影響力の拡大を目指す。
習氏はペルーの首都リマで開幕するアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に出席する予定。来週にはブラジルのリオデジャネイロで開く20カ国・地域(G20)首脳会議に参加するほか、ブラジルへの公式訪問も行う。
習氏はペルーのボルアルテ大統領とともに、リマの北方80キロに位置し太平洋に面するチャンカイ港の開港式典にオンラインで参加。既存の自由貿易協定(FTA)を拡充する文書にも調印した。【11月15日 ロイター】
習氏はペルーの首都リマで開幕するアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に出席する予定。来週にはブラジルのリオデジャネイロで開く20カ国・地域(G20)首脳会議に参加するほか、ブラジルへの公式訪問も行う。
習氏はペルーのボルアルテ大統領とともに、リマの北方80キロに位置し太平洋に面するチャンカイ港の開港式典にオンラインで参加。既存の自由貿易協定(FTA)を拡充する文書にも調印した。【11月15日 ロイター】
***********************
【中国主導の巨大港湾「チャンカイ港」 「南米のハブ港」の機能が期待される一方で、アメリカは軍事利用を警戒】
「アメリカの裏庭」南米のペルーにおける大型深海港「チャンカイ港」は近年の南米における中国の存在強化を示すものでもあります。
「一帯一路」に沿った中国資本主導で建設された巨大港湾「チャンカイ港」は「南米のハブ港」の機能が期待される一方で、アメリカは軍事利用を警戒しています。
****ペルーに中国主導で巨大港湾 南米に「一帯一路」―米、軍事利用を警戒****
ペルー中部の太平洋岸チャンカイに中国資本主導で建設された巨大港湾が完成し、14日に開港式典が開かれた。
南米とアジアとの海上輸送が直接結ばれ、中国の巨大経済圏「一帯一路」構想が進展。中南米地域を勢力圏と見なす米国は軍事利用を警戒しており、米中の覇権争いが激しさを増しそうだ。
港湾は首都リマの北約80キロにある。中国海運最大手の中国遠洋海運集団が権益の6割を保有。ペルーだけでなく、中国との貿易関係を強める周辺国の利用も想定され、「南米のハブ港」の機能が期待されている。
式典は、ペルーで開催されるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に先立ち行われた。リマからリモートで出席した中国の習近平国家主席は「(港が)ペルーや中南米、カリブ海諸国の繁栄と幸福への道」になると期待を表明。同席したペルーのボルアルテ大統領も「ペルーにとって歴史的な瞬間だ。世界クラスの物流、技術、産業の中心として国が強化される」と訴えた。
総事業費は約34億ドル(約5300億円)。今回は第1段階として13億ドルを投じ、約140ヘクタールの敷地に埠頭(ふとう)などを整備した。港の水深は17.8メートルと世界最大級のコンテナ船も寄港が可能だ。ペルー太平洋岸とアジアを結ぶ海上輸送は平均25日となり、従前に比べ約10日間短縮される。
ペルーや隣国チリは銅の主要産出国。周辺ではリチウムも埋蔵量が豊富で、電気自動車(EV)に欠かせないこうした戦略物資の円滑な輸入を中国は狙う。
一方、中南米を担当する米南方軍のリチャードソン前司令官は7日の退任前に一部メディアに、中国海軍も港を利用する恐れがあると警告。「中南米だけでなく他の場所でも繰り広げられた戦略だ」と述べ、米国や同盟国に対して中国の影響力拡大に対応するよう促した。【11月15日 時事】
**********************
【強まる中国の影響力】
中国は今回APEC開催にあったってもペルーを支援。“中国の肩入れぶり”を示すものとも。
****ペルーに10億円相当寄贈 中国、APEC警備で****
ペルー政府は24日、11月半ばに首都リマで開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議の警備のためとして、中国政府から車両110台など700万ドル(約10億円)相当の物品が寄贈されたと発表した。
中国は警察の安全装備を購入する費用として別途、100万ドルを拠出。近年ペルーで存在感を増す中国の肩入れぶりが浮き彫りとなった。
寄贈されたのはバイクやバスなどの車両のほか、スキャナーや情報機器。ボルアルテ大統領は大統領府で行われた式典で「ペルーと中国の良好な2国間関係の明確な例だ」と指摘した上で「APECの成功が保証される」と強調した。【10月25日 時事】
*******************
一方で中国は台湾関連でペルーに圧力も。上記のような中国との緊密な関係がありますので、ペルーとしては断る術もないようです。
****ペルーの首都リマの空港、中国の圧力で台湾の半導体広告を撤去 APEC首脳会議直前****
アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議が15日に始まる南米ペルーの首都リマの空港で、台湾の半導体をアピールする看板広告が中国の圧力で撤去されていたことが分かった。台湾の中央通信社が同日伝えた。
同通信社が台湾当局者の話として報じたところでは、10月中旬、空港の税関手続き用の通路に電照看板が設置された。「TAIWAN」の大きな文字に半導体チップのデザインをあしらい、「世界の繁栄のために台湾と協力しよう」と英語で呼び掛ける内容だった。
ところが広告の掲出から約1週間後、中国側の圧力を受けて現地の広告会社が撤去を余儀なくされた。台湾の広告はリマ市内の大通りにも6カ所設置されているが、これらについては「(中国の)圧力は成功していない」という。
頼清徳政権はAPEC首脳会議に台湾代表として、自動車メーカーの元経営者で元行政院副院長(副首相に相当)の林信義氏を派遣した。頼政権は当初、副総統や行政院長(首相)を歴任した陳建仁氏の派遣を希望していたが、ホスト国のペルーが受け入れなかった。
リマ近郊に完成したチャンカイ港には、中国国有海運大手の中国遠洋海運集団(COSCO)が60%出資しており、「ペルーは中国の意向を尊重せざるを得ない」(台北の外交筋)事情がある。【11月15日 産経】
********************
カネも出すけど、しっかり要求も・・・・という中国の“強面(こわもて)”の一面です。
【「アメリカの裏庭」は今後は「中国の裏庭」と化す予測も】
従来南米は「アメリカの裏庭」と呼ばれてきましたが、ペルーに限らず、近年は中国の影響力が強まっています。
欧米は中国との関係を警戒しデリスキング(リスク軽減)を志向していますが、中南米諸国にはそうしたものはあまりなく、中国との相互依存関係が強まっており、将来的には「中国の裏庭」と化す可能性も。
****中南米における「中国の裏庭化」論の実態と 今後の展望 ****
1.中南米における「中国の裏庭化」論とは?
1-1.中国の中南米進出に対する欧米諸国の焦燥感
2000年代以降、中国は経済関係の緊密化を軸として中南米諸国との関係強化を進めてきた。コロナ禍ではワクチン外交を通じて社会面においてもそのプレゼンスを発揮した。2017年以来、中米5カ国が台湾と断交して中国との外交関係を樹立している。
こうした状況に対する焦りを背景とし、欧米諸国のメディアやシンクタンクは、かつて「米国の裏庭」と呼ばれた中南米が「中国の裏庭」に変容しつつあるとの脅威論を唱えるようになった。
ここで注目すべきは、この中国脅威論が中南米側から発生したのではないという点である。
中南米は1990年代まで米国の圧倒的な覇権に特徴づけられていたが、2001年の同時多発テロ以来、中南米に対する米国の影響力(とくに開発援助)が急速に衰えたことにより、中南米はかならずしも米国の覇権下にあるとはいえない状況が生じた。
こうした中、ジョージ・W・ブッシュ政権下の独善的な外交姿勢に対する反発も相まって、中南米各国で反米左派政権が台頭した。
この隙間を埋めるように、貿易・融資・投資といった経済ツールを駆使して中南米への進出を始めたのが中国である。経済関係の拡大を通じた中国のプレゼンスの高まりは、中南米諸国の米国離れを加速させた。
こうした米国の影響力と関与の低下や反米左派政権の台頭といった要素は、中国の中南米進出にとって有利な条件を生み出していた。
(中略)
3.今後の展望
中南米は今後も中国にとって資源・食糧の有力な供給元であり続ける。地政学的観点からいえば、欧米諸国が中国デリスキングを進めるほど、中国は一次産品を獲得する上でのリスクを回避するべく、グロー バル・サウスの一翼を担う中南米諸国への接近を強化する動機が高まる状況にある。
中南米側からすれば、経済成長にとって重要な輸出と対内直接投資の増加をもたらす中国との間で良好な経済関係を継続させていくことが合理的選択となる。
つまり、中南米側から中国切り離しへ向かう動向はほぼ皆無に等しいことから、諸外国が中南米へのアプローチを再強化させない限り、中国との相互依存は進む一方となる。
こうした中、EUは中国のBRIに対抗するインフラ投資計画「グローバル・ゲートウェイ」の一環として、中南米向けに450億ユーロの投資を予定している。この中にはリチウム開発案件も含まれていると報じられている。
近年、中南米地域に「左傾化の波」が再来しているとの議論について、1990年代後半以降に訪れた第一の左傾化に照らし合わせると、中南米左派政権と中国がおもに政治外交面で再接近を試みる可能性を否定できない。
ただし、環境・先住民保護の観点から中国との間で摩擦が生じることや、中国側の行動に修正が求められることが見込まれる。
また、今後の対中関係を展望する上では、このような国内政治的な要素に加え、10年以上にわたって中南米各国にビルトインされた対中経済依存のさらなる深化や、米国主導の経済安全保障枠組みである「経済的繁栄のための米州パートナーシップ(APEP)」に対する中南米諸国の関心の低さについても考慮する必要があるだろう。【2023年8月 三井物産戦略研究所 国際情報部北米・中南米室 高橋亮太氏】
********************
1年以上前の上記記事においても、結局のところ中南米における中国の影響力は今後更に強まる印象ですが、アメリカはトランプ復権で「自国第一主義」が強まりますので、アメリカの影響力が低下する空白を埋めるように中国の影響力が更に強まることが予想されます。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます