孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中絶規制  エルサルバドルでは中絶、流産等は「加重殺人」 日本では死産時の死体遺棄事件の問題も

2024-01-18 23:29:08 | 人権 児童

(エルサルバドルの控訴裁判所は2019年8月19日、レイプ被害によって妊娠し、胎児が8カ月の時に死産したエベリン・エルナンデスさん(中央)(21)に対し、無罪を言い渡した【2019年08月21日 HUFFPOST】)

【アメリカ キリスト教保守派の影響で中絶規制強化の流れ】
アメリカで中絶の是非をめぐって国に二分する(ときに暴力行為を伴う)激しい議論が行われており、大統領選挙や議会選挙を大きく左右する問題にもなっていることはこれまでも何回も取り上げてきました。

中絶反対派のコアには(特に共和党において)政治的影響力を増しているキリスト教保守派の思想があります。
その中絶反対派の主張は、胎児であれ何であれ、どんな命も尊重されなければならず、それがたとえレイプや近親相姦による妊娠であっても、あるいは、胎児に重篤な障害あって、誕生後にどれほどの期間生存できるか分からない・・・といった場合でも、とにかく出産を行うべきとするものです。

一見、「生命尊重」という反対しづらい正論に思える主張ですが、母体の安全性、レイプや近親相姦によって生まれた子供を育てる母親の苦しみ、それが子供にどう影響するのか・・・そこまでの問題ではなくても、母親が産み育てることが非常に困難な状況にあるときに出産によって生じる諸問題・・・・そうした現実問題の観点が抜け落ちている・・・と言うか、意図的にそうした問題に目を閉じています。

下記は以前も取り上げたものですが、厳しい中絶規制を行っている州では下記のような事例も生じます。

****米テキサス州最高裁、先天性疾患胎児の中絶認める地裁判断覆す*****
米テキサス州で、妊娠中の胎児に先天性疾患が見つかったとする女性が、人工妊娠中絶の許可を求めて同州を相手取って起こした訴訟で、州の最高裁判所は11日、緊急中絶を認めるとした地方裁判所の判断を覆した。原告の代理人弁護士によると、女性は最高裁判断が出る数時間前に、中絶処置を受けるため同州を離れたという。

ダラス・フォートワース都市圏在住の2児の母、ケイト・コックスさんは妊娠20週目を過ぎている。胎児は染色体異常による先天性疾患「フルエドワーズ症候群」で、出産前に死亡する確率が高く、生まれても数日しか生きられないとされる。

医師らは、人工中絶処置を行わなければ、子宮摘出や命にかかわる危険があると判断。コックスさんは先週、中絶の許可を求めてテキサス州を提訴し、トラビス州地裁は中絶を認める判断を下していた。

しかし、これを受けてテキサス州のケン・パクストン司法長官が、直ちに州最高裁に上訴するとともに、コックスさんの中絶処置を行った医師を訴追すると警告していた。

コックスさんと夫、医師の代理として訴状を提出した「性と生殖に関する権利センター」のナンシー・ノーサップ代表は、コックスさんが他州に移ったことについて、「母体の健康が危険にさらされている。緊急治療室への出入りを繰り返してきた原告は、これ以上待てなかった。これが、裁判官や政治家が妊婦に関する判断を下してはならない理由だ。医師ではないのだ」と非難した。

一方、テキサス州最高裁の判事らは、本件は司法が介入すべき問題ではないとの所感を示し、今回の判断は、本件について医師が「合理的な医療的判断」に基づいて人命を救うために必要と判断した場合には中絶処置を禁じるものではなく、もし原告が(同州における中絶禁止の)例外に当たるのならば、「裁判所命令は必要ない」と述べた。

同権利センターの専属弁護士、モリー・デュアン氏は「もしテキサス州でコックスさんが中絶処置を受けられないなら、誰が受けられるのか。本件は、例外が機能せず、中絶禁止法がある州での妊娠は危険だということを証明している」と指摘した。

ノーサップ氏も、「コックスさんには州外に行く手立てがあったが、大半の人にはなく、こうした状況は死刑宣告になりかねない」と非難した。

米最高裁は2022年6月、人工妊娠中絶を憲法上の権利と認めた判決を覆す判断を下した。

テキサス州は、レイプや近親姦(かん)による妊娠でも中絶を認めない厳格な中絶禁止法を施行。また中絶手術を受けた本人だけでなく、中絶に協力した人を市民が告発できる州法がある。中絶手術を行った医師に対しては、99年以下の禁錮と10万ドル(約1500万円)以下の罰金が科された上、医師免許が剥奪される可能性がある。 【12月12日 AFP】
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【中絶規制をめぐる世界の状況】
アメリカに限らず、カトリック教の影響が強い国など、多くに国で中絶が厳しく制約されています。

****中絶と人口政策の古今東西 ****
人の命は受胎から始まり、中絶はすなわち殺人であり、安全な中絶というものはありえない、というのが、国連にオブザーバーとして参加するローマ法王庁の立場であり、カイロ国際人口開発行動計画の実行は、米国が2001年から2009年まで共和党政権であったことと結びついて、大きく遅れを取ることとなった。

キリスト教が中絶を殺人とみなしたのは、在位1585-90年のローマ教皇シクストゥス5世以来であり、キリスト教の2000年の歴史のなかでは新しい。

とはいえ、フランスでは1791年刑法より、ビクトリア女王時代の英国で1861年に、米国で1870年代に、中絶を禁止する法律が制定され、欧米、すなわちキリスト教圏では中絶禁止が一般的であった。

そしてそこからの「解放」が、人権、とりわけ女性の決定権の確保という形を取り、強く求められるようになった。またその流れは20世紀後半以来の国際社会を形作ったのである。 

国連人口部がとりまとめた世界各国の中絶政策一覧では、中絶が法的に可能となる条件を、母親の命を守るため、母親の健康のため、母親の精神衛生のため、強姦・近親相姦の際、胎児の先天異常のため、経済・社会的状況、随時(on request)、に分けて国別に示している。

そのうち、母親の命を守るためでも中絶を認めていない国はバチカン市国、マルタ、ドミニカ共和国、エルサルバドル、ニカラグア、チリの6ヶ国で、いずれもカトリックの影響が強い国であるが、強姦・近親相姦による妊娠に対しても中絶を認めない国は96ヶ国にのぼり、世界全域にひろがっているが、とりわけ中南米、アフリカ、イスラーム圏に多い。

逆に、随時可能なのは58ヶ国で、日本を除く東アジア、欧米、中央アジア、コーカサス諸国、キューバなどの社会主義国などに多いが、トルコ、チュニジア、南アフリカ共和国なども含まれる。

イスラームではハディースにより受胎後4カ月後に胎児は人間となるとされているので、それ以前の中絶については宗教的には許容されているが、宗教以外の各国の事情・慣習により、法制は異なっている。

サブサハラアフリカでは宗教というよりは民族など固有の伝統が中絶禁忌の文化を生んでいる。(後略)【林玲子氏(国立社会保障・人口問題研究所)】
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母親の命を守るためでも中絶を認めていない国としてバチカン市国、マルタ、ドミニカ共和国、エルサルバドル、ニカラグア、チリの6ヶ国があげられていますが、その後、チリでは2017年に法律が改正され、レイプによって妊娠した場合や、母親の命が危険にさらされている場合、胎児に致命的な先天性障害が確認された場合などに限り、中絶を認めています。

【エルサルバドル 流産で死産した場合でも「加重殺人」として逮捕され何十年も服役】
2021年5月20日ブログ“アメリカ 人工中絶禁止の最高裁判断の現実味 司法を舞台にしたトランプ氏の「リベンジ」幕開けか”などでも取り上げたエクアドルでは、流産で死産した場合でも、妊娠中に適切な対応をとらなかった母親に責任があるとして「殺人」、しかも重罪である「加重殺人」として逮捕され何十年も服役することになります。

****レイプ被害で妊娠、死産して収監された女性に逆転無罪判決。エルサルバドルで続く「中絶禁止法」とは****
人権団体はこの無罪判決を「画期的」と評価。一方、中絶禁止法によりいまだに約20人の女性が流産によって刑に服しているという。

中米のエルサルバドルで、「中絶禁止法」によって収監されていた女性に対し、逆転無罪の判決が言い渡され、世界から注目を浴びている。

AFP通信などによると、エルサルバドルの控訴裁判所は8月19日、レイプ被害によって妊娠し、胎児が8カ月の時に死産したエベリン・エルナンデスさん(21)に対し、無罪を言い渡した。

エルナンデスさんは、当初、中絶をしたとして殺人罪で禁錮30年の判決を受け、2年9カ月もの間、収監されていた。(中略)

エルナンデスさんは18歳だった2016年4月、妊娠8カ月のときにクスカトラン県にある自宅のトイレで子どもを出産。彼女は出産するまで妊娠に気が付いていなかったという。

エルナンデスさんはトイレで腹痛を覚え、出産したものの胎児は死産していたと主張していた。
だが検察側は彼女が出産前のケアを受けることを怠ったとして有罪を求めていた。裁判所は2017年、エルナンデスさんに対し殺人罪で禁錮30年の判決を言い渡した。

エルナンデスさんが妊娠したのは、レイプ被害を受けたためだった。しかし、家族が脅迫されていたために恐怖を感じ、警察には被害届を出せなかったという。

控訴審で弁護側は、一審では胎児が出産前に死亡していたとする法医学的証拠が見逃されていたと主張。検察側は一審判決より重い禁固40年を求刑していた。検察側が期限である8月29日までに上告するかが注目されている。

エルサルバドルで問題となっている「中絶禁止法」とは
カトリック教徒の多いエルサルバドルでは1998年以来、あらゆる状況で中絶を禁じている。
中絶禁止法と呼ばれるこの法制度では、違反した場合に禁固2~8年となるが、さらに重罪である加重殺人で有罪となる場合が多く、最大で刑罰は禁錮50年となる。

2013年には、出産直後に死亡する可能性の高い胎児を妊娠しており、自らも難病を抱え、妊娠の継続が困難だった女性が特例的な堕胎許可を求めていたが、裁判所が不許可とした。

当時の保健相も、裁判所に中絶の特例許可と、堕胎手術を行う医師に対する刑事免責を求めていた。女性は妊娠27週で帝王切開し、女児は数時間後に死亡した。

1992年の内戦終結後、内政不安のなかでカトリック教会がキャンペーンを開始し、そのなかで中絶禁止が盛り込まれた法律が1998年に成立。

2016年には、野党が最大禁固8年としている中絶禁止罪の刑罰を50年に引き上げるよう法改正を提案している。

AFP通信によると、2019年3月には、流産したことで加重殺人で有罪となり、禁錮30年の刑となり収監されていた女性3人が釈放された。しかし、同様の罪で約20人の女性が今も刑に服しているという。

米州人権委員会はエルサルバドル政府に対し、中絶によって女性に対し実刑判決を下す制度について見直しを求める報告を、2019年1月に公表している。【2019年08月21日  Shino Tanaka氏 HUFFPOST】
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(現在はだいぶ治安が改善したようですが)ギャングによる殺人・暴力が横行していた当時のエルサルバドルにおいて、死産まで「加重殺人」とする「偽善」にはあきれます。(一般にギャングの横行は、治安当局・権力との癒着・黙認がその温床となっています)

上記記事では“同様の罪で約20人の女性が今も刑に服している”とのことでしたが、さすがにエクアドルでも状況改善が図られたようです。

服役中の女性はすべて釈放されたようです。ただし、裁判中の事例が20件ほど残っているとも。

****出産直後の乳児死亡、「殺人」で服役の母親釈放 エルサルバドル****
エルサルバドルで2015年に出産直後に乳児が死亡したことをめぐり殺人罪で有罪判決が下され、8年間服役してた女性が17日、記者会見を開いた。昨年12月に釈放されて以来、女性がメディアの取材に応じたのは初めて。

弁護士によると女性は2015年、エルサルバドル西部の公立病院で出産した。生まれた女児は合併症のため保育器に入れられ、72時間後に死亡した。

その後、女性は妊娠中の健康管理が不十分だったとして「養育の放棄・怠慢」を問われ、「加重殺人」の罪で有罪となった。当初は30年の刑期を言い渡されたが、裁判所は昨年、判決を見直し、女性の釈放を命じた。

「リリアン」とだけ名前が明かされている女性は17日、「非常に長い道のりだったが、無実が証明されたことに対する満足感は極めて大きい」とAFPに語った。

エルサルバドルの女性権利団体「妊娠中絶の非犯罪化を求める市民グループ」によると、同国では過去に中絶、流産、その他出産時の緊急事態を理由に73人の女性が「加重殺人」で有罪とされた。リリアンさんでようやく全員が釈放されたことになる。

そうした女性たちの釈放を求め、2014年から国際的なキャンペーンを行ってきた同団体のマリアナ・モイサ氏は「一つの流れを終わらせることができて非常に幸せだ」と語った。ただし、まだ裁判中の事例が20件ほど残っているという。

エルサルバドルの刑法では、いかなる状況下であっても妊娠中絶には2〜8年の実刑が科される。しかも検察官や裁判官は、妊娠中絶だけではなく流産でも30〜50年が科される「加重殺人」と判断することが少なくない。 【1月18日 AFP】
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【日本 病院以外の場所で不意に流産したことが、死体遺棄容疑に問われる例は後を絶たない】
死産について妊娠中の健康管理が不十分だったとして「加重殺人」の罪で有罪・・・・日本的常識ではいかにも理不尽に思えますが、日本でも出産に関する「事件」で「いかがなものか」と思わざるを得ないような事例もあります。


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ベトナム人技能実習生レー・ティ・トゥイ・リンさん(23)は2020年11月15日、熊本県の自宅で双子を死産しました。

技能実習生として農園で働いていたリンさんは「妊娠がわかれば帰国させられる」と考えて周りに相談せず、病院も受診していませんでした。

遺体をタオルに包み、赤ちゃんの名前や「天国で安らかに眠って」などと書いたおわびの手紙を添え、部屋にあった段ボール箱に入れました。

翌日に病院で死産を明かし、3日後に逮捕。一、二審では「死体遺棄」で有罪。

死体遺棄罪が成立するには土の中に埋めるなどの違法行為を行う「作為」と葬祭義務に反して遺体を放置する「不作為」があります。

作為は土の中に埋めるなどの違法行為を行うこと。不作為は、家族らが弔うための埋葬を行わず、葬祭義務に反して遺体を放置することです。

二審の福岡高裁判決(懲役3カ月執行猶予2年)は不作為を否定しましたが、遺体を段ボールに隠したことが作為の死体遺棄にあたると判断しました。

しかし、箱に入れたとはいえ場所は自宅の室内で、彼女は遺体のそばから離れなかった。遺体をタオルでくるみ、手紙を入れた・・・・などを考えると、敢えてこれが「死体遺棄」として罰するべきものなのか疑問です。

まして、相談する者もいない、妊娠が明らかになれば仕事ができなくなり帰国させられる・・・そういった技能実習生の境遇を考えると、むしろ問題とすべきは彼女を「孤立出産」に追い込んだ日本社会の現状のように思われます。

注目されていた最高裁判断は逆転「無罪」でした。【2023年3月24日ブログ】
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問われるべきは彼女の「死体遺棄」云々ではなく、彼女をそのような状況に追い込んだ日本社会の現状の方でしょう。更に言えば、個々の状況を斟酌せず法律条文を絶対視する日本検察・警察の法律原理主義みたいな対応も。

****病院以外で流産して死体遺棄容疑に問われる例は後を絶たない…必要なのは孤立した女性に寄り添う支援****
死産した双子の遺体を自室に置いていたことが死体遺棄罪に問われ、最高裁が逆転無罪を言い渡したベトナム人元技能実習生を巡る事件は、望まない妊娠、出産で孤立した女性とどう向き合えばよいのかを問いかけた。支援体制の充実を求める声が上がる。(中略)

◆「自宅で流産したこと自体は罪ではない」
病院以外の場所で不意に流産したことが、死体遺棄容疑に問われる例は後を絶たない。こうしたケースで女性が行政機関や病院に相談しても、まず警察に連絡が行くのが通例だ。現場検証や事情聴取で、産後で疲弊する女性にさらに負担がのしかかる。

「自宅で流産したこと自体は罪ではない。産婦人科を受診せず、母子手帳がない女性に病院が不信感、加罰意識を持って対応するのが問題だ」。身元を明かさない「内密出産」などに取り組む慈恵病院(熊本市)の蓮田健院長はそう指摘する。

孤立出産に追い込まれる女性の多くは、虐待やDV、貧困などの問題を抱えている。蓮田院長は、事例を集めた上で「病院と行政、警察の対応についてガイドラインを作るべきだ」と提言する。

相談への不安から、かえって遺棄行為を招く事態も出ている。妊娠を家族に言えないまま自宅で死産し、タオルなどに遺体をくるんで公園に埋めた20歳の女性は2月、横浜地裁で有罪判決を受けた。公判で女性は、当初病院などに相談したが、警察に行くように言われて「逮捕されるかも」と怖くなったと証言した。

同種の事件で女性を弁護してきた佐藤倫子弁護士は「必要なのは医療や精神的サポートなのに、逆に支援から遠ざけることになりかねない」と懸念を示す。(後略)【2023年3月25日 東京】
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