孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ・欧州の高関税政策への傾斜

2024-10-30 22:20:25 | 経済・通貨

(中国・深圳の港から輸出されるBYDの電気自動車(EV)【5月28日 WIRED】)

【関税大好きトランプ大統領】
経済学の教科書は自国産業保護のための関税については、主にその弊害を教えていますが、関税大好きのトランプ前大統領は、再選されれば海外からの輸入品に対して大幅な追加関税を課す考えを示しています。

****トランプ大幅追加関税の実現可能性とその衝撃****
トランプ大幅追加関税は米国・世界経済に甚大な悪影響
共和党の大統領候補であるトランプ氏は、再選されれば海外からの輸入品に対して大幅な追加関税を課す考えを示している。当初、中国からの輸入品には60%の追加関税を課すとしていたが、中国がイランとの貿易を続ければ100%以上の関税を課すとした。

さらに、すべての国からの輸入品には一律に10%の追加関税を課すユニバーサル・ベースライン関税を掲げていたが、最近になって20%へと追加関税の水準を引き上げた。今後、トランプ氏の追加関税の引き上げの考えはさらにエスカレートしていく可能性もあるだろう。

調査会社ウルフ・リサーチによると、現在の米国の平均実行関税率(輸入額に占める関税額の割合)は、中国を除く国からの輸入品で1%前後、中国からの輸入品では11%である。

トランプ氏が掲げる追加関税が実現すれば、中国からの輸入品の平均関税率は現在の5倍以上から10倍以上、その他の国からの輸入品の平均関税率は約100倍から約200倍へと一気に高まる可能性がある。それが、米国の経済と物価に与える影響は極めて深刻だ。

TDセキュリティーズは、すべての国からの輸入品には一律に10%の追加関税を課すと、米国のインフレ率は0.6~0.9%ポイント上がると予想している。20%であればその倍だろう。

さらにトランプ氏が移民を制限する計画であり、それは賃金・物価を押し上げ、成長率を押し下げることが見込まれる。これも加味すると、米国の成長率が1~2ポイント低下するとTDセキュリティーズは予想している。

また英銀大手のスタンダードチャータードは、トランプ氏の追加関税が実施されれば、米国の物価が2年間で1.8%押し上げられると予想する。いずれにせよ、米国のインフレ率の低下基調は損なわれ、米国が景気後退に陥る可能性が高まるだろう。(後略)【8月27日 木内登英氏 NRI】
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トランプ氏は自らを「タリフマン(関税男)」と称しています。大学で関税の経済学的弊害を学ばなかったのでしょうか? 世界恐慌に直面した各国がとった関税などによるブロック経済が第2次世界大戦につながった歴史を学ばなかったのでしょうか?

【バイデン政権も中国製EVへの100%関税
一方、バイデン大統領もことし5月、中国の不公正な貿易からアメリカの労働者を守るためだとして、中国製のEV=電気自動車などへの関税を引き上げる方針を発表しました。
その方針に沿って、9月27日から中国製のEVへの関税は従来(25%)の4倍の100%に引き上げられました。

この決定は、多分に選挙を争うトランプ前大統領を意識したもので、その政策の先取りともなっています。

****中国製EVに関税100%、米国政府の政策は吉と出るのか****
米国が中国製の電気自動車(EV)に100%の関税を課す方針を発表した。米国の自動車メーカーがEVの販売で苦戦し、多くの企業が中国製の原材料に依存するなか、この政策は吉と出ることになるのか。

米国政府が中国製の電気自動車(EV)に対し、異例の関税100%を課すことを5月14日(米国時間)に発表した。この措置は米国の産業を「不当に価格設定された中国からの輸入品」から守るものだと、ホワイトハウスは主張している。これまで中国製EVに対する関税は25%だった。

EV用のバッテリーとバッテリー部品も新たな関税の対象となる。中国から輸入されるリチウムイオンバッテリーへの関税は7.5%から25%に引き上げられ、マンガンやコバルトなどの重要鉱物への関税は0%から25%に引き上げられる。

今回の措置は、バイデン政権が中国製の自動車とその部品に対して講じている一連の対策の最新の施策となる。米国のEV業界は車両の価格のみならず品質でも中国に後れをとっており、慎重な舵取りが求められている状況だ。

専門家によると、EV分野における中国のリードは、車両のソフトウェアやバッテリー、そして特にサプライチェーン開発への長年の投資によるものだという。昨年秋に一時的にテスラを抜いてEV販売台数世界一となった中国の自動車メーカーであるBYD(比亜迪汽車)は、2003年からEVを生産してきた。

一方で、地球規模の気候変動が壊滅的な影響をもたらすという見通しは、米国の自動車業界だけでなく世界全体に広がっている。

米エネルギー情報局(EIA)によると、米国の運輸部門における自動車用のガソリンとディーゼル燃料の二酸化炭素排出量は、米国のおける昨年のエネルギー関連の二酸化炭素排出量のほぼ3分の1を占めていた。

米国政府が抱えるジレンマ
新たな関税は、米国政府が抱える不幸なジレンマを反映している。米国は持続可能なエネルギー源を増やしたいと考える一方で、持続可能なエネルギー源を非常に多くつくり出している国からの輸入を抑制したいと考えているのだ。

この関税はまた、米国内で独自にEVを開発できるようになるまでのタイムリミットに向け、カウントダウンが始まるという意味でもある。そのためには、より多くの低価格なEVが必要になるだけでなく、それを実現するためのバッテリーやバッテリーのサプライチェーンも必要になるのだ。

あるいは、このカウントダウンは始まらないかもしれない。「タイムリミットへのカウントダウンは10年前に始まっていたのに、米国は後れをとっています。大きく後れをとっているのです」と、ジョージ・ワシントン大学工学管理・システム工学科助教授のジョン・ヘルヴェストンは語る。

EVの開発と政策を研究しているヘルヴェストンによると、今回の関税は中国車との競争から米国を永遠に守るものではないという。「関税によって米国のモノづくりの能力が向上するわけではありません」

この取り組みはうまくいくのだろうか。米国の主要な自動車メーカーを代表するロビー団体「自動車イノベーション協会(AAI)」の会長兼最高経営責任者(CEO)であるジョン・ボゼラは、声明文において楽観的な見解を示している。

「米国の自動車メーカーは、EVへの移行において誰よりも競争力があり、革新を進めることができます」と、ボゼラは主張する。「そのことに疑いの余地はありません。現時点での問題は、その意志ではなく時間なのです」

しかし、たとえ時間がいくらあっても、今後の状況はますます複雑化していくことだろう。米国内で販売する自動車メーカーや自動車部品サプライヤーは、EVやバッテリーの開発に何十億ドルもの資金を投入し続ける一方で、どうやって生き残るかを考えなければならない。また、米国のEV販売台数は増加しているが、その伸びは鈍化している。

一方で、もうひとつの大きな影響力をもつ米国の政策「インフレ抑制法」によって、EVやその他の再生可能エネルギー源の米国内におけるサプライチェーンの構築に何十億ドルも資金が投入されている。しかし、こうした取り組みの実現には何年もかかる可能性があるだろう。

「バイデン政権は綱渡りの政策をとろうとしています」と、バイデン政権でEV政策に携わったケース・ウェスタン・リザーブ大学の経済学教授のスーザン・ヘルパーは語る。「目標のひとつは優良な雇用を提供し、クリーンな生産方式を備えた好調な自動車産業であって、もうひとつの目標は気候変動に対する迅速な対策です。このふたつの目標は長期的には一致するものですが、短期的には対立するものです(後略)【5月28日 WIRED】
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【EUも中国製EVに対する関税を最大45.3%まで引き上げることを決定 独自動車産業は反対】
関税政策の強化はアメリカだけではありません。
中国からアメリカのEV輸出はあまり多くなく、その主力市場は欧州です。その欧州のEU欧州委員会が中国から輸入するEVに対し、中国政府の公的な優遇融資や補助金によって不当に安くなっているとして追加関税の適用を始めると発表しています。

****EU、中国製EVへの追加関税を正式承認...代替案巡る協議は継続****
欧州連合(EU)は、域内諸国で意見が分かれた反補助金調査を終了し、中国製の電気自動車(EV)に対する関税を最大45.3%まで引き上げることを決定した。

従来の10%に加えて7.8─35.3%の関税を徴収する。追加関税は29日に正式承認され、EU官報に掲載された。30日に発効する。

EUの欧州委員会は、優遇融資や補助金、市場価格を下回るバッテリーなどに対抗するため関税が必要だと主張している。

中国のEV生産能力は年間300万台で、EU市場の2倍に相当するという。米国とカナダの関税が100%であることを踏まえると、中国製EVは欧州向けが多い。

中国商務省は30日の声明で「中国はこの決定に賛同せず、受け入れない」と表明。その上で「EU側が価格のコミットメントについて中国と交渉を継続する意向を示唆したことに留意する」とし、「貿易摩擦の激化を回避するため、できるだけ早期に双方に受け入れ可能な解決策」を見いだすことを期待すると述べた。

在EUの中国商工会議所は「保護主義的で恣意的」なEUの措置に深く失望したと表明。関税に代わる措置を模索する協議に実質的な進展がないことにも失望感を示した。

中国はこれまでにEUの関税が保護主義的で、EUと中国の関係や自動車のサプライチェーン(供給網)に影響を与えると指摘し、EU産のブランデーや乳製品、豚肉を対象に独自調査を開始するなど報復とみられる動きを取っている。

今月4日に行われた関税に関する採決では加盟国のうち10カ国が賛成、5カ国が反対、12カ国が棄権した。経済規模が域内最大で自動車の主要生産国であるドイツは反対した。

ドイツ経済省は29日、現在進行中のEUと中国の交渉を支持するとし、EUの産業を保護しながら貿易摩擦緩和に向けた外交的な解決を望むと述べた。

欧州委は関税の代替案を見つけるため、中国と8回にわたって技術的な交渉を行っており、関税導入後も協議継続は可能だとしている。

双方は輸入車に最低価格を設ける案などを検討しており、さらなる交渉を行うことで合意した。ただ、欧州委は「大きな隔たりが残っている」としている。【10月30日 ロイター】
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ドイツの基幹産業たる自動車産業は、今回関税が中国側の報復を呼び、ドイツ自動車産業にとって死活的に重要な中国市場を失うことになるとして反対しています。

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しかし、欧州の自動車メーカーでさえ、中国からの輸入に対抗するために結束しているわけではない。BMWとフォルクスワーゲンの幹部は、EUの関税が中国に報復を強いることで裏目に出る可能性があると、5月8日に警告している(中国はBMWにとって2番目に大きな市場だ)。

また、メルセデス・ベンツのCEOであるオラ・ケレニウスは今年初め、ほかの自動車メーカーに競争を促すために、EUは中国製EVに対する関税を引き上げるのではなく、引き下げるべきだという見解を示した。開かれた市場のほうが、欧州企業の改善に拍車がかかる可能性がはるかに高いという主張である。【5月28日 WIRED】
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【トランプ氏は復権後のEUへの関税発動を予告】
EVに関しては欧州は関税をかける方ですが、前出の関税大好きトランプ前大統領は欧州製品への完全を予告していています。

*****EUは「大きな代償」払うことになる、トランプ氏が関税発動警告****
米大統領選共和党候補のトランプ前大統領は29日、自身が勝利すれば、米国製品の輸入が不十分な欧州連合(EU)は「大きな代償」を払わなければならなくなると述べ、関税の発動を警告した。

激戦州ペンシルベニアでの集会で「彼らはわれわれの車を買わない。われわれの農産物も買わない」と指摘。一方で「彼らは何百万台もの車を米国で売っている」と非難した。

トランプ氏は、全ての国からの輸入品に10%の関税を、中国からの輸入品には60%の関税を課すと宣言している。これらは世界中のサプライチェーン(供給網)に打撃を与え、報復措置を引き起こし、コストを引き上げる可能性が高いとエコノミストは警告している。【10月30日 ロイター】
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「彼らはわれわれの車を買わない。われわれの農産物も買わない」・・・それは、米国の車・農産物に魅力がないからでしょう。
「彼らは何百万台もの車を米国で売っている」・・・それは、欧州産の車に魅力があるからで、購入した結果、アメリカ人の何百万人が満足感を得ているということでしょう。

自国産を売りたいなら、国内市場を外国から守りたいなら、購入者をひきつけるだけの商品をつくるというのが本筋で、関税でどうこうしようというのは筋違いです。

【トランプ氏の関税引上げは平均的な米国の世帯に2600ドル以上多く費やさせる】
いずれにしても、かつてのグローバル経済の流れは、保護貿易主義的な関税政策に退行しつつあるようです。

****ノーベル経済学賞ジョンソン氏「トランプが提案する関税は富裕層への贈り物」*****
ドナルド・トランプ前大統領が提案した経済政策の中心は、米国に輸入されるすべての商品に対する大規模な追加関税である。トランプ氏は、関税は雇用を保護し、賃金を増やし、米国に新たな繁栄の時代をもたらすと主張している。明らかに自分が経済的万能薬を見つけたと確信して、彼は誇らしげに自らをタリフマン(関税男)と呼んでいる。

しかし、関税とは、輸入された商品(および輸入された原料を使って国内で生産される物)を購入する人びとに課される税についての、単なる気まぐれな呼び名であり、それゆえトランプ氏の提案は、すべての米国の世帯を圧迫し、特に低賃金の労働者に特別に過酷な影響を与えることになるだろう。

たとえこの関税が世界を自滅的な貿易戦争に陥らせるものではなくても、米国の貿易相手国は恐らく報復するだろう。そしてそれが、米国が成功し、高い生産性を持っている輸出部門で働くすべての者を傷つける。

トランプ氏は、(金融・ファイナンス分析などで知られる)米ペンシルベニア大学ウォートン校で学位を得ており、それゆえどのように関税が機能するかを知っているはずだ。一般の認めるところでは、彼は1968年に卒業したが、関税の分析は50年前には十分理解されていた。そして基本的事実は同じままなのだ。

関税を負担するのは誰か
キンバリー・クラウジング氏とメアリー・E・ラブリー氏は、税問題に関する世界の指導的専門家の二人であるが、トランプ氏が制定したい関税は、平均的な米国の世帯に2600ドル以上多く費やさせると見積もっている。(後略)【10月24日 日経ビジネス】
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アメリカが保護貿易的な傾向を強め、社会主義国中国が自由貿易のメリットを主張する・・・不思議な世界になってきました。

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