孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

モロッコ地震  旧宗主国フランスからの支援を受入れを渋るモロッコ 微妙な仏・モロッコ・アルジェ

2023-09-11 23:19:33 | 北アフリカ

(地震の後、がれきの中を歩いて避難する住民ら=モロッコ・マラケシュ郊外で2023年9月9日【9月10日 毎日】)

【「過去120年あまりで最大規模」 死者2100人超 更に増加する恐れ】
北アフリカ・モロッコ中部で8日深夜(日本時間9日朝)に発生したマグニチュード(M)6.8の地震で、内務省は9日深夜、死者が2012人、負傷者が2059人に上ったと発表しいています。しかし、被害の全容は分かっておらず、犠牲者は今後さらに増える可能性があります。

****死者2100人超に=「この世の終わり」「助けて」―山間部で救助難航か・モロッコ地震****
北アフリカのモロッコ中部で8日に起きた強い地震で、被災地では10日も懸命の救助活動が続いた。AFP通信によると、これまでに少なくとも2122人が死亡、2400人以上が負傷した。犠牲者はさらに増える恐れがある。被災者らは「われわれには助けが必要だ」と支援を求めた。

震源とみられる中部アルハウズ県などで住宅を含む建物が倒壊し、多数の死者が出ている。被害の大きい地域は山間部で、現地に入るルートの確保は容易ではない。救助活動は難航しているもようだ。モロッコ王室は9日、3日間の服喪を宣言した。

震源に近い町の男性はフランスのテレビに「石が落ちてきて、人の叫び声が聞こえた。何が起きたか分からなかった。この世の終わりだと思った」と地震の様子を語った。別の男性は「食べ物も飲み物も、住むところもない。誰も助けに来ない」と悲痛な表情を浮かべた。

中部の観光都市マラケシュでは、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界遺産に登録されている旧市街で建物に被害が出た。世界保健機関(WHO)の東地中海地域事務局は、X(旧ツイッター)に「マラケシュとその周辺で30万人以上に影響が出ている」と投稿した。

マラケシュや周辺地域では、地震に遭遇した外国人観光客らが住民と共に逃げ惑った。大勢の人々は余震や建物の倒壊を恐れ、夜間も路上で過ごした。

国際赤十字・赤新月社連盟(IFRC)の専門家は9日の声明で「人命救助は今後24〜48時間が極めて重要だ」と強調。救援活動は数カ月に及ぶとの見通しを示した。

米地質調査所(USGS)などによれば、震源はマラケシュから南西に約72キロ離れたアトラス山脈の山中。日本政府関係者によれば、邦人の被害情報は入っていない。

モロッコでは1960年の西部アガディール地震で1万2000人超が死亡した。今回はそれ以来の規模の被害になるとみられている。【9月11日 時事】 
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モロッコは、「世界最大の迷路」とも呼ばれるフェズの旧市街、「青の街」として有名なシャウエン、「南方の真珠」とも評され、屋台・大道芸などで活気あふれるマラケシュ旧市街、更にはサハラ砂漠観光等々、観光的には見どころが多い国で、日本でもおそらくアフリカではエジプトに次いでツアー観光客が多い国ではないでしょうか。

ですから常時一定数の日本人観光客も滞在していると思われますが、新婚旅行中のマラケシュのホテルで地震に遭遇し怖い体験をされた方などはいらっしゃるようですが、今回地震で被害にあわれた日本人は今のところは報告されていないようです。

地震の被害がおおきくなった理由は、「過去120年あまりで最大規模」(アメリカ地質調査所)という地震そのものの規模に加えて、深夜という時間帯、更に、建物の多くが耐震性を考慮していないものだったことなどがあげられます。

【難航する救助・支援活動 期待される国際支援】
いずれにしても、時間との勝負の救助活動ですが、途上国モロッコに大きな力があるとは残念ながら思えません。
しかも交通も寸断されている山間部の被害が大きいということで救助活動は難航しています。

支援にあっても、寝泊まりの場所・食料・水・電気など、すべてが不足していることが想像できます。

****モロッコ地震、食料や水などの確保に苦戦 各国が相次ぎ支援へ****
マグニチュード(M)6.8の地震発生から3日目を迎えた10日のモロッコの被災地域では、食料や水、避難場所をなかなか確保できない状況に置かれている。

震源地を含めて被害が大きかった場所の多くが山間部に位置し、たどり着くのに苦労するため救助活動も難航。国営テレビによると、これまでに死者は2122人、負傷者は2421人に達した。行方不明者の捜索は続いており、既に1960年以降に同国で起きた地震として最大となった死者数はさらに増える公算が大きいとみられる。

中部の都市マラケシュから南に40キロ離れたムーレイ・ブラヒム村では、被災した男性(36)が「われわれは何もかも、家も全て失った」と語り、まだ政府からほとんど支援が受けられないので水や食料、電力が不足していると訴えた。

こうした中でモロッコ政府は10日、被災者支援に充当する緊急予算を計上。救助チームの強化や水と食料、テント、毛布の配布に動きつつある。【9月11日 ロイター】
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こうした状況でスペインなどから救助隊も入って活動しています。

****モロッコ地震 死者2000人超 各国が救助隊を派遣****
これまで2000人以上が犠牲となるなど、甚大な被害が出ているモロッコで発生した地震で、各国が救助活動の支援に入りました。(中略)

救助活動が続くなか、スペインは軍の救助隊を派遣したほか、フランスやカタールなど各国が支援に入っています。

日本時間12日朝に生存率が急激に下がるとされる発生から72時間を迎えるため、迅速な活動が期待されています。【9月11日 テレ朝news】
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スペインはジブラルタル海峡をはさんで対岸。歴史的には19世紀からモロッコを侵略し、20世紀初頭にはジブラルタル海峡に近い北部リーフ地域はスペインの植民地となりました。

独立後の今でも、セウタとメリリャはスペインの飛び地となっています。

そうした地理的近さ、歴史的つながりもあってのスペイン救助隊の活動でしょう。

【歴史的経緯に加え今日的課題もあって、フランスからの支援受け入れに消極的なモロッコ】
一方、1912年フェズ条約で北部リーフ地域以外のモロッコ大部分を植民地としたのがフランス。
なお、フランス・スペイン以外にも、「列強」のドイツやイギリスもモロッコを狙っていました。 

映画「外人部隊」や「モロッコ」もこの植民地時代のモロッコが舞台。 「カサブランカ」は第2次大戦中のモロッコが舞台。
こうした映画で独特の印象があるモロッコですが、フランスにとっては良くも悪くも深い絆が。

そういう旧宗主国の立場として、フランスは国際救助・支援活動の中心にあってしかるべきところ。
実際、上記記事によれば一部支援はフランスからも入っているようですし、本格的支援活動についても、マクロン大統領は「準備は出来ている、あとはモロッコ側の判断次第」といった趣旨の発言をしています。

しかし今朝のTV報道によれば、モロッコ側はフランスからの支援受入れに消極的のようです。

****モロッコ・人道支援受け入れ・政治的駆け引き****
米国、中東諸国、ヨーロッパなど世界中の国が様々な支援を提案しているが、フランスを含む複数の国に対してモロッコ側が受け入れを渋っている。 マクロン大統領はムハンマド国王6世に文書を送っている。【9月11日 JCCテレビすべて】
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フランスとモロッコの間には、植民地時代からの「因縁」があるようです。昨年のサッカーWカップでも「因縁の対決」が話題になりました。

****歴史が生んだ因縁対決=フランスとモロッコ―W杯サッカー****
14日の準決勝で激突するフランスとモロッコには、歴史的な因縁がある。

フランスはモロッコの旧宗主国で、国内には多くのモロッコ系住民が暮らす。前回王者にダークホースが挑む構図となり、互いの意地がぶつかり合う熱戦になりそうだ。

フランスは1907年からモロッコに軍事侵攻を始め、12年に植民地化。モロッコはナショナリズム高揚などを背景に、激しい闘争を経て56年に独立を果たした。地理的な要因もあり、同国は今大会で破ったスペイン、ポルトガルに支配されていた歴史も併せ持つ。

今大会の準々決勝でフランスとモロッコがいずれも勝利した10日夜にはパリのシャンゼリゼ通りに約2万人が集まり、一部が暴徒化。当初は両チームのサポーターが平和的に喜びを分かち合っていたものの、警官隊に爆竹を投げ付けるなどし、70人以上が身柄を拘束される事態に発展した。

準決勝の日にはさらなる人出が予想され、再び混乱が起きる可能性もある。(後略)【2022年12月13日 時事】
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このあたりは日本と韓国の関係などを考えれば、ある程度想像できるところですが、同じフランス植民地だったアルジェリア・フランス関係に比べたら、モロッコ・フランス関係は悪くなかったとも。

両国の間には、植民地支配をめぐる歴史的経緯以外にも、フランスがモロッコなど北アフリカからの移民を制限していること、マクロン大統領の電話盗聴事件にモロッコが関与しているとされていること、更に西サハラ分離独立をめぐってモロッコと対立関係にある隣国アルジェリアとフランスの関係が改善されていることなど、今日的対立要因もあります。

なお、前出サッカーWカップ「因縁の対決」(勝負はフランスの勝利)直後に、フランスはモロッコに対するビザ発給制限撤廃を発表し、両国関係の緊張緩和を図っています。

****フランス、モロッコに対するビザ発給制限撤廃を発表****
フランスのカトリーヌ・コロナ外相は金曜日、モロッコ人に対するビザ発給制限を撤廃することを発表した。1年以上緊張状態が続いた両国の関係が改善の兆しを見せている。

コロナ外相は金曜日、モロッコの首都ラバトでモロッコのナセル・ブリタ外相と会談した後、「我々はパートナーとしてのモロッコとの間に領事関係を再確立するための措置をとった」と述べた。

フランスでは不法移民への対策を求める世論の圧力を受けて、昨年、アルジェリア、モロッコ、チュニジア国民へのビザ発給を制限することを発表した。フランス国内の不法滞在者の強制送還をこれらの国が拒否していることが理由とされている。

フランスに対しモロッコから見返りがあったかについては、直ちには明らかにされなかった。ブリタ外相は、フランスの制限撤廃は制限導入と同様に一方的な決定だったとしている。

フランスはモロッコに対し、同じ旧植民地であり東隣のアルジェリアよりも全般的に良好な関係を保ってきた。

しかし、2021年夏に、モロッコがスパイウェア「ペガサス」によりエマニュエル・マクロン大統領の携帯電話などを監視していた疑惑が報じられると、両国の関係は悪化した。モロッコはこの疑惑を否定し、「ペガサス」の保有についても否認している。

ビザ発給制限の撤廃は、サッカーワールドカップカタール大会準決勝でフランス対モロッコ戦が行われた2日後に発表された。(後略)【2022年12月17日 ARAB NEWS】
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【アルジェリアとの関係改善を図るマクロン仏大統領】
マクロン大統領は昨年8月にアルジェリアを訪問して、アルジェリア独立戦争の過去の清算に加えて資源確保のために関係改善を図っていますが、このことはアルジェリアと対立するモロッコにすれば「不快」な動きともなっています。

もともとフランスとアルジェリアの間には、植民地支配・独立戦争という「負の遺産」があります。
マクロン大領は過去の清算を行いたいようですが、アルジェリア指導部の抵抗で清算が進まない事態に苛立ちも。

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アルジェリアにおけるフランスの植民地支配の負の遺産から脱却したいというマクロン大統領の長年の願望と、彼が持つアルジェリア当局がそうした負の遺産に固執しているという印象と不満は、昨年大きな問題を引き起こし、今回の訪問にも影を落とすかもしれない。

選挙運動中にマクロン大統領は、アルジェリアの国民性はフランスの支配下で鍛えられたものであり、同国の指導者はフランスへの憎しみに基づいて独立闘争の歴史を書き換えてしまったと示唆したのだ。

その結果、アルジェリアはフランス大使を召還して協議し、領空をフランス機に対して閉鎖する事態となった。このため、サヘル地域(サハラ砂漠南縁部)でのフランスの軍事作戦の輸送ルートも複雑化した。【2022年8月25日 ARABNEWS】
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こうした状況を変えるべくなされたのが、昨年8月のマクロン大統領のアルジェリア訪問でした。

****フランス、アルジェリアと関係改善探る 中ロの接近警戒****
フランスのマクロン大統領は(2022年8月)27日、アルジェリアのテブン大統領とエネルギー分野の連携強化などを盛り込んだ共同声明に署名した。

中国、ロシアのアルジェリアへの接近を警戒し、旧宗主国として関係改善を模索する。天然ガス産出国のアルジェリアに欧州への供給増を働きかける狙いもある。

マクロン氏は25~27日にアルジェリアを訪問した。共同声明は「両国は新たな関係を始める」と明記し、天然ガスや水素分野などでの協力強化を宣言した。アルジェリアがフランスから独立した独立戦争(1954~62年)を巡り、歴史検証委員会を共同で立ち上げることでも合意した。

訪問の背景には、中ロのアルジェリア接近への危機感がある。中国は5月、アルジェリアと事業費4億9千万ドル(約670億円)の石油開発で合意した。

タス通信によると、ロシアとアルジェリアは11月「砂漠の盾2022」と名付けたテロ対策の軍事訓練を初めて共同で実施する予定だ。

米欧が主導する国際秩序に対抗するため、中ロはアフリカ大陸との関係強化を目指している。

一方の(アルジェリア大統領)テブン氏は7月末、メディアのインタビューに「(中ロなどでつくる)BRICSに興味を持っている。経済的にも政治的にも力を持っている」として参加に関心を示した。BRICSはウクライナ侵攻で孤立を深めるロシアが重視している。

仏・アルジェリア関係は独立戦争などを巡る長年のしこりがある。フランスが独立運動を激しく弾圧したことや、仏軍側に立って戦ったアルジェリア人「アルキ」を見捨てた過去があることが今も不信感につながっているためだ。

マクロン氏が2021年「フランスが植民地化する前にアルジェリアという国はあったのだろうか」「アルジェリアのシステムは疲弊している」などと発言したことも、関係悪化に拍車をかけた。

マクロン氏は今回の共同声明を関係修復に向けた一歩と位置付け、中ロとの接近を食い止めたい考えだ。アルジェリアでは広くフランス語が通じ、多くのアルジェリア移民がフランスに渡っている。経済面の協力をもとに関係改善を進めやすいとみている。

アルジェリア産天然ガスの欧州への供給増を求める狙いもある。ウクライナ危機に絡んでロシアが欧州連合(EU)への供給量を絞っており、欧州各国は代替の調達国を探す必要がある。

アルジェリアは主要天然ガスの主要産出国だ。EU統計局によると、20年にEUが輸入した天然ガスはロシア産(43%)、ノルウェー産(21%)に続きアルジェリア産が8%を占めた。パイプラインで供給を受けるイタリアやスペインの依存度が高いほか、フランスも自国の天然ガス需要の8~9%が液化天然ガス(LNG)で調達するアルジェリア産だ。

マクロン氏は26日、「EUが天然ガス調達国を多角化するのに貢献してくれている」と語った。アルジェリアがイタリアへのガス供給拡大を決めたことに謝意を示した。今回のアルジェリア訪問には仏エネルギー大手エンジーのカトリーヌ・マクレガー最高経営責任者(CEO)が同行しており、フランスへの供給についても働きかけがあった可能性がある。【2022年8月28日 日経】
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