(【2022年11月18日 YAHOO!ニュース】昨年11月 インドネシア・バリ島で開かれた主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)で習近平主席がカナダ・トルドー首相を“叱責”“説教”と報じられた場面)
【「中国vs.西側諸国」の構図 各国の事情で差異も】
中国に対する欧米諸国、いわゆる西側の対応ということでは、当然ながら国によってそれぞれ事情もあるので、そうした事情を反映した差異はありますが、大きな流れとしてはアメリカが主導する対立・警戒の枠組みの中にあります。
そのアメリカは、中国のロシアへの武器支援、台湾・南シナ海問題、貿易・関税の経済問題といったメインの問題はありますが、そこで大きく動くとのっぴきならない事態にもなりかねませんので、周辺部の気球とか、新型コロナ武漢研究所流出説とかが前面に出ているようにも。そして今ホットなところでは中国系動画投稿アプリ「TikTok」の法規制。そのあたりはまた別機会で。
欧州も基本的にはアメリカと足並みをそろえる形になっていますが、中国側は2月の中国外交トップの王毅氏の欧州歴訪にみるように、欧州の一部を中国の側に引き込めないかアプローチしています。
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米シンクタンク「ジャーマン・マーシャル財団」で欧中関係を専門するアンドリュー・スモール上級研究員は、「王氏の欧州歴訪には、明確なメッセージがあった。『中国と欧州の間には、特になんの問題もない。中国とアメリカの間には、問題がある。中国は欧州の皆さんと一緒に問題を解決できる。皆さんは、アメリカが欧州を連れて危険な道を突き進んでいると理解するべきだ』と、欧州に向けて強調していた」と話した。
「だが、このメッセージは欧州のほとんどの場所で、あまり支持されなかったと思う」と、スモール氏は指摘した。【2月26日 BBC】
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ただ、欧州委員会のフォンデアライエン委員長とEUのミシェル大統領が2023年上期に中国を訪問する可能性があるとか、マクロン仏大統領が4月初旬に中国を訪問すると明らかにしたとか・・・欧州側にも中国との関係を維持したい思惑があるようにも見えます。
一時期、中国の政治介入などで中国と険悪な関係に陥ったオーストラリアでは、最近は関係改善の動きがあります。
今日取り上げるのはカナダ。カナダは中国との対立が先鋭化しています。
【ファーウェイの孟晩舟氏拘束などで冷え込む中国・カナダ関係】
アメリカから詐欺罪などで起訴された華為技術(ファーウェイ)の孟晩舟最高財務責任者(CFO)が2018年12月にカナダで拘束されたこと、そのことへの報復と推測されるカナダ人2名の中国でのスパイ容疑での拘束など、ここ数年のカナダ・中国関係は冷え込んでいます。
人権を重視するカナダ・トルドー政権はウイグル族の問題でもアメリカ・欧州と足並みをそろえて中国への制裁を課しています。
昨年11月にも
“カナダの公共放送局が北京支局を閉鎖 中国政府からのビザが発行されず、“事実上の追放”と認識”【11月4日 ABEMA TIMES】
“カナダ政府が中国資本にレアアース企業からの撤退を要求―独メディア”【11月4日 レコードチャイナ】
“経済貿易問題の政治化をやめるようカナダ側に要請―中国商務部”【11月6日 レコードチャイナ】
といった状況。
そうした冷え込んでいる両国関係を象徴したのが昨年11月にインドネシアで開催された20か国・地域首脳会議(G20サミット)での習近平国家主席のカナダ・トルドー首相への“説教”の様子でした。
****習氏、カナダ首相に説教? 異例の振る舞い****
インドネシアで開催された20か国・地域首脳会議国家主席がカナダのジャスティン・トルドー首相を叱責する様子がカメラに捉えられた。首脳間のこうした言動が公になることはまれで、すでに冷え込んでいる両国関係が悪化する恐れもある。
G20サミット会場で16日に撮影された1分ほどの動画では、会談の詳細がメディアにリークされたことについて、習氏がトルドー氏に対して説教していたように見えた。
トルドー氏は15日の会談で、カナダ国民に対する中国の「干渉」があるとして議題にした。カナダ政府は先に、中国政府がカナダの民主主義や司法システムに介入していると非難していた。この日は両氏にとって2019年以来の直接会談だった。
16日の動画では、習氏は通訳を介してトルドー氏に「われわれが話したことは全て新聞にリークされている。不適切だ」と言い、「そうした形で議論がなされたわけではない」と続けた。
習氏はさらに「誠意があるなら、お互いを尊重する姿勢に基づいた対話ができる。さもなければ、予測不能な結果となるだろう」と警告した。
こう言って立ち去ろうとした習氏に、トルドー氏は「カナダでは、自由で開かれた、率直な対話が重んじられる。これからもそうした対話をしていく」と返し、「建設的に協力することを目指すが、相いれないこともある」と述べた。
習氏は手を上げて話を遮り、「条件を整えよう」と繰り返し、笑顔をつくると、トルドー氏とほとんど目を合わせずに握手をしてその場を立ち去った。
会話が撮影されていることに、習氏が気付いていたのか、またはいつ気付いたのかは分かっていない。
中国外務省は17日、両国首脳にとってこうした会話は「通常の」ものであり、「習近平(国家主席)が誰かを批判したり責めたりしていると解釈されるべきではない」として、火消しを図った。 【2022年11月17日 AFP】
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【2019年と21年のカナダ総選挙に中国が干渉した疑惑】
問題は、“説教”云々(「大国」中国に逆らう「小国」カナダごときへの習近平氏の苛立ちがあらわれた形にも見えますが)ではなく、そのもとになった両者の会談で議論された“中国政府がカナダの民主主義や司法システムに介入している”という件です。
今、カナダメディアが2019年と21年の総選挙に中国が干渉した疑惑を報じていることで、この問題が改めてクローズアップされています。
****カナダ外相、内政干渉を「決して容認せず」 中国外相に言明***
カナダのジョリー外相は3日、ニューデリーで開催された20カ国・地域(G20)外相会合に合わせて中国の秦剛外相と会談し、カナダはいかなる形の内政干渉も決して容認しないと言明した。
声明によると、ジョリー外相は秦外相に対し「直接的で断固かつ明白な」態度を示し、「カナダは中国による民主主義および内政へのいかなる形での干渉も決して容認しない」と述べたという。
また「われわれはカナダの領土保全および主権に対するいかなる侵害も決して受け入れない。中国の外交官によるカナダ国内でのウィーン条約違反も決して受け入れない」とした。
カナダ議会の委員会は2日、外国による選挙への干渉を巡る疑惑について正式に調査を開始するよう政府に求める決議案を可決。中国などが2019年と21年の総選挙に干渉しようとしたとの疑惑が浮上しているものの、中国の秦外相は「完全に虚偽でナンセンスだ」と否定した。【3月4日 ロイター】
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****カナダ首相、中国の選挙干渉疑惑で特別調査官任命へ****
カナダのトルドー首相は6日、中国による選挙干渉疑惑を調べる独立した特別調査官を任命する方針を明らかにした。外国による選挙干渉疑惑を巡る別の調査も発表した。
カナダメディアは2019年と21年の総選挙に中国が干渉した疑惑を報じている。
トルドー氏は特別調査官について、幅広い権限を持ち、干渉防止や民主主義強化について勧告を行うことになると述べた。
議会の安全保障委員会に外国の選挙干渉疑惑について調査を要請したことも明らかにした。
さらに、国内の安全保障機関が外国による干渉の脅威にどう対応したか調査するよう国家安全保障情報審査局(NSIRA)に要請する考えを示した。
トルドー氏は「これらの措置により、過去2回の選挙で何が起きたのか、外国政府がどのように干渉を試み、カナダの安全保障機関がどう対応し、政府内で情報がどのように流れたのか、理解を深めることができる」と述べた。【3月7日 ロイター】
カナダメディアは2019年と21年の総選挙に中国が干渉した疑惑を報じている。
トルドー氏は特別調査官について、幅広い権限を持ち、干渉防止や民主主義強化について勧告を行うことになると述べた。
議会の安全保障委員会に外国の選挙干渉疑惑について調査を要請したことも明らかにした。
さらに、国内の安全保障機関が外国による干渉の脅威にどう対応したか調査するよう国家安全保障情報審査局(NSIRA)に要請する考えを示した。
トルドー氏は「これらの措置により、過去2回の選挙で何が起きたのか、外国政府がどのように干渉を試み、カナダの安全保障機関がどう対応し、政府内で情報がどのように流れたのか、理解を深めることができる」と述べた。【3月7日 ロイター】
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中国が標的にしたのは関係が悪化している現政権与党の自由党ではなく、より対中国強硬派の野党保守党だったとのこと。しかも、国内政治バランスへの微妙なさじ加減も。
カナダ紙グローブ・アンド・メールは、中国は野党・保守党を嫌い、自由党政権が続くことを望む一方、カナダ国内で対立が続くことを重視し、自由党が少数与党にとどまることを目指したとする内容の記事を報じています。
****中国が選挙介入? 揺れるカナダ政界 デマや現金で工作か****
カナダで過去2回の総選挙に中国が介入し、中国に敵対的な政治家を落選させようとしたとの疑惑が浮上し、カナダ政界が揺れている。与
党・自由党政権のトルドー首相は6日、独立して疑惑を調べる特別調査官を近く任命すると表明した。ただ、対中強硬姿勢の野党はより広範な調査を求め、政権への批判を強めている。
トルドー氏は6日、「我々の民主主義を弱体化させようとする外国の試みを真剣に受け止めている」と表明。一方で、「これらは新たな問題ではない」と述べ、以前から中国だけでなくロシアやイランによる選挙への干渉の試みを認識し、政府として対策をとってきたことを強調した。
カナダ紙グローブ・アンド・メールなどは、カナダの情報機関の機密文書などをもとに、2019年と21年の総選挙で、中国が自国に敵対的な候補が落選するように働きかけをしたと報道。同紙は、中国本土からの移民が多い選挙区をターゲットにした偽情報キャンペーンや特定の候補への現金寄付があったなどと伝えた。
カナダ政府は、中国による選挙への介入の試みがあったことは認めているが、選挙結果を覆すような影響はなかったと強調している。
ただ、21年の総選挙で政権奪取に失敗した野党・保守党のポワリエーブル党首は特別調査官の任命について「真相解明のために真に独立した調査が必要だ」と述べ、より広範な調査を求めた。
グローブ・アンド・メールによると、中国は保守党など中国に敵対的な党の政治家が当選するのを阻止しようとしたが、同時に与党・自由党が大勝するのは望まず、中国外交関係者は「議会の政党が互いに争っているのが良い」と語ったという。21年の選挙では自由党は第1党は維持したものの単独過半数は確保できなかった。【3月8日 毎日】
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カナダ世論も中国への厳しい対応を求めています。
****カナダ人の多くが対中強硬姿勢を支持、「経済至上」が弱体化―カナダメディア****
カナダで行われた世論調査で、トルドー政権は中国に対してより強硬になるべきと考えている人が多いことが分かった。カナダ・グローバルニュースが1日付で伝えた。
2021年に行われたカナダ総選挙の投票結果を審査する独立グループが2月28日に発表した報告書では、「外国の干渉は自由で公正な選挙を行うカナダの能力を脅かすものではない」と結論付けられた一方、報告するレベルではないものの選挙に干渉しようとする者がいたと警告した。こうした指摘が相次いでいるものの、トルドー首相は政府としての調査を求める質問に対し明言を避けている。
そうした中、カナダの調査会社アンガス・リード・インスティテュートのShachi Kurl所長は「カナダ政府の過去数週間の反応は、大多数のカナダ人の見解とは異なるようだ」と指摘。同社が1日に発表した世論調査によると、「中国による干渉は選挙結果に影響を与えるほどではない」と報じられているにもかかわらず、それでもなお25%近く(保守党では42%)のカナダ人が21年の総選挙で自由党が政権を奪ったのは中国の介入によるものだと考えているという。
また、トルドー政権の対中政策について、特に国家安全保障や国防については自由党支持者も懸念しており、「自由党政権は中国に対抗することを恐れている」との回答は、自由党支持者で46%、新民主党支持者で62%、保守党支持者では91%に達し、全体では69%に上った。
中国に対抗することによる経済への影響を懸念する人の割合も46%と依然として高いが、Kurl氏によると1年前と比べて12ポイント低下しているという。
カナダは中国との貿易関係が良好で、昨年の中国からの輸入は初めて1000億ドルを超え、過去最高となった。ただ、カナダ政府は昨年発表した新しいインド太平洋戦略で、中国に対抗するために地域の他のパートナーを支持し中国との貿易や投資をさらに減らすとの方針を示唆した。
Kurl氏はカナダ人の中国での拘束や気球騒動が「経済至上」を主張する人々をさらに弱体化させており、「経済も重要だが主権、安全保障、国防も重要」と考える人が増えていると分析した。【3月2日 レコードチャイナ】
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【カナダの中国系議員】
「移民大国」カナダでは中国系カナダ人は2016年調査で約177万人、全人口の4.6%ほどですが、地域・都市によっては濃厚な中国系コミュニティを形成しています。
そうした中国系コミュニティを背景に、中国系議員も複数名当選しています。そのこと自体は問題ないのですが・・・
****カナダでなぜ中国系議員が増えているのか…北米で展開される「中国vs.民主主義」の構図****
(中略)
カナダ連邦下院選で8人の中国系候補が当選
中国からの移民が増えていること自体は、カナダだけの限った話ではない。カナダと他国の違いは、事態がさらに「先」に進んでいたことである。
多様性を重視する民主主義国家であるカナダにおいて、近年になり華人議員が増加していることだ。人口の5%近くを占める華人票を得ることで選出された議員たちは、カナダの各都市や各州、さらには連邦議会でも存在感を増しつつある。
2019年のカナダ連邦下院選に立候補した華人候補者は過去最多の41人にのぼり、そのうち8人が当選した(なお、2011年の選挙は華人候補者23人のうち7人当選、2015年の選挙では27人立候補のうち6人当選)。(中略)
なお、こうした華人議員たちの所属政党は、中道左派の与党・自由党が4人で、二大政党の一角をなす中道右派の野党・保守党が3人、左派の社会民主主義政党である新民主党が1人となっており、意外にも政治的立場はかなりバラバラだ。
だが、彼らの選挙区は、中国系住民が多いトロントがある東海岸のオンタリオ州と、バンクーバーやリッチモンドがある西海岸のブリティッシュコロンビア州に偏っている。
選挙を用いた浸透工作
マイノリティである中国系住民から多数の議員が誕生している現象それ自体は、カナダ社会の寛容性を示すものだ。
日本が100万人近い中国人人口を抱えているにもかかわらず、華人の議員がほぼいないことを考えれば(例外は立憲民主党の蓮舫氏くらいだ)、カナダのありかたは民主主義社会としては非常に健全だ。本来は称賛するべき話である。
しかし、他方で近年になり明白になりつつある「残念な真実」も存在する。カナダの華人議員の一部に、北京の中国政府と近い人物や、中国人のナショナリズムを煽り立てる人物が少なからず含まれていることだ。
たとえば、新民主党の下院議員で香港出身のジェニー・クワンをはじめ、オンタリオ州やブリティッシュコロンビア州の一部の中国系地方議員は、カナダの社会で南京大虐殺や慰安婦の問題を過剰に持ち出し、対日歴史問題に強硬なポーズを示すことで華人票を固める戦略を取っている。
同じカナダ華人といっても、移住時期や言語が大きく異なる人たちを、最大公約数的にまとめあげて票につなげるのに、「日本の中国侵略」や「祖籍国(中国)への愛」は、非常に使いやすいテーマとなるわけだ。
いっそう深刻なのは、2015年に中華人民共和国の出身者として史上初の下院議員に当選したゲン・タン(譚耕)のケースである。北京生まれ湖南省育ちの彼は、湖南大学を卒業後に中国で高級エンジニアとして働いてからトロントに留学、カナダで博士号を取得してそのまま定住した経歴を持つ。
ところが2018年1月、複数の現地メディアは、ゲンが中国人ビジネスマンの資金供与を受ける形で中国渡航をおこなったことや、中国大使館への口利きをおこなっていたこと、さらには下院議員当選後にしばしば中国に赴いて中国共産党員の政府関係者らと接触していたことなどを次々と報じた。
つまり、過去起こったオーストラリアの事例と似た問題が持ち上がったのだ。ゲンはこれらの報道を否定したものの、その後に別の個人的なスキャンダルが伝えられたこともあって、まだ50代後半と議員としては脂が乗った時期にもかかわらず、2019年の下院選には不出馬を表明している。
アメリカの緊密な同盟国かつ隣国にもかかわらず、アメリカよりもはるかに「ゆるい」カナダは、中国から見れば非常に貴重な浸透工作の対象だった。多様性を重んじる民主主義国家ゆえに、自分たちの手駒を国家の内部に送り込むことも容易だったのである。
とはいえ、近年はさすがに風向きが変わってきた。2018年12月に中国企業ファーウェイの孟晩舟副会長がバンクーバーで拘束されて以来、中国とカナダの関係は悪化している。(後略)【2021年5月25日 安田峰俊氏 WEB Voice】
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“過去起こったオーストラリアの事例と似た問題”ということで、一時期中国と険悪な関係に陥ったオーストラリアの方は、最近、オーストラリア・アルバニージー首相が訪中意欲を示すなど経済を中心に関係改善の兆しが見えています。
カナダの話が長くなってしまったので、オーストラリアの話は別機会に。
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