孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インド洋・南太平洋島しょ国で地政学的に注目される総選挙がふたつ モルディブとソロモン諸島

2024-04-24 23:37:50 | 国際情勢

(ソロモン諸島の遠隔地に投票箱を運ぶ支援をするニュージーランド軍の部隊【4月19日 ロイター】)

【インド洋のモルディブ 親中国の与党が圧勝】
世界各地で“勢力圏”維持・拡大を目指す大国間の綱引きが日々行われていますが、先週・今週はインド洋のモルディブ、南太平洋のソロモン諸島という島しょ国で注目される選挙が行われました。

いずれも小さな島国ではありますが、地政学的な重要性から、選挙結果が国際的に注目されています。

先ず、インド洋の島国、モルディブは伝統的に影響力を行使してきたインドと、近年進出が著し中国の争い。
選挙前の時点では、昨年末に就任した親中国派の大統領が駐留インド軍の撤退を求める一方で、議会は親インド派の野党が最大勢力でした。

****中国接近強める大統領就任後初の総選挙、モルディブ親中与党の過半数獲得が焦点…駐留インド軍は撤退始める****
インド洋の島嶼(とうしょ)国モルディブで21日、総選挙(一院制、定数93)の投票が行われた。中国への接近を強めるモハメド・ムイズ大統領が昨年11月に就任してから初の総選挙となる。少数与党だったムイズ氏率いる人民国民会議(PNC)が過半数を取れるかどうかが焦点だ。
 
モルディブはインド洋のシーレーン(海上交通路)の要衝で隣国インドや中国が選挙結果を注視している。
ムイズ氏は昨年秋の大統領選で「駐留する印軍の撤退」を掲げ、野党モルディブ民主党(MDP)を率いる親インドの現職を破って大統領に就任した。

1月には歴代大統領の慣例を破ってムイズ氏がインドより先に中国を訪れ、習近平シージンピン国家主席と経済面などでの連携強化を確認した。3月には、中国が無償でモルディブに軍事援助する内容の協定に両国が調印した。海洋監視などを担っていた印軍は3月に撤退を始めた。
 
改選前の最大勢力は42議席を持つMDPで、与党のPNCは16議席にとどまっていた。ムイズ氏の大統領就任後は、閣僚任命などを巡って国会が空転した。
 
モルディブでは中国の融資によるインフラ(社会基盤)整備が進む。PNCは単独過半数を獲得し、事業を加速させたい考えだ。ただ、ムイズ氏を支持してきた大統領経験者が昨年11月に新党を設立したため、PNCの思惑通りにならないとの見方がある。【4月22日 読売】
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結果は・・・親中国派の与党が3分の2超の議席を獲得する圧勝でした。
中国支援によるインフラ開発の利益に対する国民期待が大きかったと指摘されています。

****モルディブ総選挙、親中大統領率いる与党が大勝…インフラ整備で対中債務が膨張する懸念も****
インド洋の島国モルディブで21日に投開票された総選挙(一院制、定数93)で、親中国のモハメド・ムイズ大統領が率いる与党・人民国民会議(PNC)が単独で3分の2超の議席を獲得し、大勝した。複数の地元メディアが22日報じた。対中接近がさらに進みそうだ。
 
地元メディアは、少数与党だったPNCが改選前の4倍超の65議席以上を獲得すると報じた。一方、親インドの野党モルディブ民主党は11〜13議席にとどまり、改選前の3分の1を割り込む見通しだ。
 
ムイズ氏は、中国に接近した2013〜18年のアブドラ・ヤミーン政権でインフラ(社会資本)整備の担当閣僚を務め、中国の融資を受けて首都マレと空港島を結ぶ橋や、首都周辺の高層住宅の建設を主導した。今回の選挙戦でもPNCはインフラ整備推進を掲げており、外交筋は「政権が約束する開発の利益実現を国民が期待したのではないか」と分析する。
 
ただし、中国の融資でインフラ整備がさらに加速した場合、債務の膨張が懸念される。モルディブは今年2月、国際通貨基金(IMF)に「大幅な政策変更がなければ、対外債務に窮するリスクを今後も抱えるだろう」と警告を受けた。
 
インドの影響力はさらに低下しそうだ。昨年の大統領選でムイズ氏が掲げた公約に従い、海洋監視などのためにモルディブに駐留していたインド軍の撤退が進んでいる。インド洋の安全保障の観点からインドはモルディブを重視しており、主要紙タイムズ・オブ・インディアは「モルディブがさらにインドから離れる」と危機感を示した。
 
一方、中国外務省報道官は22日の記者会見で「モルディブの人々の選択を尊重し、各領域における交流や協力を拡大させる努力をする」と述べ、ムイズ政権との関係強化の方針を示した。【4月22日 読売】
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【南太平洋のソロモン諸島 与野党ともに過半数獲得できず連立協議が焦点に】
南太平洋のソロモン諸島は旧日本軍が攻防戦を戦ったガダルカナル島を中心とした島しょ国ですが、近年は台湾と断交した親中国派の首相のもとで中国と安全保障協定を結び、中国の南太平洋島しょ国への進出のモデル事例・橋頭保ともなっています。

一方、中国に対抗してこの地域での影響力維持拡大を目指すアメリカ・オーストラリアは、ソロモン諸島が中国の軍事拠点となるのではないかと警戒を強めています。

****ソロモン諸島で総選挙の投票始まる 台湾と断交し中国と関係深める“現政権継続か”が最大の焦点に****
南太平洋の島国、ソロモン諸島で17日、総選挙の投票が始まりました。台湾と断交して中国との関係を深める現政権が継続するかが最大の焦点です。

オーストラリアの北東、およそ1600キロに位置する人口70万人あまりのソロモン諸島で現地時間の朝7時、総選挙の投票が始まりました。

前回、2019年の総選挙で、4度目の首相に就任したソガバレ氏はその年に、台湾と断交して中国との国交を樹立。中国資本による開発を急ピッチで進めるなど、経済的な結びつきを強めています。

また、2022年には中国と安全保障協定を締結し、安全保障の分野でも関係を強化していて、ソロモン諸島に近いオーストラリアなど西側諸国は、中国の軍事拠点ができるのではと警戒しています。

ロイター通信によりますと、ソガバレ氏はソロモン諸島では前例のない2期連続での政権運営を目指し、親中路線を継続する姿勢を鮮明にしています。

一方の主要野党は、ソガバレ政権が過度に中国に依存していると批判し、中国との安全保障協定の破棄など関係見直しを訴えています。

南太平洋の島国では今年、ナウルが台湾と断交して中国と国交を樹立するなど、中国の影響力が強まっています。オーストラリアメディアは、今回のソロモン総選挙は「南太平洋地域の将来を左右する可能性がある」とも指摘しています。

総選挙の結果が判明するのには1週間程度かかるとみられ、新政権の発足は、来月初旬ごろになる見通しです。【4月17日 日テレNEWS】
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こちらの結果は、親中国路線の与党は過半数を失いましたが、野党も単独過半数には至らず、連立協議が注目されています。親中派のソガバレ首相は議席を維持しています。

****ソロモン 親中ソガバレ大統領派は過半数確保できず 議会選結果確定 連立協議へ****
南太平洋のソロモン諸島で24日、議会(定数50)選挙の結果が確定した。親中派のソガバレ首相が率いる与党OUR党の獲得議席は15にとどまった。単独で過半数の議席を確保した政党はなく、与野党の連立協議が始まった。

急速な中国接近を進めるソガバレ氏が続投するかが焦点で、米国や中国、オーストラリアが協議の行方を注視している。

選挙は17日に行われた。地元メディアによると、野党連合が13議席、別の野党の統一党が7議席を獲得した。このほか、少数政党や無所属候補が15人当選しており、各党が取り込みを進めている。

選挙戦でソガバレ氏は中国支援によるインフラ整備を政権の実績としてアピールしたが、中国接近に反発する一部有権者が野党支持に回ったようだ。議会選と同時に行われた地方議会選挙では親中派として知られた東部マライタ州首相、フィニ氏が落選した。

ソガバレ氏は2019年の前回選挙で4度目の首相に就任。同年、台湾と断交し中国と国交を樹立した。22年には中国軍の寄港を可能とする安全保障協定を結ぶなど、急速に中国との関係を深めた。

連立協議について米ブルームバーグ通信は「ソガバレ氏が敗れれば、中国の太平洋における戦略的野心を後退させるだろう」と指摘した。【4月24日 産経】
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【激化する南太平洋島しょ国をめぐる米豪・中国のせめぎ合い】
こうした状況を睨みつつ、南太平洋パプアニューギニアを訪れた中国の王毅外相は、南太平洋地域は大国間の対立の場となるべきではないとも発言しています。

****南太平洋地域、大国間の対立の場となるべきではない=中国外相****
南太平洋パプアニューギニアを訪れた中国の王毅外相は20日、南太平洋地域は大国間の対立の場となるべきではなく、域内の国々への支援に政治的条件はないと述べた。

パプア外相との共同記者会見で「中国の南太平洋島しょ国への関与と協力は地政学的な利己心を排し、共通の発展を達成するための相互支援・援助に尽くしている」と語った。

その上で、中国はパプアとハイレベルの交流を維持し、自由貿易協定の交渉をできるだけ早く開始する用意があるとした。

また、中国国営の新華社通信によると、王氏は全ての当事者が太平洋島しょ国ソロモン諸島の人々の選択を尊重し、内政干渉を控えるべきだと述べた。(後略)【4月22日 ロイター】
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もちろん外交的建前であり、米豪からすれば「対立を持ち込んでいるのは中国だ」という話にもなります。

****中国は「要衝」島嶼国の取り込み注力 米国とのせめぎ合い激化****
中国の習近平政権は太平洋島嶼(とうしょ)国の取り込みに力を入れている。経済力を背景に台湾と外交関係を持つ国の切り崩しを進めているほか、治安維持部門の協力をテコに影響力拡大を図っている。

南太平洋は海上交通路(シーレーン)の要衝であり、米国とのせめぎ合いも激しくなっている。

1月、ナウルが台湾との外交関係を解消して中国と国交を樹立した。同月の台湾の総統選では、中国が「台湾独立派」と敵視する民主進歩党の頼清徳副総統が当選しており、民進党政権への圧力の一環とみられる。

1月にはツバルの総選挙でナタノ首相が落選した。在任中は台湾との外交関係を続ける姿勢を堅持しており、ツバルの新政権の動向に注目が集まる。19年にはソロモン諸島とキリバスが相次いで台湾と断交し、中国と国交を結んでいる。

中国は昨年2月、太平洋島嶼国担当の特使を新設し、18年から駐フィジー大使を務めた銭波氏を任命した。太平洋地域での経済、軍事的な影響力を拡大させることにつなげる狙いがある。

今年1月にはパプアニューギニアが中国と警察協力について交渉中であることが明らかになった。ソロモンは22年に中国軍駐留を可能とする安全保障協定を締結しており、中国は他の島嶼国にも同様の協定を結ぶよう打診している。

中国にとって同地域は戦略的に重要な意味を持つ。台湾有事の際に米海軍の接近を阻止する防衛ライン「第2列島線」上に位置するためだ。ハワイやグアムの米軍基地をにらんだ戦略的拠点を確保する狙いもある。

米国にとっても戦略上の要衝であり、中国の影響拡大を阻止するための対応を進めている。米国は22年に島嶼国との第1回首脳会議を開き、安全保障面などで連携を強化する「太平洋パートナーシップ戦略」を発表。23年にソロモンとトンガに大使館を開設するなど関与を強化してきた。【2月8日 産経】
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パプアニューギニアのトカチェンコ外相は2月7日、「われわれが中国と安全保障協定を結ぶ手続きを前に進めることは絶対にない」と述べています。トカチェンコ氏は1月末、中国から安保協力の提案があったことを認めていましたが、協定締結を明確に否定した形となっています。【2月7日 時事より】

前出の王毅外相のパプアニューギニア訪問は、こうした動きを踏まえたものでもあります。

【中国が進める警察協力】
経済支援と並行して中国が進めるのが警察協力。

ソロモン諸島は22年に中国と安全保障協定、23年に警察協力協定を締結し、中国から財政支援を受けています。
バヌアツにも23年に中国が警察の専門家グループを派遣。警察物資を提供し、警察の能力向上やインフラ整備について協議しています。

****キリバスで中国警察が活動、米国務省が懸念表明****
米国務省報道官は26日、太平洋島しょ国が中国の警察から支援を受けることに懸念を示した。

ロイターは先週、太平洋島しょ国のキリバスで中国の警察官が現地の警察とともに活動していると報道。中国の警察官が地域の警備や犯罪データベースプログラムに関与している。

同報道官はこの報道について「中華人民共和国から警察隊を受け入れることが太平洋島しょ国の助けになるとは思えない。むしろ、地域の緊張や国際的な緊張をあおるリスクがある」と発言。

世界各地への警察署の開設など、中国の「国境を越えた弾圧の取り組み」を容認しないとし「中華人民共和国との安全保障協定や安保関連のサイバー協力が、太平洋島しょ国の自治に及ぼす潜在的な影響を懸念している」と述べた。

キリバスはハワイに比較的近く、太平洋で350万平方キロメートル以上の排他的経済水域(EEZ)を有するため戦略的に重要な国家と見なされており、日本の衛星追尾用のレーダーステーションもある。【2月27日 ロイター】
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****中国、トンガにサミット警備支援申し出 「勢力圏拡大には関心なし」****
中国は12日、南太平洋の島国トンガに対し、同国で8月26日に開催される太平洋諸島フォーラム首脳会議(サミット)の警備支援を申し出たと明らかにする一方、南太平洋での中国の影響力をめぐる西側諸国からの懸念を一蹴し、「勢力圏拡大に関心はない」と主張した。

人口11万人に満たないトンガは、サミット開催には支援が必要だと訴えている。だが、西側諸国は、特に安全保障を中心に南太平洋での中国の影響力拡大を懸念している。

在トンガ中国大使館はAFPの取材に対し、トンガ警察がサミットに対応できるよう、バイク20台と「車列警護訓練」の提供を申し出たと述べた。

さらに、「中国は地政学的競争や、いわゆる『勢力圏拡大』には関心がない」とし、中国はトンガの主権と独立を「全面的に尊重」していると説明。支援を希望する他の国々とも喜んで協力すると補足した。 【4月13日 AFP】
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一方フィジーでは、軍事クーデターで実権を掌握した前政権とオーストラリアやニュージーランドとの関係が悪化し、前政権は中国と接近、2011年には中国と警察協力協定を結び、中国の警官派遣を受け入れ、フィジーの警官を中国で訓練させるなどしてきました。

しかし、2022年12月の総選挙結果を受けて首相に就任したランブカ首相は中国との関係の見直しを進め、今年3月末、自国に駐在する中国人警察官を中国に送還したことを明らかにしています。

中国・王毅外相の「地政学的な利己心を排し、共通の発展を達成するための相互支援・援助に尽くしている」という建前と裏腹に、米豪との勢力争い、台湾排除をめぐって熾烈な争いが続いています。

米豪・中国といった「大国」にすれば、島しょ国のような経済的に困難な「小国」はオセロの石のようにひっくり返しやすいという話もあるのでしょう。

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