(食料や日用品をつかもうとする難民や移民 ギリシャ・イドメニにあった難民キャンプで 【6月9日 AFP】)
【「巨大な墓場」と化す地中海】
これまでも何回も取り上げてきた欧州へ難民・移民が押し寄せている問題。
トルコからギリシャへ渡るバルカンルートの事実上の閉鎖によって、より危険なリビアからイタリアを目指す地中海ルートに中心が移り、犠牲者は増え続けています。
*****14年以降の難民死者1万人超=地中海でボート転覆―国連*****
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は7日、中東やアフリカの難民らが欧州を目指して地中海をボートで渡る動きが強まった2014年以降に、地中海で命を落とした難民らが1万人を超えたことを明らかにした。
犠牲者は14年が3500人、15年が3771人。今年はこのところ急増し、2814人に上っている。UNHCR報道官はAFP通信に「極めて憂慮すべき事態だ」と述べ、国際社会に速やかな対応を訴えた。
昨年渡航が目立ったトルコからギリシャへのルートは、欧州連合(EU)とトルコの3月の対策合意により利用が激減。一方で、リビアからイタリアを目指す動きが活発化し、ボートの転覆事故も相次いでいる。【6月7日 時事】
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****リビア海岸に117遺体、難民漂着か 無人ボートも発見****
リビア北西部ズワラの海岸で2日から3日にかけて、欧州を目指していた難民とみられる117人の遺体が見つかった。リビア赤新月社の報道担当者が3日明らかにした。AP通信などが伝えた。
117人のうち75人が女性、6人が子どもだった。救命胴衣は着けておらず、多くがアフリカ出身者とみられる。リビア海軍によると、沿岸警備艇が2日、無人のボートが漂流しているのを見つけていた。
リビア・イタリア間の地中海では5月下旬に密航船の転覆事故が相次ぎ、難民や移民の計700人以上が死亡した恐れがでていた。
一方、ギリシャのクレタ島沖でも3日、難民や移民を乗せたボートが沈み、少なくとも9人が死亡した。350人が救出されたが、数百人が行方不明となっている。【6月4日 朝日】
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痛ましいとしか言いようがない状況ですが、“地中海で命を落とした難民らが1万人を超えた”というのは改めて考えると、想像を絶するような数字です。
ローマ法王が2014年11月の演説で危惧したように、地中海は“巨大な墓場”と化しつつあります。
【欧州各国で強まる「反難民・移民」の動き】
一方、受け入れ側の欧州各国では大量の難民らの流入への不安から、これを拒絶する方向での国民世論が高まり、国境を閉ざし、難民らを排斥するような主張の政治勢力が各国で勢いを増していることも何回も取り上げてきたところです。
元来、難民受け入れに好意的だったオーストリアでは極右「自由党」候補が大統領選挙であと一歩に迫るまでに変貌しています。
東欧諸国では難民分担受け入れ計画にへの反対が強く、3月行われたスロバキアの選挙では、各政党が「反移民」を争う状況で、与党の中道左派「スメル」も「反移民」を掲げて「スロバキアを守る」をスローガンに選挙戦を戦いなんとか第1党を維持しました。この選挙で極右政党も初めての議席を獲得しています。
ポーランドの右派政党「法と正義」は昨年、中東などから流入する難民・移民の受け入れに反対して支持率を上げ、同10月の上下両院選挙で過半数を獲得し、8年ぶりに政権に返り咲いています。
ハンガリーでは政権与党の中道右派「フィデス・ハンガリー市民連盟」によって、「反移民」を超えて、西欧的価値観を否定するような国家主義的体制づくりが進んでいます。
難民・移民を積極的に受け入れてきた北欧諸国も、域内での移動の自由を定める「シェンゲン協定」参加国として廃止していた出入国審査を復活する国が相次ぎ、難民審査の厳格化が目立っています。
昨年の難民申請者が16万人以上に上ったスウェーデンは昨年11月に出入国審査を復活させ、更に、1月27日、難民申請者8万人を国外退去にすることも発表されています。
このように政府自身が移民対策を強化したのを受けて、極右政党である「スウェーデン民主党」の支持率は若干低下したとも。
フィンランドも1月末、昨年の難民申請者約3万2000人のうち約2万人を国外退去させる方針を、ノルウェーも、ロシア経由で入国した約5000人をロシア側に送り返す方針を打ち出しているます。
デンマーク議会は、滞在経費を一部負担させることで、難民流入を抑えようという狙いから、1万デンマーククローネ(約17万円)を超える価値の金品を持つ人から超過分を徴収する法案を1月下旬に可決していますが、ナチス・ドイツがユダヤ人に対して行った財産没収をほうふつさせるという指摘も上がっているます。
西欧の中核フランスでも、マリーヌ・ルペン氏率いる極右政党「国民戦線」がかねてより勢力を拡大していますが、難民問題はこうした極右政党にとって追い風となると思われます。
5月に行われた世論調査でも、大統領選第1回投票における支持率では、マリーヌ・ルペン党首の支持率が28%と、極めて高い水準に達していおり、決選投票に残る位置につけています。
ただ、ひと頃の決選投票でも勝利するのでは・・・という勢いでもないようにも見えます。
中東やアフリカからの難民や移民らが公園や高架下などで過ごす姿が目立っいるパリでは、5月31日に社会党のアンヌ・イダルゴ市長が「人道的に支援する」「パリが何もしないでいるわけにはいかない」と、「できるだけ早期」のキャンプ設置を表明しています。「反難民・移民」の流れへの抵抗・異議申し立てにも見えます。
【ドイツでも反イスラムや難民流入阻止を掲げる新興政党が台頭】
各国の「反難民・移民」の動きを挙げていくときりがない状況ですが、欧州全体への影響が一番大きいのは、メルケル首相が難民受け入れ策を進めてきたドイツの動向でしょう。
ドイツでも、反イスラムや難民流入阻止を掲げる新興政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が台頭しています。
****独でも「トランプ現象」 排外的主張の新党、国政うかがう 党首・ペトリ氏****
ドイツで反イスラムや難民流入阻止を掲げる新興政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の勢いが止まらない。地方選挙での躍進を追い風に、来秋の総選挙で国政進出をうかがう。
党首で「ドイツのトランプ」とも呼ばれるフラウケ・ペトリ氏(41)に、その主張を聞いた。
「日本の新聞が、なぜ私たち小政党に興味を?」
旧東独の古都ドレスデンで5月上旬に取材に応じたペトリ氏は、英国留学仕込みの流暢(りゅうちょう)な英語で尋ねてきた。穏やかな口調で、笑顔を絶やさない。
だが、AfDが5月1日の党大会で発表した基本綱領には、過激な主張がずらりと並んだ。最たるものが「反イスラム」だ。女性が顔をベールで隠したり、モスクから礼拝を呼びかけたりするイスラム教徒の習慣の国内での禁止を求めた。
ドイツ国内のイスラム教徒は約400万人で、全人口の約5%を占める。それでもペトリ氏は「『アラブの春』を境に、イスラム教徒の宗教理念は(過激な方向に)変わりつつある。イスラム化が進めば、ドイツの人々が慣れ親しんできた民主主義の下で暮らしていけなくなる」と言い切る。
昨年、約110万人がドイツに流入した難民問題についても「高技能を持つ人々」は歓迎するが、それ以外の受け入れは制限するべきだとの考えを示した。
他の政党やメディアはAfDが有権者の関心に応じて主張を変え、危機感をあおる「ポピュリスト政党」だと批判する。だが、ペトリ氏はそうした批判を受けつけない。「有権者に耳を傾けてもらうために独特な存在になるのは、政党として極めて自然なことだ。ポピュリスト的な手法が間違いとは思っていない」(中略)
攻撃の矛先は、ドイツの「歴史教育」にも向かう。(中略)ペトリ氏は「現在の歴史教育の重点は、ナチス台頭などの狭い時期に集中しすぎ」と批判。1871年のドイツ帝国成立などを挙げ、「(歴史の負の側面だけでなく)ドイツ人のアイデンティティー形成に貢献した出来事にもっと注目すべきだ」と訴える。
戦後のドイツが取り組んできた「過去の克服」についても「責任は後世に引き継がれても、罪は違う。混同すべきでない」と言う。
■ソフトさも強調
「我々は国民政党だ」。5月の党大会でペトリ氏は、将来的に政権参加を目指す意欲を示した。
ドイツではナチス台頭への反省から、過激思想への拒絶反応が強いが、それは薄れつつあるようだ。5月4日発表の世論調査でAfDの支持率は15%。メルケル首相の与党キリスト教民主・社会同盟(33%)には及ばないが、大連立を組む中道左派の社会民主党(20%)に迫る勢いだ。
AfDの戦略は、表向きソフトな印象を強調しながら、政府を徹底して批判することだといわれる。メルケル氏がイスラム教を「ドイツの一部」と強調すれば、AfDは「イスラム教徒はドイツに属さない」という正反対のスローガンを掲げた。既成政党への批判を徐々に吸収し、支持を拡大してきた。
AfD研究者で独ジャーナリストのセバスチャン・フリードリヒ氏は「創設時は比較的、高所得・高学歴の層に支持者が多かったが、最近は労働者階級や失業者にも広げている。今後、民族主義的な色彩が強まる」とみる。
ベルリン自由大学のパウル・ノルテ教授は「AfDの政権入りは、まずないと思うが、人々の不満を吸収して勢いを増せば、政権も無視できなくなる恐れがある」と指摘する。(後略)【6月7日 朝日】
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昨年末のケルンで起きた多数の女性への暴行事件のように、ドイツにおける移民らの犯罪が多く発生している事実もあって、反移民グループへの追い風となっています。
****ドイツでの移民による犯罪、1─3月は6万9000件発生=警察****
ドイツ連邦刑事局(BKA)の発表によると、2016年第1・四半期に同国で発生した移民による犯罪(未遂を含む)は約6万9000件に上ったことがわかった。メルケル独首相が進める開放的な移民政策への不安をかき立て、反移民グループが勢いづく可能性がある。
昨年はドイツに過去最高の100万人超の移民が流入し、彼らをいかに社会に溶け込ませ、安全性を確保するかという懸念が広がっていた。
BKAによると、容疑者のうち北アフリカ、ジョージア、セルビアの出身者が、移民の中での割合以上に目立ったという。
一方、難民申請件数で上位を占めるシリア、アフガニスタン、イラク出身者による犯罪は、絶対的な件数は多いものの「移民の中の割合からすると明らかに発生率が低い」とされた。(中略)
実際の犯罪と犯罪未遂の内訳や、第1・四半期に国内で起きた犯罪件数全体(未遂を含む)のうち6万9000件がどれほどの割合に相当するのかは示されなかった。
ただ、移民が犯罪を行った件数は1月から3月の間に18%以上減少したと報告された。(後略)【6月8日 ロイター】
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単に「移民がまた犯罪をおかした」と煽るだけでなく、移民以外のグループに比べて突出して多いのか、増加傾向なのか減少傾向なのか、仮に移民らの犯罪が多いとしたらそれはどういう要因によるものなのか、対応策は講じられているのか・・・等々、冷静に判断すべき問題かと思います。
それにしても、移民排斥の傾向はドイツ社会に深く染み込みつつあるように見えます。一方で、そうした流れを批判する動きもあって、両者がせめぎあっています。
****多民族チームに変貌したサッカー独代表 右派政党の“排斥”発言が論争に****
サッカーの欧州選手権が6月10日からフランスで開催されます。12大会連続で出場するドイツ代表は、今回も優勝候補に挙げられていますが、代表メンバーのアフリカ系の選手やイスラム教徒の選手に対して、国内の右派政党の関係者が「ドイツ的でない」とコメントしたことが大きな論争に発展しました。右派政党関係者による代表選手バッシングとはどういったものだったのでしょうか?
「隣人としては迎え入れたくない」
かつては白人ばかりだったドイツ代表。現在では「多民族国家ドイツ」を象徴するように、さまざまな移民系選手が選出されています。
長年にわたってディフェンスの要として活躍し、今回の欧州選手権でも活躍が期待されるジェローム・ボアテング選手はベルリン生まれですが、アフリカのガーナにルーツを持つ選手です。
ファンからの人気も高いボアテング選手に対し、ドイツの右派政党「ドイツのための選択肢(AfD)」のアレクサンダー・ガウランド副党首が5月29日にドイツメディアのインタビューの中で、「ドイツ人は選手としてのボアテングを称賛するが、隣人としては迎え入れたくないはずだ」と発言。
この発言に対して、ドイツ中から非難の声が湧き上がり、メルケル首相の広報官も「品性のない発言だ」との声明を発表。間もなくして、フラウケ・ペトリー党首がツイッターで謝罪しています。
ガウランド氏の発言がメディアによって伝えられた5月29日、ドイツ代表は南部アウグスブルグにスロバキア代表を迎え親善試合を行いましたが、スタジアムに集まった多くのファンが「ボアテング、ぜひ我々のお隣さんになってください」と書かれた横断幕を持ち、ボアテング選手を支持しました。(中略)
欧州に広がる右派の台頭、ドイツでも
サッカーの代表選手のアイデンティティをめぐる発言が右派政党の関係者から出たこともあり、ドイツにおける「他者に対する不寛容さ」がクローズアップされましたが、難民受け入れ問題や近隣諸国でのテロ事件の影響で、右派政党の主張に共感するドイツ人が増えてきたことも事実です。
ドレスデンに本部を置き、ドイツ各地でイスラム教徒の移民受け入れに反対するデモを繰り返す反イスラム団体「ペギーダ」は、パリの事件後にSNSを中心にメルケル政権の移民・難民政策を激しく非難。2014年にはペギーダ主催の反イスラム集会の参加者はわずか数百人でしたが、最近では1万人を超える集会も珍しくなくなりました。(後略)【6月9日 PAGE】
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【“地獄から逃れてきた人々が、地獄のような環境で暮らしている”】
最後に、ギリシャのマケドニア国境に足止めされている難民の状況について。
ギリシャ当局は先月末、下記記事のイドメニにあったキャンプを閉鎖し、収容されていた約8400人は国内各地の収容施設に移っています。
****ギリシャとマケドニアの国境で正気を失う難民たち****
ギリシャとマケドニアの国境で何か月間も足止めされている難民たちを見ていて衝撃的なのは、彼らが正気を失い始めていることだ。(中略)
ここには現在、約1万1000人が滞在している。トルコからギリシャに渡ってバルカン半島を北上する移民や難民らを阻止するために各国が国境を閉鎖した結果、ここで多くの人々が足止めされている。過去1年ほどで、シリアやイラク、アフガニスタンなどから戦争や貧困を逃れてきた何十万人もがこのルートを通って、欧州へ渡って行ったのだが。
多くの場所で難民危機を取材したが、どこもそれぞれ違っていた。ここの場合は、皆が絶望に打ちひしがれている。彼らは戦禍を逃れ、子どもを抱えて危険な旅をしてきた。だが欧州にたどり着いたのに、祖国と変わらぬ状況に置かれているのだ。欧州への門は閉ざされ、明日が見えない日々。なかにはここに2、3か月滞在している人たちもいる。ただ待ち続けるだけ。その先に何があるのかは分からない。欧州に入れるのだろうか? トルコへ帰されるのだろうか? 祖国に強制送還されるのだろうか?
そして彼らは正気を失っていく。彼らに何ができるだろう? そのような状況に置かれたら、誰だって気がおかしくなる。彼らの行動は日に日に変わっていく。(中略)
ここの難民キャンプの暗い雰囲気は、覆いかぶさってくるというより、重くのしかかってくる。
加えて、劣悪な住環境がある。このひどさを言葉でどう表現したらいいか分からないほどだ。過去5年間、内戦状態にあるシリアの避難民キャンプと変わらない過酷さだ。
まず、ひどい臭いに襲われる。トイレと体臭が混ざった臭いだ。人々はトイレのそばで寝食をして生活している。トイレの中で寝て食べて生活しているとも言えるだろう。ほかに何と表現することができるだろう? シャワーも足りないし、手を洗う場所も足りない。水も十分にない。これ以上、言いようがない。(中略)
彼らはまるで家畜のような生活をしている。彼らを軽蔑する意味でこんなことを言っているのではない。欧州に到達したのに、いまだ内戦下のシリアにいるような生活をしているという現状を指摘したのだ。
そんな状況でも、彼らには日常がある。それを日常と呼ぶのがふさわしいかは分からないが、彼らは非政府組織(NGO)が配給する食料を求めて列から列へと並び、与えられたものを食べる。
食べて寝るよりほかに、やることは何もない。ただ待つだけだ。そんな生活を想像できるだろうか? あらゆる犠牲を払ってここまで来たのに、自分の夢や希望がゆっくりと少しずつ失われていくのを目の当たりにする以外、文字通り1日中、何もすることがないのだ。これからどうなるのか、先もまったく見えないのだ。(中略)
この難民キャンプの中での暮らしがどんなものか──私の友人で、シリアから逃れてきたクルド人女性の場合はこうだ。(中略)彼女が食料配給の列に並びに行くと、人々が食べ物をめぐって争い、殴り合っていたという。
私はこれまで生きてきて、食べ物のために人を殴ったことなんかない。私にはそんなことできない。こういう場所であっても、食べ物のために人を押しのけるなんてできない」と、彼女は私に言った。だから彼女は、食料がもらえなかったときは何日間も食べずに過ごす。これがキャンプ内での生活だ。
そして子どもたち。ここの取材で最もつらいのは、悲惨な状況に置かれている子どもたちを見るときだ。(中略)
子どもたちはここで、徐々に正気を失っていく。学校に通えないからだ。学校に通わない子どもがどうなるか分かるだろうか? 彼らの行動に変化が見られるようになり、彼らの脳が変化していくのを実際に感じることができる。(中略)
想像できるだろうか? 地獄から逃れてきた人々が、地獄のような環境で暮らしている。先が見えないなかで、催涙ガスを浴びせられる。
まさに狂気の沙汰だ。こんな場所で正気を保つことなど誰にもできない。(後略)【6月9日 AFP】
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