孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

劣勢に立つIS シリア・イラクに加えリビアでも 問題は“IS後”

2016-06-10 23:21:28 | 中東情勢

(シリア・アレッポの反体制派支配地域で、政府軍によるとみられる空爆を受け、廃墟に立つ男性(2016年6月5日撮影)【6月6日 AFP】)

シリア・イラクで狭まるIS包囲網
イラクとシリア両方で「イスラム国(IS)」包囲網が狭まりつつあるのは報道のとおり。

****イラク軍、ファルージャ攻勢強化 シリア国境地域ではIS撤退****
イラク政府軍は8日、過激派組織「イスラム国(IS)]の支配下にある中部ファルージャで攻勢を強め、市街地まで部隊を進めたと発表した。今後、中心部への進撃を目指す。

イラクのアバディ首相は先月、ファルージャ奪還作戦の開始を発表した。政府軍は、イランとつながりのあるイスラム教シーア派民兵や米空爆による支援を受けている。

国連は8日、ファルージャ市内に残っているとみられる民間人の数を最大9万人と発表。これまでの推計からほぼ倍増した。

一方シリアでは、米国が支援するクルド人民兵とアラブ系の「シリア民主軍(SDF)」の関連組織が、北部マンビジュに進攻する準備ができていると明らかにした。マンビジュ奪還作戦は約1週間前に開始。同市付近のシリアとトルコの国境は、ISにとって武器や戦闘員の主要な供給ルートとなっている。

関連組織のスポークスマンはロイターに対し、ISの戦闘員がマンビジュで住宅に爆弾を仕掛けて同市から撤退したと述べた。SDFはマンビジュ郊外まで前進したが、民間人への被害を避けるため市内に進入しておらず、慎重に行動しているという。

また、シリア人権監視団によると、マンビジュの西にある国境地域のマレア近くでは8日、ISの戦闘員が反政府勢力の攻撃を受けて撤退した。【6月9日 ロイター】
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イラクにおいて北部モスルに次ぐISの拠点であるファールジャ後略はほぼ順調に進んでいるようではありますが、市内に民間人が最大9万人残存している状況では慎重に作戦を行う必要があり、市内中心を制圧するまでにはもう少し時間を要しそうです。(イラク側によれば“数日以内には市の中心に達するであろう”とのことです)

イラク政府軍はIS最大拠点都市モスルへも兵員を割く余裕(?)もあるようで、モスル奪還は早ければ年内にも可能との考えを明らかにしています。

****IS制圧のモスル イラク政府軍「年内の奪還可能****
過激派組織IS=イスラミックステートが2年前に制圧したイラク第2の都市モスルについて、政府軍は早ければ年内の奪還も可能だとして、周辺で部隊を増強しており、ISを弱体化させ壊滅につなげられるのか節目を迎えています。(中略)

モスルを含むニナワ県の作戦を指揮するイラク政府軍のナジム・ジュブリ司令官は、NHKのインタビューに対し、政府軍は装甲車や武器などを新たに北部の前線に送り込んで部隊を増強しているとして、「ことしの末か、来年の最初の数か月でニナワ県を完全にISから解放することができる」という見通しを明らかにしました。

そのうえで、現在、政府軍が進めている中部の都市ファルージャの奪還作戦について、「成功すればISの戦意は喪失し、モスル奪還に向けて優位になるだろう」と述べ、今後の鍵を握るとの考えを示しました。(後略)【6月10日 NHK】
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これまでのイラク政府軍の戦闘能力や士気を考えると「そう、うまくいくだろうか?」との疑問も感じますが、各地で劣勢に立つIS側が戦意を喪失すれば一気に進展する可能性もあります。

いずれにしても、ファルージャ同様、ISによって「人間の盾」とされる住民の安全をどのように確保するのか、シーア派民兵によるスンニ派住民への“報復”を防止できるかということが問題になります。

【“IS後”を見据えた支配地域争奪戦と主導権争いも
シリアでは、クルド人勢力YPGを中心とし、アラブ系勢力も加えた「シリア民主軍(SDF)」が、アメリカの空爆支援のもとでISの“首都”ラッカ周辺への攻勢を強めていますが、当面の作戦対象はラッカそのものではなく、トルコ国境に近い北部シリアの拠点都市マンビジュが攻防の舞台となっているようです。

アレッポ県マンビジュはシリア第2の都市アレッポの北東約90キロ、トルコ国境までは約30キロ。
ISはマンビジュ地域を、トルコから外国人戦闘員や武器、食料を補給する拠点にしてきました。

クルド人勢力を中核とする「シリア民主軍」が攻勢を強めるマンビジュなどシリア北部はトルコ国境に近く、クルド人勢力の拡大を嫌うトルコが神経をとがらせています。

なお、「シリア民主軍(SDF)」及びアメリカが「ラッカ攻略」と言いつつも、その矛先がマンビジュに向かっていることから、本当の狙いはラッカではなくアレッポ北部の制圧ではないかとの見方もあるようです。

シリア最大の商業都市であるアレッポは、東部をいわゆる「反体制派」(ヌスラ戦線と、それに連携する反体制派)が掌握する一方、アレッポ市西部と同市周辺一帯は、シリア政府の実効支配下にあって、アレッポ周辺も各勢力が入り乱れて支配地域を争っています。

かねてよりシリア政府軍・ロシアはアレッポの反政府勢力への攻撃を行ってきましたが、「シリア民主軍」・アメリカのマンビジュ侵攻に呼応してアレッポの反政府勢力への攻勢を一段と強化しているようにも報じられています。

ラッカについても、シリア政府軍・ロシアは「シリア民主軍」及びアメリカの攻勢に対抗(あるいは呼応)する形で攻勢を強めています。

****アサド政権軍、ラッカ奪還へ進軍 ISの「首都****
在英NGO「シリア人権監視団」は4日、アサド政権軍が、過激派組織「イスラム国」(IS)が「首都」とするシリア北部ラッカ県に南西部から進軍したと明らかにした。政権軍がラッカに入るのは2014年にISが制圧して以来初めてとみられる。
 
ラッカへは、シリアの少数民族クルド人などで構成する「シリア民主軍(SDF)」が、米軍の支援を受けて5月下旬に北方から進撃を始めた。SDFは反体制派のアラブ人部隊も加わっている。

政権にとってはラッカがクルド人主体の反体制派勢力に制圧される事態は避けたい。このため政権によるラッカ奪還へ向けて動いたと思われる。
 
監視団によると、政権軍とISは2日から激しい戦闘となり、IS戦闘員26人が死亡し、政権軍兵士と政権支持派民兵の計9人が死亡した。政権軍はラッカとシリア北西部アレッポを結ぶ幹線道路の掌握も目指しているという。
 
政権軍は、ロシア軍ヘリコプターの支援を受けながら進攻している。ロシアのラブロフ外相は当初、SDFのIS掃討作戦に協力する用意があると表明していた。【6月4日 朝日】
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こまかい各勢力の動き、それらの関連はわかりませんが、各勢力、特にアメリカと政府軍・ロシアが“IS後”を見据えて支配地域確保に一斉に動き出したようにも見えます。“戦後”における主導権争いが始まっているようにも。

こうした各勢力の争いに加え、クルド人を警戒するトルコの動向など、IS退潮が明らかになってもシリアの混乱は続きます。

リビアでもIS掃討が進行
ISはシリア・イラクで劣勢に立つ一方で、リビアでの拠点確保に向かっていると言われてきましたが、そのリビアの拠点シルトでもシリア・イラクと呼応して奪還作戦が進行しています。

****IS拠点の都市奪還へ リビアで政府軍が攻勢強める****
北アフリカのリビアで、過激派組織IS=イスラミックステートが最大の拠点を置く中部の都市シルトの奪還に向けて、暫定政府の軍や民兵組織が総攻撃を行い、中心部に部隊を進めたほか海岸地帯を制圧するなど、攻勢を強めています。

5年前のカダフィ政権の崩壊のあと、内戦状態となっているリビアでは、混乱に乗じて過激派組織ISが勢力を伸ばし、去年の6月以降、中部の地中海沿岸の都市シルトに拠点を築いてきました。

リビアの暫定政府は今月に入り、シルトの奪還を目指す軍事作戦に乗り出し、9日、市内のISの拠点に激しい空爆を行ったほか、民兵組織とともに市内の中心部に部隊を進め、ISの複数の軍事拠点を制圧したということです。また、暫定政府の海軍は港などシルトの海岸地帯を制圧したということです。

これに対しISの多くの戦闘員は、市の外に向けて撤退したということですが、一部の地域では銃撃を繰り返すなど、依然として抵抗しているということです。

ISはイラクとシリアで、アメリカ軍主導の有志連合の空爆などで支配地域を減らし、少しずつ弱体化が進んでいます。

こうしたなか、外国人を含む数千人の戦闘員がいるとみられるリビアでも、最大の拠点を陥落できれば暫定政府にとって大きな成果となります。【6月10日 NHK】
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リビアにあっては、西のトリポリ政府と東のトブルク政府を統一させる形の「統一政府」がつくられたものの、特にトブルク政府側の承認を得るにはいたっていないことを、5月17日ブログ「リビア  混乱に乗じて拡大するIS 欧米は統一政府への武器氏供与で対抗 火に油を注ぐ懸念も」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160517で取り上げました。

上記記事の「暫定政府」は「統一政府」を指すものと思われますが、“暫定政府の軍”の中心は西部トリポリ政府を支えてきたミスラタ民兵組織であるとの情報も。

トブルク政府を支えるハフタル将軍の勢力が“暫定政府の軍”にどう関与しているのか、あるいは関与していないのかは知りません。

いずれにしても、シリア・イラクと呼応したリビアでのIS掃討作戦が成功すれば、懸念されていた“モグラ叩き”は回避できます。

ISは資金難は給与減額や遅配も
ISは劣勢にたたされるなかで、資金的にも苦しくなっていることが報じられています。

****資金難のIS、「戦闘員に給与払えず」 米財務省****
米財務省の高官は9日、イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」の財政圧迫を狙った作戦の結果、ISの戦闘員への給与支払い能力が失われ、組織内で汚職が起きているとの見解を示した。
 
財務省でテロ資金を担当するダニエル・グレーザー次官補は、米下院の安全保障上の脅威に関する公聴会で、現金保管庫や石油関連貨物への空爆や、金融システムからの締め出し、イラク政府によるIS掌握地域への現金流入の遮断により、ISは資金難に陥っていると証言した。
 
こうした作戦の結果、ISは戦闘員への給与支払いが困難になり、減給や福利のカット、給与支払いの遅れに嫌気がさした戦闘員らが次々と戦場を後にする事態に陥っているという。【6月10日 AFP】
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IS戦闘員への給与には「基本給」のほか、扶養手当などもあるとか。

****扶養手当・賃料…IS戦闘員給与、基本給1.3万円から****
トルコに潜伏する過激派組織「イスラム国」(IS)の戦闘員リーダーとみられる人物の隠れ家から、「会計帳簿」が見つかり、部下の戦闘員ら23人に毎月120ドル(約1万3千円)から690ドル(約7万7千円)の「給与」支払いが記録されていることが分かった。この支払いなどにかかる毎月の経費は約2万5千ドル(約280万円)だった。(中略)
 
帳簿によると、戦闘員1人につき月120ドルを「基本給」として支払い、既婚者には妻に月120ドル、子ども1人につき月50ドル(約5500円)を加算。賃料や水道代、電気代も負担していた。また、爆弾を製造するのに必要な硝酸アンモニウムを大量に購入した記録もあったという。
 
トルコ政府は今年1月、最低賃金を月額1300トルコリラ(約4万9千円)に引き上げた。帳簿に記された基本給は、最低賃金の約4分の1。戦闘員の一部は隠れ家で共同生活をしていたとみられる。【6月2日 朝日】
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一時は“高額給与”で戦闘員を集めたISですが、給与が支払えなくなると戦闘員確保や士気の維持が困難になり、更に劣勢に立つ・・・・と悪循環に陥ります。

石油収入減少を補うべく「増税」を行っているとも。

****ISIS、石油収入減を「増税」で補う****
テロ組織の動向を追う研究機関は4日までに、過激派「イラク・シリア・イスラム国(ISIS)」の資金捻出(ねんしゅつ)の現状に触れ、米軍主導の有志連合による空爆で油田施設が打撃を受けている中で支配下の住民から強制徴収する「税金」を増やして資金不足を防いでいるとする新たな報告書をまとめた。(中略)

米軍によると、有志連合やイラク軍などの攻勢でISISは制圧地域の4割を失った。支配下にある住民総数は現在約800万人としている。

同センターの報告書によると、資金源の内訳で石油密売などに絡む比率は14年の38%が昨年は25%に低下。半面、住民からの税収は12%から33%に激増した。10%の所得税、最大15%の事業税や道路通行料金、銀行からの現金引き出しの際の5%の手数料や薬品調達での35%課税などが含まれる。支配領域を離れる際は、一時的な外出であっても手数料を要求されるという。

さらにキリスト教徒の住民は「ジズヤ」と呼ばれる身辺保護の特別税の支払いも強いられている。ISISはイスラム教スンニ派。同組織の機関誌はジズヤの実施を誇ったこともある。支配地の住民への課税については、イスラム教で貧困層などへの施しを意味するザカート(喜捨)として正当化している。(中略)

テロ分析センターは、ISISと外部世界との大規模な取引は依然続いており、有志連合による空爆作戦は同組織の経済活動に封じ込めに一定の成果しか期待出来ないと主張。国連は同組織の支配領域を閉じ込める正式な禁輸宣言にも踏み込めないでいるとも批判した。

同センターの報告書は、ISISの資金源を完全に断つ方途は米ロなどを含めた地上軍派遣による支配地奪還しかないと主張。最も驚くべき事実は国連の安全保障理事会の構成国がISISの制圧地域からセメント、小麦、原油、肥料や他の産品を依然買い付けている諸国を罰しないでいる現状が続いていることだと指摘。

同組織が昨年売り付けた綿の量は1万2000トンとされるが、大半はトルコが引き取ったもされる。これらの事実を踏まえ、ISIS壊滅を狙う国際的な努力は現段階で馬鹿げているとも評した。(後略)【6月4日 CNN】
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ただ、「増税」が住民の反発をうけるのは日本でもIS支配地域でも同じです。
住民の離反はIS支配を弱めることになります。

記事後半のISへのトルコの関与は重要な問題です。アフガニスタンではタリバンをパキスタンが支援、シリアではISをトルコが支援、アメリカはこれらの“同盟国”をどうするつもりでしょうか?

話をISの資金難に戻すと、イスラム支配だカリフ制だとは言っても、給与も満足にもらえない状態では士気は低下し、なかには情報を敵方に売る者も・・・。

****ISIS、メンバー21人を処刑 スパイ行為への疑念拡大か****
過激派組織「イラク・シリア・イスラム国(ISIS)」の幹部が有志連合の空爆で死亡したことに関連して、内部の戦闘員21人が処刑されていたことが分かった。

シリアに情報源を持つ在英の非政府組織(NPO)「シリア人権監視団」のラミ・アブドルラフマン代表によると、司令官が殺害された3月30日の空爆をめぐり、有志連合に情報を提供したとされるメンバーが4月から5月にかけて処刑された。

アブドルラフマン氏によれば、このうち一部のメンバーは金が欲しくて情報を渡したとみられる。ISISはここ数カ月間、資金源の油田を空爆されて収入がかなり減っている。戦闘員の中には給料を引き下げられた者もいるという。「ISISのメンバーは指導者たちを心から信頼してはいない。内部には外国情報機関に属するグループが存在しているかもしれない」と、同氏は指摘する。

専門家や米当局者らによると、ISISは最近イラクやシリアで支配地の多くを失い、何人もの最高幹部を殺害された結果、内部に病的な不信感が広まっているようだ。【6月7日 CNN】
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ISを倒すことより遥かに難しい、IS後の民主的政権確立
こうなると末期状態です。IS支配もそう長くないでしょう。
ただ、追い詰められる、狂気も一段と激しくなります。

****<IS>女性19人を殺害 イラク、拘束のヤジディー教徒****
中東のクルド系メディア「ARAニュース」によると、過激派組織「イスラム国」(IS)は今月2日、実効支配下のイラク北部モスルで、少数派のヤジディー教徒の女性19人を鉄製のおりに入れて焼き殺した。ARAニュースは地元活動家の証言として、「女性らはIS戦闘員との性交渉を拒んだため罰せられた」と伝えた。
 
報道によると、女性らはモスル中心部で、数百人の住民の面前で焼き殺された。
 
ISはヤジディー教徒に「悪魔崇拝者」のレッテルを張り、迫害している。2014年8月にはイラク北西部シンジャルでヤジディー教徒の集落を襲撃し、数千人以上の住民を殺害、拉致した。女性や子供は奴隷として戦闘員に分配されたり、売買されたりした。
 
クルド系メディア「ルダウ」によると、現在も約3700人がISに拘束されているとみられる。【6月7日 毎日】
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ISを引き摺り下ろすことはそう難しくありませんが(支配地域を失ってもテロ活動は続きますが)、問題は“IS後”に安定した民主的な政治を実現できるか?ということで、軍事作戦と並行して、そのための準備を進める必要があります。

各派及び関係国が入り乱れるシリア、シーア派とスンニ派の対立、自立志向を強めるクルド人勢力を抱えるイラク、東西の対立が解消していないリビア・・・IS掃討より遥かに難しそうです。

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